5.戦う理由
Chapter:1
《みなさん、落ち着いて行動してください。それから、これは大切なことです。ガーデンから出てはいけません。許可が出るまでガーデンから出てはいけません》
これは、確実に何かあったのだろう。アーヴァインが学園長室に入ると、すでにゼルとリノアが来ており、スコールが上から下りてきた。
「なんだったんだ?」
ゼルがスコールに尋ねる。スコールは小さく息を吐き、短く答えた。
「フィッシャーマンズ・ホライズンに上陸する。目的は、この騒ぎの謝罪。街の様子の観察だ」
「フィッシャーマンズには、2階廊下奥のデッキから出れば行けるぜ。ゲートはふさがってるみたいだしな」
ゼルがご丁寧に教えてくれる。“この騒ぎの謝罪”ということは、アーヴァインが眠っている間に、何か問題が起こったということか。
『本当、賑やかな場所だなぁ・・・』
エレベーターに乗り込みながら、アーヴァインは改めてそう思った。
***
風任せ、波任せにしていた結果、ガーデンはフィッシャーマンズ・ホライズンという街に衝突してしまったらしい。
デッキから外に出ると、数人の男がこちらを見ていた。そのうちの1人が、スコールたちに向かって口を開いた。
「察していると思うが、上陸前に忠告をしに来た。我々は戦闘行為が嫌いだ。街の中ではバトル禁止。それがこの街のルールだ」
「はい。俺たちはガーデンの代表で来ました。敵対する意思はありません」
あくまで、ガーデンがぶつかったのは、不慮の事故なのだ。けして、戦いを挑むためではない。
スコールの返答に、男たちがホッとした表情を浮かべ、顔を見合わせた。それから、スコールたちに向き直る。
「・・・ようこそ、フィッシャーマンズ・ホライズンへ! 長くて言いにくいだろうからF.H.と呼んでくれ」
「街の真ん中に、駅長の家があるから、一応、挨拶しといてくれ」
「駅長ってのは、F.H.の長のことね」
先ほどまでの敵対視するような視線はやみ、スコールたちに丁寧に説明してくれる男たち。
「そのつもりで来ました」
「話の分かる人間で助かったぜ」
安心した表情を浮かべた彼らは街の一部の方を向いた。
「ずい分ハデに壊れたなあ」
「申し訳ありません。ガーデンがコントロール不能になって、避けることができませんでした」
「あ、気にすんなよう。ケガ人も出なかったしな。それに俺たちは壊れたものを直すのが大好きなのさ。まあ、ゆっくりしていってくれ」
そう言い残すと、男たちはその場を離れて行った。
とにかく、彼らも言っていた通り、この街の長にあって、謝罪をしなければならない。
リフトに乗って、下まで下りる。橋のような道を通って街の中央を目指す。
その途中、アーヴァインが足を止める。スコールたちがそんな彼に気づいて足を止めた。
「どうした? アーヴァイン」
「あれ・・・マスター・ドドンナだ」
「え?」
マスター・ドドンナと言えば、つい先日、マスター・ノーグから聞かされた名前・・・。アーヴァインの在籍しているガルバディア・ガーデンのマスターだ。
「マスター・ドドンナ・・・ガルバディア・ガーデンのアーヴァイン・キニアスです」
「・・・ガルバディア・ガーデンか・・・。あの後、色々あった。ガルバディア・ガーデンを追われ、築き上げてきたものは全て失い、あちこち彷徨った挙句、この街の人に助けられた。仕切り直せばいいと、この街の人は私のような何もない男に声をかけ、この街に置いてくれている。私は・・・私は・・・今までの自分が、恥ずかしぃいー!!」
顔を覆い、泣き出してしまったドドンナの姿に、スコールたちは何も言えなくなってしまった。騙してくれたことを、恨みをこめて責めてやろうと思っていたのに・・・。
ドドンナのもとを離れ、街の中央・・・ミラーパネルが一面に設置された中央に位置する、駅長の家を訪ねる。ドアをノックすると「入りなさい」と答えがあった。
中に入ると、2人の老人が座っていた。スコールたちは頭を下げ、家の中に入る。
「座りなさい」
うなずき、スコールとアーヴァインは中腰の姿勢で、ゼルとリノアは床に座り込んだ。
「さっそくだが・・・いつ出て行くのかね?」
単刀直入な駅長の言葉に、スコールたちは目を丸くする。あまりにもつっけんどんな物言いに、何かの冗談かと思ったが、2人の表情は真剣で、それ以上の言葉もない。
「・・・ガーデンが動き出せば、すぐにでも出て行きます」
「メドはたっているのかね?」
「・・・いいえ。ガーデンがどういう仕組みで動いているのかもわかってません」
「この街から技術者を出そう。彼らなら修理や整備が出来るはずだ。これでどうかね?」
どうかね?と言われても、スコールたちには決めかねる。
「君たちに決定権がないのなら、相談してきたまえ」
「あの・・・どうしてそんなに追い出したがるんですか?」
リノアが眉根を寄せて尋ねる。確かに、迷惑はかけたが悪気があったわけではない。不慮の事故だ。そこまで嫌悪感を顕にされては、こちらとしても謝罪する気がなくなってしまう。
「君たちは武装集団だ。暴力による解決が基本だろう? 我々の主義には合わないのだ」
「私たちは信じているの。話し合いで解決できないことはないってね。お互いに理解し合えれば戦いなんて必要ないでしょう?」
駅長の妻が、穏やかに平和すぎる発言をした。
