1.ガーデンとSeeD

Chapter:5

 「ティンバー・・・ですか?」
 「そうです」

 伝えられた次の任務。行先はいくつものレジスタンスがガルバディア軍と抗争を続けているティンバーだった。
 レジスタンスの鎮圧だろうか? それともガ軍の排除・・・?
 だが、とりあえず与えられた任務と、クライアントの命令は絶対だ。それが傭兵の仕事。

 「集合場所はカードリーダー前。30分後に出発です」
 「了解」

 部屋に戻り、私服に着替えて準備をする。グルリと部屋を見回し、キレイにベッドを整え、机の上もキレイに整えると、は部屋を出てカードリーダー前に向かった。

 「あ、せんぱ〜い!」

 カードリーダー前には、すでにセルフィが来ていて、笑顔でに手を振った。

 「セルフィも一緒なのね」
 「うん! あと、スコールとゼルも一緒だよ〜」
 「スコールとゼルも・・・?」

 ということは、新人のSeeD3人と一緒に任務に向かうということか・・・。
 しばらくすると、スコールがゆっくりとした歩調でやってきた。そんな彼に、セルフィは「おはよ〜」と笑顔で挨拶をするが、スコールはボソッと「・・・おはよう」と返してきた。

 「あとはゼルだけだね〜。寝坊してなきゃいいけど」
 「ゼルのことだから、大いにありえそうね」

 思わず、とセルフィは顔を見合わせて笑ってしまう。

 「・・・あと1分」

 たちの前にいた教師が時計を見ながらつぶやくと、カードリーダーの向こうから、Tボードに乗ってゼルがやってきた。

 「間に合った!」

 ホッとしたのも束の間、教師の厳しい叱咤が飛んでくる。

 「ガーデン内ではTボードの使用は禁止。忘れたのか?」
 「あ、すいません! でも、これ便利なんすよ。きっとSeeDの任務にも役に立ちますって」
 「役に立つかどうかは、我々が決める。没収だ」

 そう言うと、ゼルの持っていたTボードを奪い、やって来た他のガーデン教師に手渡した。
 ゼルは残念そうに「あぁ・・・」と声をあげるが、規律違反をした彼が悪いと言えるだろう。

 「君達はSeeDだが・・・同時にガーデンの生徒であることに違いない。いや、SeeDだからこそ、一般生徒の手本となるように、ガーデンの規則に従わなければならない。わかったな」
 「・・・はい」

 シュンとした様子のゼルに、が優しく背中をポンと叩く。元気だしなよ、というように。

 「さて・・・以外の3人は初任務ですねえ」

 それまで様子を見守っていたシド学園長が、たちに声をかけてきた。

 「君達にはこれからティンバーへ行ってもらいます。そこで、ある組織のサポートをすることが君達の任務です。ティンバーの駅で組織のメンバーが、君達に接触する手はずになっています」
 「その者たちは君達に話しかけてくる。“ティンバーの森も変わりましたね”と。その時、君達はこう答えること。“まだフクロウはいますよ”。これが合言葉になっている」
 「あとは組織の指示に従いなさい」

 教師とシドの言葉に、ゼルがキョロキョロと辺りを見回す。

 「あの・・・オレたち4人だけ?」
 「そうだ。この任務は極めて低料金で引き受けている。本来なら相手にしないような依頼だが・・・」

 チラッと教師がシドに目配せする。今回の任務とシドと、何か関係があるのだろうか?

 「まあ、そういう話はいいでしょう。さて、スコール。君が班長です。状況に応じて的確な判断を下すように」
 「え・・・先輩じゃないんですか?」
 「これは、君達にとって初任務です。君達に的確な判断力があるのかどうか、試すものでもあります。は、サポートに徹してもらいます」

 なるほど・・・そういうことか。スコールたちも、それで納得する。

 「ゼル、セルフィ、君達もと一緒にスコールをサポートし、組織の計画を成功に導くようにがんばりなさい」
 「了解!」
 「りょ〜かい!」

 SeeDの敬礼をし、そして4人はバラムガーデンを出発したのだった。

***

 先日の実地試験時にが借りたレンタカーは、ガーデンの外に駐車してあった。鍵はが持っている。それに乗り込み、一同はバラムを目指す。
 バラムから大陸横断鉄道に乗り、ティンバーへ向かう。バラムからティンバーへは2日ほどかかるだろう。
 運転席にはスコールが乗り、助手席には。後部座席にはゼルとセルフィが乗った。

 「そういえば、先輩の武器って刀ですよね〜。班長のガンブレードもめずらしいけど、先輩のもめずらしいですよね〜」

 両刃の剣は一般的だけど・・・とセルフィが声をあげる。
 はそんなセルフィを振り返り、「あのね・・・」とつぶやく。

 「私は、あなたと同じSeeDなのよ? “先輩”なんて呼ばないで?」
 「え〜でも・・・」
 「私たちは同じ班なのよ。今は仲間。任務を果たすまで、私たちは行動を共にするんだから」

 の言葉にセルフィとゼルは顔を見合わせてしまう。

 「それじゃ〜・・・“”って呼んでいいんですか?」
 「もちろん。それと敬語も禁止。わかった?」
 「りょ〜かい!」
 「了解!」

 元気よく答える2人に笑顔でうなずき、は隣に座り、運転をする少年に目を向ける。

 「スコールは?」
 「・・・了解」
 「よしっ!」

 満足そうに微笑んだは、先ほどのセルフィの言葉に答えていた。

 『・・・不思議な人だ』

 とセルフィの会話を聞きながら、スコールはそう思った。
 誰からも敬遠されがちな自分に、笑顔で分け隔てなく接してくれるなんて・・・。

 『その点はセルフィもそうだけどな・・・』

 転校してきたばかりで、自分のことをよく知らないから、笑顔を向けてくれるのだろう。
 スコールが無愛想で無反応を貫けば、きっとセルフィは“スコールはこういう人なんだ”と思い、声をかけたり、笑顔を向けなくなるだろう。
 なぜだろう・・・なぜか、それがたまらなく寂しく感じるのは・・・。

