2.レジスタンス

Chapter:4

 サイファーたちが姿を消すと、ようやく体の自由が利くようになった。
 デリングが逃げて行った方から、リノアが走ってやって来る。裏口でもあるのだろうか。

 「こっちこっち! ね、サイファーは?」
 「わからない」

 どうやら、先ほどの放送をリノアも見ていたらしい。

 「あいつなら、きっと大丈夫だよね」

 心配そうな表情で、リノアは小さくつぶやいた。
 話を聞くと、森のフクロウのアジトが見つかり、壊されてしまったらしい。メンバーは散り散り。どうしたものかと落胆するも、リノアはすぐにティンバー脱出を命じてきた。
 もちろん、ティンバー独立までリノアはスコールたちのクライアント・・・命令は絶対だ。
 リノアを連れてティンバーの町、酒場まで戻ると、1人の女性がリノアに声をかけてきた。

 「リノアちゃん、聞いたよ! あんたたちのアジト大変だって話しじゃないか。ほとぼりさめるまでウチにおいでよ」
 「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

 女性に連れられて向かったのは、一軒家。けして広くはない家の一室で、スコールたちはハァ・・・とため息をついた。
 ここはレジスタンス“森のキツネ”の首領の家だという。先ほどの女性がそうだ。ティンバーにレジスタンスが多いというのは、本当のことのようだ。

 「本当に活動してるのは、わたしたちくらいだけどね」

 と、リノアは苦笑してみせた。誰もがガルバディア軍の報復を恐れているのだろう。

 「ちょっとだけお世話になろうよ」
 「そうね・・・今、ティンバーの町をうろつくのは賢明じゃないと思う」

 リノアの言葉にが同意し、スコールはうなずいた。

 「でも、わっかんないなぁ〜。サイファー、何しに来たの?」
 「・・・わたしたち“森のフクロウ”のために来てくれたんだと思う。わたし、色々相談してたから。だから、あいつのことあんまり悪く言わないでね」

 あくまでリノアのための暴走だったのだ。自分勝手な気持ちで起こしたことではない。そう思うと・・・何も言えなくなった。
 と、ガルバディア兵がこの家にやって来る。首領が相手をするから、スコールたちは2階へ・・・と言われ、今度は2階に移動する。小さなベッドにセルフィとリノアが腰をかけ、ゼルは部屋の隅で座りこみ、スコールと、キスティスは外の様子をうかがった。

 「ティンバーに派遣されたのがスコールたち4人だけだと聞いて怒ってたわ。“ガルバディア全軍と戦うことになるかもしれないんだぞ! それなの派遣されたのは新人SeeD3人に先輩SeeD1人だけかよ! くそっ! 俺がティンバーへ行ってやる!” まさか本気だとは思わなかった」

 だが、あのサイファーならやってのけても不思議ではない。スコールもそう思ったことだろう。

 「サイファー、どうなるのかしら」
 「もう殺されている可能性もあるな」

 キスティスの言葉に、スコールが冷たく返すと、話を聞いていたリノアが顔をあげた。

 「そんなにあっさり言わないでよ。なんか、あいつ・・・かわいそ」

 リノアの言葉に、スコールが鼻で笑う。かわいそうだなんて、サイファーは怒るだろうな、と。

 「何がおかしいのよ! ひどい人ね!」
 「ね、どうしてサイファーは死んでるかも、って思うの?」

 憤るリノアに対し、セルフィが落ち着いた声音でスコールに尋ねた。女子勢がスコールに注目し、少しだけ言いづらそうな雰囲気だが、スコールは口を開いた。

 「ガルバディア大統領と魔女は手を組んだ。その大統領をサイファーは襲った。魔女にとってもサイファーは敵だ。だからサイファーがあの後、始末されたとしても不思議じゃない」
 「そうだとしても! 生きてて欲しいって思うよ!」

