1.ガーデンとSeeD

Chapter:2

 任務から戻って3日後。SeeDの実地試験が行われるという通達があった。
 先日、ガーデンに戻った際、学園長から言われたとおり、も実地試験に正SeeDとして参加する。SeeDになってから、初めての実地試験のため、参加するのは初めてだ。
 今回の実地試験の場所はドール。ガルバディア軍と敵対関係にある国だ。バラムは、そんなドールと協定関係にある。
 そんなドールがガルバディアの攻撃を受け、SeeDの要請をしてきた。もちろん、バラムガーデンとしては、それを断る理由などなかった。

 「それじゃあ、今回の任務はドールのガルバディア兵の駆逐?」
 「そういうことになるわね」

 朝食を取りながら、はキスティスからの報告を聞いていた。

 「私も今回は指導教官としてドールへ向かうわ。SeeD候補生と一緒だから、戦闘には参加しないけれどね」
 「フーン・・・」

 と、キスティスの持っている携帯電話が着信を告げる。ガーデン内、どこにいても教諭と連絡がつくように支給されているものである。

 「カドワキ先生だわ・・・。もしもし?」

 通話相手を見て、何か思い当たる節があるらしいキスティスは、眉間に皺を寄せた。

 「ええ・・・ええ、わかりました。すぐに迎えに行きます」

 短い会話が終わり、通話を切ると、キスティスはハァ・・・とため息をついた。

 「何か問題ごと?」

 そんな彼女の様子に、が首をかしげて尋ねる。

 「生徒が1人、保健室にかつぎこまれたそうよ。額に傷跡作ってね」
 「・・・どういう状況? 訓練施設でモンスターにでも襲われたわけ?」
 「まあ・・・なんとなく、どういう状況なのかは想像つくわ。モンスターっていうか・・・手のかかるお子様同士のケンカみたいなものよ」
 「フーン・・・ね、私も一緒に行っていい? これからホームルームでしょ?」

 立ち上がったキスティスに続いて、も立ち上がる。どこか好奇心旺盛なこの友人は、キスティスのクラスの問題児に興味があるようだった。

 「なんていうのかしらね・・・犬猿の仲、っていうのか・・・まあ、どっちかというと、サイファーが食ってかかって、スコールはあまり相手にしてないって感じかしらね?」
 「へぇ・・・」

 保健室へ歩きながら、キスティスが口を開く。

 「つまり、どっちか・・・って目をつけてるんだ」
 「私の生徒で問題を起こしそうなのは、そのどちらかしかいないから」
 「トゥリープ先生も大変だなぁ〜」

 からかうような口調で、頭の後ろで腕を組んで歩く。SeeDの制服を着た2人が、しかもガーデン内では絶大な人気を誇る2人が並んで歩けば、それだけで話の種になることを、当人たちは知らない。
 保健室のドアをくぐると、保険医のカドワキと視線が合った。恰幅のいい中年女性は、視線でベッドの方を示す。キスティスはうなずき、ベッドへと歩み寄り、そこに寝ていた少年を見つけ、腰に手をあて、ため息をついた。

 「もう! 絶対、あなたかサイファーだと思ったわ!」

 ということは、寝ているのはスコールの方か・・・とは思う。

 「さあ、行くわよ。実地試験、今日に決まったんだから」

 起き上がったスコール・レオンハートは、キスティスの他に誰かいることに気づき、顔をあげる。視線がぶつかり、は「やぁ!」と片手をあげた。

 「・・・なんで先輩まで?」
 「噂の問題児君を見に来たのよ。悪い?」

 無愛想なのは、相手がだからではない。彼は、こういう人間なのだ。
 そのまま、はスコールとキスティスの後をついてくる。キスティスがからかうように、スコールの言動を真似するのを、楽しそうに眺めていた。

***

 ホームルームの様子を、は教室の隅に立って眺めていた。基本、SeeDの行動は自由だ。訓練するもよし、休養するもよし。
 だが、その行動に何かしらの問題があれば、即SeeDのランクは下げられてしまう。現在ののランクは15だ。

 「おはよう、みんな。まず、今日の予定からね。昨日からウワサになってるみたいだけど・・・SeeD選考の実地試験が夕方からスタートします。試験に参加しない人、先週の筆記試験で失敗しちゃった人は、ここで自由時間。いつもの訓練以上に念入りに準備しておくこと。16時、ホールに集合。OK? それから、サイファー」

