3.狙撃主
Chapter:2
ゲート前にたどり着いた時、そこには誰もいなかった。ゼルは手持無沙汰にウロウロし、キスティスはガーデンの方を向いている。リノアは背の低い塀に腰を下ろし、足をブラブラさせている。
はそんな仲間たちを眺めながら、なぜこんな場所に待たされているのか、疑問に思っていた。
しばらくすると、ガーデンの方から黒い影と黄色い影が見えて来る。スコールとセルフィだ。
「おっ待たせ〜! あ、聞いた?」
「何を?」
「風神と雷神がシド学園長から新しい命令を持ってきたんだって〜」
「新しい命令・・・?」
ティンバーのレジスタンスに協力しているたちに、新たな命令とは・・・あの男は、どこまで自分たちに仕事を押し付けるつもりなのか。
「セルフィは風神たちに会ったの?」
「うん。・・・サイファー探しに行くって・・・」
「え、でも・・・」
「黙って処刑なんてされるわけない、って・・・。ガルバディアに行くって言ってたけど」
無茶なことはしないといいけれど・・・。これ以上、バラム・ガーデンの生徒が問題を起こすのは、カンベンしてもらいたいものだ。
「あ! 来たみたいね」
リノアがガーデンの方を見て、声をあげる。車が1台、近づいて来ていた。
「私もSeeDだってことにしてね。色々と説明面倒だからさ」
確かに・・・ティンバーのレジスタンスがいる、なんて知られたら、大騒ぎだ。リノアの提案に異論はない。
横一列に並び、車から学園長が出て来るのを待つ。シドからの命令は、直接、ガルバディア・ガーデンの学園長へ渡されたという。
ゆっくりとした仕草で、男が車から下りてきた。高圧的な態度が気になるが、そんなことはおくびにも出さない。
ガルバディア・ガーデンの学園長、ドドンナだ。シド学園長とは、ずい分と感じが違う。
ドドンナが前に立つと、たちSeeDが敬礼をする。横目でそれを見たリノアが同じように敬礼の形を取った。
「ご苦労」
手を下ろせば、一拍遅れてリノアが手を下げる。
「君たちにバラム・ガーデンのシド学園長から命令書が届いている。我々は規定に従い、命令書を確認した。検討の結果、我々は全面的にシド学園長に協力するという結論に至った。実は我々も以前から同じ目的のために、作戦の準備を整えていたのだ」
バラム・ガーデンとガルバディア・ガーデンが同じ目的を持っていた・・・一体、何だというのか。
「この任務の重大さを理解してもらうために、現在の情勢を説明しておく。楽にしたまえ」
ドドンナの言葉に、スコールたちは休めの姿勢を取った。
「魔女がガルバディア政府の平和使節に任命されたことは知っているな?」
先ほどの、デリングが発表しようとしていた事だ。サイファーによって、邪魔をされてしまったが・・・。
「しかし、平和使節とは名ばかり。行われるのは会談ではなく脅迫だ。よって、公平な話し合いなど不可能だ。ガルバディアは魔女が振りまく恐怖を使って、自分たちに有利な条件を他の国に認めさせるつもりなのだ」
魔女の恐怖というのは、ほとんどの人間が知っているものだろう。
たちが使う疑似魔法とは違い、“本物の魔法”を扱う魔女。時にはその魔力で人を魅入らせ、操ったりもする。強大な力を持つゆえ、世界を支配したいと考え、人々に恐れられている存在だ。
「最終的にはガルバディアによる世界支配が目的なのは明白である。もちろん、我々や君たちのガーデンも例外ではないだろう。事実、すでに魔女はこのガーデンを本拠地にすると通達してきている」
そうなっては、バラムとトラビアのガーデンも黙っていられないだろう。ガーデンを支配下に置くなど・・・魔女に屈するわけにはいかない。
「・・・我々に残された選択肢はそれほど多くはない。我々は君たちに世界とガーデンの平和、そして未来を託す」
なんとも、重すぎる任務を与えてくれたものだ。世界平和などと・・・新人SeeDに任される仕事ではない。途方もない。
「具体的な任務内容は命令書で確認したまえ。質問は?」
渡された命令書に目を通し、スコールはある一点で目を止める。
「命令書によると方法は“狙撃”とあります。しかし、我々の中には確実に狙撃できる技術を持つ者がいません」
確かにそうだ。スコールとは剣、ゼルは己の拳、セルフィはヌンチャク、キスティスはムチ・・・狙撃どころか、銃を扱える者すらいない。
「その点は心配しなくてもいい。ガルバディア・ガーデンから優秀な狙撃手を出そう。キニアス! アーヴァイン・キニアス!」
ドドンナが名前を呼ぶが、返事がない。一体どういうことだ?と首をかしげるが、茂みの方でガサッと音がした。
