1.ガーデンとSeeD
Chapter:4
翌日・・・今日はSeeDの合格発表と就任パーティがある。
就任パーティまでは、まだ時間があるため、図書室で時間でもつぶそうかと歩いていたときだった。
目の前に、キスティスと問題児のサイファー、それとシド学園長が何かを話していた。
そのキスティスたちの前に、図書室から出てきたスコールが現れる。その姿を認めたサイファーが、「よお」とスコールに声をかけた。
「昨日の任務、聞いたか? ドールの電波塔でのこと。撤収命令さえなければ、俺たちは今頃ドールのやつらから感謝されてたのにな」
なんと・・・勝手な行動をしていたのか。思わずは呆れてしまう。候補生たちの持ち場は、自分たちSeeDの後方支援だったのだから。
「あなた何も考えてなかったでしょ? 暴れたかっただけのくせに」
キスティスが憤慨した様子で声をあげる。指導教官としては、彼の行動は許せないものだろう。
「・・・先生、そういう決めつけが生徒のやる気をなくすんだ。半人前の教官にはわからないかもしれないけどな」
「ちょっと・・・! そんな言い方ないじゃない!」
サイファーの言葉に、思わずが声をあげる。一同の視線がに向けられた。
はズンズンと歩み寄り、サイファーとキスティスの間に割って入った。
「万年SeeD候補生のキミに言われたくないセリフね。そもそも、B班が持ち場を離れた責任は、班長であるあなたが取るんでしょ? こっちは、あなたが勝手なことをしたせいで、わざわざスコールたちを助けに戻ったんだからね!」
「そりゃご苦労なこった。だが、戦況を見極め、最善の策を取るのが、指揮官ってもんだろ?」
「よく言うわ! あなたみたいな人が指揮官だなんて、笑っちゃう」
ハッと鼻で笑うに、サイファーは明らかに怒った様子だ。
「・・・先輩もリストに追加しておくぜ」
風紀委員が気に入らない人物を書きとめておくリストだろう。上等だ。
「サイファー、きみは今回の件で懲罰を受けることになるでしょう。集団の秩序の維持のためには、仕方のないことです」
それまで黙って様子を見ていた学園長が口を開いた。
「でも、私には君達に単なる傭兵になってほしくはありません。命令に従うだけの兵士にはなってほしくないのですねえ、私は・・・」
臨機応変に・・・わかってはいる。時にはそういう判断も必要だとは思うが、彼らはまだSeeDの候補生だ。それで命を落とすことになってはかなわない。
「シド学園長・・・そろそろ学園長室へ」
声をかけてきたのは、独特な制服を着たガーデンの教師だ。大きな笠の帽子をかぶり、表情は見て取れない。
「まあ、なんというか、色々ですねえ」
学園長の言葉に、サイファーは黙りこみ、うつむいた。少しは反省しているのだろうか?
と、アナウンスが場内に響き渡った。
「昨日のSeeD選抜実地試験に参加した生徒は速やかに2階廊下教室前に集合せよ。繰り返す。昨日のSeeD選抜実地試験に参加した生徒は速やかに2階廊下教室前に集合せよ」
スコールの表情が、少し強張る。命令違反をしたのだ。いかに筆記試験と課題の結果がよくても、今回のB班の行いは確実に減点対象だろう。
呼び出しにサイファーがさっさとその場を離れて行く。「じゃあな、先生」という言葉も忘れない。
ハァ・・・とため息をついたスコールに、がニッコリ微笑みかける。
「大丈夫だよ、スコール。さ、行っておいで!」
「・・・その根拠のない自信はどこから・・・」
「後ろ向きに考えてると、どんどんと落ち込んでいっちゃうよ」
ほら行った、行った!とスコールの背中をドンと押す。憮然とした表情を浮かべ、振り返ったスコールに、は笑顔で手を振った。
「ずい分とスコールと仲良くなったのね」
「ん? そうでもないよ」
声をかけてきたキスティスに肩をすくめて答えてみせる。
「でも、あのスコールに物怖じせずに話しかけるなんて・・・大したものだわ」
