3.狙撃主

Chapter:3

 電車を下り、エスカレーターで町へ出れば、きらびやかな光景が待っていた。
 デリング・シティ・・・スコールはここに来るのは2度目だ。
 もちろん、幼少の頃に来た・・・とかではない。“ラグナとして”、来たのだ。ラグナはガルバディアの軍人だった。今もこの町にいるのだろうか?

 「スコール? どしたの〜?」
 「これからカーウェイ邸に向かう。場所は通称“役人地区”。俺たちはガルバディア・ガーデンから警備の応援に来たことになっている。それを忘れるな」

 まさか“魔女の暗殺をするために来た”などと、大きな声で言うわけにはいかない。それも命令書に記載されていたのだろう。
 さて・・・と歩き出したスコールだが、突然リノアが「待って」と声をかけた。

 「カーウェイ邸に行くなら、こっちのが近いよ」

 そう言って、先頭に立って歩き出した。
 ティンバーでレジスタンス活動をしていた彼女だ。デリング・シティにも詳しいのだろう。
 リノアの後について行けば、すんなりとカーウェイ邸にたどり着いた。この町は広い。何もわからず歩いたら、さまよっていたことだろう。
 だが・・・すんなり着いたのはいいのだが。
 ここで1つ試練を言い渡された。町を出て北東にある「名もなき王の墓」へ行き、行方不明の生徒の痕跡を見つけ出し、出席番号を覚えて来い、というものだった。
 カーウェイはスコールたちの実力を確かめようとしているのだろう。連日、大差を訪問してくる生徒が後を絶たないという。そのための処置だ。
 地図を渡され、間違っても奥に進んではいけない、と釘を刺されたが・・・何があるのか気になってしまうのが人のサガだ。

 「さて・・・班長さん、誰を連れて行くの? まさかゾロゾロと7人で行こう、なんて言い出さないわよね?」

 の言葉に「当然だ」と言うようにスコールがうなずく。

 「セルフィ・・・それからキニアス、、ついて来てくれ」

 街の中にいる限り、仲間はそんなに多くなくて平気だろう。

 「何か問題がないよう、先生、頼んだ」
 「もう教師じゃないけどね・・・。わかったわ」
 「え?」

 キスティスの返事にゼルとセルフィが驚いて声をあげる。

 「先生・・・教師じゃなくなったって・・・」
 「機会がなかったから、今まで言えなかったけど、SeeD就任パーティの前に、資格をはく奪するって言われて、その日で教師は辞めさせられたわ」
 「そんな・・・なんで・・・? まさか、オレたちが実地試験でバカやったせい!?」

 キスティスはに明確な理由を教えなかったが、十中八九そうだろう。
 指導班であったB班の勝手な行動に加え、A班のセルフィまで巻き込んだのだ。問題にならないわけがなかった。

 「スコールとは驚いてないけど・・・2人は知ってたのか?」
 「・・・いや」
 「私は知ってたよ。話を聞いてあげたし」

 キスティスに・・・というより、他人に興味のないスコールにとっては、どうでもいい事であり、驚くことでもないのだろう。

 「オレたちのせいだ・・・オレたちのせいで、先生が・・・」
 「ゼル、今はそんなこと気にしててもしょうがないよ。もう決まってしまったことだし。キスティスは私たちと同じSeeD。それだけのこと」
 「それだけのことって・・・・・・!!」
 「今は私たち、もっと大きくて大事なことを抱えてるでしょ?」
 「・・・あ」

 魔女の暗殺という、途方もない任務を抱えているのだ。過ぎてしまったことを、あーだこーだ言っている場合ではないのだ。

 「さ、班長、行きましょ。レンタカーを使うといいって言ってたわね」
 「・・・ああ」

 ドライな言葉を吐きかけ、その場を離れようとするに、思わずスコールとセルフィは顔を見合わせてしまった。

 「なんか・・・らしくな〜い。あんなに冷たく接するなんて・・・」
 「・・・だな」
 「は、出来るだけこの件に触れないでいてくれてるのよ・・・。私が傷ついてるのを知ってるから」

 キスティスの言葉に、スコールとセルフィは彼女を振り返る。確かに、そうなのかもしれない。それは、の優しさだろう。

 「まあまあ、お2人さん。を1人で行かせちゃダメじゃないか?」

 アーヴァインの指摘に、スコールはうなずき、「それじゃ頼む」とキスティスに言い置くと、セルフィとアーヴァインを連れだって、の後を追いかけた。

***

 車に乗り、教わった場所にある遺跡のような場所。ここが「名もなき王の墓」だ。

 「ねぇ班長? 帰りは僕を後部座席に座らせてよね」

 助手席から下りたアーヴァインが、運転席から下りたスコールに笑顔で告げた。

 「ああ、そうだな。帰りはに運転してもらい、助手席にセルフィを座らせよう」
 「それじゃ意味ないよ〜」
 「残念だったわね、キニアス君」

 肩を落とすアーヴァインに、がポンと肩を叩いた。

 「意地悪班長〜!」
 「なんとでも言え。当然の処置だ」
 「班長ってば、何の心配してるんだい? 僕が2人に手を出すとでも?」
 「ああ」
 「ひどいなぁ〜傷つくなぁ〜」

