7.Only one,Only you

Chapter:2

ドリーム小説  「なんでオレがこんなことしなくちゃならないんだよ!」
 「金がないからだ」
 「・・・・・・」

 どこかの山道・・・ラグナがキロスとウォードに食ってかかれば、キロスはあっさりと答え、ウォードはうなずいた。

 「悪かったよ! ホテルにばっか泊ったのは、確かにオレのせいだ。でも、オレ、役者なんて出来ないって!」
 「と言いつつ、少しはその気のラグナ君であった、と」

 一体、何があったのかは、わからないが、とりあえず今のラグナは旅の資金を失い、映画主演を引き受けることになったらしい。
 最初はイヤがっていたラグナだったが、お金がもらえるとなれば、我慢するしかない。
 だが、渡された衣装を目にした時、逃げ出したくなった。
 甲冑姿のラグナが、ガションガションと音を立てながらやって来ると、監督が笑顔を浮かべた。

 「おっ、来た来た。似合うじゃないの。こちら、共演の魔女さん」
 「よろしくお願いいたしますわ〜」

 ロング丈の白いワンピースと、赤いストールを身にまとった女優が笑顔で言った。

 「後はドラゴン役なんだが・・・。おお! ちょうどいいや、後ろの2人!」
 「はい?」

 監督が声をかけたのは、キロスとウォードの2人だ。

 「悪いんだけどさ、ちょっと着ぐるみの役者が風邪引いちゃってさ。向こうにある、ドラゴンのぬいぐるみ着てノシノシ歩いてきてよ。バイト代は出すからさ」
 「ま、しょうがないか」

 仕方なく、着替えに向かったキロスとウォードだったが、2人がとんでもない目に遭っているとは、誰も知らなかった。
 そうこうしている間に、撮影に入る。
 ・・・が、予想通り・・・というか、何と言うか。役者などしたことのないラグナは、セリフを噛んでしまう。
 だが、ガンブレードを構える姿は、さすが元兵士。監督も絶賛するほどの確かなものだった。
 というわけで、ラグナのセリフは吹き替え・・・ということになってしまった。

 「ハイ、ドラゴン登場ぅー!」

 巨大な身体を揺らしながら、赤い体のドラゴンがやって来た。
 ラグナがガンブレードを構え、ドラゴンと向き合う。と、ドラゴンが咆哮をあげ、ラグナに襲いかかって来た。

 「って、これ、本物じゃねぇか!!」

 大きく開いた口の奥に、キロスの顔は見えず・・・巨大な牙が見えたのだ。

 「なにいー!! どおりで、でっかくてリアルだと思った!! な、なんて、ノンキなことを言ってる場合じゃねぇな。じゃ、じゃあ、騎士君。後は頼んだよー」
 「で、では騎士様。後は、頼みましたわ〜」
 「お、おい、テメエラ! オレを置いていくな!!」

 逃げ出して行く監督と女優さん。ラグナが逃げようとすると、ドラゴンがそれを阻むように攻撃を仕掛けてきた。

 「ちっ! 見逃してくれそうもねぇな」

 ガンブレードを構え、一進一退の攻撃を仕掛けていると、ドラゴンがうずくまった。

 「ちゃ〜んす、今のうちに逃げるぞ!」

 ラグナがその場を逃げ出すも、ドラゴンはしつこく追いかけてきた。

 「だー! しつこいぞ! キロスとウォードは何してんだ!!」
 「呼んだかい? ラグナ君」

 聞こえてきた声と共に、背後に誰かが下り立つ。キロスとウォードだ。ラグナはホッと息を吐く。「ほい、パス」と言いながら、キロスがラグナのマシンガンを投げてよこした。

 「よ〜っし! 反撃開始だ!!」

 自分の武器と、キロスとウォードがそろえば、怖いことはない。ラグナたちはドラゴンを倒したものの、奥の方からドラゴンの咆哮がいくつも聞こえ、ギョッとした。

 「な・・・何匹いるんだよ! 相手してられるかっての!! 逃げるぜ!」

 慌ててその場を逃げ出すラグナたち。ようやく、ドラゴンの気配がなくなると、足を止めて息を整えた。

 「・・・なんだよ、あれ」

 ラグナの視線の先に、何か光るものが見えた。空中に浮かぶ、建造物に見える。

***

 「・・・接続が切れないわ」
 『接続ってなんだよ』
 「スコールなの?」
 『ああ・・・』

 頭の中に聞こえてきた声に、言葉を返すと、エルオーネが驚いた声をあげた。

 「接続っていうのは、私がそう呼んでるだけ。私の不思議な能力を使うこと。わかった・・・私、眠ってるんだ。だから力をコントロール出来ないんだ。ごめんね、スコール。あと少しだけ心を貸して」
 『もう帰してくれよ』

