2.レジスタンス
Chapter:2
会議をしていた部屋から出ると、ドアの前にワッツが立っていた。
「拉致作戦・・・大変ッスけどがんばってくださいッス! 準備OKッスか!?」
「OKだ」
ドアが開かれ、スコールたちは列車の屋根に上がる。すでにリノアが待ちかまえていた。
「2回目の切り放しも含めて、作戦終了まで・・・5分! がんばろうね! スコール、、ゼル、セルフィ!」
「うん!」
「任せとけ!」
リノアの言葉にセルフィが笑顔でうなずき、ゼルも拳で手のひらを叩く。とスコールは黙ってうなずいた。
「それじゃあ・・・作戦、開始!」
***
スコールたちの作業は、滞りなく進んだ。
センサーに引っかかることもなく、スコールのパスコード入力もすんなり完了し、護衛車両とダミー車両が切り替え部分で離れて行く様を見守った。
始まる前は5分で本当に終わるのかと心配していたのだが、終わってしまえが簡単なものだった。さすがはSeeDというべきか。
今は、大統領車両とアジト列車が繋がって走っている。車内に戻れば、ゾーンとワッツが緊張した面持ちで待っていた。
「いよいよ・・・待ちに待ったビンザーとのご対面だな」
ゾーンが息をのみ、心なしか顔色を青くさせている。
「じゃあ・・・」
「情報収集なら任せてくれッス!」
リノアが大統領の前に行く面々を告げようとすれば、ワッツがそう言ってその場を離れ・・・。
「イテテテテ! は、腹が・・・!」
ゾーンはそう言って座りこんだ。その情けない姿に、リノアはハァ〜・・・とため息をついた。
「そこの4人! 準備が出来たら言ってね。準備が整い次第、大統領と“話しあい”を始めます!」
話しあい・・・果たして、本当に話しあいになるのだろうか・・・?
「スコール、ゼル、セルフィ、ここからが本番ね。緊張してる?」
「してないよ〜! あたしは平気!」
「・・・問題ない」
セルフィとスコールがそう答えるが、ゼルは大きく深呼吸をしている。何事も前向きなセルフィと、何事にも淡々とした態度のスコールに対し、ゼルは新人SeeDらしい様を見せている。
サイファーからは「チキン野郎」とからかわれている、ということらしいし・・・あながち、チキンなのかもな、なんて失礼なことを思ってしまった。
「は〜? 緊張してる〜?」
「そうだね・・・大統領を近くで見ることなんて、そうそうないから、そういう点では緊張してるかな?」
「任務自体には緊張してないんだ〜。さすがだなぁ〜」
そう言うあんたも、緊張してないんだろ・・・と、スコールはセルフィを見やり、思う。
「あんたら、大統領のもとへ乗り込むんだろ?」
聞こえてきた声に、振り返れば、リノアとゾーン、ワッツ以外の森のフクロウメンバーが立っていた。
「デリングだけは、許しちゃいけない。あいつは・・・自分の気に入らない連中を、収容所へ送り込むという非情な男だ。普通は働き盛りの男だけだと思うだろ? でも、デリングの場合は、女、子供、老人・・・誰かれ問わず、反抗する者なら即座に収容なんだ。一時期盛んだったレジスタンスの行動も今じゃ、水面下のものがほとんどなのは、そのせいさ」
「みんな、収容所送りを恐れているのね・・・。だから、誰も逆らえない・・・。でも、あなたたちは違うのね。勇気を持って、デリングに対抗してる。私たち、失敗できないね」
の言葉に、スコールたちは大きくうなずく。彼女の言う通りだ。
「さあ、行きましょ。待たせたら、大統領サマに申し訳ないものね」
そこで待っていたリノアに目を向け、うなずく。
「準備OK?」
「OKだ」
スコールの返事に、リノアは緊張した面持ちでドアに手をかけようとするが、その手を誰かが掴んだ。驚いて視線を動かせば、が微笑んでいた。
「大丈夫。落ち着いて。何かあったら、私たちがあなたを守る」
「・・・」
ありがとう、と微笑み、リノアはドアを開けた。ソファに座り、新聞を広げている男・・・ビンザー・デリングだ。リノアは、そのデリングに近づき、緊張に震える声を押さえ、言葉を発した。
「デリング大統領! 無駄な抵抗を・・・しなければ、危害は・・・加えないわ」
「抵抗をしたら・・・どうなるというのかね・・・お嬢さん」
