5.戦う理由

Chapter:5

  バラムガーデンに戻り、シドに報告をし、ブリッジに上がる。キスティスがそこにいた。休憩したのだろうか?

 「大丈夫よ、きちんと休ませてもらったわ」

 スコールの表情で何が言いたいのか、わかったらしい。さすがスコール研究家。キスティスが笑みを浮かべながら言った。

 「 は?」
 「セルフィのとこへ行ったわ。やっぱり、気になってるみたいね」

 『・・・それはそうだろうな』

  とキスティスはミサイル基地へセルフィと共に行き、生か死か・・・という経験をした。
 その上、セルフィは故郷がミサイルで攻撃された。メンタル部分も心配だ。
 いくらSeeDといえども、彼女はまだ17歳の少女なのだ。今後、傷つくこともあるだろう。そのためにも、今はこのつらい時期を乗り越えて欲しい。

 「お邪魔しま〜す」

 そんなことを考えていると、その張本人の声がし、エレベーターでセルフィと が上がって来た。

 「どうした?」
 「次の目的地、決まった〜?」
 「考え中だ。どこか行きたいところでもあるのか?」
 「あのね、トラビア・ガーデン行ってみる〜? すっごい山奥だから魔女も相手にしないかもしれないけど。もしかしたらってこともあるし〜・・・ってわけ」

 そのセルフィの言葉に、スコールは首をかしげる。

 『でも・・・ミサイル攻撃でひどいことになってるんじゃないのか? ああ、だから行きたいのか。・・・それはそうだろうな』

 セルフィの気持ちはわかった。その気持ちに応えたいと思う。

 「・・・選択肢に入れておく」
 「ありがとう」

 手を振り、セルフィが下りて行く。セルフィが下りて行った姿を見て、 がスコールに視線を向けた。

 「・・・セルフィね、まだムリしてるの。だから、お願い・・・スコール、セルフィの力になってあげてね? 私たち、お互いに支え合っていこうね?」
 「・・・わかってる」

 私、セルフィといるね・・・と言い残し、 も下りて行った。

 「・・・どうする?」
 「トラビア・ガーデンに向かう」

 ニーダの問いかけに、スコールはハッキリと答えた。
 セルフィの言う通り、魔女はトラビアをミサイルで爆撃し、もはや用無しと考えているかもしれない。だが、故郷を想うセルフィの気持ちには応えてやりたかった。

***

 北の大地に存在するはずのそれは、焼け焦げ、ボロボロに朽ち果てていた。確実に、ミサイル攻撃の痕跡だ。

 「ミサイル・・・直撃?」

 セルフィがガックリと肩を落とす。これでは、生存者も期待できないかもしれない・・・。スコールたちには、かける言葉が見つからない。
 だが、意を決したようにセルフィは顔をあげ、スコールたちに告げた。

 「・・・あたし、行ってくる」
 「気をつけろよ」

 人がいないのならば、モンスターが入りこんでいるかもしれない。スコールの忠告にセルフィはうなずき、正門横にぶら下がっていたネットをよじ登り、ガーデンの中へ入って行った。

 「・・・セルフィ、ショックだよね。故郷がこんなことになって」

  がぽつりとつぶやく。ミサイルが発射されてから、色々と葛藤があっただろう。現状を確かめたいような、確かめたくないような・・・。

 「俺たちも中に入ろう」

 スコールの言葉に、仲間たちはうなずいた。
 セルフィと同じようにネットを使い、中へ入る。地面はデコボコ。ガーデンの建物の姿もない。どれだけひどい爆撃だったのかを物語っていた。
 だが、朗報もあった。生存者が何名かいたのだ。そのうちの1人と、セルフィが楽しそうに話をしていた。

 「あ、あの人が、あたしの班のはんちょだよ〜」

 セルフィの言葉に、友人が振り返って頭を下げる。

 「セルフィがお世話んなってます」
 「・・・世話をした覚えはないが」
 「気にせんといてな。こういう人やから」
 「もしかして、このクールさは、あんたへの想いの裏返し?」
 「そうそう!」

 キャーキャーと騒ぐ2人に、スコールは呆気に取られる。もしかして、バレている?

 『・・・悪かったな』

 ムスッとした顔でセルフィを見ると、彼女は「あ、そうだ」と声をあげる。

 「奥に運動場があると思うの。そこで待ってて。あたし、知り合いに挨拶してくるから」
 「・・・ああ、わかった」

 トラビア・ガーデンの中には、何人ものケガ人がいた。命が助かっただけでも、幸運といえるだろう。噴水の奥には、命を落とした人たちのために、簡易な墓が作られているという。

 「一歩間違ってたら、バラム・ガーデンがもこうなってたんだよね・・・。ミサイル発射は止められなかったけど・・・バラム・ガーデンもガルバディア・ガーデンも動かせたってことは、トラビア・ガーデンもそうだったのかな?」

  がつぶやく。こんな状況になってしまっては、確認のしようもないが・・・。

 「・・・僕のせいかもね。僕がもっと早くに、ミサイル発射のことを言っていれば・・・」
 「アーヴァイン・・・」

 自分を責めるようなアーヴァインに、スコールたちは押し黙る。それを否定できる者は、誰もいなかった。
 だが、仮にアーヴァインの忠告がもっと早かったとして、ミサイルの阻止は出来ただろうか? 何にせよ、スコールたちは、あの刑務所から自力で脱出しなければならなかった。結果は同じだったのではないだろうか・・・。
 しかし、その言葉は、スコールたちには言うことは出来ない。トラビアの関係者ではないのだから。
 ミサイル攻撃の傷跡は大きい。屋根のほとんど残っていない家屋では、北国の寒さを凌ぐのは難しいだろう。

