運命の名のもとに

Chapter:1

ドリーム小説  フッ・・・と意識が浮上した。リノアが「あ・・・帰ってきた」と笑顔で覗きこんできた。
 ボンヤリとする頭の中、だが次の瞬間、意識が覚醒する。アーヴァインはガバッと起き上がった。

 「・・・っ!」
 「大丈夫よ」

 倒れる前に、受け止めたから・・・とキスティスがアーヴァインの横で眠っているを示した。

 「スコールとゼルも戻って来たみたい」

 リノアの言葉に、アーヴァインが視線をめぐらせれば、確かに2人も起き上がっていた。ゼルは楽しそうだが、スコールはそれと対照的に仏頂面だ。彼は、あまりラグナを好きではない。無理もない。自分と180度性格の違う男の頭の中を見せられ、行動させられているのだから。

 「・・・? 何かがこっちに来ますよ」

 イデアがトンネルのような通路を見てつぶやく。やって来たのは、大きな車。中から1人の男が出てきた。

 「魔女イデア?」

 男が問う。エスタ兵ではない。先ほどウォードを通して見た、研究員のような服装だ。

 「はい。オダイン博士に会わせて下さい」
 「・・・まず我々に話を聞かせてもらいたい」
 「わかりました」

 男の提案をイデアは素直に受け入れるが、こちらとしては、悠長なことは言っていられない。

 「俺たちはエルオーネに会いたい。エルオーネはどこだ?」
 「・・・エルオーネ?」

 スコールが尋ねると、男は首をかしげた。明らかに相手を不審がらせた。焦っているのは、アーヴァインだけではない。いや、アーヴァインよりもむしろ、他の仲間たちの方が焦っているとも言える。

 「スコール、ここは私に任せなさい」

 イデアの諭すような口調に、スコールはうなずいた。
 男に「乗りなさい」と言われ、スコールたちは迎えに来た車に乗り込んだ。それに乗って街中を走れば、今までに見たことのない近未来な建物が並んでおり、目を見張った。セルフィとリノアはキャーキャー言いながら、楽しそうにはしゃいでいる。

 「間もなく大統領官邸が見えてきます。そちらにご案内します」

 スコールとゼル、そしてアーヴァインは、オダインに“会う”のは2度目であった。つい数分前、会ったばかりだ。
 あの頃よりも老けたが、その髪型と服のセンスは変わっていない。奇怪な格好の博士の姿に、オダインを知らないメンバーはあ然としていた。
 とにかく、事情を説明し、アルティミシアがイデアの身体を使わないようにしなければ。

 「・・・そう考えて、私はこの国に来ました。ぜひオダイン博士のお力で、私を未来の魔女から遠ざけていただきたいのです」
 「簡単なことでおじゃる。隔離してしまえばいいのでおじゃる。オダインに不可能はないのでおじゃる」

 口調まで変わってないのか・・・と男子3人組が同じことを思ったことを、キスティスたち女子は知らない。

 「君は・・・エルオーネに会いたいと?」

 大統領の補佐官をしているという男が、スコールに尋ねる。どこか、他人とは思えない雰囲気の男だった。

 「俺が・・・というか、・・・あそこで眠っている少女を助けるために、エルオーネの力を借りたい。仲間のためだ」
 「しかし・・・」
 「許可するでおじゃる。ただし、条件付きでおじゃる」

 オダインが勝手に話を進めてしまい、補佐官が肩をすくめる。
 条件とは何か・・・と思えば、オダインが眠っているに近づいた。

 「この娘を、オダインに観察させるでおじゃる」
 「え・・・!!」

 思わず、アーヴァインは声をあげてしまった。オダインにを預ける・・・とてつもなく不安だ。何せ彼は幼いエルオーネをさらい、実験か何かをしようとしていたのだから。

 「・・・どうだね? エルオーネに会うためには少々準備が必要なのだ。それまでの間、娘を預けるというのが我々の条件だ」
 「・・・におかしなこと、しないで下さいね」

 ソファの上に寝かされているに、オダインが嬉々として近づく。アーヴァインがグッと拳を握り締める。できることなら、あの怪しい博士に愛しい少女を任せたくなどない。
 だが、ああ見えてもオダインは魔女に関してはエキスパートなのである。

 「この症状・・・不可思議でおじゃるな。こんな風になるのでおじゃるか・・・」

 一体、何が“こんな風に”なのか・・・。だんだんと、仲間たちもが心配になってきた。

 「しばらく、我々の国でも見て回りたまえ。その頃には、準備も終わっているはずだ。この街から東に位置するルナゲートまで向かってくれたまえ。魔女の支配から抜け出して17年。人と科学の調和を目指したエスタ・・・気に入ってもらえるといいが」
 「あの・・・は・・・」
 「娘は、我々が送り届けておく。安心してルナゲートに向かってくれたまえ」