「!!」
何か様子がおかしいことに、が気づく。いくら危険に何度も巻き込まれた要人とはいえ、護衛も傍にいない状態で、乗り込んできた自分たちに怖気づきもしないのはどこか違和感を覚える。
「どうした?」
スコールがリノアに声をかけると、リノアが一歩後ずさる。彼女も異変に気付いたか。
「残念だったな・・・。私は大統領ではない。世間でいうところの影武者という奴だ」
「!!」
偽者・・・スコールたちの間を衝撃が走る。あっさりと作戦が成功したのは、こういうことだったのか。
「ティンバーにはレジスタンスが多いともっぱらの噂だったが・・・。軽く偽の情報を流しただけで、あっさりと引っかかるとは・・・程度の低いレジスタンスしかいないようだな・・・」
「程度の・・・低い・・・!?」
さすがに、その言葉にはリノアもカチンと来たようだ。自分たちのしていることを、“程度の低い”と言われたのだ。
「ずっと座り続けるのも疲れたな・・・お嬢サ・・・ン・・・無駄な抵抗をしタラ、どう料理スルつもりだったノカ・・・教えテくれナイか・・・。程度ノ低いワリ・・・ニ・・・面白イことヲするジャないカ・・・!!」
立ちあがった偽大統領だが、様子がおかしい。恐怖のせいか、リノアがその場に座り込んでしまう。セルフィも頭を抱え、しゃがみこんだ。
「アノ方を侮辱スル奴は、ゆるサん!!」
リノアに襲いかかろうとしたところを、素早くが動き、リノアの体を抱えて飛び退く。次の瞬間、スコールが割って入り、デリングの体を斬りつけた。
トリガーを引き、弾丸を撃ち込みながら斬りつける。これがガンブレードの特徴だ。
気を取り直し、ゼルとセルフィも身構える。ゼルのパンチが偽大統領の腹部に叩きこまれ、セルフィの巨大ヌンチャクが頭部を打った。
苦しみもだえる偽大統領に、がサンダラをお見舞いする。
「リノア、大丈夫?」
魔法を放ち、がリノアに視線を向ける。この場を離れても大丈夫か・・・問い質せば、リノアは気丈にもうん、とうなずいた。
「スコールたちの・・・加勢をしてあげて・・・」
「了解」
リノアの言葉にうなずき、は刀を抜くと、素早い動きで偽大統領に斬りかかった。
が攻撃に加わっただけで、偽大統領はあっさりと倒される。スコールたちとは、ジャンクションしている魔法が違うのだ。各上の魔法を扱うは、スコールたちの誰よりも強かった。
だが・・・倒されたと思った偽大統領が動きを変える。痙攣し始めた体を突き破るように、ゾンビのような姿を見せたのだ。思わず顔が引きつってしまう。
「化け物か・・・」
思わずスコールが素直な感想を述べる。見るからにアンデッドだ。恐らく、ファイア系の魔法に弱いと判断したスコールは、イフリートを召喚する。
地獄の火炎を浴び、追い打ちをかけるように、がファイラの魔法を放てば、気味の悪いモンスターは姿を霧散させながら消滅した。
***
偽大統領討伐後、アジトに戻って来たリノアたちは、大統領が偽物であったことをゾーンとワッツに報告し、会議室に再び集まっていた。
「チェッ、大統領が偽者だったなんてなあ」
「あんなのに騙されるなんて、悔しいわね〜」
あちらとしても、簡単に罠に引っ掛かってくれて万々歳だろう。
と、そこへワッツが息を切らせて会議室へ駆けこんできた。今まで情報収集をしていたのだろう。
「大変ッス! 大統領の目的がわっかりました〜! 大統領は放送局に行くみたいッス! 警備の兵士たちがすんごいたくさんッス!」
「・・・放送局? どうしてわざわざティンバーかなあ? ガルバディアからだって放送できるよね」
ワッツの報告にリノアは首をかしげ・・・セルフィが「あ・・・」と声をあげ、スコールを見やった。
「あのさ、班長。ドールの電波塔、関係ある?」
ドールといえば・・・あのSeeD実地試験のことか。一体、彼らは独断行動の後、何をしていたのか・・・は小さく息をついた。
「なんだそれ?」
セルフィの言葉に、ゾーンが食いつく。それにはスコールが答えた。
「ドール公国には電波塔があって、電波の送信と受信ができるらしい。長い間放置されていたけど、先日ガルバディア軍が再起動したんだ」
