3.狙撃主

Chapter:1

 フッ・・・と意識が浮上した。慌てて起き上がると、目の前にリノアがいた。

 「あ・・・れ・・・?」
 「大丈夫?」

 心配そうな表情で、リノアが声をかけてくれた。
 だが、先ほどまでの“アレ”は何だったのか・・・。「キロス」と呼ばれていたが・・・。

 「・・・またラグナか?」

 ゼルの問いかけに、起き上がったスコールがうなずく。

 「ラグナ様、ピンチなんだよ〜! どうなったのかな〜!!」
 「ラグナ・・・ってことは、さっきのが列車の中でセルフィたちが見た夢?」
 「そうだよ〜」

 1人だけが見るのではなく、3人同時に同じ夢を見ている・・・これは勘違いでは誤魔化せそうもない。

 「ここで考えてもきっと何もわからないさ。先を急ごう」
 「お、行こうぜ! もうすぐ到着だからな」

 ラグナたちの一件で、少しは考える時間があったのか、ゼルは落ち着きを取り戻していた。もしくは、キスティスが何かを助言したのか。
 とにかく、スコールとリノアの衝突は、あれで終わってくれたようだ。

 「スコール・・・ごめんね」

 リノアが素直に謝るが、スコールは黙ったままだ。

 「班長〜。何か言ってあげなきゃ、リノアには伝わらないよ〜」
 「・・・悪かったな」

 それはリノアに対してか、セルフィに対しての言葉なのか・・・。
 言葉足らずなスコールに、はクスッと微笑んだ。案外、彼はセルフィやリノアのような、明るい女の子が似合うのかもしれない。

***

 森を抜け、西へ少し歩くと、それは目に飛び込んできた。
 デザインはバラムと変わらないが、向こうは青を基調とした色合いだが、こちらは赤を基調としていた。
 そして、ガーデンの周りを飛び交う機械・・・ガルバディア・ガーデンが所持している、人が乗る機械兵器だ。
 カードリーダー前にスコールたち6人が集まる。しん・・・と静まり返るガルバディア・ガーデンは、どこか空気も冷たく感じた。

 「かなり雰囲気違うなあ。トラビアともバラムとも」

 トラビアとバラム、両ガーデンを知るセルフィが率直な感想を述べる。

 「静かだな」
 「・・・いいところだ」
 「でもちょっと・・・息が詰まるなぁ、私は」

 ゼル、スコール、がそれぞれの感想を口にした。

 「ねえ、ここは私に任せてくれる? 何度か来てるから学園長も知ってるし。事情を説明してくるね」

 キスティスは教師だったのだ。他のガーデンとも交流があったのだろう。ここは彼女に任せよう。
 SeeDの班長のパスを見せ、スコールたちも中に入る。物珍しそうにガーデン内を歩いていると、アナウンスが流れた。2階の応接室で待機しろ、とのことだった。
 応接室の場所を近くにいた生徒に聞くと、階段上がってすぐの部屋だ、と簡潔に返され、急ぎ足で去って行った。

 「な〜んか、感じわる〜い」

 セルフィの言う通りだ、と思うが、これがガルバディア・ガーデンの校風なのだろう。
 応接室に入り、待つこと数分・・・さすがに5人もそろそろヒマを持て余してくる。

 「長いわね・・・。何かあったのかな?」

 何せ、キスティスは教員免許をはく奪されたSeeDなのだ。面倒なことになっていなければいいが・・・。
 そう思った矢先、キスティスが部屋に入ってきた。

 「どうだった?」

 スコールが開口一番、尋ねる。

 「私たちの事情は理解してもらったわ。それから、バラム・ガーデンも無事」

 キスティスのその言葉に、ゼルが心の底からホッとしたような表情を見せた。

 「ティンバーでの大統領襲撃事件は犯人の単独行動だと判明したそうよ。バラム・ガーデンの責任は問わないという、ガルバディア政府の通達があったって」
 「犯人ってサイファーか!?」

 驚いて声をあげるゼルに、当然だ・・・というようにキスティスがうなずいた。

 「裁判は終わって・・・刑も執行されたそうよ」
 「・・・処刑されちゃった? ウソでしょ・・・!?」

 リノアが顔を青くさせ、小さくつぶやく。

 「そんな・・・サイファーが処刑されたなんて・・・」
 「大統領を襲ったのよ? 仕方のないことだと思う」
 「でも・・・!! サイファーはわたしたちの身代わりに・・・!」

 の冷静な言葉に、リノアが反論の声をあげるが・・・言葉が出てこない。

 「確かに、サイファーを巻き込んだのはリノア・・・あなたたちよね。でも、レジスタンス活動をしてるんだもの。最悪の事態の覚悟はあったんでしょ? サイファーだって、考えてたと思うわ。だから自分の身代りになったとか、そういう考え方がしない方がいい。ごめん。全然なぐさめになってないね」