 「さて、バラムが見えてきたわよ」

 の言葉に、スコールは車のスピードを緩める。SeeDは車の運転も成績に入る。スコールは手慣れた仕草でバラムの町近くに停車させた。

 「わぁ〜い! 着いた、着いた!」

 セルフィが声をあげ、真っ先に車を下りる。

 「駅に向かうぞ。そこから鉄道に乗り込む」
 「りょ〜かい!」

 スコールの言葉にセルフィが元気よく答え、もうなずくが、ゼルはどこかキョロキョロと落ち着かない。

 『・・・またか』

 いつも落ち着きのないゼルのことだ。と、スコールは心の中でため息をつくが、が「どうしたの?」と声をかける。

 「うん・・・実はここ、オレの実家があるんだ。だから、ちょっと・・・」
 「そうなの? ・・・電車の時間まで、あとちょっとあるから、挨拶してきたら?」
 「え! いいっすか?」
 「どう? 班長」

 の問いかけに、スコールは黙りこみ・・・時間を確認する。

 「・・・10分前には駅に集合だ」
 「やった! ありがとな、スコール!」

 元気よく走って行くゼルの姿を見送り、とセルフィはスコールを見やる。

 「あたしたちは、どうする〜?」
 「ショップで買い物でもしましょうか。ポーションとか」

 の提案に、スコールは黙ってうなずく。先輩SeeDの提案を突っぱねることもないだろう。
 駅の近くにあったショップで必要なものを買いそろえ、ゼルが戻るのを待つ。その間、セルフィとは何やら楽しそうにキャッキャッと話していたが、スコールには到底理解できない内容だった。
 化粧水がどうとか、あの店のスカートがかわいいだとか、グロスはあの色がかわいいだとか・・・賑やかな2人に、スコールは頭を抱えそうになってしまう。

 「お待たせっ!」

 ゼルが合流し、停車していた電車に乗り込む。セルフィが嬉々として廊下の窓にへばりつき、ゼルはウキウキした様子でドアの前に立った。

 「おい、ここがSeeD様の専用キャビンだぜ」

 ドアを開け、中に入ったゼルが声を上げる。

 「うおっ! うっひゃ〜! すげえ〜!」
 「・・・・・・」
 「子供みたいね、2人とも」

 セルフィはセルフィで窓の外を見ながら楽しそうに歌っている。は部屋に入り、「セルフィはそっとしといてあげましょ」とスコールに声をかけた。

 「ははは! こいつはいいぜ」

 ソファに座りながら、ゼルがうれしそうに声をあげるのを、スコールはため息を吐き、「喜んでもらえて何よりだ」と答えた。けして彼が手配したわけではないのだが・・・。

 「す・・・げえよなあ、この客室。先輩は、いつもこれに乗ってるんすか?」
 「ええ、SeeDの任務時はね。それとゼル、“先輩”じゃなくて、“”」
 「あ・・・すんません・・・」

 の言葉に、ゼルは頭をかき、横に座っているスコールに目を向けた。

 「な、スコール。ティンバーのこと知ってるか?」
 「・・・どうでもいい」
 「そりゃないぜ、スコール。そう言わずに説明させろよ」
 「いや、別にいいよ」

 ゼルの申し出をことごとく断るゼルだったが、あまりのしつこさにスコールが折れた。
 18年前、ガルバディアに占領されてしまったことを、ゼルは自慢げに語ってみせるが、スコールは半分聞いていない。
 そんな様子を、はクスクス笑いながら見守る。スコールとしては「笑ってないで、助けろよ」という気分だろう。
 と、ドアが開いた。入って来たのはセルフィだが、先ほどまでの元気がない。

 「どうしたの?」
 「なんか・・・変なの・・・」

 声も小さい。明らかに様子がおかしい。

 「疲れているなら、少し休むといい」

 班長であるスコールが、心配した様子で立ちあがってセルフィに歩み寄る。

 「すっごく眠いの・・・」
 「眠い?」
 「おい、大丈夫か?」

 スコールがセルフィの肩に手をやると、その小さな体がコテンとスコールの胸に倒れこんできた。

 「・・・あ、あれ・・・? なんだあ!?」
 「ゼル?」
 「あ・・・なんか、俺も変だ。ね、眠い」
 「え?」

 そう言い残すと、ゼルもソファに座ったまま眠りこんでしまい・・・。

 「おい、どうした?」

 セルフィの体を支えていたスコールだったが、そのスコールにも異変が起こる。

 「なんだ・・・これは・・・」
 「スコール!?」

 倒れかかったスコールの体を、慌ててが受け止める。彼はセルフィを抱きしめているのだ。前に倒れてはセルフィが潰されてしまう。
 だが、そうするとスコールとセルフィ、2人分の体重を支えることになってしまい・・・ヨタヨタとしながら、は床に尻もちをついてしまった。

 「スコール?? セルフィ? ゼル!」

 名前を呼ぶも、反応はない。
 は慌てて辺りを見回す。まさか、催眠ガスだろうか? だが、自分にだけ効果がないとは・・・。スリプルをジャンクションした覚えはない。

 「・・・どういうこと?」

 眠りこける3人を前に、は呆然とつぶやいた。