5.戦う理由

Chapter:4

 翌朝・・・館内放送の声で、は起こされた。

 《スコール委員長、副委員長、至急ブリッジまで来て下さい》

 聞き覚えのない男の声・・・シドではない・・・の声に呼ばれ、首をかしげる。

 『・・・今、“副委員長”って言った??』

 疑問に思ったが、“至急”と言っていたので、早速ブリッジ・・・学園長室に出来た操縦室へ向かった。

 「あ、スコール!」

 学生寮の入り口で、ちょうどスコールと鉢合わせしたので、一緒にブリッジへ向かうことにした。
 ブリッジに上がった瞬間、キスティスとシュウ、それから見知らぬSeeDの少年に拍手で出迎えられた。

 「スコール委員長、副委員長、ご苦労様!」
 「えっと・・・その“委員長”って何?」
 「なんか、肩書きがあった方がいいでしょ? 私とキスティスで決めたわ」
 「勝手に進めて悪いと思ったんだけど、私とシュウで、今後の役割を決めたの」

 何だか、2人は盛り上がっているように見える。気楽なものだ。

 「私、ガーデン内の色々な物資の補充とかそういう手配を担当するから」

 シュウが笑顔で言う。スコールたちの知らないところで、色々と話は進んでいたらしい。委員長なのに。

 「私はカドワキ先生と手分けして、生徒たちの面倒をみるわね。あなたたちは移動や戦闘の方針決定に専念してちょうだい。え〜っと、それから。セルフィをちょっと休ませてあげて。理由をあれこれ言ってたけど・・・。本当はミサイル基地とかの疲れがドッと出ちゃったんだと思うの。どう? OK?」
 「ああ、わかった」

 昨日は明るくスコールを励ましていたセルフィだが、彼女の疲労はメンタル面も加え、そうとうなものだろう。彼女を休ませることに異議はない。
 仕方ないわね・・・と思いつつ、は正面にいたSeeDの少年を見た。

 「・・・で? 彼は誰?」
 「あ、俺はニーダっていいます。スコールとは同期のSeeDです。な? スコール」
 「・・・誰だ、お前」

 スコールの冷たい言葉に、ニーダがガクッと肩を落とした。ここまで他人に無関心な男だったか・・・いや、そうだった。

 「とりあえず、ガーデンの操縦は彼がすることになったわ。どこへ行く?」
 「う〜ん・・・」
 「ねぇ、ちょっとバラムに戻ってみない? 町をかすめて出てきたっきり、どうなったのかわからないし。もしかしたら、F.H.の次はバラムかも・・・。同じような港町だしね」

 が考え込むと、シュウが助言してくれた。確かにそうだ。バラムのその後が気になる。

 「バラムへ向けて出発する。館内の人間に注意するように伝えるのを忘れるな」
 「了解!」

 答えると、ニーダは正面を向き、館内放送のスイッチを入れた。

 《こちらはブリッジです。間もなくガーデンは移動再開します。総員衝撃に備えてください。それから、スコール委員長の挨拶があります》

 いきなり振られるも、そんなこと言えるはずもない。

 《挨拶なんて・・・俺はいいよ。マイク、切れよ!》

 バッチリとやり取りがガーデン内に聞こえてしまい、それを聞いていた生徒たちは声をあげて笑っていた。

***

 バラムの町に行く、ということで、ゼルが同行を申し出た。とキスティスもミサイル基地での疲れがあるだろう、ということでアーヴァインを同行させ、リノアは2人の話相手として残ることにした。
 バラムへ近づくと、意外なものが見えた。バラム・ガーデンとは違った、赤を基調とした建造物・・・。

 「ガルバディア・ガーデン?」
 「やっぱり、ウチのガーデンも移動できるんだ」

 スコールのつぶやきに対し、アーヴァインはなぜか感心した様子だ。母校との意外な再会に、少々感慨深い物がある。だが、あのガーデンは現在、魔女の支配下にあるはずである。
 バラムの町へ入ると、見えたのがガルバディアの軍用車。通せんぼをするように停車していた。

 「なんだこりゃ? どーなってんだぁ!? おいおい! 中はどうなってんだよ!」

 軍用車の近くに、1人のガルバディア兵が立っている。ゼルが近づくと、通せんぼをされた。

 「現在、この町は魔女イデア様の名の下に制圧されている! 制圧されている間は、町の出入りは禁止だ! 期間は数日間だ! 町の調べが終わったら次はお前たちだからな。大人しく、そこで待っていろ!」

