4.大切なこと

Chapter:6

 軍用車でティンバーまで向かい、そこから再開していたバラム行きの大陸横断鉄道に乗り、ようやくスコールたちはバラム・ガーデンへと戻って来ていた。
 セルフィたちと別れて1日。ドキドキしながらガーデンに向かい、何度も見たガーデン・・・何一つ変わらないその姿にホッとした。

 「やったぜ! 無事だぜ!」

 ゼルがバラム・ガーデンの姿に喜びの声をあげた。

 『セルフィたち、うまくやってくれたんだな。いや・・・ミサイルはこれからかも』

 そう思うと油断はできない。早いところ、避難をしなければ・・・。

 「早くシド学園長に知らせよう」

 スコールの言葉に、ゼルたちがうなずく。
 だが・・・様子がおかしいと思ったのは、その直後。正門をくぐると、ガーデンの生徒たちが走り回り、教師が「シド学園長を探し出せ!」と叫んでいるのだ。

 「スコール・・・これって・・・」

 『聞くなよ、俺に・・・』

 ゼルの困惑した表情、リノアの不安そうな表情、アーヴァインの困ったような表情・・・それら全てがスコールに向けられる。
 何が起こっているのかわからないが、とにかくここにミサイルが飛んできているということを報告しなければ。ガーデンの中へ向かう。
 と、カードリーダー前まで来ると、教師がスコールの姿に気づいた。

 「マスター派か? 学園長派か?」

 問われた言葉に、頭の中が「?」でいっぱいになる。どういう意味なのか、何があったのか・・・。今はそんなことを言っている場合ではないというのに・・・。
 とりあえず、「マスターのノーグ様に忠誠を誓うか!?」と聞かれたので「はい」と答えることにした。
 学園長を探し出せ・・・と言っているからには、シド学園長はいつもの学園長室にいないのだろう。この広いガーデンを探し回るのは至難の業だ。

 「よっし! 二手に分かれようぜ!」

 ゼルの提案に、スコールはめずらしく同意した。
 バラム・ガーデンに詳しいスコールとゼルに分かれ、アーヴァインがスコールと、リノアがゼルと行くことになった。見つかっても、見つからなくても、30分後にエレベーター前に、と約束する。
 あまり悠長にしていられない。ミサイルが飛んでくるかもしれないのだから。

 「・・・セルフィたち、大丈夫かな? うまくやれたのかな?」

 心配そうにつぶやくアーヴァインだが、そんなことはこっちが聞きたい。

 「に・・・もう一度会えるかな・・・」
 「あんた、遠回しに俺を責めてるのか? ミサイル基地に3人を行かせたことを」
 「そうじゃないよ・・・! がセルフィと行くことも、予想できてたし・・・」

 だけど・・・とアーヴァインはうつむく。

 「スコールがまったく気にしてないように見えるから・・・」
 「今は心配してても仕方ないだろう。俺たちは俺たちに出来ることをするまでだ」
 「ドライだよね〜スコール班長は」
 「・・・いちいち突っかかってくるな、あんた」

 ケンカや言い合いなどしている場合ではないと、お互いにわかってるのだが・・・何やらアーヴァインの物言いが気になる。

 「俺だってセルフィの心配はしている」
 「だったら、もう少しさ・・・心配してるそぶりを・・・」
 「何度も言わせるな。心配していたって、ガーデンが救えるわけじゃない。だいたい、そんなにが心配だったら、一緒に行けばよかっただろ」
 「敵地へ潜入するのに、4人でゾロゾロ行くわけにもいかないだろ?」
 「だったら、もう過ぎたことをウジウジ言うな。俺だって、セルフィは心配だ。これでいいだろ?」
 「なんで、そんな言い方するかな〜?」

 イライラしている2人の言い合いは止まらない。そうこうしている間にも、マスター派の生徒たちによる学園長探しが行われている。
 不穏な空気が流れる。仲間割れなどしている場合ではないのに、アーヴァインはスコールの態度が気に入らないし、スコールはアーヴァインの物言いが気に入らない。
 スコールが反論しようと、口を開きかけた時だった。

