6.一つの終焉
Chapter:1
どこか照れくさいという感情が生まれていた。
─── 僕にとって特別な子がいたんだ
─── 僕はその子が大好きで、声をかけられるのは、とってもうれしかった
ベッドに寝転がり、ゴロゴロゴロゴロ・・・考えても仕方ないことだとはわかっているけれど・・・。
『でも、別に私のことを好きって言ったわけじゃないのよね』
10年以上の年月が経っていれば、思いも変わるだろう。
当時のは、アーヴァインを特別視していた覚えはない。スコールやゼル、サイファーたちと何ら変わらず接していた。まさか、アーヴァインがそんな気持ちを抱いていたとは・・・。
「う〜〜・・・!」
戦いのプロ、SeeDといえども、中身は普通の18歳の少女だ。色恋沙汰に興味はある。
だが、異性に思いを寄せられたのは、18年間生きてきて、初めてのことだ。
とはいえ、実はは異性に人気があり、密かに思いを寄せている人物は多いのだが。
「・・・今でも、好きだったりする・・・のかな」
ベッドの上に寝転がりながら、はボソッとつぶやいた。
その途端、カァ〜・・・と顔が熱くなった。こんな自分はイヤだ。こんな風にモヤモヤと考えているのは性に合わない。
だが・・・。
「・・・私のこと、好きなの?」
そんな風に聞くこともできない。そんなハッキリ聞くことなどできない。
「う〜・・・!」
こんなことなら、過去を思い出さなければよかった・・・。いや、そうは思うまい。
スコール、ゼル、キスティス、セルフィ、アーヴァイン、そしてサイファー・・・彼らとの思い出は大切な物となったのだから。
だが、同時にイヤなことも思い出してしまった。
厳格な祖父・・・自分を置いて逃げた両親・・・。
「・・・パパ・・・ママ・・・」
記憶の中の両親の顔は、まだおぼろげだ。幼い頃に別れたため、覚えていない可能性もあるが。
詳しい事情は何も知らないのだ。ただ、両親は駆け落ちしたということだけ、祖父に言われたが、10歳そこらの少女に、そんなことは理解できるはずもなかった。
そういえば・・・アーヴァインは自分に何かを隠している様子だった。
『やっぱり・・・アーヴァインに会いに行くしかないか・・・』
できれば顔を合わせたくないが・・・だが、この後ずっと会わないわけにはいかない。
「よし・・・! 勝負するかっ!!
なんだか、おかしなやる気を出して、は部屋を出た。
***
ハァ・・・と息を吐き出し、はチャイムを鳴らした。
すぐにドアは開いた。ドアの向こうのアーヴァインは、いつもと変わらぬ様子で、笑顔で立っていた。
「どうかしたの? 何か聞きたいこととか?」
「うん・・・あのね」
「ああ、立ち話もなんだし、入りなよ」
「・・・うん」
何の疑いもなく部屋の中に入って来たに、アーヴァインは苦笑してしまう。
男の部屋に、軽々しく女が入るなんて・・・とは思うが、彼女はSeeDだ。何かあっても、対処する術は持っているのだろう。
「それで? 何が聞きたいの?」
「あのね、D地区収容所でのこと。私を助け出すように頼んだのって・・・」
「そう、君のおじい様の命令だよ」
あっさりと認められ、呆気に取られてしまった。
「・・・なんで」
「うん?」
「なんで、おじい様・・・私のこと・・・」
「そりゃ、君が大切だからでしょ」
「でも・・・! 私はおじい様に嫌われてて・・・」
だから、幼い自分にあんなに厳しかったのだろう。
だが、そんなにアーヴァインは首を横に振る。
「それは違うでしょ。エンデコット将軍は、君のことを大切に思ってるよ」
「そんなこと・・・だって、小さい頃、おじい様は私に厳しく接して・・・」
「それはさ、君にどう接していいのか、わからなかっただけじゃないの? 嫌いだったら、わざわざ君を探し出したりするかい?」
「・・・・・・」
確かに、アーヴァインの言う通りだ。嫌いならば、わざわざ人の力を使って探し出したりしないだろう。
「君は、おじい様に愛されていたよ。あの日、魔女暗殺決行の夜、カーウェイ邸で君のおじい様に会った僕は、君のことを最優先で助けるように命令されたんだ」
「魔女暗殺の時・・・?」
「あ・・・忘れちゃってるか」