 スコールの思いとは裏腹に、再びスコールがラグナに接続される。
 そして、そこで見たのは・・・スコールのよく知る人物・・・まませんせいの姿・・・。

 「やっぱり、ここにはいないよな〜」
 「そのエルオーネちゃんはどうしたの?」
 「エスタ兵に誘拐されたんだ。オレ、なんとかエスタに入ろうとして旅を続けて、かれこれ・・・」
 「エスタ魔女、アデルの後継者集め?」
 「そうそう、それ!」

 ウィンヒルで、レインとラグナと幸せに暮らしていたエルオーネが、エスタにさらわれたとは・・・。

 「娘さん?」
 「違うけど、でも、かわいいんだよ〜。ああ、声が聞きたいな〜」

 デレデレとしたラグナの表情は、まるで実の父親のようだった。

***

 『もしかしたら・・・ママ先生との戦いの時に戻れば、が助けられるかもしれない・・・』
 「過去は変えられないよ。私、やっとわかった。私がエスタに攫われた時に、ラグナおじさんは旅に出た・・・。でも、そのせいで、レインが死んじゃう時に、ラグナおじさんは傍にいられなかった」

 なんと・・・あの気丈で美しいレインが、もうこの世にいないというのか・・・。

 「レインは生まれたばかりの赤ちゃんを、ラグナに見せたがっていた・・・。レインはラグナ、ラグナって呼んでた。だから、何があっても村にいるように・・・。でもダメだった。もうあの瞬間には戻れない。ごめんね、スコール。接続、切れそうなの。また、あなたと話せるように試してみるね」

***

 スコールが意識を取り戻す。「だいじょぶ〜?」とセルフィに声をかけられ、うなずいた。

 「スコールだけ、いつまでたっても起きないから、心配しちゃった〜」
 「・・・ああ、大丈夫だ。それより、アーヴァイン。エルオーネの力だ。エルオーネの力を使って、過去に送りこんでもらうんだ! あの瞬間に!」
 「え・・・? でも、スコール・・・」
 「エルオーネは白いSeeDの船に乗ってるんだったな。・・・白いSeeD・・・イデアのSeeD。ママ先生に聞けばあの船の場所がわかるかもしれない。そうすれば、エルオーネに会える。そうすれば、過去に・・・」

 意気込むスコールとは対照的に、アーヴァインはどこか暗い。

 「スコール・・・気持ちはありがたいけど、過去へ行っても、どうやってを助けるの?」
 「何があったのか、わかるかもしれないだろ」
 「そうだぜ! アーヴァイン! ここでを見つめてても、何も変わらないぜ!」
 「ゼルの言う通りよ。少しでもを助けられる可能性があるなら、それに賭けましょう」

 ゼルとキスティスにまで背中を押され・・・アーヴァインはこくんとうなずいた。

***

 イデアに会いに行き、事情を説明すると、セントラの入り江にいるかもしれない・・・という情報をくれた。そして、白いSeeDたちに向けて、手紙を書いてくれた。いわゆる紹介状のようなものだろう。
 シドの話によると、白いSeeDの船はエスタからエルオーネを守るためのものだったのだが、いつの間にか子供を集めて孤児院のようになってしまったらしい。イデアは彼らにも様々なことを教え、SeeDと呼ぶことにしたのだった。
 イデアの情報通り、白いSeeDの船は、セントラ大陸の入り江にあった。ガーデンを寄せ、船へ乗り込むと、白いSeeDたちが寄って来た。

 「君たちは・・・?」
 「俺はバラム・ガーデンのスコール。この船の指揮官に会いたい」
 「僕がリーダーだ。用件を聞こう。ただし、内容によっては即刻・・・撤退を要求する・・・」

 白いSeeDたちの1番前にいた少年が、警戒を顕に、そう告げた。

 「・・・エルオーネに会わせてほしい」
 「・・・!?」

 スコールが告げた言葉に、白いSeeDたちが目を丸くする。

 「俺たちは、怪しい者じゃない・・・。イデアがここを教えてくれたんだ」
 「なぜ・・・イデアに・・・」
 「イデアは、もう・・・魔女アルティミシアの支配から逃れた。今は俺たちの仲間だ・・・。だから、エルオーネの居場所を隠す必要はない。俺たちがここへ来た目的は、エルオーネを魔女アルティミシアから保護するためだ」

