3.狙撃主

Chapter:5

 カーウェイ邸に戻ると、先ほどスコールたちも通された応接室から、1人の老人が出てきた。
 客人だろうか? 白髪混じりの老人は、だが目の力がすごかった。
 顔を上げた老人が、こちらを見て目を丸くする。何せ6人という大所帯だ。しかも若い男女。なぜこんな場所にいるのか・・・と思ったのだろう。
 老人が「失礼」と声をかけ、スコールたちの横を通り抜けた。
 その際、なぜか老人がチラッとの顔を見つめてきた。視線に気づき、が首をかしげるが、老人は何も言わずにカーウェイ邸を出て行った。

 『なんだろ、あのおじいさん・・・。私の顔、何かついてるかな?』

 思わず顔に手をやってしまうが、目と鼻と口と眉毛以外はついていないと思う。

 『ま、いっか・・・』

 これといって気にもせず、はスコールたちに続いて、応接室に入った。

***

 「なんだ、もう戻って来たのか」
 「・・・はい。早めに気持ちを切り替えようと思いまして」
 「なるほど。それもそうだな・・・。では、チーム編成に移ろうか。狙撃チームは狙撃手とリーダーで構成してくれ。それを守ってくれれば、他に誰をつけても構わない。リーダーは総攻撃の指揮をとってもらう」

 『総攻撃・・・?』

 カーウェイの言葉に、スコールは眉根を寄せる。魔女を狙撃すると言っているのに、総攻撃とは一体?

 「なんらかのアクシデントで計画が進められない場合・・・あるいは狙撃に失敗した場合、リーダーの指揮下で魔女に総攻撃をかけてもらう。我々はすべてを秘密裏に進めたい。そのための複雑な暗殺計画だ。しかし、最終目的は魔女の排除。あらゆる犠牲を払ってでも、目的を果たさねばならない。たとえ私の存在や、君たちの所属が明るみに出てもな」

 決死の覚悟で、カーウェイは今回の作戦を立てた、ということか・・・。否応なく、緊張感が漂う。

 「リーダーは?」
 「俺です」
 「あとは君が決めたまえ」

 カーウェイの言葉にうなずき、スコールは仲間たちを見回す。

 「俺とアーヴァイン・キニアスが狙撃チームとして行動する。それと・・・、念のため、一緒に来てくれ」
 「了解」
 「凱旋門チームは・・・」

 残りの3名・・・キスティス、ゼル、セルフィとなる。

 「りょうか〜い!」
 「了解」
 「了解っ!!」

 3人がスコールに返事をする。狙撃チームほど重圧はかからないが、タイミングを見失うと、大変なことになる。

 「凱旋門チームのリーダーは?」

 セルフィが尋ねると、ゼルがシャドーボクシングをし、自己主張を始めるが・・・。

 「トゥリープ先生・・・キスティス・トゥリープ、頼む」
 「OK! 任せといて!」

 これが無難な人選だろう。教師だったし、何せ先輩SeeDだ。緊急時の対応にも慣れているはずだ。

 「さ! 計画実行だ!」

 カーウェイと共に、スコールたち狙撃チームは屋敷を出て行く。キスティスたちも屋敷を出ようとした時だった。リノアが応接室に飛び込んできた。

 「よっ! やっと脱出成功! あの男、なんか言ってた?」

 実の父親に向かって“あの男”呼ばわりとは・・・。少しだけ、カーウェイに同情してしまう。

 「別に何も言ってなかったぜ」

 というのは、ちょっとウソだろう。「足手まといにならないとも限らない」と言っていたのだが・・・。わざわざ、それをリノアに言う必要もあるまい。

 「スコールは?」

 部屋内を見回し、リノアが尋ねる。だが、ここで説明をすれば、彼女もついて来ると言いかねない。

 「ごめんね、リノア。私たち、もう行かなくちゃ」
 「でも、ちょっと待って」

 キスティスがそう言って、部屋を出ようとするが、リノアが手を挙げてそれを制した。こんな時に、なんだというのか。

 「これ見て!! これ、オダイン・バングルっていうの。あの男の部屋で見つけたのよ」
 「オダイン!?」

 聞いたことのない名前だが、ゼルがその名前に反応する。彼は知っているようだ。

 「何すんの、それ」
 「魔女の力を抑制するらしいの。でも、効果わかんないから、今回の作戦では使わないことにしたらしいの」

 セルフィの疑問にリノアがバングルを放り投げながら答えた。
 一方、ゼルは目を輝かせている。

 「オダインブランドならきっと効果アリだぜ。魔法系グッズじゃ一番だからな」
 「だよね、だよね!」

 意気投合するリノアとゼルだが、キスティスは苛立つ。こんな大事な時に、そんなわけのわからない物を使って、どうにかしようとは・・・。

 「それで、あなた、どうしたいの? 魔女にそれを着けさせるの? 誰が? いつ? どうやって?」
 「それをみんなで考えるのよ!」
 「時間がないって言ったでしょ。スコールたち、もう待機してるわ。私たちにも任務があるの。わかるでしょ? 家出娘の反抗とは違うの。これは遊びじゃないの」

 きつい口調でそう言い残し、キスティスが部屋を出て行く。セルフィもその後を追い・・・ゼルは、困った様子でリノアに視線を向けてから、任務のためと決意し、彼女を残して部屋を出た。
 残されたリノアは、完全にしょげていた。うまくいくと、みんなに称賛され、同意されると思っていたのに、キスティスに真っ向から反対された。