 そう言われても、ゼルは町の中にいる母親たちが心配なのだ。なんとかして、中に入れないか・・・とウロウロしていた。

 「あやしいヤツらだな。何をウロウロしているんだ?」

 そんな怪しい行動をしていると、とうとう、ガルバディア兵の目についてしまった。

 「・・・ガルバディアがこの町に何の用なんだ?」

 スコールが食ってかかりそうなゼルを押しやり、冷静に言葉を発する。そのスコールたちを、ガルバディア兵はジロジロと見やる。

 「なんだ、お前たちは? この町の住人か?」
 「おう、そうだぜ! 住人くらいは入れてくれたっていいだろ?」
 「出入り禁止だ! 出入り禁止とは、出るのも入るのも禁止という意味だ。わかるか?」
 「んだと? バカにしてんのか?」

 短気なゼルを、スコールとアーヴァインが引っ張り、ガルバディア兵から引き離した。そのまま、スコールは兵士に近づく。

 「なんだ? まだ何かあるのか?」
 「さっき出入り禁止だと言ったな。それは、情報の出入りも禁止というわけか。・・・残念だな。エルオーネという有益な情報も・・・」
 「何? エル・・・ちょっと待て!」

 “エルオーネ”の名前に、兵士が食いつく。スコールの機転の勝利だ。

 「その話、詳しく聞かせるんだ! それが誰だかわかっているのか?」
 「まだ確かじゃない。この町で確かめたいことがある。だから、町に入れてくれ」
 「・・・・・・。少しでも何かわかったなら、ホテルに滞在中の司令官様に会え! たんまり礼を、弾んでくれるはずだ」

 こうして、見事にバラムの町に入ったスコールたちなのだが・・・。
 ホテルは占領されていて使えない。作戦を立てようと思っていたのだが、これではどうしようもないではないか。
 そこで思いついたのが、ゼルの実家だ。母の無事な姿を見て、ゼルはホッとした。そして、ゼルの母もゼルが乱暴を働いて中へ入って来たのではない、と知ってホッとしていた。

 「もし騒ぎが起きたら、魔女がこの町を一瞬で焼き尽くすってあの兵士たちは、言っているから」
 「魔女イデアか? ここに来ているのか?」

 F.H.の時と同じだ。そうやって、力で押さえつけ、魔女に対して畏怖の念を与えようとしている・・・。

 「ガルバディア軍の中に、女性がいたのは見たわ。灰色の髪をして、片目を隠した・・・」
 「風神だな。あいつらが来ているのか」
 「まっかしとけ! オレがヤツらを追っ払ってやるぜ!」

 ゼルが拳を握りしめ、力強くそう言った。

 『・・・サイファーも来ているのか?』

 風神がいるのなら、雷神もいるだろう。そして、あの2人がいるのなら、サイファーがいても不思議ではない。

 「とりあえず・・・作戦会議を立てたい。少し、ここを借りても大丈夫ですか?」
 「ああ、そういうことならゼル、あんたの部屋を使わせてあげな」
 「えぇ!? ・・・まあ、しょうがないか」

 ゼルの母親の言葉に、本人は渋々といった様子で、部屋へ案内した。
 中へ入って、驚いた。あのゼルの部屋とは思えないほどの綺麗さだ。

 「あまりいじんなよ。オレは綺麗好きなんだからな」
 「男の部屋に入っても、な〜んにも面白くないけどね・・・。お!?」

 と、部屋内を見回していたアーヴァインが、壁に飾られた銃を見て、目を輝かせた。

 「すっごいじゃん! こんな旧式の銃があるなんて。どうしたの?」
 「ああ、オレのじいさんのものだ。大事な物なんだから、触るなよ!」
 「えぇ〜? いいなぁ・・・すごいなぁ・・・! うらやましいよ」
 「・・・そ、そこまで言うなら、少しくらい触ってもいいぞ」
 「ありがと、ゼル。じゃあ、遠慮なく」

