7.Only one,Only you
Chapter:1
ドリーム小説
『終わったのか? ・・・何が終わったんだ? ・・・終わったのは・・・終わったのはの』
***
バラム・ガーデンのの部屋のベッドで、彼女は眠っていた。
あの時・・・魔女イデアと戦った直後、がサイファーと接触してから、彼女はいきなり意識を失った。
何度名前を呼んでも、体を揺すっても、は目を覚まさない。
「・・・アーヴァイン」
を見つめていたアーヴァインの背に、スコールの声がかけられる。ゆっくりと振り返った彼の顔は、いつもの朗らかさが欠片もない、無表情だった。
「こんな時に悪いんだが、イデアの家へ行く。ママ先生があの孤児院に帰ってるらしい」
「そうなんだ・・・。ママ先生なら、何かわかるかもしれないね」
「あんたは・・・」
「うん、僕も行くよ。ママ先生に聞きたいことあるし」
微笑むアーヴァインの顔は、どこか痛々しい。無理もない話だ。スコールは思わず眉根を寄せてしまう。
ゆっくりと、ベッドサイドの椅子から立ち上がり、アーヴァインはスコールと共にの部屋を出て、ガーデンの外へ向かった。
「アーヴァイン、大丈夫なのかよ?」
ガーデンを出てきたアーヴァインの姿を見て、ゼルが声をあげた。そこにいたキスティス、セルフィ、リノアも心配そうな視線を向けてきた。
「うん? 僕なら大丈夫だよ」
「・・・・・・」
「それより、ほら・・・ママ先生が待ってるだろ?」
アーヴァインが石の孤児院へ向かう。完全に朽ち果てているそこは、人が住めるような状態ではない。だがイデアは人目を避けるように、ここにいると言う。
「な、なんだか緊張するぜ」
「・・・やっぱり会いにくいわね」
何せ、自分たちは“魔女イデア”と戦い、知らなかったとはいえ、魔女イデアを心の底から憎んだのだ。どこか後ろめたい。
それは、イデアも同じだろうが・・・。
家の中に入ると、そこには見慣れた人物が立っていた。ガルバディア・ガーデンとの戦いで、いつの間にか姿を消していたシドだ。
シドはスコールたちの姿を認めると、目を見張り、次いで頭を掻いて、バツの悪そうな顔をした。
「・・・ああ、ご苦労様でした。・・・アハハ、怒ってますか? アハハ・・・そうですよね。私は・・・偉そうなことを言い続けて、いざという時に逃げ出したわけですからね」
苦笑を浮かべたシドだが、不意に悲しそうな表情を見せた。
「君たちの敗北は君たちを失うこと。君たちの勝利の報告は妻を失うこと。どちらも・・・耐えられそうにありませんでした。私は・・・いいです。ただ、イデアは許して下さい・・・」
「学園長・・・」
それだけ、シドはイデアを愛しているのだろう。シドを恨むことなど出来なかった。
そして・・・イデアは・・・。
浜辺へ行けば、そこには魔女の姿のままのイデアがいた。
「・・・ごめんなさい、私の子供たち。本当の子供のように思って育ててきた、あなたたちを私は・・・」
「俺たちも同じです。ママ先生と知ってて戦いました」
イデアの言葉に、お互い様だ、と言いたげにスコールが告げた。
「あなたたちはSeeDです。戦いを避けるわけにはいきません。立派でした。でも、まだ終わったわけではありません。こうしている瞬間にも・・・私はまた」
「どういう意味ですか?」
苦い思いをしてまで、イデアを倒したというのに、まだ終わりではないとは・・・。
「・・・私はずっと、心を乗っ取られていました。私を支配していたのは、魔女アルティミシア。アルティミシアは未来の魔女です。私の何代も何代も後の、遠い未来の魔女です。アルティミシアの目的は、エルオーネを見つけ出すこと。エルオーネの不思議な力を求めているのです」
エルオーネの・・・対象の人物を、過去に送り込むことのできる力・・・。
「私はエルオーネをよく知っていました。アルティミシアは恐ろしい魔女です。そんな魔女にエルオーネを渡すわけにはいきませんでした。私に出来ることは・・・私の心をアルティミシアに明け渡して、私自身を無くしてしまうことでした。そうしなければ、エルオーネを守れなかったのです。その結果が・・・みんなの知ってる通り。ガルバディアに現れたのは、アルティミシアに屈した私の抜け殻でした」
デリング大統領を殺害したのは、イデアではなく、アルティミシアだったのか・・・。それならば、納得ができる。あのイデアは、“イデアではなかった”のだ。
「アルティミシアはまだ目的を果たしていません。だから、また、私の身体を使って行動を起こすでしょう。今度は私も抵抗するつもりです。でも・・・それでも駄目だったら・・・。あなたたちと、再び戦うことになるでしょう。頼みますよ、SeeDたち。あなた方は魔女アデルのことを、聞いたことがありますか?」
いきなり話を変えたイデアに、スコールたちは不思議に思いながら、うなずく。
「エスタを支配していた魔女・・・。現在は行方不明ですよね」
スコールの言葉に、イデアがうなずいた。
「ガルバディアの人々は、私が魔女アデルの力を引き継いだ、現在の魔女だと思ったようです。でも、私は違います。私は5歳くらいの時に先代の魔女から、力を引き継いで、魔女になったのです」
「え〜と〜、どういうことかなあ」
イデアの言葉に、セルフィが首をかしげる。その言葉を受け、イデアは言葉を足す。
