5.戦う理由
Chapter:6
僕が子供の頃・・・ありゃ4歳くらいだったかなぁ。僕、孤児院にいたんだよね。大勢の子どもたちがいて・・・。みんな親がいなくてね。魔女戦争が終わった頃だったから、親の無い子はたくさんいたんだよね。ま、僕がいたのは、そんな所だったわけ。で、色んな子供がいたんだけど、僕にとって特別な女の子がいたんだ。
─── アヴィ、むこうでみんなとあそぼっ!
僕はその子が大好きで、声をかけられるのが、とってもうれしかった。
─── うん! あそぼ!
─── あそぼ! あそぼ!
無邪気な僕らは、そうやって毎日を過ごしていたんだ。
***
アーヴァインの言葉に、
が目を丸くした。記憶の奥底で、何かが蘇った。呆然としつつ、言葉を紡ぐ。
「その孤児院・・・石の家?」
「そうだよ」
「石で出来た古い家? ・・・海の傍?」
「そうだよ」
に続いて、キスティスも口を開く。アーヴァインがキスティスを向いてうなずいた。
「ガルバディア・ガーデンで会った時に、僕はすぐにわかったよ」
「どうして言わないのよ!」
「そう、どうして?」
とキスティスが怒った口調で、アーヴァインに詰め寄る。対するアーヴァインは、ヒョイと肩をすくめて。
「だって2人とも忘れてるんだもん。僕だけ覚えてるのって、なんか悔しくて。大人びてた
と、えばりんぼのキスティ」
「その孤児院って、庭にたくさんお花が咲いてた〜?」
「うん」
「え・・・ってことは・・・?」
「そう。元気なセフィ」
セルフィの思い出した事実に、
とキスティスは目を丸くし・・・。
「おい・・・もしかして花火したの、覚えてねえか?」
ゼルまでそんなことを言い出して・・・
たちの脳裏に、孤児院の裏の浜辺で花火をした記憶が蘇る。
─── あ〜〜っ!! こどもだけではなびしたら、いけないんだぞ〜! まませんせいにゆ〜からな〜!
─── なきむしゼ〜ル! ベッドへかえれ〜!
「これ、覚えてるってことは、オレもいたってことだよな?」
「・・・みんなで怒られたわ」
「まませんせいに、ね」
「・・・じゃあ、オレのバラムの家の両親は?」
「バラムのディンさんご夫婦は、ゼルを引き取ってくれたのね」
ゼルの疑問に、キスティスが答えた。セルフィも「きっとそうだよ〜」とうなずいた。
「オレ・・・みんなといたんだ・・・」
感慨深そうなゼルの脳裏に、1つの思い出が蘇って来た。
─── いたいよ〜! まませんせ〜! いたいよ〜!
─── なきむしゼ〜ル!
泣き出したゼルの前に、ガキ大将のような男の子が1人・・・。
「だ〜れ?」
セルフィが首をかしげる。
─── よわむしゼ〜ル
─── いたいよ〜、サイファーがぶつよ〜
「あっ!」
キスティスが口を押さえて声をあげ、隣に立つ
と顔を見合わせた。ゼルが苦々しい表情を浮かべる。
「サイファー・・・オレの天敵だった・・・」
「うわ〜! 一緒だったんだ〜!」
「どう?」
アーヴァインがウインクして
たち4人を見る。
「サイファーも一緒だったよ。リノア以外は、みんな一緒だったんだ」
「ってことは〜!」
セルフィが声をあげ、振り返る。一同の視線を受け、彼・・・スコールが寄りかかっていた瓦礫から身を起こした。
「ああ・・・俺もそこにいた。俺は・・・いつも“おねえちゃん”の帰りを待っていた」
─── ぼく・・・ひとりぼっちだよ。でも・・・がんばってるんだよ。おねえちゃんいなくても、だいじょうぶだよ。なんでもひとりでできるようになるよ
『・・・全然大丈夫じゃなかった』
幼い頃の自分を思い出し、スコールは頭を抱えた。今の姿からは想像もできないほどに、弱い自分。
「エル・・・エルオーネが“おねえちゃん”だった。彼女は俺たちより少し年上で、みんなからおねえちゃんと呼ばれていた。キスティス、
、ゼル、セルフィ、アーヴァイン。サイファー、エルオーネ、俺・・・。そうだ。どんな意味があるのかわからないけど、確かにみんな一緒にいた」
スコールがつぶやくように、そう言った。
