5.戦う理由
Chapter:2
スコールは仲間たちに続いて広場を出ようとするが、フト座りこんでいる駅長の姿に気づく。スコールが歩み寄ると、チラッと駅長がスコールを見やった。それはどこは、憮然とした表情だった。
「命を・・・助けられたな」
「迷惑でしたか?」
「そうは言わない。しかし、礼も言わない」
「礼なんていりません。ただ・・・」
そこまで言いかけ、言葉に詰まる。何が言いたいのか迷う。しばし逡巡し、再び口を開いた。
「俺たちのこともわかって下さい。ただのバトル好きの人間じゃありません」
「ほう?」
チラッと窺うように、駅長がスコールに視線を向けて来る。こういう話は苦手だ・・・と思いながらも、スコールは必死に言葉を紡ぐ。
「上手く言えませんけど・・・あなたが言うように、話し合って、お互いわかりあって・・・そして戦いの必要がなくなれば、とてもいいことだと思います。でも、自分たちのこと説明するのは、とても時間がかかります。相手に聞く気がなければ尚更です。戦いで一気に決着つけようとする相手と理解し合う・・・これはとても時間がかかるんだと思います。だから駅長、駅長たちがじっくり考えられるように、駅長たちに邪魔が入らないように・・・。俺たちみたいな人間が必要なんだと思います。俺たちみたいなのがどこかで戦っています。時々、思い出して下さい」
こんなに話したのは、スコールの人生上、初めての出来事だと思う。どこまで、スコールの気持ちが駅長に伝わったかは、わからない。だが、伝えたいことは伝えた。スコールは一礼すると、駅長を残し、その場を離れた。
***
自分の前を歩く、頭一つ小さな体。海に濡れたため、全身から水を滴らせながら歩いている。
「」
「ん?」
アーヴァインが名前を呼ぶと、が振り返る。その彼女の肩に、アーヴァインは来ていたコートを脱ぎ、かけてやった。途端、が目を丸くし、コートとアーヴァインを交互に見やる。
「え・・・? え・・・!?」
「寒いかな、と思って」
「で、でも・・・コート濡れちゃうよ?」
「うん、いいんだ」
慌てて脱ごうとするの手を押さえ、アーヴァインはニッコリ微笑む。せめて、これくらいはさせてほしい。
「・・・ありがとう」
照れくさそうに笑う。ここは素直に借りようと思った。誰かにからかわれるかもしれないが。
「大変だったみたいだね」
「うん・・・まあね。でも、アーヴァインたちも大変だったでしょ?」
「そうだね・・・。まあ、色々とあったよ」
ガーデン内でマスター派と学園長派で派閥が出来てしまったこと。バラム・ガーデンのマスターが人間ではなかったこと。魔女イデアの暗殺に、スコールたちSeeD組が利用されたこと。魔女イデアとシドが夫婦だったこと。そして・・・エルオーネのこと。
何より、バラムにガーデンがないことが1番の驚きかもしれない。F.H.からバラム・ガーデンのデッキへ移り、そこからガーデン内へ入った。
「中は変わらないのね」
「それはそうでしょ」
キョロキョロと辺りを見回し、懐かしそうな顔をする。ガーデンを出発して、ティンバーに向かったのは、ほんの数日前のことだというのに、その間に起こった出来事が多すぎて、なんだか遠い昔のことのように感じた。
「・・・結局、ミサイルの発射は止められなかったのよね、私たち」
ボソッとがつぶやく。だが、あの状況では仕方なかっただろう。セルフィたちも逃げなければ、基地の爆発で死んでいた。
だが・・・命と引き換えにでも、ミサイル発射を止めようと思っていたのに、まさか外に追い出されてしまうとは思わなかった。
「そういえば・・・どうしてたちは、あの戦車に?」
「基地に閉じ込められて、どうしようどうしよう〜って慌ててる時に、あれが目に入ったの。もうヤケクソ!って感じで、あの中に入ったんだけど・・・すっごく頑丈でね。大爆発にも耐えたの。だけど・・・爆発の影響でハッチが開かなくなっちゃって・・・」
アハハ〜と笑って言うが、笑い事ではないだろう。アーヴァインはあまりのことに、ポカーンと口を開いてしまった。
だが、すぐにハッと我に返り、の言葉を待つ。
