1.ガーデンとSeeD
Chapter:3
「本件のクライアントはドール公国議会。SeeD派遣の要請があったのは、18時間前だ。ドール公国は72時間ほど前からガ軍の攻撃を受けている」
ガ軍というのは、ガルバディア軍のことだ。目の前にいる指導担当のSeeDの言葉に、は眉根を寄せる。
「開戦から49時間後、ドール公国は市街区域を放棄。現在は周辺の山間部に退避し、部隊の再編を急いでいる。以上が現在の状況だ。報告によるとガ軍は、周辺山間部のドール軍排除作戦を展開中。我々はルプタン・ビーチから上陸。市街地に残るガ軍を排除しつつ、速やかに市街地を解放する。その後、山間部から戻るであろう、ガ軍を市街地周辺部にて迎撃のため待機する」
なるほど・・・戻って来たところを、待ち伏せして倒す、ということか。
「SeeD候補生たちには、君達が倒し損ねたガ軍の排除を命令してある。君たちが全てのガ軍を排除せずとも、後輩たちががんばってくれるだろう」
候補生たちの実力を見極めるためにも、それがいいのかもしれない。
そういえば・・・キスティスはB班の指導教官になったという。
B班のメンバーは、サイファー、スコール、そしてゼル・ディンという、賑やかな少年だ。
班長はサイファー。それだけで、何か嫌な予感がしてしまう。あの少年が、素直に指示に従うのだろうか? いや、それがあって、過去の試験にパスすることが出来なかったのではないだろうか?
結束力、協調性の欠如・・・それがサイファーの落第点ではないだろうか・・・と、は考える。いや、恐らくそれは、皆わかっていることなのだろう。
『まあ、いいや。他人のことより、まずは自分のことよね』
うん、とうなずき、は気を取り直した。
高速上陸艇は、すでにドールに向けて走り出している。あと数分もすれば、ルプタン・ビーチへとたどりつくであろう。
***
撤退命令が出ると、すぐさまSeeDたちはその場を離れた。仲間である他の8名のSeeDたちが、と同じように船へと戻る。
ルプタン・ビーチへ戻れば、そこには上陸艇とSeeD候補生の指導教官が待っていた。
「お疲れ様、みんな」
キスティスが声をかけてくる。撤退命令は絶対だ。無理をして、何かあってからでは遅いのだ。迅速に撤退することも、SeeDとして大切なことだ。
「でも、どうして撤退命令が出たの?」
「ガ軍がとある条件の代わりに、撤退を申し出たんですって」
「とある条件・・・?」
「そこまでは聞かされていないわ」
そんなことを話している間にも、SeeD候補生たちが続々と戻って来る。D班、C班、A班はなぜか2人だけだ。
「A班、残りの1人はどうしたの?」
「えっと・・・B班に伝令をしに行って戻ってきませんでした」
「B班!?」
キスティスが声をあげ、頭を抱える。
「・・・まさかB班って・・・」
「私の担当してる班よ・・・。撤退は19時・・・残り30分しかないわ・・・!」
腕時計を見ながら、キスティスがいら立った様子で告げる。
「いいわ、私はここで待つ。、あなたは戻りなさい」
「でも・・・私も待つわ! キスティスに何かあったら・・・」
「・・・」
「大丈夫、先輩に伝えておく。だから、心配しないで」
先輩SeeDに、まだ戻らないSeeD候補生たちの援護のために残る、と伝えれば、了承を得ることができた。無事に戻って来たSeeDと、C班、D班の候補生たちは先にバラムへ戻ることになった。
数分後、ドール市街の方からやって来たのはサイファーだ。だが、彼は1人である。
「サイファー! スコールとゼルはどうしたの!?」
キスティスの叱咤が飛ぶが、当の本人はまったく気にしていない様子だ。
「あいつらなら、伝令女と一緒に戻って来るはずだぜ」
「3人を置き去りにしたの? あなた1人で戻ってきたわけ!?」
「足手まといになると思ったからな」
の言葉に、あっさりとそんな言葉を吐きかけるサイファー。キスティスはため息をつき、A班の生徒へ目を向ける。
「サイファー、あなたはA班の候補生たちと一緒に戻りなさい」
「お言葉に甘えて、さっさと戻らせてもらうよ」
そう言い残すと、悪びれた様子もなく、サイファーはA班の候補生たちと一緒に船に乗り込んだ。
「キスティス、あと10分しかないわ・・・。私、ちょっと見て来る」
「・・・でも・・・」
「大丈夫。無茶はしないから。指導教官がこの場を離れるわけにはいかないでしょ」
の笑顔に、キスティスは数秒だけ思案し・・・顔をあげてうなずいた。
「わかったわ。だけど、けして無茶はしないで」
「了解」
短く返事をし、は素早い動きで市街地へ戻って行った。
「・・・何事もなく・・・は、無理な話よね」
果たして今回のSeeD試験、どんな結果が待っているのだろうか?
***
市街地へ戻るの耳に、何やら機械音が聞こえてきた。それと同じくして、バタバタバタ・・・と慌ただしく走る足音。
目に飛び込んできたのは、SeeD候補生の3名と・・・その背後から迫る巨大な4つ足の兵器。
「あ・・・せ、先輩・・・!!」
金髪の少年・・・ゼルがの姿に気づいて、声をあげる。
はとっさにストックしてある魔法から、1つの魔法を唱える。
「サンダラ!!」
手を掲げ、凛とした声で呪文を発すれば、すさまじい電撃が4つ足の兵器に直撃し、プスン・・・と情けない音を立てて動かなくなった。
「やった・・・!」
「倒したの!?」
「わからない。とにかく、早く逃げるのよ! 撤退時間まで残り5分!」
の言葉に、慌ててスコールたちが走り出す。よく見れば、残りの1人・・・A班の少女には見覚えがあった。先ほど、スコールと曲がり角でぶつかった少女だ。
だが、今は自己紹介をしている場合ではない。撤退時間まで、あと4分・・・!
