4.大切なこと

Chapter:7

 シドから預かったカギを使い、エレベーターのロックを外して地下へ向かう。
 ところが、途中で機体がガクンと揺れ、電気が消える。「キャッ!」とリノアの悲鳴があがった直後、非常電気がついた。
 スコールがエレベーターのボタンを押すが、反応しない。エレベーターの機体は、止まってしまった。

 「どっかに出るとこ、あるんじゃない?」

 リノアの言う通り、下から外に出られる非常口があった。そこから出て、ハシゴを使って下りて行く。と、アーヴァインがハシゴを下りかけている途中で、エレベーターが下りてきた。

 「アーヴァイン! 早く! 早く!」

 ゼルが声をあげる。アーヴァインが横道へ下りた瞬間、エレベーターが落ちてきた。
 危なかった・・・と息をつく一同。あと少し遅かったら、確実にエレベーターの下敷きになっていただろう。
 だが、それより気になるのは、このニオイだ。鼻を突くニオイ・・・。

 「オイル層だな。ここは炎に弱い敵が多そうだ」

 イフリートの力や、スコールとアーヴァインの火器が役に立ちそうだ。
 道を進んで行くと、下に繋がっているらしき大きな扉が見えた。スコールがそれを開けようとすると、ゼルが「手伝うぜ」と声をかけた。
 2人でドアを開け、下へ下りる。奥の部屋には大きなハンドル。これを回すとどこかの道が開くのだろう。再びゼルとスコールでそれを回した。

 「ちょっと、アーヴァインも少しは手伝いなさいよね」
 「だって、僕は力仕事担当じゃないし〜」

 両手を広げてあっけらかんと告げるアーヴァインに、リノアは「もう!」とため息をついた。
 ハンドルを操作した後、元の部屋に戻ると、新たにハシゴが出来ていた。それを下りると大きな円柱型の柱が立っていた。上まで続いているようである。そして、その側面にもハシゴがついていた。

 「またハシゴかよ・・・」
 「これってどこに繋がってるの?」

 4人がハシゴの先をみると、小さなガラス張りの部屋へ続いていた。スコールがそれに手をかけると、少しグラついていた。思わず眉間に皺が寄る。4人でこれを上るのは、危険な気がした。

 「スコール、どうする?」
 「・・・俺が様子を見て来る。3人はここで待機していてくれ」

 スコールがハシゴを上っていくのを、ゼルたち3人は見守っていたが、何かミシミシ・・・とイヤな音が聞こえてきた。
 「あ・・・!」と3人が声をあげた時には、ハシゴが倒れ、スコールの体はガラスを破り、小部屋の中に無事着地していた。
 フゥ・・・と息を吐き、一応は目的の場所へついたと安心した。そこにあったスイッチを押すと、ゼルたちの傍にあったシャッターが開いた。
 さて・・・ここからどうやって3人と合流するか・・・と悩むが、傾いたハシゴを使うしかない。
 細心の注意を払い、ハシゴを下りて3人のもとへ。無事に戻って来たスコールに、3人も安心したようだ。

 「おい、スコール! 大丈夫か!?」
 「・・・ああ」
 「でも、ちょっとピンチだって思ったんじゃない〜?」
 「・・・危なかった・・・ような気がする。でも、そんなことはどうでもいい。今はミサイルからこのガーデンを守らなければならないんだ。喜ぶのはその後にしてくれ」

 あくまでクールなスコールに、3人は顔を見合わせて苦笑した。
 再びハシゴを下りていき、レバーを動かして先の扉を開くと、4人の目の前に巨大なウミウシのようなモンスターが姿を見せた。
 慌ててスコールたちは武器を構え、オイルシッパーというモンスターを倒すと、先へ進んだ。
 先へ進めば、またハシゴ。どこまで地下へ潜るのだろう。だが、ようやくゴールが見えてきた。行き止まり。そして、その前には何かの操作盤。