 白いSeeDがジッとスコールを見つめる。スコールも動じることなく、彼を見つめた。

 「・・・信じる理由はない。・・・お引き取り願おう」
 「ちょっ・・・!!」

 白いSeeDたちが船室の方へ歩いて行ってしまう。こちらとしては、彼らが頼みの綱なのだ。あきらめるわけにはいかない。船室に入った白いSeeDのリーダーを追いかけようとすると・・・。

 「あ〜! 久しぶりッス!」

 聞き覚えのある語尾。走り寄って来たのは、ティンバーのレジスタンス“森のフクロウ”のメンバー、ワッツだった。

 「うぉ、どうした!? あ・・・スコールじゃないか!」
 「ゾーン! ワッツ!」
 「リノア!」

 再会を喜ぶ3人。「一体、どうしてここに?」とリノアが問う。ガルバディア兵に追われていたところを助けられたのだという。

 「リノア、俺たちはさっきのリーダーに会ってくる。あんたは2人と話しててくれ」
 「うん。ありがと、スコール」

 リノアをその場に残し、スコールたちはリーダーのいる部屋に入った。

 「これを・・・」

 スコールがイデアの書いた手紙を渡すと、リーダーは目を丸くした。

 「これは・・・ママ先生の字。本当にママ先生が?」
 「あんたたちもママ先生って呼ぶんだな」
 「僕たちを育て、教えてくれた人だから」
 「俺たちも子供の頃、イデアに育てられた。色んなことがあってイデアと戦った。その結果、イデアを取り戻した。恐ろしい魔女イデアは、優しい魔女イデア・・・ママ先生に戻った」
 「ありがとう、スコール。ありがとう、バラム・ガーデンの人たち。イデアの船を代表して感謝する」

 リーダーが敬礼をする。その形を見て、驚きつつ、スコールも敬礼を返した。

 「敬礼まで同じなんだな」
 「SeeDを作る時に、敬礼だけは決まってたってママ先生が言ってたよ」

 そう言って、リーダーが優しく笑った。さっきまでの刺々しい空気がなくなっていた。

 「手紙に書いてあったけど、エルオーネを捜しているんだろ? ・・・申し訳ない。エルオーネはいない」
 「え・・・!?」
 「君たちのガーデンにあずけておいた、エルオーネをF.H.の近海で返してもらっただろ? そのあと僕たちは魔女イデアから遠ざかるために東へ向かった。間もなくガルバディアの船団に遭遇したんだ。船がたくさんいて、何かを捜索してたみたいだった。迂闊だった。僕たちは見つかって、追いかけ回された。もちろん全速力で逃げたんだ。でも船が故障してしまって・・・。エルオーネをガルバディアに渡すわけにはいかなかった。だから、僕たちは・・・戦闘の準備を始めた。そこへ、エスタの船が現れたんだ」

 エスタ・・・沈黙の国エスタ。あの国の船がなぜ・・・。

 「ガルバディア軍とエスタの船の戦闘が始まった。僕たちは巻き込まれてしまった。ここから起こったことは・・・僕たちの間でも意見が分かれている」

 フゥ・・・と息をつき、リーダーはそこで言葉を切った。

 「エスタの船が一隻、この船に横付けしてきたんだ。僕たちに、エスタの船に乗り移るように言った。避難させようとしていたみたいだった。僕たちはもちろん拒否した。ガルバディアと同じくらいエスタも信用できなかった。エスタ兵たちは僕らを説得しようとしたけど、周囲の戦闘が激しくなって・・・。エスタの船があきらめて離れようとした時、黙って様子を見ていたエルオーネが、何かを叫びながら、エスタの船に飛び移ったんだ」
 「エスタの船に・・・?」
 「全然エルオーネらしくない行動だった」

 確かに、子供の頃はおてんばで元気な少女だったが、再会したエルオーネは清楚なお姉さんだった。

 「僕たちは何が何だかわからなくて・・・。でもエスタの船は激しくなった戦闘から、逃げるように去って行った。そして僕たちは・・・いや、僕たちのことはいいか。それっきりだ。僕たちは船が直り次第エスタへ向かうつもりだ。すまない、スコール。エルオーネを守れなかった」
 「エルオーネはエスタにいるってことか?」
 「そう思っている」

 スコールたちは顔を見合わせた。
 エルオーネがエスタにいる・・・。ならば、スコールたちもエスタに行くしかないだろう。
 を救うために、エルオーネの力が助けになるかもしれないのだから。