5.戦う理由

Chapter:3

 「何よ・・・なんなのよ、今の!!」

 ズンズンと廊下を突き進む。一言、シドに文句を言ってやらなきゃ、気が済まない。

 『だいたい、魔女を倒すって・・・イデアは学園長の奥さんなんでしょ!? それを、その人を倒せって命令なわけじゃない。そんなのって・・・そんなのって・・・!』

 チン・・・とエレベーターが1階に着く。考え事をしながら、それに乗り込もうとした瞬間、中から出てきた人物と衝突した。

 「うわっ・・・!」
 「キャッ!」

 弾き飛ばされ、尻もちをつきそうになったが、の腕を相手が掴んでくれた。

 「ありが・・・スコール!」
 「・・・

 たった今、魔女討伐のリーダーとサブリーダーに“勝手に”任命されてしまった2人だ。顔を見合わせ、同時に「ハァ〜・・・」と深いため息をついた。

 「学園長のところに行こうと思ったのか?」
 「うん」
 「任命に反対しようとしてもムダだ。俺たち自身の言い分は通らない」
 「えぇ!? なんで?? 文句があるなら、直接言えって・・・」
 「“職員と生徒は”だろ。誰からも反対意見が出ない限り、俺たちはリーダーとサブリーダーだ」
 「・・・なんて勝手な。ビックリするくらい自己中心的人物」
 「あそこまで、とは思わなかったけどな」

 考えてみれば、リノアの任務に対してもそうだ。ガーデンの事情やスコールたちの事情も考えず、自分勝手に「ティンバー独立まで、スコールたち4人はあなたたちのもの」と言いのけたのだから。

 「・・・スコールは、それでいいの?」
 「意見が通用しないなら、仕方ない。魔女イデアを倒すまでだ」
 「偉いね、スコールは」
 「そんなんじゃない」

 偉いとか、そういうのではない。何を言ってもムダだと、あきらめているだけだ。

 「とりあえず・・・目的を果たすだけだ」
 「・・・うん」

 スコールの言葉に、は小さくうなずいた。
 魔女イデアを倒す・・・シド学園長の妻を・・・。シドは、それでいいのだろうか? だが、それがSeeDの本当の意味なのだ。

***

 ─── パパ、ママ、どこ? あたしをおいて、どこいっちゃったの? さみしいよ・・・あいたいよ・・・パパ、ママ

 フッ・・・と意識が覚醒し、はボンヤリと天井を見つめた。
眠っていたらしい。どこかの家の前で、小さな女の子が泣いていた。両親を求めて泣く少女。一体、何の夢だったのか・・・。

 「喉乾いたなぁ・・・」

 ベッドから起き上がり、備え付けの冷蔵庫から水を取り出し、それを飲み・・・フト、外が暗くなっていることに気がついた。どうやら、ずい分と長い時間眠っていたようだ。

 『みんな、何してるんだろ・・・?』

 スコールたちの様子が気になり、どうしよう・・・と思っていると、部屋のインターホンが鳴った。一般生徒の部屋とは違い、SeeDの部屋はインターホン設備だ。

 「はい?」
 《あ、〜? リノアだけど》
 「リノア? ちょっと待って、今開けるね」

 ドアを開けて、驚いた。目の前に立っていたリノアは、セクシーな白いミニ丈のドレスを着ていたのだ。

 「リノア? どうしたの?? そのカッコ・・・」
 「ね、コンサート行かない? スコールと3人で」
 「・・・コンサート? うん、気晴らしにいいね」
 「やった〜! じゃ、スコールも迎えに行こっ!」

 リノアに腕を引かれ、はスコールの部屋へ向かった。インターホンを鳴らし、出てきたスコールは、やはりリノアのカッコに驚いていた。

 「・・・初めて会った時の服だな」
 「あ! 覚えててくれたんだ?」

 初めて会った時・・・自分たちがリノアに初めて会ったのは、森のフクロウのアジトではなかったか・・・。
 そんな疑問が顔に出ていたらしい、リノアが「あ、そっか」と言葉を続ける。

