3.狙撃主

Chapter:4

 無事にデリング・シティに戻ったスコールたちは、キスティスたちの待つカーウェイ邸へ戻った。

 「あ、おかえりなさい、スコール。遅かったわね」

 スコールたちの姿に気づき、キスティスが声をかける。やはり、少し遅れたか・・・。

 「無事に戻りましたね。痕跡は見つかりましたか?」
 「ああ。“019”だ」
 「あたり! どうぞお入りください」

 ようやく通されたカーウェイ邸。遠目から見ても巨大だったが、近くで見ても大きく豪華だった。

 『バラム、ガルバディア両ガーデンとガルバディア軍の大佐が手を組むのか? ・・・なぜだ? ・・・俺が考えても仕方ないな。“SeeDはナゼと問うなかれ”だ』

 扉の前でスコールは立ち止まり、その大きな屋敷を見上げる。

 「はんちょ? 何してるの〜?」
 「ああ・・・今行く」

 セルフィの声に、スコールも屋敷の中に入った。中へ入るとメイドがスコールたちを応接間へ案内した。

 「? リノア?」

 の後ろに隠れるようにして歩いていたリノアに、が不思議そうに声をかけるが、彼女は「ううん、何でも」と首を横に振った。
 応接間に入ると、アーヴァインは執務机の椅子に座り、セルフィは窓の外を眺め、キスティスとはソファに腰を下ろした。スコールは立ったまま待機し、ゼルは落ち着きなくウロウロと歩き回る。リノアはドアの横でボンヤリと立っていた。
 そんな状態が何分経っただろうか・・・。

 「ずい分待たせるわね」

 とうとう、痺れを切らせてキスティスが立ちあがる。ゼルなど見るからにイライラしていた。

 「おっそいね〜」

 セルフィも飽きてきたのか、窓枠に座り、足をプラプラさせながらつぶやいた。

 「もう・・・人を待たせてもなんとも思わない人なんだから。ちょっと文句言ってくる」
 「あ、私も行くよ」

 リノアが怒った様子でそう言うのを見て、ストッパー役としてが名乗り出たが、リノアは首を横に振った。

 「あ、大丈夫なの。ここ、わたしんちだから」
 「え!!?」

 あっさりと言い放ったリノアだが、一同はその真実に声をあげ、目を丸くした。

 「みんなは待ってて。ね、わたしを置いてきぼりにしないでね」
 「あんたとの契約はまだ切れていない。今のは命令なんだな?」
 「命令っていうか・・・。ま、いっか。お願いね!」

 両手を合わせてそう告げると、リノアは部屋を出て行った。

 『大丈夫かしら・・・。なんか、イヤ〜な予感』

 リノアが出て行った扉を見つめ、は小さくため息をついた。

 「どうなってんだ!?」
 「どうなってるもこうなってるも・・・リノアはここのお嬢様ってことでしょ」
 「そ・・・それはわかってるけどよぉ・・・!」

 冷静なとは対照的に、ゼルはわたわたと慌てだす。
 と、扉が再び開く。入ってきたのはリノアではない。軍服を着た黒髪の中年男性だった。

 「リノアは?」
 「アレは君たちのように鍛えられていない。足手まといにならないとも限らん。彼女が作戦に参加しないことは、ここにいる全員のためである」
 「もしかして〜リノアのお父さん?」
 「そう呼んでもらえなくなって、ずい分になる」

 なるほど、彼がカーウェイ大佐か。確かに、リノアは彼に少し似ている。

 「親父は軍のおエライさんで、娘は反政府グループのメンバー!? まずいんじゃないっすか!?」
 「そう・・・非常にまずい。が、私の家庭の問題だ。君たちには関係ない」

 つまり・・・カーウェイに対して、リノアは牙を剥いていることになる。カーウェイはリノアが森のフクロウのメンバーであることを知っているのだ。
 ゼルの言葉をバッサリと切り捨て、カーウェイはスコールたちを見回した。

 「何より、これから我々がやろうとしていることに比べると、あまりにも小さな問題だ」

 でも、今は私たち、リノアに雇われてるのよね・・・とは思う。SeeDにとって、ガーデンの命令もクライアントの命令も、どちらも大切である。

 「俺たちは今回の任務が終わったら、契約通りリノアの傭兵に戻ります。事情はわかりませんが、その時は邪魔しないで下さい」
 「邪魔したら?」
 「俺たちはSeeDです。SeeDなりのやり方で行動します」