 立てた膝に顔を埋め、リノアが声をあげる。

 「期待しなければどんなことでも受け入れられる・・・傷が浅くてすむ。まあ、あんたが何を望んでも俺には関係ないけどな」
 「・・・優しくない。優しくない!!」
 「・・・悪かったな」
 「スコールは、なんでそう思うようになったの?」

 が口を挟んできた。リノアたちの視線が、今度はへ向けられる。

 「私もスコールと同じSeeDだけど・・・そこまで非情になりきれない。そりゃ、私たちは任務で何人もの人間を殺してる。仲間が死んだことだってある。でも・・・サイファーはあなたにとって、特別なはずでしょ? あなたの手で決着つけたいって思わないの?」
 「・・・そんなこと、今になっては考えたって仕方ない。こうなってしまったことは、変わらないのだから」
 「ああ、そう。それでサイファーがもしかしたら無事かもしれない、ってことは考えないのね。悲観的な班長さん。さ、行きましょうか。ガルバディア兵が引きあげたって」

 下から聞こえてきた声に、が先に階段を下りて行く。

 『・・・なんだよ、それ。考えたって仕方ないじゃないか。そんな誰かの心配をするよりも、自分のことを心配したほうが・・・』
 「はんちょ、あたしは、どっちでもないからね〜」
 「は?」

 考え事をしていたスコールの顔を、セルフィが覗きこんでくる。無邪気な笑みを浮かべた彼女に、ドキッとした。

 「あたしは、の味方も〜班長の味方も〜どっちもしないよ。あたしは、あたしの味方。だから、何かを言うつもりはないからね」
 「・・・・・・」
 「ゼルのことも、責めないよ〜」

 ヒラヒラと手を振り、セルフィも階段を下りて行く。リノアとゼルも続き、キスティスがスコールを振り返る。

 「・・・私は、リノアの気持ちもの気持ちもセルフィの気持ちも、もちろんあなたの気持ちも、全部わかる気がする。どれが正解かは、わからないけれど」

 正解なんて、ないのかもね・・・と告げ、キスティスも階段を下りて行った。

 「さて、班長さん。どうしますか?」

 の言葉に、スコールは腕を組んで考え出す。とりあえず、町を出るのが先決だが・・・。

 「町を出た後は、どうしますか?」
 「どこか心当たりがあるのか?」
 「ガーデン関係者心得。第8条7項」

 キスティスの言葉に、スコールは頭の中でその項目を思い出す。

 「最寄りのガーデン・・・」
 「Very Good! ここからなら、ガルバディア・ガーデンね」
 「あ、ここの駅から列車出てるよ! 学園東って駅まで行くの」

 ガルバディア・ガーデンの名前に、リノアが声をあげる。そうと決まれば、早速ガルバディア・ガーデンへ向かおう。
 首領に礼を言い、家を出ると、ガルバディア兵が駆け寄って来た。身構えるスコールたちだったが、相手は「オレっス! オレっスよ!」と声を発した。ワッツだ。

 「情報あるッス。ティンバーの駅が一時閉鎖されるッス」
 「絶体絶命ピ〜ンチ!!」
 「そうでもないッス! まだ完全閉鎖じゃないッス。もうすぐ学園東行きの列車が出て、閉鎖はそれからッス」
 「その列車に乗るぞ」

 スコールの言葉に、一同はうなずく。目的地へ向かう、最後の列車だ。乗り逃すわけにはいかない。

 「リノアも一緒に行くッスね!」
 「うん、行く。ワッツはどうするの?」
 「オレのことは心配いらないッス! たっくさん情報仕入れるッス!」
 「戻ってくるからねっ、元気でねっ」
 「スコールさん、リノアをよろしく頼むッスよ」
 「ああ、心配するな。クライアントの命令だからな。あんたはいいのか? ここにいて大丈夫なのか?」
 「やるときゃやるッスよ! SeeDにゃ負けないッス! 感激ッス!」

