3.狙撃主
Chapter:7
廊下の片隅に、下へ潜る扉があった。そこからギミック時計の上へ。そのギミック時計が20時になるとせり上がる。
せり上がったギミック時計の正面には凱旋門。そう、凱旋門に閉じ込められた魔女を、ここで狙撃するのだ。
ギミック時計の中には、事前に説明を受けた通りに、長距離用ライフルが置いてあった。
「アーヴァイン・キニアス、あとはお前に任せる」
ライフルをアーヴァインに手渡せば、彼は黙ってそれを受け取り、ギミック時計の端っこに座りこんだ。
『?? なんか、様子変ね。ああ、あれかな? 集中力を高めてるとか、そんな感じ?』
そのアーヴァインの姿を見つめ、はなるほど・・・と納得する。さすがは凄腕の狙撃手。いつもはおちゃらけているが、その時になれば神経を研ぎ澄ませるのだ。
「リノア」
と、背後でスコールがリノアの名前を呼ぶ。
「サイファーは生きてるぞ。あいつ、魔女とパレードしてる」
スコールの言葉に、も驚いた。処刑されたはずのサイファーが、なぜ魔女と一緒にいるのか・・・。
「・・・どういうこと?」
「知るか。俺の手でサイファーを死なせることになるかもしれない」
もし、スコールたちが魔女とバトルすることになれば、必ずサイファーが立ちはだかるだろう。そうなれば・・・スコールはサイファーを倒さなければならない。
「覚悟、してるんだよね、お互い。そういうこと、あっても普通のこと。そういう世界で生きてるんだもんね。心のトレーニング、たくさんしたんだよね。でも、でも、もちろん・・・避けられたらな、って思うよ」
「キニアス次第だ」
アーヴァインが見事、魔女を狙撃し、成功させればサイファーと戦わずにすむ。そういった点でも、アーヴァインの責任は重大だ。
「がんばってね、アーヴァ・・・」
声援を送ろうとしたは、うずくまって小刻みに震えているアーヴァインの姿に気づき、ギョッとした。
「ど、どうしたの・・・!? 大丈夫?」
何か具合が悪いのか、が慌てて肩に触れると、アーヴァインが情けない表情を浮かべ、を見つめてきた。
「や、やっぱり、ダメみたいだ」
「は!?」
アーヴァインの怖気づいた姿に、はあ然とする。20時まであと少し、というところで、何を言い出すのか。
「何言ってるの、アーヴァイン・・・! さっきまでの余裕はどうしたのよ?」
「・・・・・・」
「まさか・・・プレッシャーに弱いタイプなの?」
ライフルを抱きしめ、アーヴァインは小さな子供のように震えている。
「アーヴァイン・・・!」
再び触れた肩は、未だ小刻みに震えていた。
***
隠し通路の先の水路を抜けると、ちょうど魔女のパレードが凱旋門前まで差しかかっていた。
「ふぃ〜、ギリギリだぜ」
「危なかったね〜」
ゼルとセルフィがホッと息を吐き出す。これでキスティスたちが間に合わなかったら・・・と思うとゾッとする。狙撃どころの話ではない。
パレードが凱旋門の下を通る。緊張の一瞬だ。
「今だ先生、スイッチを!」
ゼルの言葉に、キスティスは教わったスイッチを下ろした。
ガシャン・・・と音を立て、魔女の前方の格子が下りる。魔女が驚いて立ち上がると、背後の格子も落ちた。そこでようやく、閉じ込められたことに気づいた。
怒りに燃える瞳で、魔女が前方を睨みつける。こんな小癪な真似をする輩がいようとは・・・。
魔女を狙撃する絶好のチャンスだ。
「さあ・・・後は、アーヴァインにかかってるわ・・・!」
キスティスがつぶやく。
まさか、そのアーヴァインが本番になって、緊張のあまり動けなくなってるとは、凱旋門チームの3人は思いもしないだろう。
「アーヴァイン!! 格子が下りたわ!」
「だ、ダメだ、すまない、撃てない。僕、本番に弱いんだ。ふざけたり、カッコつけたりして、なんとかしようとしたけど、ダメだった」
「アーヴァイン、落ち着いて。いいから、行動して。撃つのよ」
「僕の銃弾が魔女を倒すんだ。歴史に残る大事件だ。ガルバディアの、世界の未来を変えてしまうような事件だ。そう考えたら、僕は・・・」
ライフルを抱えたまま、うわごとのようにアーヴァインがつぶやく。
「考えないで、何も考えないで、撃つの!」