 「あのね、SeeDの就任パーティで会ってたのよ、わたしたち」
 「へぇ〜・・・!」

 他愛のない会話をしながら、連れて行かれたのはF.H.だ。一体、何が待っているのか。ワクワクしながらはリノアの後をついていく。

 「あ、スコール〜! 〜!」

 駅長の家に続く橋の入り口で、セルフィとアーヴァインが立って待っていた。セルフィがうれしそうに、ピョンピョンと飛び跳ねる。全身で喜びを表す彼女に、は知らず微笑んでいた。

 「よかった〜! スコールも来てくれたんだね!」
 「・・・ああ」
 「えへへ〜。よかった、よかった」

 そう言い残し、セルフィは橋を下りて行った。アーヴァインは残ったまま、チラッとに視線を向けるも、は首をかしげ、セルフィの「〜」という声に、そっちへ歩いて行った。

 「・・・あんた、にはちゃんと言ったのか?」
 「え? いや・・・あのさ、変なことを勘ぐらないでくれよ? 決戦の時は迫ってるってわかってるからさ」
 「震えてないみたいだな」

 魔女狙撃前、緊張のあまり震えていたことを思い出し、スコールがそう言うと、話を聞いていたリノアが吹き出した。

 「忘れてよ、頼むから」

 苦笑を浮かべ、アーヴァインは逃げるように橋の下へ向かった。待っていたセルフィとと一緒に、ミラーパネルに続く橋を下りて行く。

 「スコール、わたしたちも行きましょ」
 「・・・ああ」

 リノアに急かされ、スコールは橋を下りて行き・・・駅長の家の横にあった豪華なステージに目を丸くした。
 先に着いていたも驚いているようだ。「すごーい・・・」とつぶやいている。
 ライトに照らされるステージは幻想的で・・・夜の闇の中、キレイに光っていた。

 「スコール! ! ガーデンの若き指導者の2人の前途を祝して、セルフィが贈ります!」
 「え・・・」
 「では! “セルフィバンド”のステキな演奏で〜す!」

 セルフィの合図で、キスティス、ゼル、アーヴァイン、セルフィが演奏を始めた。

 「こんなの・・・いつの間に・・・?」
 「さっきよ。スコールたちが、リーダーに選ばれてから。すごいよね。ほんの数時間で、ここまで出来るんだもん! F.H.の人たちも、がんばってくれたのよ」
 「・・・みんな」

 がウットリとした表情で4人を見ているのに対し、スコールは驚いているようだ。仲間たちが、自分のためにこんなことをしてくれるとは思わなかった。
 演奏が終わる。とリノアが興奮気味に拍手をした。ステージ上の4人が照れくさそうに笑う。

 「セルフィバンド、すごかった! キレイだったし、演奏もカッコよくてステキだった!!」
 「えへへ〜ありがと」

 セルフィが笑顔でに応え、チラッとスコールに視線を向けた。

 「スコールはんちょは? どうだった?」
 「・・・ああ、ビックリした」
 「それだけ〜?」

 簡潔なスコールの答えに、不服そうな声をあげるセルフィ。そんな2人に仲間たちが笑った。

 「それじゃ・・・後はごゆっくり〜」
 「え?」

 残されたのはスコール、セルフィ、そしてとアーヴァイン。

 「・・・、ちょっといいかな?」
 「え? う、うん・・・」

 そうすると、スコールはセルフィと2人きりになってしまう。一体、どうしたものか・・・とスコールは考えあぐねた。

 「スコールはんちょ、これから大変だね〜。ガーデンの指揮を執ることになっちゃって」
 「・・・プレッシャーかける気か」
 「そんなことないよ〜。でもね、これから色々と本当に大変だと思うんだ〜。きっと、スコールは1人で悩んじゃうんじゃないか、ってみんなで話してたの」
 『みんなで俺のことを?』