 アーヴァインが銃を手に取り、色々と触りだし・・・引き金に指をかけた瞬間・・・銃身に弾丸が残っていたのか、マシンガンの銃口が小さな爆発音と共に破裂した。

 「あぁ〜!!! お前、何やってんだよっ!!!」
 『・・・やると思った』

 わざと・・・ではないと思いたい。銃のスペシャリストである彼が、こんなミスをするとは思えないのだが・・・。アーヴァインは「ごめん、ごめん」と平謝りだ。大事なゼルの宝物が1つ破損してしまった。

 「もうお前には、オレのものは一切触らせねぇからな!!」
 「ごめんって、ゼル〜!」
 「・・・おい、そんなことより。これからどうするか、話し合うぞ」
 「そんなことって・・・スコール・・・」

 スコールの冷たい言い方に、ゼルは半泣き状態だが、このリーダーが誰かを思いやるような発言をするはずもない。

 「確か、ホテルに司令官がいるって話だったよね。スコール、行ってみる?」
 「・・・ああ」

 アーヴァインの言葉に、スコールはうなずく。ゼルは母親に手を振り、家を出た。
 ホテルの前には、ガルバディア兵が2人立っていた。「エルオーネの情報がある」と言うと、「指揮官殿に指示を仰げ」と言われてしまった。

 「で? その指揮官殿ってのは?」
 「指揮官殿なら、今はパトロール中だ!」
 「指揮官殿なら、賞金の相談にものってくださる。司令官殿とも渡り合える・・・全責任も取って下さる・・・。指揮官殿に相談してみろ!」

 門前払いをされてしまい、スコールたちは顔を見合わせる。

 「指揮官、かぁ・・・」
 「司令官が風神なら、指揮官は・・・」
 「雷神だろうな」

 アーヴァインがつぶやき、ゼルがスコールに視線を向け、スコールがうなずいて言う。
 さて・・・指揮官殿はどこか・・・と捜しているうちに、港で釣りをしていたという情報を得る。しかも、その魚を食べるという。ホテルは司令官が誰も通るな、と言っている・・・ということから、戻るとは考えられない。釣りをして遊んでいるのか!と風神に怒られるだろうし。果たして、どこで魚を食べるのか。
 と、ゼルの実家から、すさまじい匂いの煙がモクモクと出ている。火事か!?と飛び込んでみると、ゼルの母が「ガルバディアの偉い人が来て、魚を焼いて行った」という。

 「・・・さっき、港に犬がいたな」
 「うん? そうだな」
 「この匂いを嗅がせれば、指揮官のもとへ走って行くんじゃないか?」

 ガルバディアの兵士は「エルオーネのニオイを嗅がせる」と言っていたが・・・。
 案の定、スコールたちが近くづくと、犬は匂いに反応し、走って行く。

 「こら! お前たち! 探索犬に何かの匂いを嗅がせたな!」
 「悪ぃな! ワンコを借りるぜ!」

 走って行く犬の後を追いかけると、駅へ向かい・・・列車の中へ入って吠えた。その次の瞬間、列車の中から雷神が飛び出してきた。

 「雷神だ! ・・・追うぞ!」

 雷神の後を追えば、ホテルへ戻って行く。門の前のガルバディア兵がスコールたちを見て、慌てた様子を見せる。

 「あ、君たち! 今、危険だから近寄らない方がいいぞ! 今、ちょうど、司令官が、戻って来た指揮官を・・・」

 言いかけた言葉を遮るように、ホテルのドアが開き、雷神が転がり出てきた。

 「うぉお! イテテテ・・・。ふ、風神。ヒステリーは良くないんだもんよ。ちゃんとパトロールしてたもんよ。サボってた探索犬を叩き起こしてきたもんよ」

 必死に言い訳をしているが、風神は聞く耳持たないらしい。困った様子で、雷神が2人のガルバディア兵に目を向ける。

 「お前たちも俺を助けるもんよ! 一緒に風神をなだめるもんよ!」
 「雷神っ!!!」
 「うぉ!」

 ゼルが叫べば、雷神が驚いてスコールたちを振り返った。

 「お前たち、なんでここにいるもんよ!?」
 「バラムを解放しに来たもんよ! ・・・じゃなかった。バラムを解放しに来たぜ!」
 「サイファー、“スコールたちが来たら、軽〜くひねってやれ!”って言ってたかんな!」