 補佐官にそう言われ、スコールたちは官邸を出て、エスタ市街を見て回ることにした。
 街の人々の話では、17年前までは魔女アデルの支配にあったのだが、今では大統領のおかげで平和に統治されているという。
 改めて周りを見回し、その近代的な造りに驚かされる。透明な道路の中を通るリフター。大きな建物の数々・・・。今までに見たことのない賑やかで栄えた国・・・。

 「スコール、そろそろルナゲートへ行かないかい?」

 アーヴァインが声をかける。が心配なのだろう。スコールはうなずき、街の出口へ向かうが・・・それだけでも迷子になりそうな広さだった。
 エスタを出る前、スコールは一度振り返り、改めて「すごい国だな・・・」と思わされた。

***

 レンタカーに乗り、スコールたちはエスタの東にある“ルナゲート”へ向かった。これまた巨大な施設で、一体ここで何をするのかと疑問に思う。
 警備兵に止められるかと思ったが、話は通してあるらしく、あっさりと中へ通された。

 「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

 ルナゲートの職員がスコールたちを奥へ通してくれた。巨大な筒のような機械がある。ここは一体、何なのか・・・。

 「出発するのはあんたたちだな?」
 「・・・出発?」
 「なんだ、話を聞いてないのか?」

 ルナゲートに向かってくれ・・・と言われただけだ。というか、エルオーネに会いに来たのだが、これはどういうことなのか・・・。眉間に皺を寄せたスコールに、職員が説明をしてくれる。

 「エルオーネはルナサイドベースにいる。そこへ行くのに、ここの作業が必要ってことだ。距離的にはかなりあるけど、時間的にはほんの少しだ。眠っている間に着くからな」
 「眠る・・・?」

 先ほどから、言われること全てが「?」でいっぱいだ。あまりにも説明が少なすぎる。

 「ルナサイドベースへ行くまでのプロセスを、簡単に説明しておこうか。まず、君たちには最初に、このパイプの中に入ってもらい、コールドスリープを施す。処理が終われば、君たちの入ったカプセルは射出機の中に自動的に装填される。あとは発射するだけだ。目が覚めたら到着してるはずだ。あとは向こうのスタッフに任せるといい。・・・説明はこれだけだ。もちろん危険はゼロではない。どうする?」

 危険はゼロではない・・・どうする・・・?と問われても、その手段でなければ、すぐにエルオーネに会うことが出来ないのなら、迷っている場合ではない。

 「よろしくお願いします」

 アーヴァインがハッキリとそう告げると、職員の男はうなずいた。

 「じゃあ、あんたと・・・他に行く人は、いるのか?」
 「・・・俺と・・・セルフィ、来てくれ。残りのみんなは留守を頼む」

 スコールの指示にゼルたちが、うんとうなずく。

 「例の女の子はコールドスリープ処理して装填済みだ」

 のことか・・・。アーヴァインが安心したようにうなずく。これで、エルオーネの力での過去へ接続することが出来る。を助けられるかもしれない。

 「・・・その間に、ママ先生は魔女の力を抑えてもらわないとね」
 「そうだ・・・! ママ先生を1人にするのは危険だぜ!」

 キスティスの言葉に、ゼルが同意する。イデアは現在、エスタでオダインと共に魔女の力を抑えてもらっているのだ。

 「よし! オレが護衛につくぜ! スコール、な、いいだろ!? キスティスもいるんだし・・・何も心配は・・・」
 「・・・わかった。ゼルに任せよう!」
 「やったぜ〜! オレ、がんばって護衛するぜ! スコール、アーヴァイン、セルフィ、安心して行って来てくれ!」

 ゼルの強すぎる意気込みに、少々不安になったが、キスティスがいる以上、無理はしないだろう。

 「こっちは任せてくれよ!」
 「気をつけて行ってらっしゃい」
 「・・・は、絶対に助かるよ!」

 ゼル、キスティス、リノアの声を受け、スコールたち3人はコールドスリープ処理作業へと向かった。

***

 スコールたちの乗ったカプセルが宇宙へ飛び立っていく。
 その様を見つめ、ゼルたちは4人の無事を祈った。

 「さて・・・じゃあ、エスタへ・・・」

 戻ろう・・・と言いかけたゼルの言葉を遮るように、建物全体が大きく揺れた。

 「外へ行きましょう!」

 キスティスの判断に、ゼルとリノアはうなずき、ルナゲートから外へ出た。
 その瞬間、目に飛び込んできたのは、空に浮かぶ巨大な建造物。エスタの方へ近づいていた。

 「あ、あのバカでかいのは一体何なんだ!?」
 「あそこって、首都じゃないかしら?」
 「え・・・! じゃあ、イデアさんとオダイン博士も巻き込まれちゃうよ!」

 慌てふためくゼルとリノアだが、キスティスは冷静だった。

 「ゼル、とりあえず首都へ向かいましょう。オダイン博士に会えば、何かわかるかも」
 「よし! エスタへ急いで戻るぞ!」

 乗って来たレンタカーで、エスタへ戻り、急いでオダインの研究所へ向かった。途中、すれ違った人たちが「17年前のものが、どうして・・・」とつぶやいているのが聞こえた。
 研究所の入り口に、博士の助手が立っていた。「博士に会いに来たのですか?」と問われたので、「そうだ」と返す。