「スコール! ゼル! !」
キスティスが声をあげ、手を振る。たち4人は必死に足を動かし、船へと乗り込んだ。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
スコールたち3人が肩で息をする。一体、どこにいたというのか。
「報告は後で聞きます。何があったのか知らないけれど、無事でよかったわ」
「・・・すみません」
めずらしくスコールが素直に謝罪の言葉を発した。ゼルも「すみませんでした・・・」と頭を垂れる。
「あなたはA班の子ね? 伝令、ご苦労様」
「いえ、間に合ってよかったです!」
少女が安心したような笑顔で応える。
「それにしても・・・ちょっと焦ったなぁ・・・。まさか、あんな兵器が襲ってきてると思わなかったもん」
「あ・・・先輩にはすっごい迷惑をおかけしました!」
ガバッと頭を下げるゼルに、はクスッと微笑んだ。
「まあ、何があったのかは、後々聞かせてもらうけど・・・。班長のサイファーには、それ相応の罰が与えられるでしょうね。スコールたちは、どうかな?」
おどすようなの物言いに、思わずスコールとゼルは黙り込んでしまった。
***
船がバラム港に到着し、たちは上陸した。さて、乗って来た車でガーデンに戻ろう・・・とした一同の目の前で、最後の一台の車が走り去ってしまう。
「あぁ! 車・・・乗ってかれたぁ・・・!!」
「仕方ない、歩いて帰ろう」
「疲れてんのによぉ・・・」
スコールの言葉に、ゼルは文句たらたらだ。とキスティスのSeeD組は顔を見合わせ、ため息をついた。
「私たちも置いてかれたみたいだね。ねえ、キスティス、レンタカー乗ってもいいかな?」
「そうね・・・仕方ないわね。レンタカーに乗って帰りましょう」
「やった!」
とキスティスの提案にゼルは喜び、少女も安心したようだ。スコールは表情一つ変えなかったが。
レンタカーで戻り、ようやくガーデンに到着すると、キスティスが4人を振り返った。
「お疲れ様。SeeDの合格発表は明日の14時頃になると思うわ。合格者は、それから19時より就任パーティに参加。これには先輩SeeDも参加するから、よろしくね」
「了解」
キスティスの言葉に返事をすると、笑顔でうなずき、彼女はガーデンに戻って行った。
「さて・・・後輩諸君、大変な目に遭ったけど、これにて実地試験は終了だよ。今日は疲れてるだろうから、ゆっくり休んでね。じゃあね」
「はい! ありがとうございました、先輩!」
「ありがとうございました〜」
頭を下げるゼルと少女に対し、スコールはただ黙っていただけだった。
がガーデン内に戻ると、案内板のところで、学園長とキスティス、それから先輩SeeDのシュウが話をしていた。
「任務成功、めでたしめでたしってとこね。候補生たちも無事に帰ってきたんでしょ? まあ、ガルバディア軍の目的が廃棄された電波塔だったとは気付かなかったけど」
電波塔・・・? そういえば、山頂にそんな施設があったような・・・。だが、なぜそんな場所をガルバディア軍は欲しがったのだろうか?
「たった今、ドール公国から情報が入ったんですよ。電波塔を整備して発信可能にしておくという条件で、ガルバディア軍は撤退したそうです」
17年前から続いている電波障害で、現在は電波放送等できないはずだが・・・何か目処がたったのだろうか? ガルバディア軍が考えていることは、よくわからない。
「う〜ん、まぁ何はともあれガルバディア軍は撤退しちゃったってわけか。もう少し暴れてくれれば、SeeDの出番も増えて、お金を稼げたのにねえ」
シュウの言葉に、思わずため息をついてしまう。
ガーデンの運営には、確かにお金が必要だが、そうハッキリ言われると、複雑な気分である。
フト、背後に人の気配を感じて振り返る。スコールが立っていた。そのスコールとの姿に、話をしていたシュウたちが気付いた。
「あら、おかえりなさい」
「ただいま戻りました」
SeeDの敬礼をし、がシュウと学園長に応える。そのシュウがの傍にいたスコールに歩み寄り、肘でチョンチョンと突いた。
「キミ、なかなかやるじゃない?」
「でしょ? 私の自慢の生徒なの」
口を挟んできたのはキスティスだ。どこか得意げな表情である。
「無愛想なのがタマにキズだけどね」
「・・・・・・」
キスティスの言葉に、スコールは少しだけムッとしたようだった。そんな彼に、学園長が笑顔で話しかける。
「戦場の雰囲気はどうでしたか?」
「・・・別に」
学園長になんて物の言い方だ、とギョッとするだったが、対するシド学園長は温和な笑みを浮かべている。
「別に? それはいいですね! 別に、ですか! まあ、みんな怪我もなく何よりですねえ」
「・・・失礼します」
短く答え、スコールがその場を離れるのを、は慌てて追いかけた。
「ねえ、ねえスコール!」
声をかけるも、立ち止まる気配はない。足の長さゆえ、どうしてもは小走りになってしまう。
「あんまりおせっかいなこと言いたくないけど・・・もうちょっと言葉を考えた方がいいよ?」
「・・・・・・」
「じゃあね。合格してたら、明日の就任パーティで会いましょう!」
ポン、とスコールの背中を叩き、は彼を追い越し、学生寮へと向かった。
「今回の任務も無事終了・・・だよね」
ベッドの上に寝転がりながら、ボソッとつぶやく。
今度はどんな任務が舞い込んでくるのか・・・そんなことを考えながら、はそっと目を閉じた。