「で・・・中に閉じ込められたまま、ガルバディア軍に拾われて、運ばれて・・・さっきの結末に至ります」
「攻撃してきた理由は?」
「だ・・・だって! どのスイッチ押せばいいのかわからなかったし! 適当に押したら、あんなことになって・・・。しかも、アーヴァインたちは容赦なく攻撃してくるし・・・!」
こっちも大変だったんだからね!と、必死に弁解するにアーヴァインはクスッと笑った。
結果的に、攻撃を与えたおかげでハッチは開いたので、結果オーライだとは思うが。
「うん・・・わかった」
「本当に〜?」
「本当だよ」
そうこうしている間に、学生寮に到着する。の部屋まで2人並んで歩けば、通り過ぎる女生徒たちが、こちらを見てコソコソと内緒話。何かイヤな予感がする。
『・・・まさか、カン違いとかされてないよね?』
アーヴァインのコートを羽織って、アーヴァインと2人並んで歩いている。2人の仲は友達以上?なんてカン違いをされてはたまらない。
『でも・・・イヤじゃない・・・』
ギュッとコートを握りしめ、そんなことを思ったは、カァ〜・・・と顔が熱くなるのを感じた。何を考えているのか・・・。
助かった。もうの部屋の前だ。赤い顔をアーヴァインに見られることもないだろう。
「ありがとう、アーヴァイン。私の部屋、ここだから」
そう言って、羽織っていたコートを、アーヴァインに返す。「それじゃ」と言い、部屋に入ろうとしたに、アーヴァインが「」と声をかける。
「なに?」
出来れば、顔を合わせたくないのだが・・・ここで顔を背けたままでは不自然だ。笑顔を浮かべて振り返った。
「スコールに先に言われちゃったけど・・・おかえり、」
「あ、ありがと・・・」
「また会えて、すごくうれしい」
もう限界だった。顔に熱が集まる。恥ずかしさのあまり、うつむいてしまう。蚊の鳴くような声で、再び「ありがとう」と告げた。
「それじゃ、また」
これ以上はムリ〜!とが思っている中、アーヴァインもまた、いっぱいいっぱいだった。
『あ〜緊張した・・・』
の前から離れ、客室に戻りながら、アーヴァインは手汗びっしょりの自分の手を見つめた。
『でも・・・やれば出来るんじゃないか・・・! ガンバレ! 僕!』
グッ・・・!と拳に力を込め、自分を励ましながら、アーヴァインは足を動かし、の部屋の前を後にした。
まさか、部屋の中でが恥ずかしさのあまり、ベッドで丸くなっているとも知らず。
***
シドのOKはすぐに出たため、F.H.の人たちにすぐに修理に入ってもらった。
スコールは、フト学園祭のステージのことを思い出した。ガーデン内の抗争の時は無事だったが、ガーデンが動き出したり、F.H.に衝突したり・・・とあったので、無事かどうか、気になった。
セルフィが戻って来たので、思い出したが、今まで気にしていなかった。
部屋に戻ったばかりだが、ステージが気になり、校庭へ向かった。そのスコールの視界に、黄色い小さな背中が入った。
「・・・セルフィ」
しゃがみ込み、ステージを見つめていたセルフィに声をかければ、セルフィが振り返った。
「ひどいね〜これ」
「ガーデン、動きだしたりF.H.にぶつかったり・・・。色々あったからな」
「ここでバンドが演奏するの見たかったな。メンバーも目を付けてる人、何人かいたんだよ・・・。あ〜あ」
落ち込んで、ため息をつくセルフィに、スコールはどうしようか・・・と迷う。
「・・・セルフィ」
「ん〜?」
「セルフィは・・・無事に帰って来られただろう? ステージは壊れても、また作り直せばいい。生きて帰って来られたんだ。そのくらい、簡単だろ」
「・・・スコール」
スコールの励ましの声に、セルフィが驚いた顔を見せる。思わず「・・・なんだよ」と心の中でつぶやく。
「スコールみたいな無関心男に、そんなこと言われるなんて、意外〜!」
「・・・悪かったな」
「ううん〜ありがと〜。ちょっと元気出たよ」
ヨイショ・・・と立ち上がり、スコールに微笑みかけた。その笑顔にドキッとする。