 名前を呼ばれ、一番後ろの席で、ふんぞり返っていたサイファーが顔をあげた。

 「練習の時は、相手にケガをさせないように。以上、気をつけなさい」

 キスティスの言葉に、サイファーは隣の席のスコールに視線をやり、苛立ちをぶつけるように、ドン!と机を叩いた。

 「それじゃ、試験参加者とはあとで会いましょう。それから、スコール。話があるから、ここに来てちょうだい」

 生徒たちが席を立っていく中、スコールはキスティスの傍に歩み寄った。

 「あなた、まだ炎の洞窟に行ってないわね。あの課題をクリアしないと、今日のSeeD試験には参加できないわよ」

 キスティスの言葉に、スコールが眉間に皺を寄せる。何か言いたいことがあるようだが、言葉は出てこない。

 「ん? 何か正当な理由があるの?」
 「・・・別に」
 「それじゃあ、これから一緒に行くわよ。準備が出来たら、正門まで来なさい。それじゃあね」

 キスティスはチラッとに目を向ける。一緒に行くのか?という視線での問いかけに、は手を振ってみせた。

 「炎の洞窟の課題かぁ・・・なつかしいなぁ」
 「・・・・・・」

 が話しかけるも、スコールはそんな彼女を無視して教室を出て行く。慌てて、もその後を追った。

 「まあ、君は優秀な候補生らしいから? 難なく課題はクリアできると思うよ」
 「・・・そうですか」
 「SeeDの試験、がんばってね。君ならパスできるよ」

 ニッコリ笑うの様子に、スコールは何とも言えない表情を浮かべる。こんな風に、屈託なく自分に話しかけて来る人物はめずらしかった。
 スコールは綺麗な顔立ちをしているため、女生徒から密かに人気があるのだが、いかんせん話しかけづらい雰囲気を持っている。雰囲気だけでなく、先ほどからのとのやり取りを見てもわかるように、無愛想で言葉足らずなのだ。好き好んで話しかけて来るのは、キスティスかサイファーくらいのものだろう。

 「・・・先輩は、今回の試験に参加するんですか?」
 「うん。正SeeDとして、ね。実は実地試験の参加って、自分が試験受けた時以来だから、ちょっとドキドキしてるんだぁ〜」

 話しながら、エレベーターへの角を曲がろうとした時だった。向こうからやってきた少女と、スコールが派手に衝突した。

 「キャッ!」

 スコールとぶつかった少女は、見事に跳ね飛ばされ、尻もちをつく。驚いたとスコールだったが、が慌てて少女に手を差し伸べた。

 「大丈夫?」
 「うん、大丈夫だよ」

 立ちあがった少女は、栗色の髪を外にカールさせた、緑の瞳をしたかわいらしい女生徒だった。
 バラムの制服よりも、若干褪せた色合いの制服は、見覚えがないが・・・転校生だろうか?

 「ごめんね〜。急いでたから。あっ! ねぇねぇ、もしかして、そこのクラスの人?」
 「・・・ああ」
 「も、もしかして、ホームルーム終わっちゃった?」
 「ああ・・・」
 「ガーン、ショック〜。うぅ〜、だって、ここって前にいたガーデンより広いんだもん」
 「ということは、やっぱり転校生ね?」

 の言葉に、少女が笑顔でうなずき「トラビアから来たの」と答えた。

 「さっき転校してきたばかりなの」
 「へぇ・・・そう。じゃあちょうどよかったわね。スコール、この子にガーデンを案内してあげなさい」
 「は?」

 の言葉に、スコールが目を丸くする。明らかに迷惑、といった表情を浮かべる彼に、はクスッと微笑んだ。

 「ここで転校生にいいとこ見せたら、今日のSeeD試験にプラスもらえるわよ」
 「・・・・・・」
 「ね、いいじゃない。私はこれから用事あるし。キスティスには、私から説明しておくわ」
 「先輩・・・!」
 「じゃあね」

 ヒラヒラと手を振り、半ば強引にスコールに転校生を押し付け、は自室へ戻った。

 『さてさて・・・ちゃんと案内するかしらね、あの子』

 少しだけ、あの2人の様子を見てみたいところだが、は正門で待っているキスティスのもとへ向かった。

 「あら、。スコールは?」

 姿を見せた友人に、キスティスが目を丸くする。先ほどまでSeeDの制服を着ていた彼女だが、今はオレンジの私服に着替えていた。

 「今、転校生にガーデンを案内してるから、ちょっと待ってあげて」
 「へぇ・・・案外、優しいところがあるのね」
 「まあ、私が半ば強引に押し付けたんだけどね」
 「あら・・・」
 「そんなわけだから、ちょっと待っててあげてね」

 用事がすむと、再びは自室に戻った。
 夕方から行われるSeeDの実地試験に向けて、その準備だ。

 『ケツァクウァトル、シヴァ、イフリート・・・この3体をジャンクションして・・・』

 ガーディアンフォース、G.F.とSeeDたちは呼んでいるが、強大な力を持つ自律エネルギー体。これをジャンクションすることにより、強大な力を得ることができる。
 だが、G.F.には重大な欠点があるといわれており、それを批判する者たちの目もあり、それらのジャンクションを認めているのは、バラムガーデンのみである。

 「よし・・・じゃあ、あとは・・・時間まで訓練施設にでも行きますか!」

 それから、少し体を休めて・・・今は10時を少し回ったところ。十分、ゆっくりできるだろう。
 立ちあがり、刀を手に取ると、は部屋を出て行った。