苦笑するアーヴァイン。は思い出そうとするが、やはり思い出せない。これもG.F.の弊害なのだろうか。
「まあ、いいさ。とにかく、君はおじい様に大切にされてる。それだけは忘れないで」
「・・・うん」
「あと、僕は君の両親のことについては、何も知らないからね。残念ながら」
「それは、いいんだけど・・・」
駆け落ちした理由など、1つだ。結婚を反対されたのだろう。
「ねぇ・・・アーヴァイン」
「なんだい?」
おずおずと、アーヴァインの顔を見上げる。笑顔の彼と目が合った。
「・・・昔みたいに“アヴィ”って呼んでもいい?」
「え・・・?」
「あ! イヤだったらいいの! もう子供じゃないんだし、そんな風に愛称で呼ばれるのなんて、イヤだろうし・・・!」
「そんなことないよ。僕は、が昔みたいにそう呼んでくれるのはうれしい」
ニッコリと・・・そんな優しい笑顔で言われ、は照れくさくて、うつむいてしまう。
「・・・スゥたちも、いいかな。“いいよ”って言ってくれるかな?」
「う〜ん・・・セフィとキスティは拒絶しないだろうけど、スコールはね・・・」
「あ、確かに。でも、そのイヤがるスコールの顔を見てみたい!」
「うわ・・・って結構ひどいね」
クスクス笑いながらも、アーヴァインは止めない。彼も同罪だ。
「・・・そっか。おじい様・・・私のこと、大切にしてくれてたのか」
その話に戻り、はホッとした表情を浮かべた。
「実の孫なんだよ? 嫌いになるわけないでしょ」
「でも、私の父と母は・・・」
「結婚反対したこと、後悔してたんじゃない? まあ、僕にはエンデコット将軍の気持ちはわからないけどね」
それより・・・とアーヴァインがチラッとに視線を送る。
「・・・僕のこと」
「あ〜! そうだ・・・! 私、ちょっと訓練施設行って・・・」
「・・・」
「それから、セフィのとこ行って、元気づけて・・・」
「ってば・・・」
「それから・・・それから・・・」
必死に何か言い訳を考えていただったが、アーヴァインの視線に黙りこんでしまった。
「・・・何? アヴィ。わかった、わかった。私の降参。ちゃんと話聞くわ」
両手を挙げて、投げやり気味にが告げれば、アーヴァインがハァ〜とため息をこぼす。
「そんなに警戒しないで。僕はただ、君に僕の気持ちを知ってほしいだけだよ」
「アヴィの気持ちって・・・」
「僕は君が大切で、大好きだってこと」
「!!」
何を言われるのか、何となくわかっていたのに・・・面と向かって言われると、頭が真っ白になって、何を言えばいいのかわからなくなった。
「あ・・・あの・・・その・・・」
「大丈夫だよ、。今すぐ返事をしてほしいとか、そういうんじゃないんだ」
「え?」
「ただ、これから僕たちは魔女と戦うことになるだろう。だから、その前に僕の気持ちを知っていてほしかっただけだよ」
「アヴィ・・・」
まるで、今を逃したら二度とこうして話が出来なくなるんじゃないか・・・そんな不吉な気持ちにさせられる。
「ダメだよ、アヴィ。魔女と戦って、全てが終わるなんて考え」
「え?」
「じゃあ、こうする。魔女を倒したら、その時に、返事する」
「・・・色んな意味で緊張するなぁ、魔女と戦うの」
苦笑しながらそう言うアーヴァインに、はクスクス笑った。
「狙撃の時みたく、緊張して震えないでよ?」
「・・・は、あの時、僕が魔女に怯えて震えていたんだと思う?」
いきなり真顔になったアーヴァインに、は首をかしげる。
「・・・忘れた? 僕は魔女イデアが“まませんせいであること”を知っていたんだよ」
「あ・・・」
つまり、その戸惑いがアーヴァインに狙撃すること・・・暗殺することをためらわせたのだ。
「今度は、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。トラビアでも言ったでしょ? 僕は戦うって」
そうだった。安心したように、が微笑む。
「・・・殺さなくてもいい方法、あるといいのにね」
「うん?」
「まませんせい・・・助けたいな・・・」
「・・・そうだね」
とアーヴァインは顔を見合わせ、微笑みあった。
きっと、何か戦わないでいい手段が見つかるはず。
だが・・・そんな思いとは別に、戦うことでしか止められない、そんな予感もしていた。