4.大切なこと
Chapter:3
とリノアがアーヴァインにきつい仕打ちをしている頃、スコールはサイファーから「SeeDとは何だ?」と詰問されており、ゼル、キスティス、セルフィの3人は嫌味な看守をどうにか打ちのめし、武器を取り返そうと企んでいた。
D地区収容所・・・反政府的な人物を入れる刑務所・・・ここから脱走できた人間はいないという。
だが、だからと言って、このまま捕まっていられるわけもなく・・・。
武器がなくても十分敵と戦えるゼルが看守を倒し、監房を出て行く。看守にいじめられていた、ムンバという獣もゼルとついて行くことになった。
監房を出て、上のフロアへ行くと、2人のガルバディア兵が、スコールたちから取り上げた武器を物珍しそうに見ていた。
「見ろよ、これ。SeeDの武器だぜ」
「ガンブレードってやつか?」
「他にもあるぜ。ムチだろ、ヌンチャクだろ」
と、兵士の1人がゼルの姿を見つけ、ギョッとする。ガルバディア兵ではないことは、一目瞭然だ。つまり・・・。
「き、貴様、脱走か!?」
「それ、返してもらいに来たぜ」
襲いかかって来たガルバディア兵を殴り飛ばし、ゼルは簡単にのしてしまう。
「どんなもんだってんだ!」
さすが拳が武器のSeeD。ガルバディアの一般兵など、相手ではない。
一方・・・拷問室では、スコールがきつい拷問で気を失っていたが、顔を叩かれる感覚に、気を取り直し始めていた。
『顔を・・・叩くな。・・・足に・・・触るな。・・・眠らせろ』
「ラグナ!?」
『うるさい』
「ラグナ!」
『らぐな・・・?』
「ラグナ!!」
何度も呼ばれる、その聞き覚えのある名前。目を開ければ、見たことのないオレンジ色の体毛を持った獣が3匹、スコールの足元でピョンピョン飛び跳ねていた。
「なんだ? わからない」
「ラグナ! ラグナ!」
何度もスコールを見てラグナの名を呼ぶ獣たちに、スコールはあ然とするしかなかった。
***
監房へ戻って来たゼルの姿に、キスティスとセルフィがホッとした表情を見せた。彼の手にはムチとヌンチャク、ガンブレードが握られている。
「ありがとう、ゼル」
「いいってことよ! おっしゃ、反撃開始だな」
「ええ!」
「おっけぇ〜」
「やるる〜!」
ゼルの言葉にキスティスとセルフィ、そして獣・・・ムンバも気合いを入れた。セルフィとゼルに助けられ、彼(?)もすっかり仲間気分だ。
と、外から賑やかな声が聞こえてきた。
「ここか、態度の悪い囚人がおるというのは」
「はい、ここです。アナタ方の腕前で、思い知らせてやってください」
「いいのかなぁ、左遷させられた腹いせに囚人イビろうなんて・・・」
「余計なことは言うな!」
入ってきた看守と2人の兵士。その兵士とゼル、セルフィが「あ〜っ!!」と同時に声をあげた。
「こ、ここで会ったが100年目! ドールでつかなかった決着、ここでつけちゃろう。刑務所ゆえ、武器を持たぬ輩を相手にするというのは、いささか卑怯であるかもしれぬが、これも勝負の世界、悪く思わ・・・」
言いかけた言葉を遮るように、キスティスとセルフィが武器を構えてみせた。
「しっかり武器持ってるんですけど・・・」
「なに〜! ぬ、ぬ、ぬ、ぬぅ〜。ええ〜い! ゆくぞ、ウェッジ!」
***
2人の兵士を簡単に打ちのめし、3人は監房を出た。これで彼らはまたもや降格処分であろう。知り合ってしまった以上、少しだけ気の毒に思うが、仕方がない。彼らとは敵同士なのだから。
フト、キスティスが「そういえば・・・」と声をあげ、セルフィとゼルに視線を向けた。
「ゼル、セルフィ、さっきの兵士たちを知ってるの? ドールで、とか言ってたけど、まさか・・・」
「うん、実地試験の時に、会ったんだ〜」