遠ざかって行くスコールの背中を見つめ、は首をかしげた。
***
SeeDの就任パーティは昨年以来だ。会場の中心で踊る人々を見つめ、はボンヤリとしていた。
パーティが始まる前、シド学園長から今回の合格者が発表された。
ニーダ・ビック、セルフィ・ティルミット、ゼル・ディン、そしてスコール・レオンハートの4名だ。
スコールは初めてのガンブレードでのSeeDとのことだ。の刀と同じく、扱いの難しい武器のため、近年はその武器を選ぶ生徒は少ないという。
ニーダという生徒は知らないが、他の3名はよく知っている。セルフィという少女は、A班の伝令・・・つまり、あの実地試験の時、スコールたちと逃げてきた少女だ。
その少女は、先ほどから明るい声で「学園祭実行委員やらない?」と声をかけている。どうやら、なかなかうん、と言う生徒がいないようである。
「あ、スコール! SeeDで忙しくなるけど、実行委員もがんばるんだよ〜!」
そのセルフィの言葉に驚愕した。なんと、あの無口で無愛想で協調性のかけらもなさそうな男が、学園祭の実行委員になったというのか・・・。
いや、だがあのセルフィの押しの強さには、なるほど納得してしまう。彼女にかかれば、あの獅子のような男も牙を抜かれてしまうのか・・・。
「あ、せんぱ〜い!」
セルフィが会場の隅でダンスを見ていたの姿に気づき、駆け寄って来た。
「SeeDの制服なのね。大人っぽい制服だから、可愛い顔のセルフィには、ちょっと似合わないかな」
「えぇ〜! ぶぅ〜! ひっどいなぁ、先輩・・・」
頬をふくらませるセルフィに、はクスクスと笑った。
「あ、そうだ! ねえ、先輩! 学園祭実行委員やりませんか〜?」
「実行委員・・・? でも、学園祭は・・・」
確か、ここ数年行われておらず、そんな行事自体が廃れてしまったと思ったが・・・。
「あたし、トラビアでは毎年、実行委員やってたんです〜! だから、バラムでも・・・」
「でも、SeeDになってしまっては活動も難しくなるわよ? SeeDは基本、任務でガーデンにいられる時間は難しいから・・・」
「任務のない時に、がんばるんですっ!」
「・・・そうだね。少しは参加してもいいかな?」
「ホントですか〜?? うわぁ〜い! やったぁ!」
ピョン、と飛び跳ねて喜ぶセルフィの姿は、かわいらしい。なるほど・・・こんな調子で押し切られ、スコールは実行委員にされてしまったのだろう。
「じゃあ、詳しい話はまた今度! あ、ゼル〜!」
今度はゼルを見つけて声をかけている。まったく元気なことだ。
フト、踊りの輪の中に意外な人物の姿を発見する。スコールだ。相手は・・・見たことのない、黒髪の美少女。おぼつかない足取りで踊っていたスコールだったが、しばらくすると見事なステップを披露している。物覚えの早い少年だ。
「・・・」
「え?」
聞こえてきた声に、は顔を動かす。そこにいたのは、キスティスだ。視線が合うと、寂しそうに笑った。
「ねえ、後で私服に着替えて訓練施設の入り口に来てくれない?」
「え? う、うん、いいけど」
「お願いね」
どこか暗い表情のキスティスに、は首をかしげた。何かあっただろうか・・・と。
***
パーティがお開きになったのは、23時を過ぎた頃。は急いで私服に着替えると、キスティスとの約束の場所に走った。
「ごめん、キスティス! 遅くなっちゃったね!」
「いえ、大丈夫よ」
「それで? 訓練施設に来てどうするの? まさか、一緒に訓練したいってわけじゃないよね?」
「ええ。通称“秘密の場所”に行きます。消灯時間過ぎてから、生徒たちがこっそり会って話をするところよ。訓練施設を抜けたところにあるの」
「フーン・・・」
なんで、わざわざそんなところに・・・とも思ったが、は何も言わずにキスティスに従った。
襲ってくる訓練用の魔物を倒し、奥にある“秘密の場所”に向かうと、確かに数人のカップルが仲睦まじくしている姿が見えた。