 グッと拳を握りしめ、ワッツはスコールたちの傍を走り去って行った。
 スコールたちものんびりしている場合ではない。早く駅へ向かわなければ。
 と、急ぐ一同の前に1人の老人が歩み寄って来た。何事か、と思えば、彼は聞きなれた声を発した。

 「リノア、スコール班長! 俺だ!」
 「ゾーン!」

 仲間の無事な姿に、リノアがホッと胸を撫で下ろす。

 「学園東行き列車に乗るんだろ? でもパスは手に入らないぞ」
 「しっぱ〜い」
 「ムリヤリにでも乗り込むさ」

 こうなれば強硬手段・・・と言いたげなスコールに、ゾーンは首を横に振る。

 「そんなことしなくていい。騒ぎは起こすな。へへん! ゲットしといたぞ、みんなのパス。ほら、これだ」

 そう言うと、ゾーンはポケットから6枚のパスを取り出した。

 「SeeDは4枚だな。班長さんに渡すよ。で、最後の1枚は俺の・・・」

 と言いかけ、そこにキスティスの姿を認め、パスとキスティスを見比べる。

 「・・・最後の1枚はあんたのぶん」
 「受け取れないわ。あなたのパスでしょ?」

 拒むキスティスだったが、ゾーンがいきなりその場に蹲った。

 「うっ! イテテテテ! 腹が痛い! イテテテ、早く行けよ! 列車が出発するぞ」
 「・・・ありがとう」

 キスティスのためにパスを譲ってくれたゾーンに礼を言い、スコールたちは列車に向かう。
 だが、リノアは足を止め、未だに蹲るゾーンに声をかけた。

 「ゾーン、また会うんだからね。ちゃんと生きてないとダメだからね。一緒にティンバー独立させるんだから」
 「わかってるって。便所にでも隠れてるさ。早く行けよ」
 「うん!」

 大きくうなずき、リノアはスコールたちを追いかけて走り出した。

***

 最終列車に乗り込み、ようやくスコールたちは一息ついた。なんとかガルバディア・ガーデンまでたどり着けそうだ。

 「なんとか・・・」
 「あけて〜あけて、あけて〜」
 「なる・・・」
 「あっけろぉ〜〜〜」

 言葉を発するスコールの背後で、セルフィがキャビンに向かうドアを開けろと訴える。

 「開けてっ」

 スコールを見つめ、ニッコリ笑うセルフィの姿に、逆らわない方がいいと判断したスコールは、チェッカーにパスを通し、ドアを開けてやった。

 「えへへ〜。お先!」

 上機嫌で中へと入って行くセルフィを見送り、スコールはため息をついた。

 「すぐに着くはずだから、私たちはここでいいわね」

 学園駅東までは30分ほどで到着するだろう。

 「何か言いかけたんじゃないの?」
 「・・・なんとかなったな」

 先ほどのスコールの様子を思い出し、リノアが声をかけると、小さくスコールがつぶやいた。
 チラッとがゼルに視線を向ける。当たり前だが、元気がない。自分の軽はずみな発言のせいで、ガーデンが危機に陥っているのだ。もしもガルバディア軍がバラム・ガーデンを襲ったら・・・そんな不安が頭を離れないのだろう。
 どうにかして、バラム・ガーデンの無事を知りたいが、今はどうしようもない。それにガルバディア・ガーデンへ行けば、何かしらの情報は入って来るだろう。今はガルバディア・ガーデンへ向かうしかない。

 『・・・大丈夫、なんて無責任なことは言えないし・・・ゼルには、SeeDとして自覚を持ってほしい』

 SeeDである限り、自分たちはガーデン生の手本になる。出発する時、教師が言っていたことだ。
 酷なことかもしれないが、これはゼルが自分で乗り越えなければならない壁だ。
 揺られる列車の中、ゼルは1人、車窓から静かに外を眺めていた。