 「バラム・ガーデンから、SeeDを派遣して、どうにかできないかな?」
 「大工でもないのに、出来ることは少ないんじゃないか?」
 「でも、支援物資のこととか・・・!」
 「・・・シュウ先輩と相談しよう」

 サブリーダーである からの提案なら、シュウも即反対はしないだろう。
 運動場へ行ってて・・・とセルフィに言われたが、どうしてもトラビア・ガーデンの様子が気になってしまう。痛々しい人たちの姿に胸がしめつけられるようだった。

 「セルフィ! スマン、セルフィ! ホンマに許して!」
 「えー? なにー? なんで謝ってんのー?」

 聞こえてきた男の子の声と、セルフィの声。けが人のそばにいたセルフィのもとに、男の子と女の子が駆け寄った。

 「セルフィがくれた、クマさんのぬいぐるみ、助けられへんかった!」
 「どっかでさびしいって、ないてるよぉ・・・」

 グスッと鼻を鳴らす女の子の顔を、セルフィが優しく撫でた。

 「セルフィのクマちゃんは、そんなんでへこたれるほど、ヨワヨワちゃんちゃうで! あんたらみんなが無事やったら、クマちゃんも喜んでるからね。聞こえるよ! クマちゃん、みんなをコッソリ見てるって。クマちゃんが見てへんと思って、わがままゆうたり、メソメソしたらアカンよ!」
 「うん。ぜったい、ウチ、そうする! ウチ、メソメソせえへんって、クマちゃんに伝えてね!」

 涙を拭いて、女の子がうなずき、力強くそう言った。

 「ありがと、セルフィ!」

 男の子のお礼に、セルフィは微笑み、2人の頭を撫でてやった。その笑顔は、いつもの天真爛漫なもので。彼女自身だって、故郷のこの姿を見るのはつらいだろうに。けして笑顔を絶やさない。
 立ちあがったセルフィが、スコールたちの姿に気がつく。

 「ごっめーん。もう行くから、バスケットコートで待っててね」

 バスケットコートの場所を聞き、先にそこへ向かう。そこも地面が隆起し、瓦礫が落ちていた。これでは遊ぶこともできない。

 「セルフィが来たら帰る。それまで待機だ」

 どうやら、魔女の気配はないようだ。ミサイルで攻撃を仕掛けたくらいだし、この土地を顧みることもないだろう。

 『このガーデンに敵は来ていない。・・・これからか? 魔女はどこにいる? 早く探し出して』

 探し出して・・・そして倒す。それがSeeDの使命。スコールたちに課せられた使命だ。

 「魔女がエルオーネを捜す理由は一体、何かしら・・・? スコールを過去へと誘うエルオーネ。そして、それを捜す魔女。魔女も過去へと旅立とうとしている?」
 「エルオーネの力を欲している・・・それは間違いないでしょうね。何が目的なのか、わからないけど」

 キスティスの疑問に、 がつぶやく。魔女が何を考えているのかなんて、スコールたちにはわからない。
 と、バスケットボールが転がって来る。それに視線を向けると、セルフィが駆けてきた。

 「ごめん、お待たせ! みんな、ワガママきいてくれて、ありがとう」
 「・・・気にするな」
 「ありがと、スコール・・・。魔女とバトルする時は、絶対連れてってね。カタキ討ちなんだから。もう、絶対なんだから」
 「あのさ・・・。バトル・・・しなくちゃダメなのかな?」

 意気込むセルフィとは対照的に、戸惑ったような声が聞こえてきた。リノアだ。

 「他の方法ってないのかな? 誰も血を流さなくてすむような、そういう方法・・・」
 「おいおいおい! 今さらそりゃねぇだろよっ」
 「どこかの頭のいい博士とかが、バトルしなくてもいい方法を考えてるとか・・・」

 いきなり弱気な発言をし出したリノアに、ゼルが驚いた声をあげ、スコールたちはあ然とする。一体、何があったのか・・・。リノアらしくない言葉だ。いつも前向きな彼女なのに。

 「リノア・・・どうしたの? 何が不安なの? 今まで、私たちと一緒に戦ってきたじゃない」

  が眉根を寄せ、リノアに問いかける。彼女の中で、何かが起こったのは確実だ。
 リノアは爪先で小さく地面を蹴りながら、仲間たちの視線から目を逸らした。

 「・・・怖くなった、かな。わたし、みんなと一緒にいて時々感じることがあるんだ。あ、今、わたしたちの呼吸のテンポが合ってる・・・そう感じること、あるの。でもね、戦いが始まると違うんだ。みんなのテンポがどんどん早くなっていく。わたしは置いて行かれて、なんとか追いつこうとして、でもやっぱりダメで・・・」

 うつむいて、リノアが不安そうな表情でつぶやく。

 「みんな、どこまで行くんだろう。もう、みんなの呼吸、聞こえない。わたしが追いついた時には、みんなは無事だろうか? みんな笑顔で迎えてくれるだろうか。・・・みんな倒れていないだろうか。みんな一緒に帰れるだろうか。そう考えると・・・」
 「わかるよ、リノア」

 そのリノアに、同意する声。声のした方を、全員が見る。アーヴァインだった。

 「誰かがいなくなるかもしれない。好きな相手が自分の前から消えてしまうかもしれない。そう考えながら暮らすのって辛いんだよね。・・・だから僕は戦うんだ」

 真っ直ぐな瞳で、仲間たちを見て・・・アーヴァインが口を開く。
 そして、彼の口から驚愕の事実が語られることになる。