 キスティスのなぐさめの言葉に、リノアはうつむいた。
 リノアはサイファーを頼り、サイファーはリノアを助けようとした。つまり、2人は憎からず想い合っている仲なのだろう。
 色恋沙汰に、それほど鋭くないにも、リノアの気持ちが誰に向いているのか、それでわかった。

 「イヤなヤツだったけど、こういうことになるとなぁ・・・。あの・・・野郎・・・」
 「ゼルなんか、サイファーのこと大嫌いだったよね」
 「そりゃそうだけどよ・・・。同じガーデンの仲間だったからな。悔しいし、できるならカタキ討ってやりたいぜ」
 「なんか、ブルー」

 セルフィとゼルが同時にハァ・・・とため息をつく。セルフィはそのまま視線を窓の外へ向け、ゼルはソファの背もたれに寄りかかった。

 「彼のことで良い記憶なんて全然ないの。問題児ほど可愛いって言うけど、彼はその範囲を越えてたわ。ま、悪人ではなかったけど。結局SeeDにはなれなかったわね、サイファー・・・」

 過去を振り返り、キスティスがつぶやいた。

 「わたしは・・・あいつのこと、大好きだった。いつでも自信たっぷりで、なんでも良く知ってて・・・。あいつの話を聞いてると、なんでもできるような気持ちになった」
 「カレシ?」
 「そんなんじゃない。わたしは・・・恋、してたと思う。でも、あいつはどう思ってたのかな・・・?」

 セルフィの問いかけに、リノアは正直に答えた。本人がいなくなってしまったからこそ、言えることなのだろう。

 「ねえ、今も好き?」
 「・・・好き、だと思う。じゃなきゃ、こんなに胸が痛むわけない」
 「・・・・・・」

 リノアの言葉に、一同は押し黙ってしまった。

 『恋してた・・・悪人じゃなかった・・・仲間だった・・・。サイファー・・・あんた、すっかり思い出の人だ。俺も・・・俺も死んだらこんな風に言われるのか? スコールはこうだった、ああだった、過去形で・・・好き勝手なこと言われるのか? そうか。死ぬって、そういうことか・・・。イヤだな・・・俺はイヤだ!!』

 一同の様子を眺めていたスコールは、頭の中で葛藤し始めていた。

 「スコール?」

 傍らに立っていたが、ギュッと拳を握りしめたスコールの姿に気づき、怪訝そうな表情で声をかける。

 「俺はイヤだからな!」
 「な、なんだよ」
 「怒ってるう!?」

 突然、声を荒げたスコールに、ゼルとセルフィがギョッとする。もちろん、驚いたのはたちも同じだ。いきなり、何を言い出すのか。

 「俺は過去形にされるのはごめんだからな!」
 「え・・・? あ、ちょ・・・スコール!!」

 そう言い残すと、スコールは応接室を出て行ってしまった。
 残された5人は呆気に取られ、顔を見合わせる。

 「・・・わたしたち、何か悪いこと言ったかな?」

 リノアが申し訳なさそうに、一同の顔を見回すが、みんながみんな、首をかしげた。

 「なんだろ・・・スコールとサイファーって、いい好敵手だったでしょ? その相手がいなくなっちゃって、寂しいんじゃないかな? なんだかんだ言って、気にしてたんだろうね」
 「スコール、サイファーがいなくなって、寂しいのかぁ〜」
 「わからないけどね」

 の予想にセルフィが意外そうな声をあげる。はそんな彼女に苦笑をして見せた。あくまで、の予想だ。

 「でも、ビックリしたなぁ〜・・・。いきなり“過去形にされるのはごめんだからな!”って言い出すんだもん」
 「・・・死にたくない、ってことなのかな」

 ゼルのつぶやきに、キスティスが「そうかもね」と同意した。
 誰だって、死ぬのは嫌だ。SeeDなんて傭兵をしていても、好き好んで死にに行くバカはいないだろう。だが、スコールたちが選んだのは、死と隣り合わせの世界なのだ。
 誰かに決められた道ではない。自ずから選んだ道なのだ。

 『・・・大丈夫かな、スコール』

 まさか、これでSeeDなんてイヤだ、とか言い出さないといいけどな・・・。
 と、応接室内にアナウンスが流れた。

 《バラム・ガーデンから来たSeeD部隊はゲート前に集合してください》

 聞こえてきたそのアナウンスに、たちは部屋を出た。

 「あ、あたし班長を探してくるね〜。先に行ってて」
 「うん」

 タッタッタ・・・と軽快に駆けて行くセルフィの背中を見送り、たちはガルバディア・ガーデンのゲートへと向かった。