「・・・そうだ、セルフィ。F.H.の職人が、ガーデンの修理をしている。その人たちに、ステージの修理を頼んでみたらどうだ?」
「え? いいの〜??」
「どさくさにまぎれてやれば、バレないさ」
「うわぁ〜! スコール、悪いんだぁ!」
そう言いながらも、セルフィはうれしそうだ。そんなセルフィの笑顔が見られただけでも、提案してよかったと思う。
「ありがとう、スコール。本当に、ありがとう!」
「・・・いや」
「あたし、本当にうれしいんだ。ガーデンで、もう一度スコールに会いたい、って思ったから」
「え・・・?」
「ゼルともリノアともアーヴァインとも・・・もう一度、会いたいって思ったんだ!」
「・・・・・・」
続いた言葉に、思わず肩を落としてしまう。少しでも期待した自分がバカみたいではないか。
『・・・うん? 期待?』
期待ってなんだ・・・と葛藤するスコールの耳に、館内放送が聞こえてきた。
《スコール君、スコール・レオンハート君。学園長室まで来て下さい》
シドの声だ。今度は一体何だ・・・?と思わずイヤな予感に襲われ、なかなか足が動かない。そんなスコールの様子に、セルフィが不思議そうに首をかしげた。チョイチョイと上を指差す。
「スコール? 学園長が呼んでるよ?」
「・・・ああ」
「あ、あたしなら大丈夫だよ! 元気出たから! キスティスたちと、ちょっと話し合いもしたいし〜」
「話し合い?」
「いいから、いいから。ほら、早く行った! 行った!」
グイグイとスコールの背中を押すセルフィに「わかったよ」と答え、スコールは学園長室に向かった。
***
「・・・報告は以上です」
「・・・そうですか。さっき、セルフィの報告も受けました。彼女たちも大変だったようですね」
ようやく、伸ばし伸ばしになっていた報告を、シドにすることが出来た。スコールの話を聞き、シドはため息をこぼした。
「そういえば・・・現れたガルバディア兵の目的は、エルオーネを捜すことのようでした。魔女イデアの命令のようです」
「魔女の手先となったガルバディア軍がF.H.に現れて、エルオーネの行方を捜している・・・ということですね」
「エルオーネの捜索の結果がどうでも、街を破壊するという命令も受けていたようです」
「街を焼き払うのは、エルオーネの居場所を失くすためでしょう」
シドの言葉に、スコールは「なるほど」と納得した。
もはや、迷っている時ではない。魔女イデアを倒せ・・・ということだ。エルオーネのためにも。
と、シドが館内放送のスイッチを入れる。何をする気だ?とスコールは首をかしげる。
《こちらは学園長のシドです。みなさんにお知らせがあります。これからのみなさんの生活に関する、重要なお知らせです。ガーデンは移動装置の復旧作業中です。この作業が終わり次第、我々はF.H.を離れ、旅に出ます。この旅は魔女を倒すための旅です。ガーデンは魔女討伐の移動基地となります。ガーデンの運営は今まで通り、私と職員が中心になってやっていきます。しかし、この旅は戦いの旅です。戦いには優秀なリーダーが必要です。私は学園長として、みなさんのリーダーにSeeDのスコール・レオンハートを指名しました。今後、ガーデンの行き先決定や、戦闘時の指揮をとるのはスコールです》
シドが突然任命した“リーダー”というポジションに、スコールは驚愕する。本人に許可も取らず、何を言い出すのか。
《そして、スコールのサポートとして・・・サブリーダーとして、同じくSeeDの・を指名しました》
きっと今頃、もどこかで「ハァ!?」と声をあげていることだろう。合掌・・・。
《みなさん、よろしくお願いします》
まったく悪びれた様子のないシドに、スコールは「こんなやり方、ありかよ・・・」と心の中で文句を言う。
《この決定に意見のある職員、生徒は私に直接お願いします》
『俺との意見はどうなるんだ・・・』
と、シドがクルッと振り返る。その顔は清々しい。いっそ殴ってやりたいほどに。
「スコール、よろしくお願いしますよ。と協力し、魔女討伐の先陣に立って下さい」
「俺との気持ちも考えてくれ!!」
もちろん、そんなことを言っても、それは覆ることなどない。