2.レジスタンス
Chapter:1
ティンバーの駅に列車が到着し、たち4人は電車を下りた。そのまま階段を下りようとすると、見慣れぬ男が声をかけてきた。
「いや〜ティンバーの森も変わったッスよね」
聞き覚えのある言葉・・・そうだ、ガーデンで・・・。
「まだフクロウはいますよ」
が咄嗟に答えると、目の前の男は口元を緩めた。
「・・・ようこそ、ティンバーへ・・・ッス。ついて来てください」
小声でそう言う男について行こうとすると、突然彼の目の前に黄色い電車が迫って来た。
「あわわわ〜! 危ないッス〜!」
「何してんだよぉ! あれほど、列車の前に出るなって・・・いっつもいっつも、何回言えば・・・あっ!」
電車にぶつかる寸前に、倒れてしまった男の前に、もう1人の男が姿を見せ・・・スコールたちの姿に気づくと、何やら2人で話し始めた。
「・・・大丈夫かな? あれ」
「・・・考えたくもない」
の言葉に、スコールは頭を抱え、ハァ・・・と深いため息をついた。
***
黄色い電車に乗り込むと、そこはレジスタンスのアジトだった。青い服の男が、スコールたちと向き合って立ち、帽子をかぶった男がドアの前に立った。
「あんたたちがSeeD?」
不躾な質問だが、まさか彼らもSeeDがこんなに年若い男女だとは思わなかったのだろう。
「俺は班長のスコール。こっちがゼル、こっちの2人はとセルフィだ」
「よろしくな。俺が森のフクロウのリーダー、ゾーンだ」
そう言って、ゾーンはスコールに握手の手を差し伸べるが、スコールは一つうなずいただけで、その手を握ろうとはしなかった。
気を取り直し、ゾーンがの前に立ち握手を求める。ニッコリ笑ってその手を握れば、満足そうな様子で今度はセルフィと握手を交わした。
の視界の隅で、ゼルが手汗をズボンで拭いている姿が映ったが・・・ゾーンはゼルには近づかなかった。
「俺たちは何をすればいい?」
「まあ、焦るなって。俺たちもメンバー紹介だ。ええと、ワッツにはもう会ったんだよな。それじゃ、あとはウチの姫さまか」
ワッツというのは、帽子をかぶった男だ。そのワッツは、困った表情を浮かべ、ゾーンを見た。
「お姫さまはお昼寝タイムっス」
「しょうがねえなあ。悪いんだけど、スコールさあ、ウチの姫さま、呼びに行ってくれ。そこの階段を上がって、一番奥にある部屋だ。途中の部屋には他のメンバーもいる。もし、わからない場合は聞いてみるといい」
ゾーンの言葉に、スコールは眉根を寄せる。到着早々、なんだこの待遇は。
「・・・俺たちは雑用のために雇われたのか? ん?」
眉間に皺を寄せたまま、そうつぶやいてみせれば、あまりの迫力にゾーンが後ずさった。
「お、怒ったんですか!?」
「こんな指示はこれで最後にしてくれ」
そう言い残すと、スコールは階段を上がり、“姫さま”を起こしに行ったのだった。
「あ〜ビックリした・・・。スコールって、無愛想だから怒ると怖いよねぇ〜」
セルフィが大した驚いていないような調子で、キャラキャラと笑いながら言う。ゼルもそれに同意する。
「まあ、私たちはSeeD・・・傭兵部隊だからね。こういう、雑用とかいうのはやるもんじゃないでしょ」
がそう言い放ち、ゾーンへ視線を向ければ、彼は「イテ、イテテテ・・・腹が・・・!」とうずくまってみせた。白々しい。
しばらくすると、スコールが1人の少女を連れて戻って来た。黒い髪に、水色の服を着た美少女・・・名前はリノアといった。たちもそれぞれに自己紹介をし、ようやく作戦会議へ入ったのである。
***
会議室とは名ばかりの、せまい部屋に4人は通された。適当に立ってくれ・・・座ってくれじゃないのか・・・。
ティンバーの英雄になる気マンマンのゾーンは意気揚々と説明を始めた。
「ガルバディアの極秘情報を手に入れたのが始まりだった」
「オレが手に入れたッス!」
「ガルバディアの超VIPがこのティンバーにやって来るって情報だ」
「ちょ〜ぶいあいぴ〜!!」
「そいつの名はガルバディア大統領にして、希代の極悪人ビンザー・デリング!!」
「ビンザー・デリング極悪人!! ガルバディア国民にも評判悪いッス。大統領なんて名ばかりの独裁者ッス」
ゾーンの言葉にワッツが口を挟む・・・という、なんとも聞きづらい説明だったが、言いたいことはわかった。
