4.大切なこと
Chapter:5
「ねぇねぇ〜2人で何してたのぉ〜?」
「だ・・・だから、何でもないって!!」
「でも、顔が赤いよ?」
「もう! セルフィもリノアもやめてよね!」
ガルバディアの軍用車に乗り込んだスコールたち。男子組と女子組に分かれて乗ったのだが、それが間違いだったようだ。
D地区収容所は潜行警報が出ており、スコールはもう少しで収容所と一緒に地中に巻き込まれるところだったという。そして、アームがゆっくり動いていたのも、そのためだったのだ。
見事、脱出を果たした7人は、軍用車を奪ってバラム・ガーデンへ戻ろうとしていたのだが・・・先ほどのとアーヴァインのただならぬ雰囲気に、お年頃の少女2人が興味を持ってしまったのだ。
ちなみに、キスティスもハンドルを握りながら、しっかり聞き耳を立てている。
「本当に、何でもないのよ!」
「アヤシー・・・」
「あやしくないっ!!」
顔を真っ赤に染めて、否定するだったが、それが逆にあやしいのである。
だが、ハッとリノアが我に返る。「それよりも・・・! さっきアーヴァインが!」と声をあげた。
「またアーヴァイン?」
「違うの! 大変なの!! がいなかった時に聞いたんだけど、魔女がミサイルでガーデンを攻撃するって!!」
リノアのその驚愕の発言に、キスティスがブレーキを踏んだ。
「その話、本当なの!? リノア」
「う・・・うん・・・」
「大変! スコールたちにも知らせなくちゃ!!」
先を走っていたスコールたちにわかるよう、クラクションを鳴らす。それで気がついてくれたようで、スコールたちの車が止まった。
たちが車を下りると、スコールたちも下りてきて・・・何事か、という様子だ。
「なんだよ」
「魔女がガーデンをミサイルで攻撃するんですって!?」
「アーヴァインが言ってたって、リノアが言ってたよ!」
スコールに詰め寄るようにして、セルフィが声をあげるが、スコールはこんな時でも冷静だ。
「俺たちに出来ることは、可能な限り早くガーデンに戻って危険を知らせることだ。さあ、車に戻れ」
「攻撃目標はバラムとトラビアのガーデンなんだよ〜! ミサイル発射妨害! ミサイル発射阻止!」
セルフィがグッと拳を握りしめ、強くそう言うが・・・スコールは頭を抱えてしまう。
「あたし、トラビアから転校してきたばっかりなんだよ!」
「それは知ってる」
初めて会った時、それは聞いていた。
「だからトラビア・ガーデンがピンチだって聞いて黙ってるわけにはいかないのよ! だから、はんちょ、お願い! ガルバディア・ミサイル基地潜入作戦! メンバー決めて〜!」
セルフィの懇願に、スコールは眉根を寄せる。彼女の頼みは聞き入れたい。が・・・。
『簡単に言うなよ・・・。メンバー選んで、もしものことがあったら、俺は・・・』
「決をとりま〜す!」
そんなスコールの考えを邪魔するかのように、リノアが声をあげた。
「スコールは班長だから、バラムへ戻る。セルフィはミサイル基地へ向かう。この考えに反対の人は、手をあげましょう! わたしも、どっちチームでも、文句言わないからね」
リノアの言葉に「あんたは部外者だろ・・・」と思ったが、口にせずにおいた。
と、真っ青な空に白い筋が見えた。地上から上がったそれは、上空へと飛んで行く・・・ミサイルだ。
「あのさ・・・ターゲットは最初がトラビアで次がバラムって聞いたよ」
言いづらそうに、アーヴァインがつぶやく。「とりあえず、バラム・ガーデンは無事か」とは、誰も思えなかった。
「ごめん、トラビアのみんな。あたし、なんもできへんかった・・・。せやけど、みんな無事におってや。また会えるやんね」
セルフィの口から聞いたことのない語尾が飛び出したが、今はそれをどうにか言ってる場合ではない。
「アーヴァイン! あなた、なんでそんな大事なこと黙ってたのよっ!!!」