 「遊びじゃないの、だって。わかってるもん。わたしだって・・・考えてるんだから」

***

 屋敷を出てきたキスティスたちの前を、スコールと、アーヴァインが歩いていた。彼らの前では、カーウェイが先導している。

 「総攻撃の時は、まず俺が突入する。出来るだけ時間を稼ぐつもりだ。だが・・・俺が苦戦していたら、・・・悪いが・・・」
 「もちろん、助けに入るわよ。相手は魔女よ? 1人でどうにかできるなんて思わないで」
 「総攻撃は必要ないってばさ〜。僕が決めてやるから安心してろよ」

 軽い口調でそう言うアーヴァインだが・・・それが信用ならないのだ。普段の戦闘で、彼の自信通りの銃の扱いは見たけれど、狙撃となると、話は変わって来る。長距離の攻撃となるからだ。

 「あのさ・・・SeeDは任務に関して“なぜ”って質問しないって本当か?」
 「・・・なんでそんなこと聞くの? 知ってどうするの?」
 「例えばさ、敵がすっげえ悪い奴だとわかればバトルにも弾みがつくだろ?」
 「・・・悪い奴、ねぇ。でも、相手からすれば、私たちが“すっげぇ悪い奴”になるのよ?」

 の答えに、アーヴァインはあ然とした表情を浮かべている。そんなことを考えもしなかったのだろう。
 自分が善で、倒す相手が悪。そんなこと、誰が決めたのか。自分自身を見つめているから、そんなことに気づかないが、客観的に見たら、自分たちが善だと決めつけることなど出来ない。

 「って、カッコいいねぇ〜」
 「茶化さないでくれる?」
 「茶化してないって。僕には出来ない考え方だな、って思っただけだよ」

 帽子を目深にかぶり直し、アーヴァインがつぶやく。そんな風に言われたことなどなかったので、もどこか気恥かしい。
 凱旋門に到着すると、背後からキスティスたちがやって来た。遅れてやって来たが、何かあっただろうか?

 「私たちが魔女をここで足止めしておく。そしたら後はあなたたちの出番よ」

 だが、キスティスは何も言わず、笑みを浮かべて言った。
 20時ちょうどに魔女のパレードは門の真下へ来る。その瞬間に鉄格子を下ろして、門に魔女を閉じ込める・・・簡単な作業だ。
 続いて、スコールたち3人は大統領官邸まで連れてこられた。

 「君らの持ち場はここ」

 カーウェイの言葉に、3人はうなずく。

 「ところで大佐、なぜ魔女はこんな派手なパレードを始めようと思ったんだ?」
 「魔女が本拠地と決めたガルバディア・ガーデンへ移動するためだ」

 そんなことだけのための、大仰なパレードなのか・・・呆れてしまう。案外、魔女というのは派手好きなのかもしれない。
 そして、ガルバディア・ガーデンが魔女暗殺を企てたのは、そういうことか・・・。魔女の本拠地にされるなど、たまったものではない。

 「さ、始まった」

 官邸の方が賑やかになる。セレモニーの始まりだ。

 「いよいよだぞ。私は邸に戻っている。幸運を祈る」

 それだけを言い残し、カーウェイは3人を残して去って行った。

***

 一方、凱旋門ではキスティスが1人、落ち着かない様子でウロウロしていた。

 「どうしたんだよう? 先生」
 「やっぱり言い過ぎたかな・・・」
 「言い過ぎたって?」
 「私、謝って来る。リノアに・・・」
 「・・・リノア?」

 先ほどの発言で、リノアを傷つけてしまった・・・と後悔しているのだ。

 「でも、どうするの〜? 持ち場離れちゃっていいの?」
 「まだ20時までは余裕があるわ。あなたたちはここで待ってて」
 「そう言われたって・・・」

 戸惑うゼルだが、キスティスは走り出していて・・・セルフィまで彼女を追いかけた。

 「待てよ! あ〜・・・もう! なんでこうなるんだ!!」

 頭を掻き毟り、ゼルも慌てて2人を追いかけた。

***

 カーウェイが屋敷に戻り、応接間に入ると、部屋の奥で自身の娘が座りこんでいた。こちらに背を向けているので、表情はわからないが、何か落ち込んでいるようだった。
 恐らく、スコールたちに置いていかれたことに気付き、落ち込んでいるのだろう。

 「間もなく外は荒れる。ここにいれば安全だ」

 カーウェイの言葉に、リノアは顔を向けることなく、追い払うように手を振った。「シッシッ」とでも言うかのように。
 娘のその態度に、カーウェイは部屋を出て行く。・・・が、何か音がする。カチカチ・・・と。

 「ヤバッ! 閉じ込められる!」

 慌てて立ちあがり、リノアは部屋を飛び出し、自室へ戻るとそこの窓から家を抜け出した。家の前には警備の兵がいる。リノアの姿に気づかれてしまうだろう。
 キスティスたちが戻って来たのは、ほんの数秒差。

 「リノア、さっきはゴメン・・・」

 キスティスたちが部屋に駆け込んだ瞬間、カチッ・・・という音が止まり、ドアがバタンと勝手に閉まった。

 「あ!」

 3人が同時に声をあげる。慌ててキスティスがドアを開けようとするが・・・開かない。

 「??? もしかして・・・閉じ込められた?」
 「あの大佐の仕掛け〜!?」
 「もしかして、親子げんかのとばっちりかよ!」

 もしかして・・・である。確実にとばっちりを受けたのだ。

 「まずいわね。しかもリノアのことも心配だわ
 「どういうことだ?」
 「きっと、リノアは魔女のところに1人で行ったのよ。私たちの力になろうとして」

 キスティスの予想通りだった。リノアは先ほどのオダインバングルを持って、魔女のもとへ向かったのだった。