その時もこてんぱんにのしてやったんだ!とセルフィが笑顔で告げた。そんな彼女に、キスティスは「ハァ・・・」とため息だ。勝手な行動をした挙句、当時は上級士官だった兵士たちを相手にするとは・・・。
「なあ、スコールってやつが、どっかにいるはずなんだ。お前、知らねえか?」
「ゆるる。ゆるる」
ゼルが一緒にいたムンバに声をかけると、不思議そうな表情でそう答えた。が、上のフロアからもう1匹のムンバが下りて来る。
「ラグナ!」
「ラグナ!?」
2匹のムンバは声を合わせて「ラグナ!」と言うと、そのまま階段を上って行ってしまった。
「ラグナ〜!? よくわからねえけど、なんかラッキーな予感だぜ! あいつらの後を追ってみようぜ。それでいいな?」
「うん!」
ゼルの言葉にセルフィが答え、キスティスもうなずいた。
その直後だ。辺りに警報が鳴り響いたのは。
《脱走警報です。各フロアにはモンスターが放たれます。脱走者が速やかに投降しない場合、生死を問いません。魔法アンチフィールドが解除されます》
早くも見つかってしまったが、実はゼルたちが倒した兵士が知らせていたのだった。
慌ててゼルたちはムンバ先導のもと、最上階まで向かう。そこには数匹のムンバたちがおり、口々に「ラグナ!」と声をあげている。
最奥の扉を開けると、そこにはムンバに囲まれているスコールがいて・・・。3人は、とりあえず無事な姿のスコールに安堵した。
「スコール!! 大丈夫か?」
「ひどい目に遭った」
一目見れば、拷問されたのだとわかる。綺麗な顔はアザだらけ。口元からは血。ぐったりとした体。
「スコール、大丈夫〜?」
セルフィがスコールに駆け寄り、ケアルの魔法をかけた。心配そうなセルフィを安心させるように、スコールがセルフィの頭を撫でた。
『お・・・?? ス、スコールのやつ、セルフィには優しいよなぁ』
その姿を見て、ゼルはフト思った。スコールはセルフィに優しいというか、甘い。まるで妹か何かのように接するのだ。
だが、今はそのことを言及している場合ではない。ここを脱出しなければ。
スコールの話によれば、彼はゴンドラのような牢屋に入れられ、ここまで運ばれてきたという。つまり、彼らの横にある大穴は、1階まで続いているということだ。
「じゃあ、じゃあ、この穴をぴゅ〜っと飛び降りれば、すぐに下までつくんじゃないかなぁ」
「やってもいいけど、“しっぱ〜い”じゃすまないわよ」
確かに、キスティスの言う通りだ。いかにSeeDといえども、この高さから落ちたら、間違いなくあの世行きだ。
「うおっ!! お、思い出したぜ!! このアーム、上のパネルと中の制御室で自由に動かせるはずだぜ。ウォードがやらされてたのを思い出したぜ。でも、2つ同時に動かす必要があったはずだから、誰かが残って上でパネルを操作しねぇと・・・」
ゼルの言葉にポン、とキスティスとセルフィが彼の肩を叩いた。
「・・・オレ? わ、わかったよ。オレは上の制御パネルで指示を出すから、乗り込んでくれ」
クレーンの中に入り、ゼルの指示のもと、クレーンを1番下の階層まで下ろす。
見えたドアを開き、外に通じているのかと思いきや、ドアの向こうは砂。地中に埋まっているということなのか・・・? 疑問に思う3人だが、その耳に銃撃音が聞こえてくる。
「ずい分、派手にやってるな」
スコールの言葉に一同は黙りこみ・・・。
「ゼル!!」
上に残った仲間を思い出し、慌てて上の階層へ戻った。
***
なんとか兵士の銃弾から逃げていたゼルだが、そろそろ体力の限界が近づいてきていた。
追いつかれ、足払いをかけられて、ゼルの体が倒れる。
「手こずらせおって・・・死ね!!」
銃口を向けられ、トリガーが引かれる寸前、兵士の背中から斬りかかってきた人物がいた。
「ゼル! 無事!?」
「・・・先輩!」
颯爽と現れ、後輩の窮地を救ったのは、だった。