、ゼル、セルフィ、アーヴァイン。サイファー、エルオーネ、俺・・・。そうだ。どんな意味があるのかわからないけど、確かにみんな一緒にいた」
スコールがつぶやくように、そう言った。
たちの視線が、スコールへ集中し、スコールはバツの悪そうな表情を浮かべた。
が「えっと・・・」とつぶやく。
「あのエルオーネが、おねえちゃん?」
「あたしたちをラグナ様の時代に、連れて行ってくれるんだよね〜」
「過去を変えたい・・・そうエルオーネは言ったのよね? でも、なんで?」
の疑問に、キスティスが腕を組んで答える。
「過去を変えたい理由なんて、一つしかないわ」
「今がシアワセじゃないんだね〜」
セルフィが悲しそうな表情を浮かべる。ゼルが拳を握りしめた。
「そういうことなら、力になってやりたいぜ! 同じ孤児院で育った仲間だもんな!」
「ぜ〜んぜん忘れてたクセに〜!」
「セルフィだって、僕が言い出すまで忘れてただろ」
アーヴァインの突っ込みに、セルフィが「エヘヘ・・・」と照れ笑いした。
「こんなに色んなこと忘れるなんて、なんだか怖いわね・・・」
「確かに、そうだね。どうして・・・」
─── パパ、ママ、どこ? あたしをおいて、どこにいっちゃったの?
言いかけた
の脳裏に、以前見た夢の女の子が現れる。
いや・・・違う・・・これは“自分”だ。
「
? どうしたの?」
セルフィの声に、ハッと我に返った。慌てて「なんでもないよ」と笑みを浮かべた。
「そうか、おねえちゃんがエルオーネだったのか。みんなおねえちゃんが好きだったのに、スコールが独り占めしてたんだよね」
「あんた・・・よく覚えてるな。・・・おかしな話だ。俺は・・・こんな性格だから、誰も引き取ってくれなかったんだと思う。たぶん、サイファーも同じようなもので、だから、5歳くらいの時には、2人ともガーデンにいた・・・はずだ。それなのに、孤児院の頃の話なんて全然したことがない。俺はあいつを見ても、そんなこと考えもしなかった。・・・変だと思わないか?」
「それはヘン〜!」
スコールの発言に、セルフィが真っ向からその言葉をおかしいと言い放つ。スコールは少しムッとしてしまう。自分から「変だと思わないか?」と聞いておきながら、勝手だ。
「そういうセルフィはどうなんだよ・・・」
「あたし? あたしはトラビア行ってから、楽しいこといっぱいあったからね〜。だからちっちゃい頃のこと、忘れちゃったんだよ、きっと〜。でも、スコールたちはヘン! ぜ〜ったい、ヘン〜!」
そう何度も「ヘン」を連呼しなくてもいいだろ・・・とスコールは思う。が、口にはしない。
「私・・・覚えてる。いいえ、思い出した。私、引き取られた家でうまくいかなくて、10歳でガーデンに来たの。その時、スコールとサイファーに気がついたわ。サイファーとスコールは、いつもケンカしていたの」
「ああ・・・。いつもキスティスが止めに入って来た」
キスティスの過去を思い出す言葉に、スコールも思い出したのだろう。うなずいた。
「そう! そうなのよ! サイファーはいつでも自分が中心にいないと気がすまない子供だった。それなのにスコールは、いつも無視してて・・・。そしていつも最後はケンカ。スコールも逃げればいいのに、黙って相手してた。相手しなけりゃいいって言ったら、スコールはベソかきながら・・・1人でもがんばらなくちゃ、おねえちゃんに会えなくなるって」
スコールにとっては、少し恥ずかしい思い出だ。今の彼からは想像できない姿である。
「私はおねえちゃん・・・エルオーネの代わりになろうとしたんだわ。なんとか頑張ったけど、ダメで。そうなんだわ! 私、教官になってからも、スコールが気になって仕方なかった。それは・・・恋だと思ってた。私は教官だから気持ちを隠して・・・。でも違ったんだわ。子供の頃の姉のような、気持ちだけが残っていて・・・。な〜んだ」
それはカン違いの恋・・・というものだった。少なからず、キスティスにはショックである。
「あっ! サイファーも同じなのよ! サイファーも子供の頃のことは、忘れているんだと思う。けれどもスコールを見ると気持ちがザワザワしてきて」