「魔女アデルは生きているのだと思います。そしてアルティミシアが私の身体を開放したのは・・・魔女アデルの身体を使うためではないでしょうか。・・・魔女アデルは力を自分の欲望のために利用することをためらわない魔女です。そのアデルに未来の魔女アルティミシアの力と怒りが入り込んだら、その恐怖はどれほどのものか・・・」
ごくり・・・と、息を飲むスコールたち。そんな恐ろしい力を持つ魔女同士が一緒になったなら・・・。
「ママ先生、に何が起こったのか、わかりますか?」
アーヴァインが、ずっと聞きたかったであろうことを、尋ねた。
「? に何があったのですか!?」
「ママ先生と戦って・・・戦いが終わって、気づいたら・・・身体が冷たくて・・・全然動かないんです」
「は死んでしまったのですか!?」
「違います!!」
シドの不吉な言葉に、思わずアーヴァインは声を荒げた。
「ごめんなさい、アーヴァイン。私は力になれそうにありません」
「・・・そうですか」
「ママ先生、本当にわからないんですか? あなたを倒した時に光が辺り一面を包んで・・・」
あきらめた様子のアーヴァインに代わり、スコールが声を発した。
「スコール、気持ちはわかります。でも君は指揮官なのです。ガーデンの他の生徒たちも、自分たちの戦いの結果や行方を知る権利があります。ここで聞けるだけの情報を、ガーデンに持ち帰りなさい。だけじゃありません。みんなが戦ったのです」
「わかってます。でも・・・」
「でも・けど・だって。指揮官が使う言葉ではありませんね」
シドの言葉に、ムッとする。勝手に指揮官に任命しておきながら、何を言うのか・・・。
「スコール・・・いいよ、大丈夫。ママ先生の話を聞こう」
ポン、とスコールの肩に手を置き、アーヴァインが穏やかに言った。そのアーヴァインの態度に、スコールは眉根を寄せる。彼だって、言いたいことは山ほどあるはずだ。それなのに・・・。
「アルティミシアの目的はエルオーネ。エルオーネの不思議な力。人の意識を過去に送る力」
「そうか・・・アルティミシアはこの時代からさらに過去へ自分の意識を送りたいのか・・・」
「過去で何をする?」
「時間圧縮」
ゼルの問いかけに、イデアが答えた。セルフィが「ジカンアッシュク?」と首をかしげる。
「時間魔法の一つ。過去現在未来が圧縮される」
「世界はどうなっちゃうのかしら? そんなことしてどうなるのかしら?」
「時間が圧縮された世界なんて、全然想像できないよ〜」
ここで、それを考えていても仕方ない。とりあえず、ガーデンに戻り、生徒たちに現状報告をする必要があるだろう。
スコールが現状を館内放送で説明しているのを、アーヴァインはを見つめながら聞いていた。
「アーヴァイン・・・」
キスティスの声が聞こえた。振り返れば、やはりそこにいたのはキスティスだ。
「大丈夫?」
「・・・大丈夫、って言いたいところだけど、実際どうかな?」
困ったような笑顔で、アーヴァインがキスティスに答える。
「・・・あなたの気持ちは、とてもよくわかるわ。大切な子が、こんなことになっちゃって・・・。のそばについててあげて?」
「僕がそばにいて、は迷惑じゃないかな?」
「そんなことないわよ。は・・・あなたに惹かれていたと思う」
「・・・そうかな?」
そうだといいけど・・・とアーヴァインが苦笑を浮かべた。
「・・・アーヴァイン、いる?」
「リノア・・・」
リノアもの部屋にやって来る。そして、ベッドの上で眠るに目を向けると、その傍らにしゃがみこんだ。
「・・・どうしちゃったの? わたし、がいないと寂しいよ」
悲しそうに、リノアがつぶやくのを、アーヴァインとキスティスが見つめる。
「ねぇ、絶対には助かるよね? このままなんてこと、ないよね!?」
立ちあがり、アーヴァインに詰め寄るリノアだが、それはアーヴァインにもわからない。
「〜? 起きた〜??」
続けて入って来たのは、セルフィとゼルだ。ベッドの上のの、変わらない姿にため息をついた。
「やっぱり・・・まだダメかぁ〜。でも、生きてるんだし、希望はあるよね! あたしは、そう信じてる!」
「ああ、オレも信じてるぜ! は絶対に大丈夫だって!!」
拳をグッと握り締め、ゼルが力強く言えば、セルフィとキスティス、リノアもうなずいた。
「・・・アーヴァイン、は」
言いかけ、スコールの言葉が止まる。セルフィが「あ〜! いいんちょ!」と声をあげた。
「みんな、勢ぞろい・・・ってとこね」
「それだけ、が心配ってことだよ」
一同の視線が眠ったままのに向けられる。
アーヴァインが跪き、の頭に触れ、優しく撫でた。
「・・・こんなに冷たい・・・。でも、ずっとこのままなんてこと、ないよね? ねぇ、。僕には何も出来ないのかな? SeeDでもない僕に、君を助けるなんて・・・」
「アーヴァイン・・・そんなこ・・・と・・・」
「うっ・・・」
アーヴァインに声をかけたキスティスと、スコールが頭を押さえる。
「あ・・・あたしも・・・」
セルフィが倒れそうになり、慌ててリノアが抱き止めた。
「・・・ラグナか」
「というか、エルオーネ・・・だね」
あっちの世界・・・過去のラグナの時代に飛ばされた3人に、アーヴァインたちは目を向けた。