 「MD層最深部・・・」
 「どどどど、どうする!? わけわかんねえぜ」
 「見ててもしょうがないね」

 ゼルとリノアはう〜ん・・・と唸る。アーヴァインも両手をあげて、降参ポーズだ。見たことのない操作盤を前にして、4人は顔を突き合せる。

 『シド学園長も知らないんだ。俺たちにわかるはずないよな』

 スコールが目の前の操作盤をいじるが、反応しない。

 「いいのかよ、こんなやり方で・・・」
 「じゃあ、どうすればいいのか・・・。 ?」
 「!!?」

 突然、辺りが明るくなる。目の前の謎の物体が光を放ちながら動き出す。

 「な・・・なんだい、こりゃ・・・!? 一体、何が??」

 キョロキョロと辺りを見回し、アーヴァインが声をあげるが、何が起こっているのかなんて、誰にもわからない。
 と、スコールたちのいる部分が上昇していく。あ然とする一同の前に突然、光があふれた。

 「ここは・・・?」
 「スコール・・・??」

 目の前に広がるのは青空。そして、聞こえてきた声はシドのもの。尻もちをついたような格好で、こちらを見上げていた。

 「ここは・・・学園長室・・・?」
 「ええ、突然床が光って、これがせり上がってきたのですよ」

 一体、何が起こっているのか混乱する中、アーヴァインが「あれ!」と声をあげた。
 外を見て、愕然とした。ミサイルがこちらへ向かってきていたのだ。

 「だめっ!!」
 「これまでか・・・!!」

 ギュッと目を閉じる。向かってきていたミサイルが、一度空へ上がり・・・雨のように降り注いだ。
 爆風がガーデンを襲う・・・が、爆発はしていない。目の前で、すさまじい爆発が起こった。

 「動いてる!?」

 外の景色を見ると、爆風に押し流されるように、動いている。

 「そうですか・・・こういうことですか・・・」

 シドが納得したようにうなずく。その周りでは、ゼルとアーヴァイン、リノアが安堵の笑みを浮かべている。ゼルは窓の外を眺め、目をまん丸くしていた。

 「マジかよ! スゲ〜!」
 「いや〜・・・ビックリした・・・」
 「ウソみたい。あははっ!」

 仲間たちが安堵の声をあげ、笑みがこぼれる。スコールもホッと息を吐いた。浮かれるゼルたちを見やり、シドがつぶやく。

 「外が気になりますね・・・」
 「よっし! スコール、見に行こうぜ!」

 ゼルの言葉に、スコールはうなずく。床の突き出た部分がエレベーターになっているようだ。4人はそれに乗り、下へ向かうと、正常に動いたエレベーターに乗り、2階のデッキを目指した。

***

 デッキへ出た瞬間、リノアが真っ先に声をあげた。変わったデザインの建物だと思ったが、下部の部分がクルクルと回っており、ガーデンが動くと同時に回っているようである。
 青空には白い雲と、白い鳥。先ほどまでの、ミサイルの脅威がウソのようだ。

 「すごいなぁ〜・・・」

 アーヴァインがぽつりとつぶやく。彼の在籍する、ガルバディア・ガーデンにも同じ機能があるのだろうか?
 今のところ、異常は見当たらない。と、デッキから戻ったスコールたちのもとへ、シュウが駆け寄って来た。

 「スコール! 学園長が呼んでるわ! 大至急戻って!!」

 シュウの指示に、慌ててシドのもとへ戻れば、操作盤の前で、シドがアタフタしていた。スコールの姿に気がつくと、ホッとした表情を浮かべた。

 「スコール! 操作がきかない、というかわからないんですよ! このままでは、バラムの町に突っ込んでしまいます!」

 シドの言葉にギョッとする。そんなことになったら、大惨事だ。

 「じょ、じょ、冗談じゃないぜ!!」
 「スコール、なんとか出来ませんか?」

 慌てるシドに、スコールは頭を抱える。それはこっちのセリフである。

 『なんで俺が・・・わかるわけないだろ』

 そう思いながらも、やけくそに操作盤をいじると、ガーデンが大きく揺れた。

 「うわっ!! 今度はなんだ!!」
 「やりました! ガーデンが曲がっています」

 もう少しでバラムの町へ突っ込む・・・という寸前で、ガーデンが軌道修正したのだ。
 ホッと息を吐く一同だが、まだ問題が・・・。アーヴァインが窓の外を指差す。

 「今度は海だよ〜!」
 「みなさん! 何かに掴まってください!!!」

 館内放送の直後、海へと入って行ったガーデンが再び大きな衝撃に見舞われた。
 とりあえずの危機は回避できた・・・今度こそ、安堵のため息をこぼす一同。

 「ふぅ・・・。みなさん、ご苦労様でした。これで私たちは助かったと解釈してもいいでしょう」
 「・・・ガーデンはどこに向かうんだろう」
 「操縦の仕方を理解できないうちは、波任せ風任せ・・・ですか。なんだか時間だけはたっぷりありそうです。今後のことは、ゆっくり考えましょうか」