「はは〜ん・・・なるほど。電波放送に対応できる放送局は、今じゃティンバーにしかないからな。他の放送局は、H・Dケーブルを使ったオンライン放送しかできないんだ」
そういえば、今回のドールからガルバディアへの撤退条件が、ドールの電波塔の使用許可だったな・・・とはシュウたちが話していたのを思い出した。
「んで、どういうこと?」
リノアが先を促す。
「奴らは電波を使って、放送する気なんだ。ケーブルで繋がっていない地域にも、番組を送ることができるってわけだな」
「そんなことくらいわかるわよ〜。私が言いたいのは、大統領が何を放送しようとしているのかってこと! わざわざ電波を使う意味よ。ケーブルに繋がっていない地域にも、伝えたいことがあるんでしょ? それは何?」
それは・・・一同が顔を見合わせる中、セルフィがポンと手を叩いた。
「世界の皆さん、仲、良くっ!」
両手を広げ、明るくそう言い放ったセルフィだが、スコール以外の人物が「ないない」と手を振った。
「確か、電波塔が使えなくなってから17年・・・17年ぶりの電波放送かあ」
「17年ぶりね〜。記念すべき最初の放送が、ティンバー独立宣言だったらすごいのにね!」
「おっ! それ不可能じゃないかもよ」
「考えてみよっか! ちょっと待っててね」
スコールたちに声をかけると、リノアたち3人が部屋の隅っこに集まり、座りこんで何かを話しこむ。
『え・・・あれが作戦会議? ただ学生がたむろってるだけにしか・・・』
思わずは顔を引きつらせる。
「ねえ、はんちょ〜。まだ帰っちゃダメなの? あたしたちの契約、どうなってるの?」
「・・・確かにそうだな」
明確なことは言い渡されていない。レジスタンスに協力しろとは言われたが・・・どこまで協力するべきなのか。
「なあ・・・」
「あ、ちょうどよかった。作戦決定!」
スコールがリノアに声をかけると、笑顔でこちらを向いた。作戦決定はいいのだが・・・。
「その前に、ガーデンとの契約書を見せてくれないか?」
「ん? いいよん」
リノアがゴソゴソと部屋の隅に置かれていた雑誌類の中から、1枚の紙を差し出してきた。スコールはそれを奪うように手に取った。
「なんて書いてあるんだ?」
ゼルの言葉に、がヒョイとスコールの背中越しに契約書を覗きこんだ。
「“バラム・ガーデン(以下、甲)”は“森のフクロウ(以下、乙)”との間に“SeeD(以下、丙)”の派遣に関する契約を締結する。甲は乙に本件契約締結後、丙の派遣を同時行うものとする。丙は乙の戦闘行為を含むと予想される命令に従う。ただし、甲の判断により乙に通達の上で丙を・・・」
「・・・わけわかんねえ」
「どーゆう?」
の読み上げた内容に、ゼルとセルフィが首をかしげる。
「つまり、ガーデンは森のフクロウと契約して、SeeDを派遣します。SeeDは戦闘になったら、それと戦います・・・で・・・」
「それ、わからないよね。全然わからないんですけどって言ったら、もう1枚紙をくれたの。シドさん、親切よね」
説明をするの言葉に、リノアが言葉をかぶせ、もう1枚紙をスコールに渡した。再び、スコールはそれを奪い取るように手に取った。
「今度はあ?」
「・・・・・・」
セルフィが声をあげ、が再度スコールの背後から文面に目を落とし・・・呆気に取られた。
「・・・森のフクロウさんへ。皆さんとSeeDの派遣契約期間は、ティンバーの独立までです。SeeDを有効に使って、ぜひ、目的を果たしてください。なお、本件は例外的な契約でありますから、SeeDに欠員が生じても補充はできません。他言も無用に願います。署名:バラム・ガーデン学園長シド・クレイマー」
「は!?」
が読み上げた内容に、ゼルが声をあげ、セルフィが目を丸くした。
「ティンバー独立まで!?」
「もしかして、すっごいテキト〜?」
「プロなんでしょ? 文句言わないの! さあ、実行部隊決めましょ!」
「・・・実行部隊って?」
「決まってるじゃない! 放送局に乗り込むのよ!」
の疑問に、リノアが元気よく答える。
「情報収集なら任せてくれッス!」
「イテ・・・イテテテテ・・・急に腹が・・・」
森のフクロウのメンバーは役に立たないな・・・と、とスコールが同時に思ったことは、誰も知らない。