 「スコール! 帰ってきたか!」

 そんな2人の言い合いを止めたのは、意外な人物・・・雷神だった。風神と2人、スコールたちに寄って来た。

 「どうなってんだ、これ」
 「最初はSeeD狩りとか言ってたもんよ! 今はガーデンが学園長派とマスター派に分かれて戦ってるもんよ!」
 「原因不明困惑」

 風神の、簡潔すぎる言葉に、アーヴァインが目を丸くしているが、今は放っておこう。

 「風紀委員としちゃ泣きたくなるぜよ。今までの苦労がムダムダだかんな!」
 「SeeD狩りってなんだ!? シド学園長は無事なのか?」
 「オレたちゃなんも知らねえもんよ」
 「俺たち、シド学園長に報告することがあるんだ。ここは危険だ。ミサイルが飛んでくるかもしれない」
 「さっさと逃げ出すもんよ!」

 スコールの情報に、雷神が慌ててそう言うと、横に立っていた風神が、見事なローキックをお見舞いした。途端、雷神が悲鳴をあげ、ピョンピョンと飛び跳ねる。

 「お、おう! 1人で逃げちゃ卑怯だもんよ! みんなに知らせるかんな! 戦ってる場合じゃないもんよ!」
 「俺たちはシド学園長を探す」
 「注意!」
 「各施設ともに、戦闘が激しいもんよ! マスター派のSeeD狩りにも、気をつけるもんよ!」
 「そういえば、君たちは・・・学園長派?」
 「オレたちゃどっちでもないもんよ! オレたちゃサイファー派だもんよ!」

 アーヴァインの問いかけに、雷神が胸を張って答えるが・・・。

 『・・・サイファー、魔女派だぞ。おまえたち、いいのか?』

 つまり、雷神たちも魔女派になるということか・・・。
 そんなことを思うスコールの前を、2人は避難命令を出しながら去って行った。

 「・・・シド学園長を探すぞ」

 アーヴァインの方を見ず、スコールは短くそう言った。
 先ほどまでの不穏な空気は、未だ払拭されず・・・シドを探しながらも、2人は無言のままだった。

***

 結局、ガーデンの施設中を探したが、シドは見つけることができなかった。
 その最中、スコールは気になった学園祭のステージを見に行った。セルフィがここでステージをやりたい、と言っていたのをスコールは知っている。ステージの無事な姿にホッと胸を撫で下ろした。
 約束の時間になったので、エレベーター前に向かうと、そこに見覚えのある人物の姿を発見した。

 『シュウ先輩・・・?』

 エレベーターで2階へ向かったシュウ。なぜか気になった。彼女はシド学園長に近い位置にいたはずだ。もしかしたら、シドの居場所を知っているかもしれない。追いかけようとすると、ゼルとリノアが合流した。そのまま、エレベーターで2階へ向かう。
 2階の廊下でシュウの姿を見つけ、声をかけると、彼女は振り返り、キッと睨みつけてきた。

 「あなたたち、どっち!?」
 「どっちでもない。シド学園長に報告がある。学園長はどこだ?」
 「私が伝えるわ。ここで言って」
 「ここを狙ってガルバディアのミサイルが飛んでくるかもしれない」
 「ここに!?」

 さすがのシュウも、それには驚愕の声をあげた。

 「わかったわ。学園長に伝えましょう」
 「学園長はどこだ?」
 「学園長室よ。逃げたと見せて、どこにも行っていない。王道よね。先に行くわ。すぐに来て」

 そう言うと、シュウは駆け足でエレベーターの方へ戻って行った。
 その姿を見送り、スコールたちはお互いの顔を見合わせる。シドには報告が出来た。

 「とりあえず、これでどうにかなるかな?」
 「この騒ぎを早く収めないとな! ガーデン生とSeeDが戦うなんて、見たくねぇよ!」

 リノアとゼルがため息をつく。2人もガーデン内の騒動をいたるところで見てきたのだろう。

 「・・・とにかく、今はシド学園長に報告するのが先だ。行くぞ」

 スコールの言葉に3人はうなずき、エレベーターへ戻った。

***

 エレベーターで3階へ上がると、ドアの前にシュウが立っていた。スコールたちの姿を見ると「ああ、来たか」と声をかけてくる。

 「学園長が詳しい話を聞きたいって。私は、みんなにガーデンから避難するように伝えてくる」
 「了解」

 シュウがエレベーターで下りて行き、スコールたちは学園長室へ入った。

 「スコール班、戻りました」

 スコールとゼルがSeeDの敬礼をする。出発したときと、半分ほど面子が違うが、シドはいつもの温和な笑みで4人をみつめた。リノアとアーヴァインのことは、気にしていないようだ。あれこれ聞かれず、助かった。