『・・・まったく正しい。眠くなるくらい正しい』
だが、それは綺麗事でしかない。
「暴力は暴力を呼ぶ。だから君たちには、ここにいて欲しくないのだ」
駅長のハッキリとした拒絶の言葉に、スコールは立ち上がり、「ガーデンへ戻るぞ」と告げ、駅長の家を出た。
「スコール! なんとか言ってやらないのかよ!」
「どこでも歓迎されるってわけにはいかないだろ?」
確かにそうかもしれない・・・だが、言われっぱなしは癪に障る。
と、スコールたちがガーデンへ戻ろうとすると、橋の向こうから、1人の男が血相変えて走って来た。
「ガッガッガッガッ・・・ガルバディア兵が!!」
男の叫びに、駅長と妻が家から飛び出してきた。
「待ちなさい!」
立ち去ろうとしたスコールたちを、駅長の妻が呼び止める。先ほどの穏やかな口調が、ウソのような強い声で。
「ここに来るガルバディア軍は、あんたたちを狙ってるんだろ?」
そうと決まったわけではないが・・・心当たりはある。ガルバディアはイデアの支配下にある。その魔女が、D地区収容所を脱走したスコールたちを狙っているのは、わかっているからだ。
「あんたたち、責任を取りなさい!」
その強い口調に、思わず4人はムッとする。なぜ、そんな言われ方をされないといけないのか・・・。
「フロー、彼らに任せてはいけない。バトル抜きでは何もできまい」
つまり、話し合いは自分たちには無理だと・・・。それも気に入らない。
「話し合えばわかるさ」
そう言って、橋を渡って行く駅長の背中を見送る。「そうだといいな」と思いながら。
***
とは言ったものの・・・ガルバディア軍の目的も気になる。今では完全にスコールたちはガルバディアの敵となってしまったからだ。
フラフラと歩いて行く駅長の後をついて行けば、広場のような場所にいたガルバディア兵のもとへ歩いて寄って行く。スコールたちは、それを少し離れた所から窺った。
「・・・だから、何度も言っただろう? この街にはエルオーネなんて娘はいないんだ」
しばらく様子を見ていたスコールの耳に、声を荒げる駅長の声が聞こえてきた。
“エルオーネ”・・・その名前に4人は顔を見合わせる。
「街に火をつけるぞ」
「ほ、本当だ! エルオーネなんて知らん!」
「娘がいてもいなくても街には火をつける。イデア様の命令だからな」
「お、お願いだ、やめてくれ!」
すがりつくように、足にしがみついた駅長の体を、ガルバディア兵が掴みあげる。
「あんたから行くか?」
グッ・・・と首をしめられ、駅長が苦しそうな表情を浮かべる。
「スコール! あのままじゃ・・・!」
「ああ、行こう」
リノアの悲痛な声に、スコールが立ちあがる。他の3人もそれに続き、駅長のもとへ走った。
「なんだお前らは?」
「SeeDだ」
ハッキリとそう答えると、目の前のガルバディア兵がギョッとした。
「おーい! SeeDがいやがるぞ! アイアン・クラッドを呼べ!」
ガルバディア兵が声をあげる。その声に反応して、青い軍服のガルバディア兵がやって来た。
「この街のやり方に合わないけれど、俺たち、この方法しか知りません」
解放された駅長にそう言い、その場から彼を逃がすと、ガンブレードを構えた。
スコールの斬撃、ゼルのパンチ、リノアのブラスターエッジの軌跡、アーヴァインの銃撃・・・それらにより、ガルバディア兵は倒れたが、その4人の耳に何かの機械音が聞こえてきた。
「何か来る?」
「デカイのが来やがったぜ!」
やって来たのは、青い戦車。だが、どこか傷だらけだ。中古の戦車なのだろうか?
「行くぞ! 一気に叩きつぶす!」
だが、機械に武器は通りにくい。魔法への攻撃へ瞬時に切り替える。
サンダラの魔法と、ケツァクウァトルの雷。機械には雷の魔法が有効なことを、スコールたちは知っている。
浴びせられた雷に、戦車からプスン・・・と煙が上がる。と、前方の砲台が回転し、そこからガトリングガンが放たれる。慌てて4人は身を交わす。ビームキャノンも飛んでくるので、ウカウカしていられない。
再び雷の魔法を連続で浴びせると、プスン・・・プスン・・・と音を立て、戦車が後退していき・・・海の中に下りた。
「・・・倒した、のか?」
「たぶん・・・」
ゼルの問いかけに、スコールが自信なさげに答える。
「ケホッ・・・ケホッ・・・ちょっと・・・ひど〜い!」
だが、戦車から誰かが出て来る。そして、聞き覚えのある声。
「スコール!!」
「!!」
海から這いあがってきた3人が、笑顔を見せ・・・黄色のワンピースを着た少女が、スコールの名を呼んだ。
そう、そこにいたのはミサイル基地へ向かったセルフィ、、キスティスの3人だったのだ。
『無事で良かった・・・。良かった・・・本当に』
3人の笑顔に、スコールがホッとした表情を浮かべる。心の底から安堵していた。
もちろん、それはゼルたち3人も一緒だ。
「おかえり、セルフィ。。キスティス。また会えて・・・良かった」
「ただいま! スコール。それで、ガーデンは!?」
「ガーデンは無事だ」
「やった〜!!」
セルフィたち3人が顔を見合わせ、ハイタッチをして喜んだ。
「お前たちは・・・どうしてこんなことに?」
「スコール、報告は後にしようぜ」
ゼルの言葉に、それもそうだな・・・と思う。
話をする機会はいくらでもある。無事に帰って来てくれたのだから・・・。