こんな場所にキスティスと2人でいて、おかしなウワサが流れないだろうか・・・と、変なことを考えてしまった。
「ここ、久しぶりだわ」
手すりに身を預けながら、キスティスがフゥ・・・と息を吐き出す。もその隣に立ち、キレイな夜景を見つめた。ガーデン校舎がライトに照らされ、幻想的な光景だ。
「どうかしたの? キスティス。こんなところに呼び出して」
「今、何時かしら?」
「えっと・・・0時5分だね」
の返事に、キスティスは「あ〜あ!」と声をあげ、大きく伸びをした。いつもの彼女らしからぬ行動に、は目を丸くする。
「私、キスティス・トゥリープは、ただ今をもって教官じゃなくなりました!」
「は!?」
キスティスが告げた衝撃的な一言に、はあ然とし、口をポッカリ開けている。
「これで、あなたと同じSeeDよ。一緒に仕事することもあるかもね」
「・・・なんで・・・そんな・・・」
あまりにも驚いて、言葉が出てこない。そんなの姿に、キスティスがクスッと微笑んだ。
「・・・私、教官失格なんだって。指導力不足だって言われた。15歳の時にSeeDになって17歳で教員資格取ったの。それからまだ1年しか経ってないのに・・・。何が悪かったのかな・・・色々がんばってきたんだけどね」
「キスティス・・・」
友人の言葉に、はかける言葉が見つからない。なぐさめの言葉など、気休めにしかならないだろう。
「・・・もしかして、サイファーの件が原因?」
「そう」
「あの問題児をなんとかしようなんて、新人教師のキスティスに任せるのが間違ってる! まずは、慣れるのが先でしょう!? そんなの、おかしいよ! あ〜もう! サイファーに一言文句言ってやんなきゃ気が済まない!!」
「、いいの・・・。もう決まったことだもの。ありがとう。話を聞いてくれて」
どこか晴れやかな表情でそう言うキスティスに、は少しだけホッとした。
誰かに言うだけで気持ちが晴れる時もある。少しでもキスティスの役に立てたならうれしい限りだ。
戻りましょう・・・というキスティスの言葉にうなずき、とキスティスが訓練所の出口へ向かおうとしたときだった。
「キャー!!」
聞こえてきた女性の悲鳴に、とキスティスは慌てて駆けだした。
目に飛び込んできたのは、青いシャツに緑のストール、白いスカートの若い女性だった。だが、ガーデン生ではない。魔物を見て悲鳴をあげていては、ガーデン生としてやっていけないだろう。
「? キスティ?」
2人の名前を呼ぶ女性に、とキスティスは顔を見合わせる。だが、今は考え事をしている場合ではない。目の前のモンスターを倒さなければ。
虫のような形の巨大なモンスターは空を飛び、甲羅のような体皮に覆われたモンスター・・・グラナルドとラルドは、標的を女性からたちへ向ける。
グラナルドがラルドの体を掴みあげ、そのままとキスティスの頭上に落とす。慌てて2人はその場を飛び退いた。
「面白いことしてくれるじゃない!」
刀を抜き、が声を発する。背後のキスティスは何か呪文を唱えている。G.F.を召喚するつもりらしい。G.F.の召喚には時間がかかる。は時間稼ぎを始めた。
空を飛ぶグラナルドに攻撃を当てるのは難しい。これはG.F.の攻撃をあてにしよう。はラルドに狙いを定め、刀で斬りかかった。
その直後に、キスティスの召喚したシヴァが姿を見せ、強烈な吹雪をお見舞いした。
モンスターはその姿を霧散させ、姿を消す。は思わずフゥ・・・とため息をついた。
「あ・・・」
先ほどの女性を振り返っただったが、女性の傍に白い服の男が2人歩み寄り、そのまま女性を連れて行ってしまった。
「誰かしら・・・」
「さあ?」
キスティスの言葉に、首をかしげる。
だが・・・彼女は、確かに自分とキスティスの名前を呼んだ。
一体どういうことなのか・・・疑問だけがの心の中に残ったのだった。