「それでスコールに絡んでたのか?」
なるほど、納得がいく。子供の頃の気持ちが残っていて、スコールにケンカを吹っかけなければ、気が済まないのだ。
「・・・アーヴァイン、私、思い出した」
がアーヴァインを見てつぶやく。神妙な面持ちの彼女に、一同が怪訝な表情をする。
「私の両親は駆け落ちして・・・だけど、やっぱり私を育てられなくて、孤児院に預けられた。私は両親の“いつか迎えに来るからね”って言葉を信じて待ってた。だけど、パパもママも来なくて・・・。そんな私に優しく声をかけてくれたのが、アヴィだった・・・。それから、私はガルバディアへ・・・おじい様に引き取られた。厳格なおじい様・・・元ガルバディア軍の大佐・・・。私は、そんなおじい様から逃げ出したくて、ガルバディア・ガーデンに入学した。そこでアヴィと再会した」
「うん・・・そうだったね・・・」
「でも、私はSeeDを目指すことにして・・・バラム・ガーデンに転校したの。それからは、忙しくて、アヴィのことを忘れてしまったんだと思う・・・」
うつむきながら、
がそう言うが・・・どうにも腑に落ちない。
「バラム・ガーデンでキスティやスゥたちと再会して、喜んだのは・・・思い出した・・・でも・・・どうして今まで忘れていたの? こんな大切な、大事な人との思い出を・・・」
「こんな感じ、どう? ・・・G.F.を使う代償。G.F.は力を与えてくれる。でもG.F.は僕たちの頭の中に自分の場所を作るから・・・」
「その場所はもともと思い出がしまってある場所ってことでしょ? それG.F.批判の人たちが流している単なるウワサよ」
アーヴァインの仮説を、キスティスが真っ向から反対する。
「G.F.に頼ってると、色んな事思い出せなくなるってことか?」
「そんな危険なもの、シド学園長が許すはずないじゃない?」
「じゃあ、みんな忘れてるのに僕だけ色々覚えていたのは? どういうわけなの? 僕は最近までG.F.をジャンクションしたことはなかった。だから君たちよりも、色んなことを覚えてる」
確かに、アーヴァインの言っていることは、筋が通っている。
だが、バラム組としては・・・教員だったキスティスとしては、そんな危険なものの使用許可をシドがしたとは思えないのだ。だから、話の中心をセルフィに向けた。
「セルフィはどうなの? G.F.体験は、バラム・ガーデンに来てからよね」
「う〜ん」
困ったような表情のセルフィは、だがすぐに顔をあげた。
「告白しま〜す。あたし、12歳の時に野外訓練行ったんだ〜。そこで倒したモンスターにG.F.が入ってて・・・。そのG.F.をしばらくジャンクションしてたの。だから経験者ってこと。でも・・・でもヘン! そのG.F.の名前、思い出せないよ〜!」
「じゃあ、やっぱりG.F.のせい? ・・・どうする?」
「どうするって・・・それはそれでいいだろ」
スコールがあっさり答える。ゼルが「よかねえだろ!」と反対の声をあげた。そんなゼルを、睨むようにスコールは見やる。
「ここでやめるのか? G.F.を外してほしいか? 戦い続ける限りG.F.が与えてくれる力は必要だ。その代わりに何かを差し出せというなら、俺はかまわない」
潔いスコールの言葉に、ゼルたちは何も言えない。と、セルフィが「あ・・・!」と声をあげた。
「みんな日記をつけよう! きっかけがあれば思い出せるよ! それに、消えてく思い出に負けないくらい、たっくさんの思い出のタネ、つくろ〜!」
「ホントにそれでいいのかよ! いや・・・それでいいのか。そうだぜ・・・子供の頃サイファーにいじめられたことなんか忘れてもいい。それよりも、今、バラムにいる両親を守るための力がオレには大切だ。オレを引き取って育ててくれたんだ。母さんたちを守る力、手放せないぜ」
うん、とうなずき、自分に言い聞かせるように、ゼルが言う。
と・・・どこか迷うような表情だったキスティスが、一同を見回して問いかけた。
「ねえ・・・みんな、まませんせいのことは思い出せる?」