 と、シドが辺りをキョロキョロと見回す。

 「あははは。私の部屋、なくなっちゃいましたね」
 「あ・・・」

 確かに、この操作室が出来てしまったせいで、学園長室が無くなってしまった。
 困ったように頭を掻くシドに、スコール以外の4人が笑った。

***

 ガーデンの客室へ通されたアーヴァインは、備え付けのベッドに寝転がり、染み一つない天井を見つめた。
 自身の在籍しているガルバディア・ガーデンと雰囲気がまったく違う。あのガーデンしか知らなかったアーヴァインにしてみれば、驚きの事実だ。
 廊下での私語、私服の禁止、運動着とヘッドギア・・・バラム・ガーデンとガルバディア・ガーデンの違いはいくつもあった。
 このガーデンでは育った。彼女の“家”は、このバラム・ガーデンだ。

 『なんて報告すれば、いいのかな?』

 はセルフィとキスティスと共に、ガルバディアのミサイル基地へ向かったままだ。彼女たちがバラムに戻って来た時、ガーデンはそこにない。彼女たちは、どう思うだろうか?
 いや、それよりも・・・彼女たちは無事なのだろうか?
 苦労して、魔女との戦いの後に救出した彼女だが、仮に命を落としていたとしたら、アーヴァインもタダではすまないだろう。
 彼に“の保護を命じた人物”は、それほど強大な存在なのだ。

 『ガルバディアのミサイル基地へ行って、消息不明・・・』

 そんな報告など、出来るわけがない。なぜそんな所へ行かせたのか!と怒られるに決まっている。
 ハァ〜・・・とため息をつき、起き上がると、ベッドに腰かけた。

 「・・・、無事だよね?」

 ミサイル基地へ行く前・・・D地区収容所のアームで見た彼女の顔が忘れられない。
 気がつくと、視線は彼女を追っていた。スコールたちより1年先輩のSeeD。キスティスと同い年の、美しい少女だ。
 腰まで届く長い髪と、澄んだ赤紫の瞳・・・。“あの頃”と何も変わらない勝気な性格。
 の顔を追い払うように、頭を振る。そうだ、気分転換にシャワーでも浴びよう。
 立ちあがった時だ。ピンポーンと、来客を知らせるチャイムが鳴った。

 「はい〜?」

 ガルバディアから来た自分に客がいるとすれば、スコールかゼルかリノアのはずだ。ドアを開ければ、やはりそこに立っていたのはスコールだった。目線は下げたまま、「・・・今、いいか?」と聞いてきた。

 「うん、いいよ。シャワー浴びて、さっぱりしようと思ってたとこだよ」
 「・・・邪魔したか?」
 「大丈夫だって。何かあった?」
 「・・・さっき、言い過ぎたかと思って」

 スコールのつぶやきに、アーヴァインは目を丸くする。ミサイル基地へ向かった3人を心配していたアーヴァインに対して、スコールが冷たく返したことを謝っているのだろう。

 「だけど・・・あの時は、とにかくガーデンの無事を確保するのが最優先で・・・」
 「うん・・・うん、わかってるよ、スコール」

 スコールの気持ちも、考えも、ちゃんとわかっている。

 「あの時は、僕も大人げなかったっていうか・・・冷静じゃなかったから・・・」
 「・・・あんた、のこと好きなのか?」

 スコールの問いかけに、アーヴァインは呆気に取られ、口をポカーン・・・と開けてしまった。そんな彼の態度に、スコールが慌てたように「すまない・・・」と謝る。

 「いや、大丈夫だよ。・・・うん。そうだね。大事な女の子だよ」
 「・・・あんたたち、会ってまだ日も浅いだろ? それなのに・・・」
 「気持ちが変化するのに、時間は関係ないんだよ」

 そんなことを言って、誤魔化した。今はまだ、言うことが出来ないけれど・・・。
 だけど、いつか言える時が来る。そう信じている。