6.一つの終焉

Chapter:3

 「さて・・・と。スゥには意気込んでああ言っちゃったわけだし・・・私とあなたで何とかするわよ?」

 腰の愛刀を抜きながら、がアーヴァインに声をかける。

 「メチャクチャする子だと思ってたけど・・・さすがにこれは予想してなかったなあ」

 目の前のガーデンから、以前見た機械が飛んでくる。有人の飛行機械だ。

 「先輩! 手伝いに来ました!!」

 やって来たのは数人の生徒と、SeeD。うん、とはうなずく。

 「アヴィ! 後方支援、よろしく!!」

 「オッケー!」

 向かってくるガルバディア兵に向かい、は刀を構え、走り出した。

***

 第一波、第二波を食い止めると、とアーヴァインは、残ったSeeD、生徒たちに正門を任せ、報告のためにブリッジへ戻ることにした。
 学園長室に入ると、そこには保険医のカドワキの姿があった。そういえば、シドの姿が見えないような気がするが・・・。
 そこへ、スコールたちが戻って来る。どこか疲れた表情に見える。

 「どんな感じなの?」

 カドワキが尋ねる。

 「第一波、第二波は何とか食い止めたと思う。その代わり、生徒たちはボロボロだ。もう一波来たらもう・・・」
 「そっちは?」

 カドワキがとアーヴァインを見る。

 「正門部隊も今はなんとか、食い止めてるけど・・・正直、厳しいかな?」
 「もうここまでってことかい?」
 「あっちのガーデンに乗ってるのは、ほとんどがプロの兵士みたいね。こっちは訓練中の生徒ばかり。スコールの言う通り、あと1回でも攻撃を受けたら・・・」

 校庭チームのキスティスも合流し、報告をする。
 確かに、向こうはガルバディア軍の兵士。こちらはSeeDを目指す生徒。力の差は歴然だ。

 『守備を固めた俺の作戦が間違っていたのか・・・。最初から攻撃していれば・・・』

 「スゥ」

 思い悩み始めたスコールを、現実に戻したのは、の声だった。
 ハッとなり、顔を上げれば、真剣な表情の彼女と目が合った。

 「今回立てた作戦で、自分を責めてるなら、間違ってるよ。これは、私も考えたこと。スゥだけの問題じゃないからね」
 「・・・
 「今は、一刻も早く作戦を立てなおすのが先! 早くしないと、バラム・ガーデンがメチャクチャにされちゃうよ!」

 の言う通りだ。カドワキもうなずいてみせた。

 「あっちにはサイファーがいるんだろ? あんた、あの子から逃げるわけにはいかないんだろ? カッコつけるんなら今しかないよ! ここまで来て何を考えてるんだい? 逃げるんじゃないだろうね?」
 「そんなことはしない」

 キッパリと、スコールが告げる。

 「こっちから攻め込めばチャンスはある。問題は、どうやって向こうのガーデンに乗り込むかだ」
 「このがガーデンをぶつけてみるか? あっちのガーデンの操縦士がやってるんだ。ニーダに出来ないわけないさ」
 「・・・確かに、アヴィの言う通りかも。ニーダにもプライドがあるだろうし」
 「決まりだな」

 仲間たちがこくん、と力強くうなずく。

 「僕はガルバディア・ガーデンの中は詳しいから、みんなを案内する」
 「頼んだ、アーヴァイン」
 「道は、私たちで切り開く。こっちの生徒には、もうムリはさせられないしね」

 もちろん、それに異論はない。の言葉にスコールはうなずいた。
 サイファーとも、魔女イデアとも、決着をつけなければならないのは、スコールたちだ。

 「スコール、あんたここにもう一仕事残ってるよ」

 カドワキが声をかける。眉根を寄せるスコールを連れ、ブリッジへ上がった。

 「生徒たちに勇気をあげなさい。あんたはみんなの指揮官なんだからね」

 反論しようとしてスコールに、ニーダが振り返って言った。

 「あんた、結構みんなに慕われてるんだぞ」

 こんな無口で無愛想な自分を慕ってくれている人たち・・・。彼らのためにも、今ここでスコールが言葉をかけてやらなければ・・・。

 《・・・こちらはスコールだ。・・・みんな、ケガの具合はどうだ? 戦いに疲れて立っているのもつらいかもしれないな。・・・でも、聞いてくれ。勝利のチャンスのために、力を貸してくれ。俺たちはこれから最後の戦いに向かう。敵の攻撃部隊がやって来る前に、こっちから敵陣に乗り込む。そのために、このガーデンを向こうにぶつけることにしたんだ。でかい衝撃に耐えられる準備をしといてくれ》

 傷ついた生徒、治癒担当の生徒、そしてSeeD・・・皆がスコールの言葉に聞き入っていた。

 《周りに年少クラスの子がいたらよろしく頼む。道が開いたら、サブリーダーの部隊が先発隊として行動する。まだ力の残っている生徒は先発隊をサポートしてほしい。SeeDは魔女を倒すために作られたそうだ。ガーデンはSeeDを育てるために作られた。だから、これはガーデンの本当の戦いなんだ。キツくて、イヤになるような戦いだ。・・・でも後悔はしたくない。みんなにも悔いを残してほしくはない! だから、みんなの残っている力、全部、俺に貸してくれ!》

 魔女と戦うために・・・!
 生徒やSeeDたちが、再び立ち上がる。自分たちのガーデンを守るために。

 「うん、それでいい。立派だったよ。さあ! 突っ込むよ!」

 カドワキの言葉を受けて、ニーダが息を吐き出し、エイッ!とばかりにバラム・ガーデンをガルバディア・ガーデンにぶつけた。
 大きな衝撃がガーデンを襲う。見事、バラム・ガーデンの通路が、ガルバディア・ガーデンの校庭につながった。

 「みんな! 行くよっ!!