「撃てないんだっ!」
の言葉に、アーヴァインがキッと彼女を睨みつけた。の背後にいたスコールとリノアもあ然としている。
は一瞬、言葉を失い・・・だが、すぐに気を取り直し、そっとアーヴァインの手に触れた。
「アーヴァイン、お願い、落ち着いて。みんながあなたを待ってる。外してもいいのよ。その時のために、私とスコールがいる。だけど、このままじゃ私もスコールも動けない。だから・・・私たちの背中を押して? そのための合図だと思えばいいの」
「・・・ただの合図・・・」
「そう。大丈夫、あなたなら絶対に出来る。あなたは、弱い子なんかじゃないから」
「!」
のその言葉に、アーヴァインが目を丸くした。「、君・・・」とつぶやくと、フゥ・・・と息を吐き出し、ようやくライフルを構えた。
「私たちに行動を起こさせるためのサインよ、アーヴァイン」
「・・・ただのサイン」
狙いを定める。魔女の心臓へ。スコープを覗きこみ、照準を合わせ・・・アーヴァインはトリガーを引いた。
ライフルから放たれた弾丸が、魔女の心臓目がけて飛んで行く・・・が、弾が直撃する前に、魔女が手を掲げ、その銃弾を弾いてみせた。
狙撃失敗だ。アーヴァインはその場にヘタリと座りこんでしまった。
「・・・すまない」
「何言ってんの。狙いは正確だったじゃない。やっぱり、やれば出来るのね。さすが、ガルバディア・ガーデン一の狙撃手」
ニッコリ笑うに、アーヴァインは苦笑を浮かべた。
「、俺は今から魔女に突っ込む。お前は・・・」
「私も行く。援護するわ」
立ち上がり、スコールと目を合わせ、うなずく。
「アーヴァインとリノアも、念のため準備をしておけ。リノアを頼んだぞ」
そう言い残すと、スコールとはギミック時計からテラスへ飛び下り、そこからガルバディア兵たちの中へ飛び下りた。
襲いかかって来るガルバディア兵たちを薙ぎ払い、2人は車へと乗り込み、魔女のもとへ急いだ。
「・・・敵わないなぁ」
「え?」
苦笑してつぶやくアーヴァインに、リノアが目を向けた。
「ホント・・・彼女には敵わないよ」
「に?」
「僕もあんな風に強くなれればいいんだけどね」
自嘲気味に笑うアーヴァインは、ライフルを抱えたまま、ため息をこぼした。
「・・・わたしも、わたしもそう思うよ」
リノアがつぶやく。アーヴァインがリノアへ視線を向けた。
「わたしも・・・SeeDのみんなみたいに、強くなりたいって・・・思う」
車を乗り付け、パレードカーのもとまで向かったスコールとを見つめながら、リノアは言う。
「・・・このままじゃ、ダメだよね」
「うん?」
「わたし・・・このままじゃ、弱いままだよね」
「リノア・・・そうだね・・・このままじゃ、カッコ悪すぎだよね」
ライフルを置き、アーヴァインが立ちあがる。
「SeeDじゃないけど・・・僕たちだって、戦えるよね」
アーヴァインの言葉に、リノアは「うん!」とうなずいた。
***
パレードカーに登ると、そこには魔女と見慣れた男の姿があった。
ニヤリと笑い、男・・・サイファーがスコールたちの前に立ちはだかる。
「こういうことになった。よろしくな」
「魔女のペットになったのか?」
「魔女の騎士と言ってくれないか? これがオレの夢だった」
魔女の騎士・・・そんな名前の映画があったような気がする。見たことはないが・・・と、どうでもいいことをは考える。
「勝負だ、スコール!」
スコールと向き合い、サイファーがガンブレードを構える。
「オレが死んだと思っていたようだな。オレは死なねえよ。夢を叶えるまではな!」
「あんたが簡単にやられるとは思っていなかったさ」
サイファーの言葉に答えながら、スコールもガンブレードを構えた。
「・・・先輩、ここは俺に任せてくれ」
「え?」
「あいつとは、一対一でやり合いたい」
スコールの真剣な眼差しに、はこくんとうなずいた。
「わかった・・・私は手を出さない」
「・・・助かる」
一歩、スコールがサイファーに歩み寄り、が後ろに下がる。
「行くぜ・・・これは、いつもの訓練じゃねえ!」
