運命の名のもとに

Chapter:2

ドリーム小説  ルナティック・パンドラへ見事に乗り込んだゼルたちだったが、途中で出くわした機械兵器により、吹き飛ばされ、ルナティック・パンドラから追いやられてしまった。

 「ひとまず引き下がるしかないか・・・」
 「悔しいけど、そうだね」

 ゼルの言葉にリノアが同意し、キスティスもうなずいた。

***

 気がつけば、3人はフワフワした感覚に襲われていた。「うわ・・・!」と声をあげると同時に、体が引き寄せられていく。ここがルナサイドベースだ。

 「エスタ大使からの紹介状です」

 スコールが、事前に渡されていた書類を、そこにいたクルーに手渡した。どうやら、医療スタッフらしい。白衣を着ていた。

 「おおっ! 年の頃なら17、8の若い娘・・・死んでるの?」
 「縁起でもないこと言わないで下さい!!」

 抗議の声をあげ、アーヴァインが倒れているの体を抱きかかえた。傍にいたクルーが両手をパッと上げた。

 「事情はわかった。まず彼女を医務室へ。話しはそれからにしよう。私はピエットだ。よろしく」
 「スコールです。こっちがセルフィで・・・向こうはアーヴァインと・・・です」

 簡単に挨拶と紹介を済ませると、ピエットが医務室まで案内してくれた。

 「うわ〜すご〜い! 本物の宇宙だぁ〜!」

 歩きながら、施設の外を見ていたセルフィが感嘆の声をあげる。アーヴァインも思わず見惚れるが、ピエットとスコールは先へ行ってしまう。慌てて追いかけた。
 ピエットが医務室へ入ると、「この奥のベッドで休ませるといいだろう」とアーヴァインに告げた。
 部屋の奥にあったカプセルのようなベッドにを寝かせると、カバーがかかった。まるで閉じ込められているような感覚になる。少しだけ不安になるが、万が一のことを考えてなのだろう。

 「話しはつけてきた。では、制御室へ行こう」
 「あの・・・のこと・・・あまり触らないでください」
 「わかったわかった。君は・・・この子の騎士かなんかみたいだな」

 の騎士・・・SeeDでもない自分が、SeeDである彼女を守れるのだろうか・・・?
 医療クルーにのことを頼み、3人はルナサイドベースの制御室へ向かった。

 「うわ〜! すご〜い! 月が近い〜!」

 中に入った途端、セルフィが声を上げ、モニターに近づいた。

 「そんなに驚いてばかりもいられないんだ。そこのモニターを見てみろよ」
 「ん? このモニター?」

 スコールとアーヴァインも近づき、モニターを見る。そこに映し出された月の表面には黒い染みのようなもの。なんだか動いているように見えるが・・・。

 『なんだこれは!?』

 見たことのない現象に、スコールは目を丸くする。

 「これって・・・モンスターですか?」
 「月はモンスターの世界だ。そりゃ習ったことあるだろ? そのモンスターが月の一点に集まってきてるんだ」
 「月の涙が始まるんだ・・・。歴史は・・・繰り返される」

 ということは、スコールたちの住む星に、再びモンスター降下現象が起こるというのか・・・。

 「この部屋を出た廊下の階段を上がれば、その先の部屋にエルオーネがいる。許可は出ている。行って来てもいいぞ」

 ピエットの言葉に、スコールはうなずき、アーヴァインとセルフィを見た。2人もうなずく。
 廊下に出ると、クルーと研究員が何かを話していた。そういえば、この施設は一体何なのか、聞いていなかった。

 「17年前はエスタは邪悪なアデルに支配された悪の国だったの。その後、アデルは封印されてここに飛ばされた。月と我々の星の重力バランスが取れたこの場所が、封印するには好都合な場所だったの」
 「あれをパックしている素材も特殊なものなの。アデルを押さえつけるのと同時に、外からの干渉もいっさい受け付けない。電波、音波、思念波、そしてジャンクションも・・・。あまりに強いWAVE妨害処理をしているから、地上の電波にも影響を及ぼしてるのね」