 「ミサイルのことは聞きました。避難命令を流そうと思ったのですが、館内放送がダメになってるみたいです」
 「シュウ先輩と雷神風神がみんなに伝えに行ってます」
 「それでは、君たちもみんなに知らせつつ、避難してください」

 シドのその言葉に、スコールは眉根を寄せる。早くこの場所を離れてほしいというように見える。

 「色々報告が・・・」
 「無事再会した時に報告してもらいましょう。いいですね?」
 「・・・・・・」
 「気に入りませんか?」

 なんだか、中途半端なんだよな・・・とスコールは思う。胸がモヤモヤする。このまま避難しては、中途半端で終わってしまう。

 「学園長はどうするんですか?」
 「私はここで最後までがんばりますよ。ここは私の家みたいなものですからね」

 ハハハ・・・と笑うシドに、ゼルたち3人が目を丸くする。

 「まさかガーデンと一緒に!」
 「そりゃ、マズイんじゃな〜い?」
 「ダメよ、シドさん! ガーデンはまた作ればいいけど、シドさんは1人なのよ!」

 声をあげた3人に、シドは苦笑を浮かべた。笑みを浮かべたまま、シドはゆっくりと首を横に振った。

 「勘違いしてはいけません。試してみたいことがあるのです。このガーデンを守ることができるかもしれません」

 そう言って、学園長室を出て行こうとしたシドは、足をもつらせ、床に手をついてしまう。ゼルとリノアが慌ててシドに歩み寄る。

 『こんなんでどうするんだよ』

 スコールはそんなシドの姿に内心ため息をつく。どうにかしたい気持ちはわかるが、それに体がついていっていない。そもそも、シドは何をするつもりなのか・・・。そして、自分はどうするべきなのか・・・。

 「あはは・・・年はとりたくないですねえ」

 その笑みが胸に痛くて・・・スコールはまっすぐ顔をあげた。

 「何をするつもりなんですか? それ、俺にやらせて下さい」
 「なぜ、そうしたいのです?」

 予想外なシドの問いかけ。まさか、そんなことを聞かれるとは思わなかった。

 『・・・なぜ? なんだか知らないけど、学園長が失敗しそうだからか? それだけか? 避難命令なんてつまらないから? ここは大切な場所だから? ・・・理由は・・・たくさんある。方法があるなら試してみたいからか? ここは俺にとっても家だから? ・・・どれも、きっと俺の気持ちだ。・・・わかってもらうの、面倒だな』

 今の全てを言っても、シドには理解してもらえないかもしれない・・・。

 「俺の気持ちなんて、関係ないと思います」

 だから、ハッキリとそう告げた。それだけを。

 「キスティスの報告通りですね。自分の考えや気持ちを整理したり、伝えたりするのは苦手のようですね」
 「・・・キスティス?」

 今はこの場にいない彼女の名前に、スコールは眉根を寄せる。一体、彼女はシドに何を言ったというのか・・・。いや、今はそれよりも。

 「学園長! どこへ行って何をすればいいんですか!」

 なかなか目的を言わないシドに、ヤキモキしてきた。語調が荒くなる。

 「この建物はもともとシェルターでした。それを改造したのが、今のガーデンです」

 そう言うと、シドはスコールに1本のカギを渡してきた。

 「それはエレベーターのロックを解除するカギです。ロックを解除するとMD層へ行くことができます。MD層の最も深い所には、何かの制御装置があるらしいのです。シェルター時代の装置らしいのですが、私は一度も見たことがないのです。もちろん、どんな機能なのかも知りません。ただ、シェルター時代の装置ですから、ミサイルにも効果があるかもしれません。それに賭けてみようというわけです」

 なるほど・・・アテにならない話だが、何もしないよりかはマシだろう。

 「わかりました。MD層最深部へ行って、その未確認の装置を起動します」
 「お願いしますよ、スコール」

 敬礼をし、任務を受けたスコールたちは、学園長室を出た。

 その頃、ミサイル基地から発射されたミサイルが、バラム・ガーデンへと向かっていた・・・。