サイファーがスコールに斬りかかってくる。スコールはそれをガンブレードで受け止め、ガンブレードのトリガーを引いた。弾薬が弾け、サイファーのガンブレードを弾く。
後ろによろめいたサイファーの体を、容赦なくスコールは斬りつける。互角かと思われた2人の力の差は、明白だった。
「どうした、サイファー? あんたの力はそんなものか?」
「くっ・・・やるな」
キッとスコールを睨みつけ、サイファーが何かをつぶやく。
スコール目がけ、ファイアを刀身にまとわせたガンブレードが向かってくる。慌てて身を交わしたスコールに、サイファーは剣を振り回し、衝撃波を放った。
スコールの体が吹っ飛び、床に強く叩きつけられる。一瞬、呼吸が止まった。
「スコール!!」
が声をあげる。スコールは立ちあがろうとするが、体に力が入らない。
「スコ・・・」
スコールに駆け寄ろうとしたの前に、スッとサイファーが立ちはだかる。
「よう、先輩。次はあんたの番だぜ」
「・・・!!」
サイファーの言葉に、は腰の刀に触れる。・・・が。
そのサイファーの背後にスコールが迫り、背後から斬りつけた。
「な・・・何!?」
振り返ったサイファーに、スコールが何度も斬りつける。ガクッとサイファーが膝をついた。
「このオレが負けただと!?」
「腕が落ちたな、サイファー」
うっ・・・と声をあげ、サイファーが意識を失った。
次は魔女だ。スコールとがイデアと向き合う。イデアは忌々しそうに2人を見ると、座っていた豪華な椅子から立ち上がった。
「・・・SeeDだな。・・・腐った庭に蒔かれた種か」
それがSeeDの名の由来だ。ガーデンという庭に蒔かれた種・・・。
スコールとが武器を手に立ち向かうと、2人のもとに誰かが駆け寄って来た。
「一緒なら戦えるから! だから来たの! わたしも戦うから」
「あのままじゃカッコ悪すぎだよな」
「リノア! アーヴァイン!」
駆けつけた2人の姿に、が笑みを浮かべた。相手は強大な力を持った魔女だが、勝てるような気がした。
「・・・SeeD。呪われし、種」
イデアは魔女というだけあり、強力な魔法を使ってくる。ファイガ、ブリザガ、サンダガ・・・の使えるラ系の魔法より強力なものだ。
「そうだわ、スコール・・・! さっきドローしたG.F.」
の言葉に、スコールはうなずき、先ほどドローしたカーバンクルを召喚した。
カーバンクルの力は“ルビーの光”といって、魔法を跳ね返すリフレクを味方全体にかけるものだ。これでイデアの魔法は怖くない。
だが、疑似魔法は使わなくとも、魔女は本物の魔法を使うことができる。
斬りかかるスコールとに向け、手を突き出せば、見えない力によって体が吹っ飛ぶ。リノアとアーヴァインが後方支援に回り、イデアに攻撃を仕掛けるが、その2人も魔女の魔法が飛んでくる。
「くっ・・・さすが・・・魔女ね」
が刀を鞘に戻し、それを目の前に掲げる。グッと腰を下ろし、刀を腰に構えると、そのままイデア目がけて突っ込む。そして、イデアの横をすれ違い様、素早く刀を抜き、その力の反動でイデアの体を斬りつけた。そのままイデアの背後にまわり、十文字に斬りつければ、イデアの体が崩れ落ちる。
「こしゃくなSeeDめ!」
イデアが怒りに体を震わせると、全身をすさまじい魔力が包み始めた。
「きゃあ!」
その魔力の渦に巻き込まれ、の体が痙攣する。
『な・・・何これ・・・!? 何かが・・・入りこんで・・・くる・・・?』
必死にこらえようとするが、抗えず・・・の体が崩れ落ちた。
そのに目もくれず、イデアが片手を掲げれば、そこに巨大な氷の刃が生まれる。それをスコールたち3人目がけて放った。
リノアとアーヴァインは咄嗟に避けるが。先ほどのサイファー戦で体力を奪われていたスコールはそれを避けきれず・・・スコールの右肩に氷の刃が突き刺さり、貫通した。
「っ・・・!!」
「スコール!!」
リノアが悲鳴にも似た声で、スコールの名を叫ぶ。
スコールの体がグラリと揺れ・・・パレードカーの上から体が落ちて行く。
「スコール!!」
リノアとアーヴァインが手を伸ばすが、間に合わず・・・スコールの体は、パレードカーから落ちて行った。
その様を、魔女イデアは冷たい瞳で見つめていた。