運命の名のもとに

Chapter:3

ドリーム小説  急いで宇宙服に着替え、の後を追うも、ドックの奥にその姿はあった。追いかけようにも、浮遊感が邪魔してうまくいかない。

 『!』

 もどかしい思いで追いかけるも、まるで追いつかず・・・外から入って来た人物と、がすれ違う。
 補佐官2人に護衛されながらやって来た男は、を追いかけようとしているアーヴァインの姿に気がつく。

 「モンスターの流れが、アデル・セメタリーに接近しています!」
 「このままでは、アデル・セメタリーも、エスタ周辺に落下する可能性があります!」

 補佐官が次々にそう言う。すれ違いざま、聞こえた言葉だ。

 「どうしてこんなに、いっぺんに色んなことが起こるんだ〜? これじゃ、まるで誰かが仕組んだみたいじゃねぇか! あん? ・・・仕組んだ?」

 どこかで聞いたことのある男の声だが、今のアーヴァインには届かない。
 そして、そのアーヴァインの目の前で、ドックの入り口が閉まった。の体が、宇宙に出て行った直後のことだった。
 今から追いかけても、出られそうもない。他の方法を考えるため、ルナサイドベース内に戻った。
 戻った瞬間、赤い光が目を焼いた。警報が鳴り響いている。

 「このままじゃここも危ないです。ルナサイドベースを放棄しましょう!」
 「脱出します! 帰還用ポッドへ急いで!」
 「オレは後でいいって言ってんだろ!」
 「カッコつけないで早く!」

 先ほどの男が、補佐官2人に引っ張られていく。

 「のわぁ! そこのお前! エルオーネを守れ! 任せた! くわぁ!」

 断末魔のような声をあげ、男は補佐官に引きずられて行ってしまった。
 エルオーネ・・・そうだ、スコールたちに相談しよう・・・アーヴァインは制御室へ戻る。

 「、ダメだよ!」
 「やめるんだ・・・・・・!」

 モニターを見つめながら、セルフィとスコールが声をあげる。慌ててアーヴァインもモニターに近づいた。
 宇宙服のが、封印されているアデルに近づいている。まさか・・・とイヤな予感が襲う。

 「危険よ! 月の涙が迫って来ているわ。このままだと、がモンスターの波に飲み込まれる!」
 「え・・・!?」

 エルオーネが悲痛な声をあげる。確かに、アデル・セメタリーにはモンスターの群れが近づいてきている。

 「だめだ! アデル・セメタリーの封印が解かれる」

 ピエットが叫ぶ。がアデル・セメタリーのパネルをいじり、魔女アデルの封印を解いてしまった。そして、その直後、モンスターの波がアデルとの体を飲み込んだ。
 モンスターの波に弾かれ、の体が風船のように吹っ飛ばされる。

 「っ!!」

 アーヴァインが叫ぶも、その声が彼女に届くわけもない。

 「さ、脱出だ。このままだと、ここも危ない。私についてきて」
 「そんな〜! だってが・・・!! う〜! どうしたらいいの!!」
 「セルフィ、落ち着け。このままここにいても、命を無駄にするだけだ。アーヴァイン、お前もだ。避難するぞ」

 セルフィの腕を引っ張り、スコールがピエットとエルオーネの後を追う。アーヴァインも、そんな2人の後を追いかけた。
 非常用エレベーターに乗り、脱出ポッドへ。その間、地上のルナティック・パンドラには大量のモンスターが降下してきていた。

 「このまま、は助けられないの〜!?」
 「・・・・・・」
 「あの宇宙服生命維持装置は20分が限度。予備タンクを使っても、プラス5分がいいところだろう。残念だが、運命と思うしかないだろう」
 「そんな〜!!」

 セルフィの悲痛な声に、スコールが黙りこむと、ピエットが冷静に言葉を返した。
 運命だなんて・・・そんな運命はイヤだ!

 「お姉ちゃん! お願いだ! 僕をの過去に送ってくれ!!」
 「・・・そうね。あの子を救えるのは、アーヴァイン・・・あなただけね」
 「さ、早く位置について!」

 ピエットに急かされ、アーヴァインは宇宙服を着たまま、位置についた。カバーが閉まり、脱出ポッドがルナサイドベースから射出される。
 そして、その直後・・・ルナサイドベースは爆破した。