 なんとなく、険悪なムードになりかけた空気を壊したのはアーヴァインだった。
 座っていた椅子から、机を飛び越えて立ちあがり、苦笑を浮かべた。

 「おいおい、おたくらよ・・・。俺たち魔女を暗殺しにきたんだろ? 先にその話をしないか?」

 アーヴァインのその口調に、は首をかしげた。いつもと違う。先ほどまでのチャラチャラした雰囲気が消えていた。
 なるほど・・・相手を見て口調を変えたりするのか・・・。

 「一時停戦だ。計画の説明をしよう」

 もちろん、それに異論はない。スコールはうなずいた。

***

 リノアを屋敷に残し、スコールたちはカーウェイ邸を出た。歩きながら、カーウェイが話しだす。

 「我がガルバディア政府と魔女イデアが協定を結んだのは知っているな?」

 カーウェイの言葉に、スコールは心の中でイデアの名を反復する。

 「その協定を記念してセレモニーが開かれる。セレモニー会場は大統領官邸だ。セレモニーの最中に、君たちは2チームに分かれ、それぞれ指定位置に移動する。凱旋門チームは素早く凱旋門に潜入して待機だ。場所は後で説明する。狙撃チームは大統領官邸の正門前でセレモニー終了まで待機」

 協定を記念してセレモニーとは・・・なんともおめでたい話である。
 今の話を聞く限り、凱旋門チームと狙撃チームが必要となる。6人を2チームに分けることになるだろう。
 カーウェイの説明は、中央広場でも行われた。パレードの動きと、狙撃チームの隠れ場所。どうやって魔女を狙撃するのか・・・。

 「それじゃあ、凱旋門チームが門を下ろし、その隙にアーヴァイン・・・うちの狙撃手が魔女を狙撃する、と。そういうことですね」
 「そうだ」

 カーウェイの説明を要約し、が確認をすれば、大佐はうなずいてみせた。
 広場を走りまわって説明してくれたせいか、カーウェイの息は少し上がっている。たちは走り回る大佐の姿を見ながら『・・・そんなに張り切って大丈夫か?』と思ってたことは、おくびにも出さない。

 「定刻20時・・・魔女のパレードは凱旋門の中に入る。20時が決戦の時だ」

 凱旋門チームが鉄格子を下ろし、魔女を狙撃するのは20時・・・。あと1時間ほどだ。

 「あとは作戦開始の時間を待つだけだ。それまで町を見て回るのもいいだろう。もちろん、ここにいても構わん。ただし、外に出ても問題は起こさないでくれよ」

 カーウェイの言葉に、スコールは思わずムッとしてしまう。

 『俺たちを何だと思ってるんだ? ・・・あんたの娘とは違うんだ』

 そうは思ったが、もちろん口には出さない。

 「俺たちはSeeDです」

 厳密に言うと、アーヴァインは違うが。

 「・・・なるほど、そうだったな。しばらくは自由行動だ。準備が出来次第、私の官邸に来てくれたまえ。そこで最終打ち合わせをしてから計画開始だ」

 そう言い残すと、カーウェイは先に屋敷へ戻って行った。

 「どうする? 町を見て回る?」

 が班長のスコールに指示を仰ぐ。スコールとしては、少しだけ気になっていることがあった。

 「そ〜いえば、ここって前にラグナ様がいた町だよね〜。今もいるのかなぁ?」

 スコールの思っていたことを、セルフィが代弁してくれた。
 だが・・・会ったところでどうする。向こうは自分たちを知らないのだ。いきなり目の前に現れて「いつも頭の中にお邪魔させていただいてます」などと言うわけにもいくまい。

 「20時までそんなに余裕もないし、気持ちを切り替えるためにも、ちょっとショップを覗いて戻るっていうのがいいんじゃないかしら?」
 「・・・そうだな」

 の賢明な判断に、スコールが同意した。
 結局、ポーションやら毒消しやら、必要なものを買いそろえると、早めにカーウェイ邸に戻ることにした。