 セルフィの言葉に、スコールは目を丸くする。こんな自分のことを、気にかけてくれるとは・・・。

 「あのね・・・あたしたち、みんなスコールはんちょの役に立ちたいな、って思ったの。はんちょが、あたしたちのこと頼ってくれたら、あたしたち、もっともっとがんばれるのに、ってキスティスたちと話してたの」

 小首をかしげ、セルフィが無垢な笑みをスコールに向けた。

 『他人に頼ると・・・いつかつらい思いをするんだ。いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだ。自分を信じてくれてる仲間がいて、信頼できる大人がいて・・・。それはとっても居心地のいい世界だけど、それに慣れると大変なんだ。ある日、居心地のいい世界から引き離されて誰もいなくなって・・・。知ってるか? それはとってもさびしくて・・・それはとってもつらくて・・・。いつかそういう時が来ちゃうんだ。立ち直るの、大変なんだぞ。だったら・・・だったら最初から1人がいい。違うか?』

 「スコールはんちょ、1人で色々考えすぎ〜。あのね、何も難しいことじゃないでしょ? あたしたちを頼ってって言ってるだけだよ?」
 「みんなの気持ちはわかった。でも・・・」
 「ブ〜! “でも”は、いらないの。あのね、せっかくあたしたち、同じ班になって仲間になったんだし、もっとたっくさんお話しした方がいいと思うんだ」
 「どうせ、ただの偶然で同じ班になっただけだろ・・・」
 「もぉ! なんでそんな考え方するかな? あたしたちは、ただ純粋に“スコールの力になりたい。スコールと一緒にがんばりたい”って思ってるんだよ」
 「俺と一緒に・・・」

 一生懸命に言葉を紡ぐセルフィ。その姿、言葉に、スコールの気持ちが揺れる。

 「スコールが覚えておくのは1つだけ! “あたしたちがついてる!”ってこと。難しいことじゃないでしょ」
 「・・・みんなが・・・ついてる・・・」
 「そう。つらい時は、それを思い出して。イライラした時は、あたしたちにグチって。あたしたちは・・・スコールと一緒にがんばるからね!」
 「・・・覚えておく」

 スコールの答えに、セルフィは笑った。だが、今はそれだけでいいと思う。自分は1人じゃない、とわかってもらえたら・・・。

***

 「・・・・・・」
 「・・・・・・」

 アーヴァインとは、黙り込んだまま、ミラーパネルの端に座っていた。遠くからは、何やら賑やかな声が聞こえてくる。それが余計に2人の間に沈黙を生んだ。

 「えーっと・・・」

 アーヴァインがおもむろに声を発する。それだけで、はドキッとした。なぜドキッとするのだろう。そもそも、なぜ自分はここにこうしてアーヴァインと2人きりでいるのだろう?

 「さっきの・・・どうだったかな?」
 「え? あ? う、うん・・・すごいステキだったよ」
 「そっか・・・。セルフィがね、すごく気合い入れてたんだ。スコールとのために、がんばりたいって」
 「そうなんだ・・・ありがとう」

 素直に笑ってそう言った。その笑顔に、今度はアーヴァインがドキッとする。

 「・・・大変だろうけど、がんばってね」
 「うん・・・がんばる」

 ただ、それだけだ。その後は、しばらくステージのライトを眺めて、「そろそろ戻ろっか」となった。
 ガーデンに戻ると、キスティス、ゼル、リノアが待っていた、そのままアーヴァインはゼルに連れて行かれてしまった。

 「ね、どうだったの? 
 「何が?」

 にリノアがウキウキした様子で、目を輝かせて問いかけるも、は首をかしげた。

 「何がって・・・何もなかったの!?」
 「?? う、うん・・・」

 キョトンとしたままうなずくに、キスティスとリノアがハァ〜とため息をついた。

 「せっかくセッティングしてやったのに・・・」
 「意気地なし、ね・・・」

 2人の言葉に、の頭の中は「?」でいっぱいになった。
 対するアーヴァインも、ゼルに「意気地のない奴だな・・・」と呆れられていた。