 なるほど・・・地上の電波障害は、アデルの封印と関係があったということか。

 「もしあれが復活したら17年前の悪夢が復活してしまう。そうならないためにも、私たちがこうして監視してるわけね」
 「今もほら! ああやって大統領自らチェックに出てる」

 宇宙服を着た人物を指差し、研究員の女性が言う。デリング大統領と違い、なかなか人柄にも好感が持てそうである。

 「アデルをああやって封印したのも、大統領自らの活躍なの。それ以来、ずぅ〜っと監視は怠らなかったわ」

 女性クルーのその言葉に、スコールとアーヴァインは「・・・あれ?」と思った。
 先日見たエルオーネの“接続”による過去・・・反アデル派・・・リーダーが必要・・・。

 「この国の大統領もめずらしいわよね。ああやって自ら宇宙服着て、走り回ってるんだもの」
 「万一、アデルの封印が解けたら大変なことになるもの。大統領も気が気じゃないのよ」

 ・・・まさか、とは思うが、そんなことはありえないだろう。ガルバディアの一兵士だった男が、エスタの大統領などと・・・。

***

 エルオーネの部屋に入ると、奥のベッドに彼女は座っていた。スコールたちは、エルオーネに歩み寄った。

 「久しぶりね、スコール。・・・セルフィ、アーヴァイン」
 「お姉ちゃん・・・」

 セルフィがなつかしそうに、エルオーネを呼べば、エルオーネは優しく微笑んでくれた。

 「ごめんね、色々。あなたたちを巻き込んで」
 「いいんだ。あんたが何をしたかったのか、わかったから。俺たちは役に立ったのか?」
 「もちろん。あなたたちは私の目になってくれた。あなたたちのおかげで、私がどんなに愛されていたかわかった。過去は変えられなかったけど、それを確認できただけで十分。本当にありがとう」

 エルオーネは過去を変えたかった。レインが亡くなる時、ラグナが彼女の傍にいるように・・・。だから、エルオーネがエスタに誘拐されないようにしたかった。
 だが、結果は同じだった。スコールたちの力を持ってしても、運命は変えられなかったのだ。

 「もういい。その代わり、頼みがある。過去は変えられないって言ったな?」
 「知らなかった過去を知ることは出来る。過去を知ることで、それまでとは違った今が見えて来る。変わるのが自分。過去の出来事ではない」
 「そうなのか? 本当に過去は変えられない?」

 スコールがチラッとアーヴァインに視線を向ける。アーヴァインが、一歩エルオーネに近づいた。

 「お姉ちゃん・・・僕を過去のの中に送ってくれないか?」
 「・・・え? アーヴァインを、の中に・・・?」

 アーヴァインの言葉に、エルオーネが目を丸くする。事情を知らない彼女からしたら、驚くことだろう。

 「魔女イデア・・・ママ先生と戦って、それが終わった直後から、眠ったまま起きないんだ。僕は、の身に何が起こったのかを知りたいんだ。だから・・・」
 「・・・助けたいのね、を。を失くしたくないのね」

 アーヴァインを見つめ、エルオーネが優しく微笑む。

 「いいわ。私もが心配だもの。あの子の身に何が起こったのか・・・」

 言いかけたエルオーネの言葉を遮るように、突然、室内に警報が鳴り響いた。

 《医務室で異常事態発生! 医務室で異常事態発生! 付近のクルーは武装して急行してくれ!》

 聞こえてきたアナウンスに、スコールたちは愕然とする。

 「医務室・・・? ?」
 「僕は見に行ってくるよ・・・。スコールたちは・・・」
 「いや、俺も行く。危険だから、エルオーネは、制御室で待機しててくれ。セルフィ、エルオーネのことは頼んだぞ」
 「りょ〜かい!」