がガシッとアーヴァインの襟元を掴み、ガクガクと揺する。揺すられながら、「だって言う機会がなかったじゃないか〜」と声をあげた。
「今のミサイルは・・・ハズレだよね〜? スコールはんちょ! 早くバラムに報告!」
まさか、セルフィは1人でミサイル基地へ向かう気か・・・そんな考えが頭を過った。
「スコール、私はセルフィと一緒に行く」
の言葉に、一同が目を丸くした。
「セルフィはミサイル基地へ行くんでしょ? 私も行くわ」
「でも・・・!」
「イヤとは言わせない。それとも・・・私じゃ不服?」
「そんなことない!」
「・・・私もセルフィと行くわ」
そう言ったのはキスティスだ。
「あんたたち2人をミサイル基地に送り込むわけには・・・先輩SeeDだろ?」
「あら、先輩だからこそ、この大事な任務を任せてほしいわ! 大丈夫よ、スコール。私たちが必ずミサイル発射を食い止めてみせる」
ねっ?とセルフィとキスティスに視線を向ければ、2人はうん、とうなずいてみせた。
「はんちょ、お願い・・・あたしたちにやらせて?」
「・・・セルフィ」
「うん?」
「・・・必ず、無事で」
「うん!」
スコールの不器用な言葉に、セルフィは笑顔でうなずいた。
***
「さぁ〜っ! ミサイル基地へ、いっくよ〜!」
気合いを入れ、セルフィがD地区収容所の近くにあったガルバディア・ミサイル基地へと出発した。
「とりあえず〜この車で入れば、中には入れると思うんだけど・・・」
「その先は何も考えてない・・・でしょ?」
「えへへ〜あたり〜。でも、きっとなんとかなるよ!」
前向きなセルフィの言葉に、とキスティスも不思議とそんな気がしてくる。
ミサイル基地の入り口には、ガルバディア兵が見張りについていた。ここで足止めされたら、正体がバレて大騒ぎになる可能性が大きい。
だが、意外や意外。車両を見ただけで中へ入る許可が下りたのだった。
『・・・なんか、適当ね・・・。まあこっちは助かったけど』
ずさんとも言えるガルバディア兵の対応に、は心の中でため息をついた。
車の中に入っていたガルバディア兵の制服に着替え、車を下りるとアナウンスが流れた。
《トラビア・ガーデンに引き続き、バラム・ガーデンの攻撃を定時に行う。各員、配置につけ》
聞こえてきたアナウンスに3人は顔を見合わせる。
「定時っていつかしら?」
「何時でもいいよう! とにかく急いでミサイルの発射を阻止! これしかないじゃない? ドアがあったら入ってみる! 破壊できそうなところは破壊する! 最後にはハデ〜にここを爆破して、メチャクチャにしてやるんだから!」
「メチャクチャ・・・ね。じゃあ、それまでは見つからないように、しっかりやらなきゃね」
「うん!」
ガッツポーズをし、気合い十分のセルフィに続いて、とキスティスは基地内部へと入った。
どこかせわしない空気なのは、これからバラム・ガーデンへミサイル発射を行うからなのだろう。人目につかないように、かつミサイルの発射を阻止し、この基地を爆破すると・・・。
逆にあまりコソコソしていても怪しまれる・・・ということで、頼まれたことはこなしていくうちに、変電室の点検を頼まれた。
『ラッキ〜! メチャクチャにしたるでぇ〜!』
心の中でニヤリと笑いながら、セルフィたちは変電室へ向かう。だが、メチャクチャも何も、どこをどう触ればわからない・・・ということで、アチコチ触ると、警報が鳴り、室内の電気が消えた。
「ここで見つかるのはまずいわね・・・。とりあえず、この部屋を出た方がいいわ」
「じゃ、次行こう!」
意気揚々と部屋を出た瞬間、ガルバディア兵たちがやって来る。何事かと大騒ぎになるが、適当に誤魔化すと、やって来たガルバディア兵を不意を狙って叩きのめした。
その後もガルバディア兵として、作業を手伝うと、コントロールパネルで、座標データの確認を頼まれた。・・・ということは。
「さ〜て、どうしようか」
「メチャクチャにしちゃえ・・・って言いたいとこだけど、変なトコ押して、間違えてミサイル発射、とかにならないよう、気をつけましょう」