「そのデリング大統領はガルバディア首都から特別列車に乗ってティンバーに来るの」
「俺たちの作戦はその列車を・・・」
言いかけたゾーンの言葉に、セルフィが「あ!」と嬉々として声をあげた。
「ロケットランチャーで粉々に爆破するのね」
とんでもないセルフィの言葉に、ゾーンが飛び退くようにセルフィから離れ、ワッツもあ然とした。
「そこまではちょっと・・・」
「もう、なんなんだよっ! もっと具体的に話せよ!」
何がしたいのか、さっぱりわからないゼルが、しびれを切らして声をあげると、リノアが「じゃあ、始めよっか」と言い、たちの背後にあった模型に目を向けた。
木々に囲まれた線路と、そこを走る電車の模型。それを動かしながら、リノアたちが説明を始めた。
大統領の車両と、先頭車両、護衛の車両が2つ、アジトの車両、そしてダミーの車両の5つがある。早い話が大統領の車両と、ダミーの車両をすり替え、大統領を拉致してしまおう・・・という作戦なのだ。
もちろん、それは簡単なことではない。ハイテク好きの将校が、温度と音を感知するセンサーを持っており、車両の屋根を移動する存在を察知することができるというのだ。
「それで・・・1つ目の切り替えポイントまでにパスコードを入力して、護衛車両と大統領車両を切り放すの。これに失敗すると・・・」
「どっか〜ん!・・・ってなっちゃう?」
「・・・そうよ。だから、のんびりしてるヒマはないの」
パスコード入力を速やかにし、切り替えポイントまでの短い時間で車両を切り放す・・・。切り放された護衛車両1と大統領車両の間に、ダミー車両とアジトの車両が入りこむ。そこで2回目の切り放しだ。護衛2と大統領車両の切り放しだ。
つまり、これに成功すれば、アジト車両と、大統領車両の2車両を連結させることができる・・・ということだ。ダミーの車両は元あった大統領車両の位置に残る。
ただし、護衛2の車両は監視が厳しい。切り放し作業の際、それを考慮しないといけないらしい。
「以上の手順を約5分で実行してもらうことになるわ」
「5分!? 短くないか?」
リノアの言葉に、ゼルが驚いて声をあげるが、ゾーンが自慢げな表情を浮かべ、こちらを見た。
「俺たちのシミュレーションでは3分で作戦完了できたはずだ。SeeDなら楽勝だろ?」
「うん、楽勝、楽勝〜!」
「手順を間違わなければ、問題ないわね。そちらのパスコードの指示も正確に、ね」
「・・・・・・」
セルフィの明るい声に対し、は至極冷静に言葉を返し、スコールは黙り込んだままだ。
「現地では私がパスコードの指示を出します。ワイヤーで列車側面へ下りて、入力するのは・・・リーダーのスコールに、やってもらおっか」
素早い動きと、正確な入力が必要になる。スコールは責任重大だ。
「関係ないけど・・・大統領列車の模型だけ、なんかへたくそ? ・・・なんで?」
セルフィの疑問に、一同の視線が大統領車両の赤い模型に注がれる。
「他の模型は街のみやげ屋さんで買ったッス! でも、大統領列車だけは、リノアが作ったッス」
「それでかぁ・・・。なぁ〜んか、塗り方が“へたれ”だと思ったんだよなぁ・・・」
ゼルの言葉に、スコールは再度大統領車両に目を向けた。
『・・・? 言われてみれば・・・そうだな・・・』
「失礼ね! それはわざとよ、わ・ざ・と! デリング大統領に対する憎しみが・・・そう・・・させたのよ」
「へぇ〜憎しみ・・・ねえ」
「こんなにぐにょぐにょになるくらい、すっごく大統領のことキライなんだぁ〜。そっかぁ・・・」
「セルフィ・・・それ以上はやめときなさい・・・」
無邪気なセルフィの言葉に、さすがにもリノアが気の毒になったのだろう。ポンとその肩を叩き、もう何も言うなというように、首を横に振った。
「さあ、説明終わり! 準備が出来次第、ワッツに声をかけてね」
微かに頬を赤く染めながら、リノアがそう声をかけた。
「・・・準備っていっても、ねぇ。戦闘があるわけでもないし」
「軽く準備運動でもしとくか?」
とゼルが顔を見合わせる。セルフィはキョロキョロと車内を見回していた。
と、電車が動き出す。作戦実行に向けて動き出したのだ。
「さあ、みんな。任務の始まりよ!」
の言葉に、3人はこくんとうなずいてみせた。