2.レジスタンス

Chapter:5

 学園東駅で下り、西の森を抜ければガルバディア・ガーデンへたどりつく。
 降車した6人はその足で森を抜けてガーデンへ向かうことになった。

 「ガルバディア・ガーデンはもうすぐよ!」

 森に入り、キスティスが仲間たちに声をかける。思えば、朝にティンバーに到着してから偽の大統領と戦い、サイファーの一件があり・・・スコールたちは息つく間もないほど慌ただしい。

 「今さらだけどさ〜ガルバディア政府から良くない連絡入ってるかもよ。いきなり捕まっちゃって、世界に放送されちゃったりして」

 セルフィが縁起でもないことを言い出す。その言葉に反応したのはゼルだ。

 「そんときゃ、そんときでいいだろ! 早く行こうぜ! オレ、バラム・ガーデンの様子が知りたいんだ。ガーデンに何かあったらオレのせいだ。みんながガーデンから来たことを言っちまったのはオレだから・・・。な、あの大統領、ガーデンに報復するかな?」

 ゼルの視線の先は、班長のスコールだ。

 「かもな」

 冷たくスコールはそう返す。その答えに、ゼルはガックリと肩を落とした。

 「・・・だよな。で、でもよ、バラム・ガーデンにはSeeDも大勢いるもんな! ガルバディア軍に負けたりしないよな?」
 「ガルバディア軍の戦力にもよるだろ?」
 「そうだけどよ・・・」

 スコールの冷たい言葉に、ゼルは肩を落とす。悪い考えがどんどんと浮かんでくる。

 「素晴らしいリーダーね。いつでも冷静な判断で仲間の希望を否定して楽しい?」

 それまで、やり取りを見ていたリノアが、たまらずに口を挟んできた。

 『・・・また絡むつもりか』

 スコールは眉根を寄せ、リノアを睨みつけるが、気丈な彼女には通用しない。

 「ゼルはあなたの言葉が欲しいのよ」

 班長であるスコールの・・・。それは、スコール自信もわかっていた。

 「大丈夫だ、とか、がんばれとか。そういう言葉があればゼルだって・・・」

 リノアの言葉に、スコールは彼女から目を逸らす。

 『そんなのは気休めだろ? そう思ってるのは俺だけか? いや、サイファーだって・・・』

 気休めの言葉など、何の役にも立たない。どんなに励まされても、来るべき時は来るのだ。どんなに足掻いても・・・抗うことなど出来ないのだ。

 「そういう言葉が仲間の元気や勇気になるんだから」
 「でも、そうやって勇気づけたところで、ゼルが犯した失敗は消せないわ」

 聞こえてきた声はスコールのものではない。黙ってやり取りを見ていただ。

 「リノアの優しい気持ちはわかる。だけど、ゼルはSeeDよ。今回の失敗をいつまでも引きずっていたら、今後SeeDなんてやってられないよ」
 「まで、そんな・・・!」
 「だから、ゼルには自分の力で乗り越えてほしいの。まあ、スコールがどう思ってるのかは、わからないけど。ね、スコー・・・」

 笑顔でスコールを振り返ろうとした瞬間、頭の中に何かノイズが走った。

 『え・・・何・・・これ・・・眠い・・・?』

 慌てて頭を押さえる前で、スコールの体が崩れ落ちる。

 「スコール!?」
 「あっ・・・あたしも・・・」
 「セルフィ!」

 フラリ・・・とセルフィの体が草の上に倒れ、ゼルが駆け寄った。

 『まさか・・・これって・・・』

 遠ざかる意識の向こうで、リノアの自分を呼ぶ声が聞こえた。

***

 「キロス、ここでいいのか?」

 ウォードが傍らに立つキロスに尋ねる。視線の先には何やら悩んでいるラグナの姿。

 「間違いない」

 確信を持って、キロスがうなずく。彼がそう言うなら間違いないだろう。

 「こないだみたいに全然違う場所偵察するのは、かなわねぇぜ」

 ティンバーの森でのことを言っているのだろう。ウォードはため息をついた。
 そんなキロスとウォードの2人に、ラグナが申し訳なさそうに声をかける。

 「わりぃ、間違った。現場はここじゃねえ」
 「ここで正解だ。行くぞ、隊長さん」
 「? 地図、間違っちまった」

 またか・・・とキロスとウォードは思う。彼に地図を渡すとロクな目に遭わないことを、2人はよく知っている。今回はキロスが正しい地図を持っていたので助かった。
 先へ進み、大きな石の建造物に入ると、ラグナが突然立ち止まった。