 ガルバディア兵2人を振り返る雷神。顔見知りである彼らに、驚いているようだ。

 「お前たちも俺を助けるもんよ!」

 襲いかかって来た雷神とガルバディア兵をスコールたちは迎え撃つ。だが、やはりSeeDのスコールとゼルには敵わない。アーヴァインが止めの銃撃を加えると、雷神の巨体が倒れた。

 「ヨッシャ! この調子で、司令官もやっつけるぜ!」

 ゼルが気合い十分、ホテルの中へ入れば、やはりそこにいた司令官は風神だった。

 「司令官ってのはお前だな! さっさとバラムから出てけよ!」
 「・・・雷神、敗北?」
 「そうだぜ! さぁ、サイファーと魔女はどこだ!? まとめてやっつけてやる!」
 「落ち着け、ゼル。どうやら、風神1人のようだな」

 イデアとサイファーはこの場にいないようだ。スコールは風神を睨みつける。

 「それでも戦うか?」
 「怒!」
 「ふははは。1人ではなーい!」
 「だ、誰だ!?」

 聞こえてきた大声に、スコールたちはギョッとし・・・ホテルの入り口を振り返れば、雷神が入って来た。

 「大復活だもんよ! さっきより調子良いもんよ! 不死身になった気分だもんよ!」
 「なんでぇ!? 倒したはずじゃねぇのかよ!」

 やられたフリをしていたということか・・・。だが、2人揃ったからといって、負ける気はしない。

 「エルオーネ、何処?」
 「答えるかよ!」

 風神にサンダラの魔法を放ちながら、ゼルが叫ぶ。
 雷神には容赦なく攻撃し、打ちのめした3人だが、女である風神には手を出しにくい。
 と、思ったのはゼルとアーヴァインだけらしい。スコールの連続剣が決まり、風神が膝をついた。

 「お前たち・・・魔女に命令されてんのか?」
 「否!」
 「魔女なんて関係ないもんよ! 俺らの考えでやってるもんよ!」

 スコールの言葉を2人は否定してみせた。自分たちの考えで、バラムを封鎖したというのか・・・。それとも、これはサイファーの計画か。

 「どんな考えだよ・・・それ」
 「俺たちゃサイファー派だもんよ!」
 「・・・それはかまわない。でも、もう手を引けよ。これはガーデン内のケンカとは違う」
 「・・・否」
 「引けないもんよ・・・。サイファー、手先はたくさんいるけど、仲間は俺たちだけだもんよ・・・。ガルバディア兵たちゃ、魔女が怖いからサイファーに従ってるだけだかんな。俺たち、いなくなったらサイファー、仲間いないもんよ・・・」
 「仲間だったら・・・サイファーにバカなことやめさせろよ!」

 ゼルの言う通りだ。スコールも同意し、うなずく。仲間だからこそ、間違った道に進もうとしているサイファーを止めるべきではないのか。

 「俺たちゃ、そんなケチくさい仲間じゃないもんよ! そんなペラペラな仲間じゃないから、サイファーのこと全部認めるもんよ!」
 「気持ちは・・・わかった。ガーデンに戻る気はないんだな?」

 スコールの問いかけに、2人がうなずいた。雷神と風神は、常にサイファーと共にあった。その2人が、サイファーを裏切るとは考えられない。

 「・・・手加減しないからな」
 「スコール、それでいいの?」

 アーヴァインの言葉に、スコールはうなずく。彼らの気持ちは揺るがないだろう。

 「もう話したくないもんよ! なんかつらいもんよ!」
 「泣言禁止!」

 風神が雷神にローキックをお見舞いし、「走!」と告げると、2人は走り去って行った。

 「なんだか・・・悲しいね。同じガーデンの仲間なのにね」
 「誰が敵で誰が味方になるかなんて、流れの中でどうにでもなってしまう。俺たちはそう言われて育ってきたんだ。だから・・・特別なことじゃない」

 アーヴァインのつぶやきに、スコールはそう答えるが、彼自身も疑問に思った。

 『特別なことじゃない・・・ほんとか? だったら、この気持ちは・・・なんだ?』

 さみしい・・・とでも言うのだろうか。そんな殊勝な気持ちは似合わない。スコールは首を横に振った。

 「行くぞ」

 ゼルとアーヴァインに声をかけ、3人はホテルを出て行った。