みれば、カウボーイハットをかぶり、ライフルを持った少年がそこにいた。長い髪は一つに結い、澄んだ群青の瞳でこちらを見つめた。
立ちあがり、近づいて来ると、背の高い少年だということに気づく。スコールよりも高いだろう。
「アーヴァイン・キニアスだ。狙撃は彼が完璧にやり遂げるだろう。では、準備ができ次第、出発したまえ。失敗は許されないぞ」
責任だけをスコールたちに押し付け、ドドンナが来た時と同じように、車に乗ってガーデンへ去って行く。その車に向かい、アーヴァイン・キニアスは指を向け「BANG!」と銃を打つ仕草を見せた。
どうやら、あの学園長は生徒にも嫌われているようだ。無理もないが。
「バラムのイナカ者諸君、よろしく」
口を開いた途端、飛び出してきた失礼な発言に、ゼルがグッと拳を握りしめる。
「僕のサポート、大丈夫か?」
ゼルでなくとも、ムッとしてしまう。SeeDを舐めてもらっては困る。
「あ、僕の言うことって、人の反感買うことが多いんだよね。まあ、あんまり気にしないでよ。それが僕と上手に付き合うコツさ」
両手を広げ、軽い口調で言い放つアーヴァインに、ゼルは今にも殴りかかりそうな勢いだ。彼はゼルと一緒にしない方がいいだろう。
「ね、どんな命令受けたの?」
「そういえば・・・命令書、なんて書いてあったわけ? 狙撃、とか言ってたけど」
リノアの疑問に続いて、も口を挟む。
「次の仕事は・・・いや、これは仕事ではない。バラムとガルバディア、両ガーデンからの命令だ。俺たちは・・・魔女を暗殺する」
「あ・・・暗殺!?」
「手段は遠距離からの狙撃だ。このキニアスが狙撃手を務める。俺たちはキニアスを全面的にサポートする。狙撃作戦が失敗した場合は直接バトルで正面攻撃だ」
「・・・なるほど。それは責任重大ね」
さすがのも緊張する。キスティスも同じだろう。スコールたちに至っては、新人SeeDだ。こんな重大な命令を任されてもいいのだろうか?
「僕は失敗しない。ドント・ウォーリーだよ」
「確実に魔女を倒すべし。これが新しい命令だ」
アーヴァインの言葉を完全に無視し、スコールがたちに告げる。
「これからガルバディア首都のデリング・シティへ向かう。そこでカーウェイ大佐と会って、具体的な作戦の打ち合わせをする。さあ、出発だ」
***
ガーデン西駅から電車を乗り、目指すはデリング・シティ。この調子だと、向こうに着くのは夕方になるだろう。休む間もなく、あっちへ行ったりこっちへ行ったり・・・正直、疲れてもきていた。
だが、SeeDの任務ならば不眠不休が続くのは当たり前だ。そういう訓練もしてきた。弱音は吐いてはいけない。
電車に乗り込み、例のごとくセルフィがキャビンに続くドアを見つめる。スコールはそれを予測して、先にドアのロックを解除してやった。
うれしそうにドアの向こうへ走って行くセルフィを、スコールはため息をつき、見送った。
「スコール、ごめんね、ストックしてる魔法の確認したいから、部屋にいる」
「ああ、了解」
の言葉にスコールは静かに答える。はドアを通って部屋に入った。
「・・・フゥ」
部屋の中のソファに座り、思わずため息がもれた。これから行われる任務は、失敗は許されない大切な任務だ。知らず、緊張していたようだ。
「お邪魔〜」
「え・・・」
だが、聞こえてきた声に、は思わずギョッとした。ガルバディア・ガーデンで知り合ったばかりのアーヴァイン・キニアスが部屋に入って来たのだ。
「な・・・何・・・??」
「そんなに警戒しなくてもいいじゃない。ちょっと聞きたいことがあってね」
「聞きたいこと?」
ドサッとの隣に腰を下ろし、どこか遠くを見つめるような彼の姿に、は首をかしげた。
「アーヴァイン・・・?」
「・・・キミ、出身はどこ?」
「出身? バラムだけど??」
何を聞かれるのかとドキドキしたけれど、当たり障りのない質問だ。呆気に取られながらも、正直に答えた。隠すことでもない。
「バラム? その前は?」
「その前?? ずっとバラムだけど・・・。ああ、子供の頃の記憶はないの。もう何年も前のことでしょ? 忘れちゃった」
「・・・・・・」
「何? どうかしたの?」
「い〜や、別に」
短くそう答えると、アーヴァインは立ちあがった。
「バラムかぁ〜・・・僕もSeeD目指してみようかな〜」
そう言い残し、長身の彼は部屋を出て行った。残されたは、あ然としながらその背中を見送った。
「・・・何、今の? 何かの誘導尋問?」
不可解な行動をしたアーヴァインに、はただ戸惑うことしかできなかった。