5.戦う理由
Chapter:7
“まませんせい”・・・孤児院の経営者で、子供たちの育ての親。子供たちは、みんな、まませんせいが大好きだった。
まませんせいは、“母”であると同時に“先生”でもあった。子供たちに優しく色々と教えてくれた。
だから“まませんせい”の呼称ができた。
「いつも黒い服で・・・」
ゼルがその姿を思い出そうとする。
「え〜と〜」
セルフィも首をひねって、必死に思い出そうとしている。
「長い黒髪で・・・」
もおぼろげながら、その姿を思い出す。
『まませんせい・・・。黒い服・・・それはまるで・・・』
スコールが一つのことに思い至った。
「優しい顔・・・黒くて長い髪・・・。ああ、私、憧れてたな」
「私も、まませんせいのこと大好きだった・・・」
キスティスと
もつぶやき・・・その姿が次第にはっきり思い出され・・・。
「似ている。まませんせい・・・似ている」
「あれ・・・顔を思い出したら・・・」
ゼルとセルフィが顔を見合わせる。そんな2人に、アーヴァインは首を横に振って言った。
「似ている? 違うよ。まませんせいの名前は、イデア・クレイマー。まませんせいは魔女イデアなんだ」
アーヴァインの告げた事実は、一同を驚愕させるに十分なものだった。そんな大事なことまで、彼は1人で隠していたのか。
「まませんせい・・・魔女イデア・・・」
セルフィが呆然とつぶやく。
「どうして、まませんせいが・・・」
キスティスも口を押さえ、信じられない・・・という顔をする。
「どうして? どうしてまませんせいが国を乗っ取ったり、ミサイル発射したりしたのかってこと? それはきっと僕たちがここで話してもわからないと思うんだ」
「そうね・・・まませんせいが魔女になっちゃった理由もね」
の言葉にアーヴァインがうなずいた。
「・・・聞いてよ。SeeDとかガーデンって、まませんせいが考えたんだろ? 僕はSeeDじゃないけど、気持ちだけは君たちと一緒だ。SeeDは魔女と戦うんだろ?」
アーヴァインが告げる中、スコールはD地区収容所で、サイファーに拷問されていた時のことを思い出す。
あの時、サイファーは言っていた。「SeeDとは何だ」と。そんなことは、魔女イデアは知っていたはずだ。だが、まませんせいである魔女イデアはそれを知らなくて・・・。
「スコール、聞いてる?」
アーヴァインが苦笑する。スコールは顔をあげ、アーヴァインを見た。
「僕が言いたいのはこういうこと。え〜と・・・そうそう、リノアが言ったこと、とってもよくわかるんだ。わかるけど、それでも僕は戦うよ。僕がこれまでに決めたことを、大切にしたいからね。みんなも同じだと思うんだ。だから戦う相手がまませんせいだってこと、ちゃんと知ってた方がいいと思った。ほら、よく言うでしょ? 人生には無限の可能性があるってさ」
一同をぐるりと見まわし、アーヴァインは言葉を続ける。
「僕はそんなの信じてないんだ。いつだって選べる道は少なかった。時には1本しかなかった。その、少なかった可能性の中から自分で選んだ結果が、僕をここまで連れてきた。だからこそ僕はその選んだ道を・・・選ばなくちゃならなかった道を、大切にしたい」
「アーヴァイン・・・」
チャラチャラした彼の心の中に、そんな思いがあったことを、仲間たちは誰も知らなかった。
「確かに僕たちの相手は大好きだったまませんせいだ。G.F.のせいで、大切なものを無くすかもしれない。いいんだ、それでも。僕は運命とかに流されて、ここにいるわけじゃないから。自分で選んだから、今、ここにいるんだ。それに、何より・・・僕たちは子供の頃、一緒にいただろ? それが色んな事情で引き離されてしまったんだよ。子供だったから、1人では生きていけなくて・・・。他に許された道もなくて、ただ泣いてるだけだったさ。でもさ・・・でもさ、こうしてまた一緒になれた。新しい仲間・・・友達も増えた」
リノアに視線を向ける。新しい仲間・・・友達・・・その最たる人物だ。
「僕たちはもう小さな子供じゃない。みんなとっても強くなった。もう黙って離ればなれにされるのはイヤだから・・・。だから僕は戦う。少しでも長く一緒にいるために。それが僕にできる精一杯だから」
「オレもだぜ! 戦うぜ! 怯えて隠れるなんてイヤだからな!」
「まませんせい相手なのが、つらいとこだけどね〜」
気合の入ったゼルの言葉だったが、セルフィの一言に、一同の表情が曇る。
「それ、状況によっては、ガーデンの卒業生同士が戦わなくてはならないのと同じよ」
「でも・・・私たちSeeDは、魔女を倒さなきゃいけない・・・。まませんせいを、止めなきゃいけない」
キスティスと
がつぶやき、スコールが黙って話を聞いていたリノアに視線を向けた。
「リノア・・・俺たちの方法って、こうなんだ。戦うことでしか、自分も仲間も守れないんだ。それでもよければ、俺たちと一緒にいてくれ。みんなも望んでいるはずだ」
リノアが仲間たちを見る。誰もがみんな、笑顔でうなずき、スコールの言葉に同意した。
リノアは、今ではスコールたちの大事な仲間だ。友達だ。
と、空から白い物が落ちて来る。それを見て、セルフィがうれしそうに飛び跳ねる。
「見て見て! 妖精の贈り物だ〜!」
トラビアでは、雪のことをそう呼ぶのだろう。
ふと、ゼルが顔をあげ、仲間たちを見まわした。
「なあ、イデアの孤児院へ行ってみないか?」
「どうなってるかな〜?」
「何かわかるかもね」
「ん? まませんせいがこうなってしまった原因?」
まませんせいが魔女になってしまった原因は、過去に何かあったからだろう。
スコールが息を吐き、顔を上げてまっすぐに前を向く。
「どんな真実が出てきても、今が変わるわけじゃないさ。でも・・・正直言って、俺も見たい。何があるのか、わからないけど、イデアの家を探してみるか・・・」
「石の家・・・海の近く・・・これだけの記憶で、見つかるかしら?」
「とりあえず・・・ガーデンで探してみよう。バラムにはそんな場所はない。バラム以外のどこか、だな」
それでも途方もない作業になるだろう。
ガーデンに戻ろう、というスコールの言葉に、仲間たちが歩き出す。
「リノア・・・」
「・・・
?」
「大丈夫。みんなは、いきなりリノアの前からいなくなったりしないよ」
「・・・みんな、強いんだね」
「強くなんてないよ。ただ、深く考えると、身動き取れなくなっちゃうだけ。アハハ・・・難しいこと考えるの、苦手だよ」
「
・・・」
「戦わなくてもいい方法、見つかるといいね」
ニッコリと笑って、
がそう言った。リノアはその
の言葉に、笑顔でうなずいた。
***
バラム・ガーデンはイデアの孤児院を探す旅に出ていた。だが、この広い世界の中、ただ動き回っても見つからないだろう。
「・・・学園長、何か知らないかな」
の言葉に、スコール、キスティス、シュウが彼女を見た。
確かに、シドとイデアは夫婦だ。イデアの孤児院の場所くらい知っているだろう。
「イデアの孤児院の場所、ですか・・・? 確か、セントラ大陸のどこかだったかと・・・」
セントラ・・・約400年前に興ったセントラ文明の名を残した国家だったが、「月の涙」という、月からのモンスター降下攻撃を受け、100年前に滅亡した国だ。
それだけでもわかれば十分だ。ガーデンはセントラ大陸目指して移動することになった。