 敬礼をし、セルフィとエルオーネが部屋を出て、制御室へ向かう。スコールとアーヴァインは医務室へ向かった。

 「・・・!?」

 医務室から、フラフラとした足取りで歩いてきたのは、金髪の少女・・・だ。

 「!!」

 アーヴァインがに触れようとした瞬間、何かの力で弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 「アーヴァイン!」

 スコールがアーヴァインに駆け寄る。は、そんな2人に目もくれず、フラフラとどこかへ歩いて行く。

 「・・・・・・!」
 「大丈夫か? アーヴァイン」
 「うん・・・僕は・・・大丈夫だ・・・。それより・・・・・・」

 ゆっくりと立ち上がり、アーヴァインはフラフラと歩いて行くの背中を見つめた。

 「どこへ行くつもりだ?」
 「わからない・・・でも、あれは明らかにおかしいよ。スコール、追いかけよう!」

 歩いて行く先は制御室だ。あそこには、エルオーネがいる。まさか・・・とは思うが。

 「エルオーネ!」
 「スコール! アービン! が・・・!」

 セルフィが示す先・・・パネルに近づいていくは、エルオーネが目的ではないらしい。
 相手がのため、セルフィは手を出せず・・・近づいたのであろうクルーたちが、倒れていた。先ほどのアーヴァイン同様、弾き飛ばされ、気絶をしていた。

 「それはアデル・セメタリーの封印解除装置なんだ」

 ピエットの言葉に、慌ててスコールがに近づくが・・・先ほどのアーヴァイン同様に、見えない力で弾かれた。

 「スコール!!」

 セルフィがスコールに駆け寄る。「大丈夫だ・・・」と答えるスコールの目の前で、がスイッチを押した。

 《アデル・セメタリー封印LV1解除。封印LV1ハ解除サレマシタ》

 コンピューターの無機質な声が告げた言葉に、一同はあ然とする。

 「封印はLV2までしかないんだ!」

 ピエットが叫ぶ。

 「封印が解除されたら、アデルが復活してしまう。知り合いだろ? ヤメさせろ!」

 倒れている管制官がそう言うも・・・今のには近づくことすら出来ないのだ。
 は再びフラフラと歩きながら、制御室を出て行った。

 「スコール、見てくれ。月の表面が変化してる!」

 アーヴァインの言葉に、スコールが立ちあがり、セルフィに支えられながら、モニターを見た。

 「モンスターがあふれ出しそうだ」
 「とうとう始まるのか。月の涙が・・・」
 「月の涙・・・」

 ピエットのつぶやきに、スコールがそれを反芻した。

 「それなら、なおさらあの女を止めないと。あの女の目的がアデル封印解除なら、宇宙に出て行くつもりだぞ! 封印LV2の解除装置は、アデル・セメタリーそのものにあるんだ」
 「・・・!!」

 たまらず、アーヴァインが制御室を飛び出す。どこへ行ったのか・・・その姿が見えない。医務室に戻ったとは考えにくい。ならば、エルオーネのいた部屋の方か・・・。

 「見て! 月が!」

 クルーの1人が月を見て叫ぶ。アーヴァインもつられてそちらへ視線を向ける。
 月の表面に、モンスターが集まって行く。すさまじい量のモンスターだ。そして、それが波のようにうごめき・・・ミサイルのように青い星へ降り注いでいった。
 月の涙のことも気になるが、今はそれどころではない。

 「すみません、女の子を見ませんでしたか?」
 「そこのロッカールームに入って行ったわよ」

 背後のロッカールームを指差し、クルーが教えてくれた。慌てて中に入れば、ドックへ出て行こうとしている宇宙服の人物が。

 「!」

 ロッカールームには作業員が倒れている。「アデルを復活させてはいけない・・・」とつぶやき、気を失った。

 「・・・っ!!」

 を止めなければ。意を決し、アーヴァインは宇宙服に身を包み、の後を追いかけた。