Only one,Only you

Chapter:4

ドリーム小説  今度のラグナは、どこかの研究所のような所にいた。警備兵がラグナたち3人に命じる。

 「そこの細いのとデカイ奴は・・・ルナティックパンドラの中で働いてもらう。残ったお前は、ここで手伝いだ! 他の奴も、早く仕事に戻れ!!」

 警備兵の叱責に、作業員が持ち場に戻った。
 一体、何があってこうなったのか・・・エルオーネを捜してエスタへ来たはずなのに、気づけばこんな所で肉体労働・・・。ジャーナリストからは程遠い。

 「腹減った・・・」
 「そこ!! 私語は慎め! 3、4日で根を上げるとは、根性が足りん!! ワタシの若い頃は・・・朝から晩まで・・・寝ずに・・・」

 眠くなりそうな説教も、ラグナは華麗にスルーだ。

 「キロスとウォードの奴・・・ちゃんと仕事してっかな〜」
 「私語は慎めと、何度言えば・・・!」

 再び注意の声が飛ぶが、それを遮るようにチャイムが鳴った。

 「あ・・・飯だ! 飯の時間だぜ〜!!」
 「お前は、まだ作業を続けろ! 私語をした罰だ! そこのケモノ・・・お前もだ!」

 ケモノ・・・オレンジ色の体毛に覆われたそれには、スコールは見覚えがあった。ムンバだ。

 「残りの作業が終わるまで、飯は抜きだ!!」
 「ちょ・・・ちょっと待てよ! 作業が終わるまでって・・・。オレのは2、3時間で終わるけど・・・そいつの仕事は・・・1日2日で終わる仕事じゃねぇだろっ!?」
 「だったら、2、3日は飯抜きだな・・・。それがいやなら・・・早く作業を終わらせることだ・・・」

 横暴な言葉に、ラグナはムッとする。いくらなんでも、ひどすぎる。文句を言えない種族を、いいように扱うなど。
 そこへ、先ほどキロスたちを連れて行った警備兵が戻って来た。

 「ちょっと来てくれ。俺1人だと、デカい奴が手に負えない」

 呼ばれ、警備兵が作業場を離れようとして・・・ラグナを振り返った。

 「俺がいないからって、バカなマネはするなよ。監視カメラが・・・一部始終見てるからな・・・」

 そう言い残し、警備兵は出て行く。ラグナはチラッとムンバの方を向いた。

 「大丈夫か? な〜んかフラフラしてるな・・・。ちゃ〜んと飯もらってるか? 熱でもあるんじゃねぇのか? 高いところ、怖いんじゃねぇのか?」

 高所で作業中のムンバにそう声をかける。

 「ぺこぺこ」
 「お腹ぺこぺこ・・・?」

 ムンバの言葉に、ラグナが首をかしげると、傍にいた男が笑った。

 「はっはっはっ・・・面白いこと言うな、あんた。そいつの言ってる“ぺこぺこ”ってのは・・・“ありがと”って意味らしいぜ」

 なるほど・・・お辞儀のぺこぺこから来てるのだろうか・・・?

 「だけどよ・・・そいつの身体を心配する奴なんかは、あんたが初めてだよ。だいたい、こいつらムンバは理由もなく飯は半分、睡眠も半分・・・そのくせ、俺たち人間よりキツい仕事させられてるのが普通だからな」
 「つらそうだなぁ・・・頑張れよ・・・。いつかこっから出られる時が来たら、オレん家で、たらふく飯食わしてやるからな。食い終わったら、もちろん昼寝だ。な!」
 「ぺこぺこ」

 ムンバがうれしそうに答えた時だ。頭上から賑やかな声が聞こえてきた。

 「実験、実験! やってみるでおじゃる!!」

 そして、大きな揺れ。上の方からの振動で、天井からパラパラと何か落ちて来る。

 「失敗でおじゃる〜!!」

 聞こえてくる声に、男がハァ・・・とため息をついた。

 「また上の研究所で・・・オダイン博士が、なんかやり始めたらしいな。オダイン博士・・・ここに俺たちがいること、忘れてるよな・・・絶対。だいたい、科学者ってもんは自分の研究のこと以外は考えてねえからな」

 確かに、そうかもしれない。自分の研究で頭がいっぱいなのだろう。

***

 いつ終わるとも知らない作業を続けていくうちに、男とは仲良くなり、ムンバには懐かれた。
 一度、怪我をした時など、ペロペロと舐めて治そうとしてくれたほどだ。
 そんなある日、ラグナに「上の階へ行って応援を呼んでこい」と頼まれた。
 ちょうどその時、ムンバに道具を渡そうとしていたのだが・・・それを放り投げると、ムンバはそれを受け取り損ねて、そのまま落下。ラグナが大騒ぎするも、命綱のおかげで無事だということに・・・。
 ハァ〜・・・と安堵するラグナの姿に、それを見ていた男が感動した様子を見せた。