「じゃあ、ちょこっとだけいじってガマンする?」
セルフィの言葉に先輩2人は「異議なし」とうなずいた。
コントロールパネルでメニューを立ち上げる。ありがたいことに、性能は大したことなく、着弾誤差を目一杯大きくすれば当たることはないだろう。
入力をいじり、誤差を大きくしてデータ転送。あとはミサイルの発射を止めて、この基地をメチャクチャにするだけだ。
管制室に入るため、適当な理由をつけ、通してもらう。士官に敬礼し、報告をするが・・・その士官の動きが止まる。
「・・・お前たち、そこを動くな。何か怪しいと思っていたが、お前たち、侵入者だな!? 先ほど、倒れている同胞を発見した。隠してもムダだそ! 今の敬礼はわが軍のものとは違っていたからな!」
何も考えず、SeeDの敬礼をしてしまったが、考えてみれば違っていても不思議ではない。
戦闘になってしまったが、SeeDのセルフィたちの敵ではない。士官と兵士たちを倒すと、慌てて発射制御装置を探した。
キスティスがそれを探し当て、発射を止める。そして、奥の完成室で基地の爆破装置を作動させた。
「さ、あとはここを脱出するだけね!」
「よ〜しっ! 早くここから逃げよう!」
管制室を出て行く3人だったが、倒れていた士官がなんとか起き上がり、ミサイル発射のスイッチを押したことを、セルフィたちは知らない。
***
ガクンと大きく基地が揺れる。何だ!?と思っているヒマはない。早くここを出なければ、あと10分で爆破する。
外に出た瞬間、砲台からミサイルが空へ向かって飛んで行き、セルフィたちは愕然とした。
「そんな・・・なんで・・・」
言葉を失うセルフィたちを待っていたのは、巨大な青い戦車。もちろん、ヌンチャクも刀もムチも届かない。
セルフィのスロット魔法と、のサンダラ、キスティスがケツァクウァトルを召喚し、機械に大ダメージを与えると、コントロールが効かなくなったようだ。
慌てて中から出てきたガルバディア兵たちを、今度は武器で撃退した。
「どうして・・・ミサイル、発射されたの!?」
「わからないけど・・・でも着弾誤差は入力したんだし・・・きっと大丈夫よ!」
呆然としているセルフィの肩を揺すり、が声をかける。動揺しているのは、彼女もキスティスも同じだ。
「とにかく、早くここを出ないと・・・!!」
「う、ん・・・」
入って来た門へ走った3人だが、愕然とした。そこは大きな鉄の扉で固く閉ざされていたのだ。
周りのフェンスには、恐らく高圧電流が流れているだろう。有刺鉄線の姿も見える。そこから逃げ出すのは無理だ。だが、基地へ戻るわけにもいかない。
『閉じ込められてしもた? あとはスコールたち、なんとかしてくれるやんね。学園祭の準備、やってくれるかな〜。スコールやったら、期待できへんな・・・。あ〜あ。全部終わってしまうんや』
セルフィの頭の中に悲観的な考えが過った。だが、それは一瞬のこと。何としても、ここから出なければならない。
送り出してくれた、スコールのためにも・・・!
「意外とあっさり来ちゃったかな。人生の終わりって、もっとドラマチックだと思ってたけど」
「戦場で、戦って死ぬかと思ってたけど・・・こんな形なんて、ね」
キスティスとの言葉に、セルフィは顔をあげる。
『みんな、何ゆうてんねん。・・・スコールたちが止めなかったんは、信じてくれたからやねんで。絶対、絶対そうやわ。あたしらならやれる。そない考えて、あたしらの背中を押してくれたんよ。そうやんね、スコール』
セルフィの脳裏に、スコールの顔が浮かぶ。心配そうな・・・だが、3人を信じてここへ送り込んでくれた、班長の顔が。
『あたしは・・・もう一度、スコールに会いたい・・・!』
ギュッと拳を握りしめる。ガクンと地面が大きく揺れた。タイムリミットだ。
ミサイル基地は、大きな爆発音と、粉塵をあげ、爆破した。