 「ぬあ〜にっか、イヤ〜な予感がする! こいつは・・・ぜ〜ったい、何かある! 何にも無いところに、香りは立たねぇって昔の人はいいこと言ったもんだ」
 「けむり・・・だろ?」
 「最後の1文字だけ合ってるな」

 キロスとウォードの突っ込みに、ラグナは顔を赤くした。

 「うるせえな! ガタガタ言ってねえで、ちゃんと装備確認だ!」

 逃げるように先を進もうとしたラグナだが、一行の前にカラフルな軍服に身を包んだ兵士が姿を見せた。エスタ兵だ。
 ただの偵察だったはずが、何故こんなことになったのか・・・必死にエスタ兵から逃げるも、逃げた先は崖っぷち・・・。

 「もしかして・・・」
 「最悪な・・・」
 「パターン・・・?」

 ラグナ、キロス、ウォードがつぶやく。その3人の背に迫るエスタ兵。これ以上は逃げられない。戦うしかなかった。
 だが、勝機の見えなかった戦闘に、なぜか勝利している。しかも尋常ではない力を発揮しているのだ。

 「あぁ〜! 腹が減ってきたぜ〜!」

 そうすると、余裕も出て来る。襲いかかって来るエスタ兵に、ラグナがマシンガンを向け、撃ち込む。

 「鼻の頭がムズムズする〜!」

 余裕を持って戦っていたラグナたちだったが、最後の1人は他の兵士たちと違った。
 鎌のような武器を振りまわす様は、確実に他の兵士と違う。体力もタフだ。ラグナたちの勢いが押されていく。
 だが、ラグナは思い切って隠し持っていた手榴弾を兵士に投げつけ、爆発させると、ロープを岩肌に引っかけ、それにぶら下がりながらマシンガンを乱射させた。
 その攻撃を受け、エスタ兵がキロスとウォードに襲いかかる。2人はそれを防ぎきれず、捨て身の攻撃を食らって倒れ込んだ。

 「キロス! ウォード!」

 ラグナが2人に駆け寄るも、2人は瀕死状態だ。

 「見ろよ、海だぜ・・・助かったぜ! なんてついてるんだ・・・オレたちよぅ。ガルバディアまで逃げられるぞ!」
 「追いつめられた・・・とも言うな。・・・普通は・・・そう言うな」

 きっと新たなエスタ兵が迫ってきていることだろう。今のキロスとウォードに戦う力はない。

 「そんなこと言うと、ホントになるぜ。おばあちゃんに言われなかったか?」
 「・・・悪いこと・・・言葉にすると本当になる・・・ああ、言われたな」

 キロスは必死に言葉を紡ぐ。

 「ぜ・・・ひ・・・」

 だが、ウォードはもう言葉も出ない。

 「なん・・・だって?」
 「ノド・・・やられたみたい・・・だ。声・・・出ない・・・だろう」

 キロスのその言葉に、ラグナが愕然とする。

 「た・・・かっ・・・」
 「なんだって?」
 「た・・・の・・・しか・・・った・・・ラグ・・・ナと・・・キロ・・・スと・・・楽・・・し・・・かった・・・」

 まるで今生の言葉のようなそれに、ラグナはキッと睨みつけ、立ちあがる。

 「ウォード君、減点。そういうこと・・・言うのは減点。罰として・・・ピヨピヨグチの刑だ! 悔しいかあ? 悔しかったらな・・・ほら来い!」

 挑発するラグナだが、ウォードはぴくりとも動かない。困った様子で崖下を見たラグナはそこに何かを見つけた。

 「おわっ!! 見ろ・・・船だっ! あれ、乗るぞ!」
 「ボート・・・とも言うな。・・・普通は・・・そう言う」

 崖下をなんとか覗きこんだキロスが、いつものように的確な突っ込みを入れる。

 「ボートでもいいぜ〜。あれに乗って、ガルバディアへ帰る!」

 そう言うと、ラグナはキロスの体を肩に担ぎ、そのまま崖下へ放り投げた。そして、ウォードの大きな体を押しやり、崖下へ突き落した。
 さて、ラグナの番・・・と、崖下を覗きこみ、思わず身震いした。

 「お前ら・・・スゲエ勇気だぜ。こんな所から・・・よく飛ぶよな」

 あんたが突き落としといて何を言う。

 そんな突っ込みが聞こえたようだが、気にしない。
 ラグナはそろそろと足を崖下へ出すが、なかなかそこから落ちる勇気が出ない。有無を言わさず突き落された2人の方が、幸せだったかもしれない。

 「お・・・わ! マジかよ」

 一度下を覗きこみ、やはり怖気づくラグナだったが、思ったより体重が外へ向いてたらしい。バランスを崩し、そのまま足から落っこちた。

 「ああっ!!」

 それが、彼の断末魔の声だった。