 「あんた・・・ほんと・・・いい奴だ。今時めずらしいよ・・・ほんと。あんたなら、俺たちの計画・・・引っ張っていってくれそうだ」
 「計画・・・?」

 男の言葉に、ラグナが首をかしげる。相手の男は力強くうなずいてみせた。

 「そうだ。今、エスタを支配しているアデル・・・奴のやり方に反感を持っているやつは多い。まだ、今はみんなバラバラだ・・・。だが、いつか力を合わせて、アデルを倒そうという計画があるんだ。一国の主を倒すんだ。しかも普通の人間じゃない。魔女といわれる超人を相手に・・・だ。生半可な計画じゃ・・・返り討ちに遭うのは目に見えている。だから、今がこらえどきなんだが・・・」

 真剣な表情で力説する男の言葉を、ラグナは腕組みしながら、うんうんとうなずく。

 「俺たち“反アデル派”は、専門分野の技術家が大半だ。だからアデルを倒すための研究も容易なんだが・・・。でも、実際に行動を起こそうとなると、先頭に立つ者がいない・・・そういう状態なんだよ。俺たちは、あんたのような・・・損得なしに自分に正直に生きる・・・そんな指導者を・・・」
 「おい、連絡はまだか・・・!?」

 そこへ、先ほどの警備兵が戻ってきてしまう。男とラグナが話しているのを見て、身構えた。

 「何してる! また・・・何か企んで・・・!!」
 「やめろー!!」

 警備兵が男に襲いかかろうとしたので、思わず警備兵を殴り飛ばしてしまった。
 「ヤベ・・・!」と思った時には遅かった。新たな警備兵が来てしまったのだ。

 「動くな・・・!」
 「また、やっちまった・・・。こうなっちまったもんは仕方ねぇ・・・」

 チラッと男とムンバを振り返り、エレベーターを顎で示した。そして、そのまま警備兵に体当たりした。

 「早く乗って逃げろ!」

 男とムンバがエレベーターに乗って逃げる。と、研究所の奥から見慣れた2人がやって来た。

 「キロス! ・・・ウォード! ちょ〜どいいところに・・・」
 「・・・ちょうど最悪な状況・・・とも言うな・・・普通は」

 何せ、警備兵が新たに現れ、完全に挟まれているのだ。

 「無駄口叩かずに、さっさと歩け・・・!」

 武器を向け、警備兵が注意をするが、ラグナたちは聞いていない。

 「そう悪くもないぜ・・・。1人より2人・・・。2人より4人っていうだろ?」
 「・・・どこに4人いるんだ? まさか・・・とうとうお前・・・幻覚で第四の助っ人でも見え始めたんじゃ・・・?」
 「見える・・・見えるぜ!! あぁ・・・愛しのエル・・・。こんな所にいたのか・・・おじちゃん、うれちぃ」

 と、ラグナがキロスたちに告げる。「今のうちに、警備兵を倒して脱出するぞ!」と。
 エレベーターで上へ行くと、研究所にはありがたいことに警備兵がおらず、ちょんまげ頭にシャンプーハットのようなものを首に巻いた男と、1人の研究員しかいなかった。
 彼らが話している内容も気になるが、今は逃げるのが先だ。「ルナティックパンドラを武器として使用する・・・」物騒な話だ。
 研究所を出ると、そこにはムンバと男が待っていた。ラグナは笑顔で彼らに近づく。

 「お! わざわざ待っててくれたのか!?」
 「ぺこぺこ」
 「気をつけて行けよ! また、捕まったりすんなよ!」

 ムンバが走り去ってから、ラグナはハッと思い出す。一緒にご飯を食べて昼寝をしよう・・・と約束していたのに・・・。

 『まぁ・・・ヤツにとっては、外で自由に動ける方が、ごちそうか!』

 確かに、その通りかもしれない。
 と、研究所の中から、先ほどの研究員が出て来る。捕まえに来たのか・・・と、身構えるが、男が「彼も反アデル派の仲間だ」と教えてくれた。

 「新しい仲間ですか・・・? 歓迎しますよ。よろしく! 下で派手にやっていたようですが・・・。まぁ・・・この研究所を離れるには、ちょうど時期がよかったかもしれませんね」
 「どうかしたのか? それとも、アデルがここの研究に見切りをつけたのか?」
 「オダイン博士の方ですよ。博士・・・またやってくれました。大〜きいルナティック・パンドラより、ちっちゃな・・・オモチャを見つけたらしいです。その・・・エルオーネという子供に移ったと思われます」
 「エルオーネ!?」

 その名前に、ラグナは思わず声をあげた。
 ずっと捜していたエルオーネ・・・その行方が、ここへ来てようやく掴めたのだった。