 が声をかければ、仲間たちがうなずき、ガルバディア・ガーデンへ駆けこんだ。

 「うぉーっし!! 敵陣に乗り込んだぞ!」

 ゼルが声をあげ、拳を突き出す。

 「さあ、覚悟はいいわね?」

 キスティスもムチを鳴らし、意気込む。

 「わたしも・・・戦うって決めたから・・・! だから、負けない!」

 ブラスターエッジを構え、リノアが力強く言う。

 「みんながんばろう!」

 ヌンチャクを振り回し、セルフィが叫ぶ。

 「なつかしい母校だけど・・・今は感慨に浸ってる場合じゃないからね」

 銃を構え、アーヴァインが苦笑した。
 そんな一同の前に、ガルバディア兵たちがやって来た。
 仲間たちは戦う。自分自身の大切なもののために・・・。

***

 目の前の敵を蹴散らし、ガルバディア・ガーデンの奥へと入りこんで行く。
 何人の敵を斬り、魔法で屠ったか、もはや覚えていない。それでも、刀を離すわけにはいかない。
 フゥ・・・と息を吐いた瞬間、目の前が霞んだ。「何・・・?」と思った一瞬が命取りとなった。
 倒れていたガルバディア兵が、の頭に銃口を向けていたのだ。はそれに気付かない。
 ガウン・・・と大きな銃声が響いた。

 「!?」

 目を丸くし、が振り返ると、銃弾を撃ち込まれたガルバディア兵の姿・・・。

 「大丈夫? 
 「・・・アヴィ」

 駆け寄って来たアーヴァインの持っている銃口からは硝煙が上がっていた。

 「ごめん・・・アヴィが助けてくれたんだね」
 「ううん、気にしないで。それより、あらかた片付いたみたいだね」

 辺りを見回し、アーヴァインが告げる。

 「あ、あそこは裏口だよ。あそこから中に入れる」

 さすが、ガルバディア・ガーデン生。裏口も把握している。

 「よっし!! 中へ潜入するぜ!」
 「潜入っていうか、侵入だけどね〜」

 言いながら、ゼルとセルフィが中へ入って行く。リノアとキスティスもそれに続く。

 「スコールが来たら、中を案内するよ」
 「うん」

 キスティスたちに続いて、中に入ろうとしたを、アーヴァインが背後から声をかけて止めた。

 「なに? どうしたの、アヴィ」
 「・・・なんていうか、勝たなきゃいけないんだけど、それに弾みをつけたいって言うか・・・」
 「え?」

 アーヴァインのゴニョゴニョした声に、が首をかしげる。

 『がんばれ、僕!』

 必死にアーヴァインは自分を奮い立たせた。

 「、手を出して」
 「うん」

 そう言って、差し出してきたのは右手だ。確か、彼女は右手が利き腕だったはず。

 「出来れば利き腕じゃない方を・・・」
 「? うん?」

 首をかしげながら、左手を差し出す。アーヴァインはドキドキしながらも、その手を取り、ポケットにしまっていた何かを人差し指にはめようとして・・・。

 「あ・・・あれ?」
 「・・・・・・」

 思わず、間抜けな声をあげた。
 アーヴァインが用意した、小ぶりな水晶のついたシルバーリングは、の人差し指の第二関節で止まってしまった。

 「・・・手袋外せば入るかも!」

 言われて外すも、指の先が出ているタイプの手袋だ。結果は同じである。

 「小指なら・・・!」

 だが、小指には大きすぎた。
 ガーン・・・とショックを受けるアーヴァイン。一世一代の勇気を振り絞ったというのに・・・。

 「ダメだ・・・なんで僕はこんなにダメなんだ・・・」
 「アヴィ、指輪貸して」
 「え・・・?」

 の言葉に、アーヴァインは手にしていたリングをに渡した。はそれを受け取ると、ネックレスを外し、そこにリングを通した。

 「ほら、これでOK」

 「・・・
 「ありがとう、アヴィ。お守りにするね」
 「・・・うん。こちらこそ、ありがとう」

 ネックレスの三日月のチャームと一緒に通された、シルバーのリング。

 「あ・・・これ、石の形、クレセントだね」
 「うん・・・。、三日月が好きみたいだから」

 彼女がしているピアスも、三日月が揺れている。

 「ありがとう・・・アヴィ、本当に」
 「いや・・・」

 照れくさそうな2人のもとに、冷静な声が届いたのは、その直後。

 「何してんだ? あんたら」

 追いかけて来るはずのスコールの存在を、すっかり忘れていたのだった。
 とアーヴァインの2人が、固まったのは言うまでもない。