 「オダイン博士、今、機嫌がいいですよ。あんなに機嫌がいいのは久しぶりです」

 そんなことは、どうでもいい。急いで研究所の中へ入れば、イデアが待っていた。
 4人で博士のもとへ向かうと、オダインは助手の1人と何やらやり取りしていた。

 「なぜ、今頃ルナティック・パンドラが? 誰が動かしているのでおじゃるか?」
 「たった今、ガルバディアが引き上げたらしいと・・・。大変です。街に警告を出さなくては!」
 「あれが攻撃してくる事はないでおじゃる。それに、この街が目的では無いはずでおじゃる」
 「ならば、良いのですが・・・。本当にそうなのですか?」
 「ただティアーズポイント・・・ん?」

 そこで、ようやくオダインがゼルたちの存在に気付いたようだ。嬉々とした表情で話しかけて来る。

 「お前たちでおじゃるか。わくわくするでおじゃるな」
 「何が、わくわくだよ! ガルバディアとかなんとか!!」
 「久しぶりなのでおじゃるよ。ルナティック・パンドラ」

 オダインが何をそんなに喜んでいるのか、ゼルにはさっぱりわからない。

 「そのルナティックなんとかってのが、あのでかいやつか? あれってなんなんだ? 何が起こってんだ?」
 「ほほっ! オダインの話を聞きたいでおじゃるか? それはうれしいでおじゃる。話すでおじゃる。発掘されてしばらくは、パンドラの研究をしていたのでおじゃる。それで、色々整備して・・・」

 まどろっこしいオダインの話に、ゼルが苛立ちを顕にする。

 「それで、色々調べて・・・」
 「そんなんじゃなくってよ」
 「何でおじゃる?」
 「一体、何なんだよ。どうなるんだよ」
 「だから、それをこれから、話すでおじゃ・・・」
 「敵が来てるんだろ? 時間ないんだろ? オレたちがなんとかするぜ! どうしたらいいか教えてくれ! ただ、簡単でいいからな」
 「簡単でおじゃるか・・・。簡単でいいのでおじゃるか? 残念でおじゃる」

 見るからに残念そうなオダインに、ゼルたちは呆れ顔だ。一刻を争うというときに、何をしているのか。

 「ふむ、大変といえば大変な事でおじゃるな。中に入り込んで、止めてみるでおじゃるか? ならばこれを見るでおじゃる」

 そう言って、コンピューターに画像を映し出す。エスタ領土の地図だ。ルナティック・パンドラの現在位置が表示され、予測される通過点が示される。市街を完全に通過するのに20分。その間に、いくつかの到達点から、ルナティック・パンドラと接触できるという。

 「と、いうわけでおじゃる。これを渡しておくでおじゃる」

 渡されたのは、到達点の書かれた市街図だ。

 「問題なのは・・・」
 「もういいって・・・行くぜ!」
 「もっとしゃべりたいでおじゃる・・・。問題なのは、ガルバディアではないでおじゃる」

 オダインのその言葉に、ゼルたちは「え?」と声をあげる。
 ガルバディアが攻めてきているというのに、問題はそれではない、とは。ゼルが動きを止め、オダインを睨むように見れば、博士はその視線に気づいた。

 「なんでおじゃる?」
 「どういう意味だ?」

 ガルバディアよりも、重大なことがあるというのか・・・。ゼルが興味を示したことで、オダインがワクワクした表情を浮かべた。

 「聞く気になったでおじゃるか? 何年かに一度、月からモンスターが降って来るのは知っているでおじゃろう?」

 ガーデンで習ったような気がする・・・。“月のなみだ”・・・確か、そんなような名前の現象だったかと。

 「パンドラはそれに作用するのでおじゃる。ガルバディアよりも実は、そっちの方が問題でおじゃるな。ティアーズポイントにルナティック・パンドラ・・・。作用は最大限になるでおじゃるな」

 ということは・・・月からのモンスター降下現象が起こらないよう、祈るしかない。

 「よし! 行くぜ、みんな! ママ先生は、ここで待っていて下さい!」

 ゼルの言葉に、キスティスとリノアは顔を見合わせ、うなずいた。