 スタスタと歩くスコールの後を、追いすがるようにアーヴァインがついて行く。その姿を見つめ、とセルフィが顔を見合わせクスッと笑った。
 「名もなき王の墓」へ足を踏み入れる。静かな場所だ。中へ入ろうと足を進めた途端、中からガーデンの制服を着た女子生徒が2人、慌てた様子で逃げ出してきた。

 「レ、レビテト〜!」

 そう叫びながら走り去って行く2人の背中を見送り、スコールたちは顔を見合わせた。

 「なんだろ、今の・・・」
 「さあ?」

 セルフィの疑問にが首をかしげて答える。
 彼女たちが言った“レビテト”とは浮遊の魔法だ。とは言っても、自在に空を飛びまわるようなものではなく、地面から数センチほど浮き上がるものだが。

 「考えてても仕方ない。俺たちには関係のないことだ。行くぞ」
 「りょ〜か〜い!」

 スコールの言葉に、セルフィは片手を挙げて答えた。
 遺跡の中に入り、少し歩くと地面に1本の剣が落ちていた。これがカーウェイの警備兵が言っていた、生徒の痕跡だろうか。

 「これかな〜?」
 「・・・たぶんな」

 セルフィに答えながら、スコールは剣を拾い、それを丹念に調べた。柄の部分に何か彫ってあることに気づく。

 「・・・19」
 「それが合言葉になるのかしら?」
 「さあな・・・。とりあえず、覚えておこう」

 剣を元あった場所に戻す。スコールたちの後からも来るであろう生徒のためだ。

 「ねぇねぇ班長〜! 奥に何があるか、気にならない〜?」

 カーウェイの警備兵は奥に行くな・・・と言っていたが、好奇心旺盛なセルフィは、それが気になって仕方ないらしい。

 「俺たちは急いでカーウェイ大佐と会わないといけないんだぞ。それに、キスティスたちを待たせている」
 「そうだけど〜ちょっとだけなら、いいじゃない?」

 小首をかしげ、おねだりするような仕草のセルフィ。普通の男なら、これでイチコロかもしれないが、相手はあのスコールだ。

 『申し訳ないけど、スコールにそれは通用しないと思うよ・・・セルフィ』

 心の中でため息をつきながら、セルフィとスコールを見守る
 だが・・・。

 「・・・わかった。少しだけだぞ」
 「やった〜!!」
 「え!?」

 あっさりとセルフィの頼みを聞き入れたスコールに、は驚いて声をあげてしまった。

 「ス・・・スコールが・・・」
 「どうしたんだい? 
 「スコールが・・・他人の頼みをあっさり聞き入れるなんて・・・」
 「ああ・・・。泣く子とセルフィには敵わない、ってやつじゃないか?」
 「でも、あのスコールを・・・すごい・・・伝説になりそう・・・」

 うれしそうに奥へ進むセルフィと、それを追いかけるスコールの背中を見つめながら、は呆然としてしまったのである。
 あの他人に干渉することも、されることも嫌うスコールが・・・誰かの頼みを聞き入れるなどということが、には信じられないのであった。

***

 警備兵からもらった地図を見ながら、仕掛けを解き、中央の部屋へ行くと、2体のG.F.と戦うことになった。
 小柄な兄と巨体な弟という、アンバランスな牛のような兄弟は、地震を起こして攻撃してきた。

 「なるほど・・・あの女子生徒が言ってたのは、こういうことね」

 レビテトの魔法があれば、地震も怖くない。しかも、都合良くたちは先ほど隠されていたドローポイントでレビテトを手に入れたばかりだった。
 スコールの連続剣とアーヴァインのショットで兄弟は倒され、自身を打ち負かしたたちに力を貸すことになった。

 「へぇ〜・・・奥にはG.F.がいたのかぁ〜。でも、なんであの人、近づくなって言ったんだろ〜ね?」
 「私たちがG.F.を倒せると思わなかったんじゃない? SeeDもナメられたものね」

 朗らかな声音のセルフィに対し、は怒気を含んだ口調だ。まるきり正反対な2人の態度に、スコールはため息をついた。

 「とにかく、早くデリング・シティへ戻るぞ」
 「そうだね。余計な寄り道しちゃったことだしね」

 アーヴァインは両手を広げ、茶化すような口調で言った。
 車まで戻り、ハタと気づく。アーヴァインがジッとスコールを見つめている。明らかに何かを訴えかけている。

 『なんだよ、その目は・・・。俺に何を求めてる・・・?』

 運転席に乗り込もうとするへ、アーヴァインは視線を向けた。

 『・・・ああ、そういうことか』

 彼の意図を知り、スコールはため息をついた。

 「・・・セルフィ、後部座席へ」
 「え〜? あたし、助手席じゃないの〜??」
 「いいから・・・指示に従え」
 「りょ〜か〜い」

 とセルフィが車に乗り込むと、アーヴァインがニッコリとスコールに笑いかけた。

 「ありがと、班長さん。気遣いは大事だよ」

 満足そうに笑ってそう言うアーヴァインに、スコールは眉間に皺を寄せる。気遣いなんて、知るものか。

 「はんちょ〜?」
 「・・・デリング・シティへ急いで戻るぞ」

 車に乗り込み、スコールは3人にそう告げた。