***

 真っ白な光・・・静寂・・・アーヴァインの視線は、床に倒れている少年に向けられた。
 ・・・サイファーだ。つまり、これは・・・。

 『ここは・・・あの時の・・・ガルバディア・ガーデン?』

 ゆっくりと、がサイファーに近づき、耳元に唇を寄せる。

 『違う・・・これは・・・じゃない!!』

 の唇が、のものではない言葉を紡ぐ。

 「忠実な魔女の騎士サイファーよ。魔女は生きている・・・魔女は希望する」

 まさか・・・アーヴァインは息を飲んだ。

 『アルティミシア!? 未来の魔女が、の中に!? ママ先生から移ってきたっていうのかい? は・・・はどこにいるんだ!』

 叫ぶも、の中のアルティミシアは何も答えない。

 「海底に眠ると伝えられし、ルナティック・パンドラを探し出せ。さすれば魔女は再びお前に夢を見せるだろう」

 そっと、サイファーが起き上がる。どこか虚ろな瞳で。

 「仰せの通りに。アルティミシア様」

 そして、サイファーの姿は消え・・・の体が倒れた。あの日、見た光景だ。
 だが、倒れたの傍に、1人の女の姿が見える。赤い服の・・・艶やかな魔女・・・未来の魔女アルティミシア。

 『アヴィ・・・どこ・・・? 怖い・・・』
 『!!』

 の声だ。アーヴァインは咄嗟に名前を叫んだ。と、の中のアルティミシアがアーヴァインの存在に気付いた。

 「誰だ!? 出て行け!」

 ハッ・・・!と意識が覚醒する。隣に立つエルオーネが深く息を吐いた。

 「に何が起こったのか・・・わかった? 過去は変えられた?」
 「ダメだった・・・。でも・・・どうしたらいいのか、わからない・・・」
 「を安心させてあげなさい。きっと心は通じるから。行くわよ、アーヴァイン。限りなく今に近い過去へ・・・。未来に一番近い・・・今へ・・・」

 再び、エルオーネの力により、アーヴァインがに接続される。
 その頃、は宇宙空間を漂っていた。気がついたら、ここにいた。いや・・・覚えている。自分がしたことも、何もかも。“アルティミシアの意識を通して”見ていた。

 『・・・ああ・・・今度こそ・・・私の人生、終わるんだ・・・』

 何度もそう思ったことはあった。SeeDの任務中に。近い出来事では、あのガルバディアのミサイル基地でのこと。

 《生命維持装置完・全・停・止・》

 無情な声が鳴り響く。あがくのはやめた。SeeDとなったあの日から、いつだって死は覚悟していた。何が起こってもいいように、部屋だってキレイにしてある。

 『もう・・・ダメだね・・・私・・・』
 『あきらめちゃダメだよ!』
 『私はこのまま・・・宇宙のチリとなって・・・』
 『ダメだよ、! !!』

 の中にアーヴァインが接続されていることに、朦朧とした意識の中では気付かない。それでも、アーヴァインは必死にに呼びかけた。

 『・・・!! 目を開けるんだ・・・!』

 声が遠のく。接続が切れたのだろうか。
 フト、のまぶたに影が落ちる。フワフワとした何かが、目の前をよぎり、はそっと目を開けた。
 そこに見えたのは三日月と・・・シルバーのリング。ネックレスに通されたそれが、の目の前で踊っている。

 『・・・アヴィ』

 それに触れようとするが、ヘルメットが邪魔をして、それは叶わなかった。代わりに、胸元の予備タンクのスイッチに気がつき、それを押す。酸素があふれ、は一度、大きく深呼吸をした。

 『・・・私・・・もう少し、がんばってみよう・・・かな? アヴィ・・・』

***

 接続が切れた。はまだ生きている。アーヴァインは意を決し、脱出ポッドを出て行こうとした。

 「アーヴァイン」
 「・・・のところへ行ってくるよ」
 「ええっ!? マジで出て行くの??」

 セルフィの言葉に、アーヴァインは微笑み、移動式の手すりに掴まり、ポッドを出て行く。

 「ばかな! どうやって戻るつもりだ? 結局、バック噴射の燃料も尽き、生命維持装置も切れて、2人とも死ぬのがおちだぞ」

 ピエットの言葉など、聞こえていなかった。とにかく、今はに会いたい。ただ、それだけだった。
 宇宙空間に出たアーヴァインはキョロキョロと辺りを見回し、の姿を探す。
 見えた・・・。ゆっくりと漂うのもとへ、アーヴァインは噴射機能を使い、近づくとその体を抱きしめた。

 「アヴィ・・・」
 「・・・やっと、会えたね。

 ニッコリと笑い、アーヴァインが告げる。もうれしそうに微笑んだ。

 「私たち、助かるのかな・・・?」
 「助かるよ。僕が助ける」
 「頼もしいね」

 根拠のない自信だ。実際問題、燃料もなく、酸素も残り少ない。このまま宇宙で息絶えるか・・・重力に引っ張られ、大気圏で燃えカスとなるか・・・だ。
 だが・・・あきらめなかった2人の前に、奇跡は起こった。宇宙を漂流していた、巨大な船を見つけたのだ。船体には“エスタ”の文字が見える。エスタの宇宙船か。

 「・・・掴まってて」
 「うん」

 赤い機体の船に近づき、入り口を探し、パネルを操作すれば、ドアが開いた。とにかく、外にいても仕方がない。一縷の望みをかけ、2人は船の中へ入って行った。