もともと嫉妬深い人の扱いには慣れていた。
 前の彼氏(キラ・ヤマト)が、それはそれは静か〜に腹の底から嫉妬していたから。
 でも・・・今回の彼氏は、そんな前の彼氏とはちょっと違う。
 あの頃の彼と、今の彼は同い年だというのに、どうしてこんなに違うんだろう・・・??


散りばめられたサディスティック


 「アスラン、ハイネ!!」

 何やら話し込んでいた二人に、少女・が笑顔で名前を呼びながら駆け寄った。

 「よぉ、・・・元気そうだな」
 「えぇ、お陰様でね。ミネルバ配属になってからというもの、あなたの顔を見ないですんでるから、かなりご機嫌よ?」
 「それは、痛いお言葉・・・。どうだ、慣れたか? ミネルバには」
 「うん。最初は整備士の仕事なんて、できるかどうか不安だったけど・・・今はもう」

 の過去を知る、数少ない人物・・・そのうちの二人がここにいる。
 少女・・・は、かつてザフトの敵軍、地球軍のパイロットだった。伝説のパイロット、キラ・ヤマトと共にアークエンジェルを守り抜いた少女である。
 そして、アスランにとっては想いを寄せる相手であり、月の幼年学校からの幼なじみであった。

 「もったいないな・・・。おまえほどの腕があれば、地球連合に奪われたMS、奪取できただろうに」
 「やめて、ハイネ。仮に、あの場に私とサンクチュアリがいたとしても、きっとあれは止められなかったわ・・・」
 「でも、どうなんだ・・・? あの期待のエース君は。どうやら、かなり上官に噛み付いてるみたいだけど?」

 苦笑いを浮かべながら、ハイネは傍らに立つアスランにチラッと目配せする。
 アスランも苦笑いを浮かべ、肩をすくめてみせた。

 「シンは・・・よくやってくれてる。彼の働きによって、私たちは何度も救われてるもの。あの、オーブ沖での戦いだって・・・彼がいなければ、ミネルバは・・・」
 「あいつは・・・シンは、キラに似ているな・・・」
 「え!?」

 アスランがこぼしたつぶやきに、は思わず声をあげてしまった。

 「意地っ張りで、無鉄砲で・・・でも信念は貫く。守りたいと思ったものは、必ず守り抜く・・・そして・・・その守りたいものも、同じだ・・・」
 「アスラン・・・」

 悲しそうな笑みを浮かべるアスランに、はそっと目を伏せ・・・再び声をかけようとするが・・・。

 「、何してんの?」

 聞こえてきた明らかに不機嫌そうな声に、三人はハッと息を飲んだ。
 バッとが振り向き、アスランとハイネが視線を移すと、そこには今しがた噂になった、“期待のエース君”が立っていた。

 「シ、シン・・・!」

 慌てた様子で、はシンに駆け寄った。
 そのを、シンは冷ややかな目で見下ろす。

 「何話してたの? 三人で」
 「えっ! いや、ちょっとね・・・昔話を・・・」
 「フーン・・・? それって、オレに聞かれるとマズイことなわけ?」
 「そっ、そんなことないけど・・・」

 内心、アスランは「マズイだろ」とつぶやいていた。
 何せ今の今まで“今の彼氏は、昔の彼氏に似ている”なんて話をしていたのだ。
 そんな話を、自分の知らないとこでされていたと知ったら、この気の短いエース君はまたまた怒りにその赤い瞳を揺らすだろう。

 「隊長たちも、勝手に人の彼女連れ回さないでください」
 「いや・・・オレたちは・・・」
 「それから、勝手にに触らないでくださいね? これ、オレのですから」

 グイッとの肩を抱き寄せ、しかも「これ」発言。
 思いっきりモノ扱いしたシンに、アスランは何か言い返そうとするが・・・。

 「それじゃ」

 有無を言わさぬ態度で、そのままシンはを連れてその場を去って行ってしまった。

***

 「キャアッ!!」

 ドサッと体が倒され、頭に軽い衝撃を受け、は思わず眉間に皺を寄せていた。

 「イッタァ〜・・・ちょっと、シン! 何して・・・」

 抗議の声をあげようとしたに、シンは覆いかぶさるようにして、ズイッと顔を近づけた。

 「何?」
 「い、いきなり、こんなことして・・・ビックリするじゃない・・・!!」
 「いいじゃん、別に。誰かに見られるわけでもないし」
 「そういう問題じゃないでしょ!」

 ベッドの上で、上半身を起こし、必死にシンの視線から逃れようとするが、シンはのしかかるような体制で、は身動きが取れない。

 「なんで、オレの気持ちも考えずに、あぁいうことするわけ?」
 「は?」
 「は?じゃないよ。仲良さそうに話してたじゃん? 楽しそうにさ・・・」
 「っ!!!」

 シンの手がの頬を撫で、そのまま首筋を這う指に、ビクッと体が大きく震えた。
 のミネルバでの部屋は、個室を宛がわれている。レイと相部屋であるシンとは違い、こうした時に邪魔が入る可能性が少ない。
 だからこそ、はシンに自室へ連れ込まれた時、すでに嫌な予感に捉われていたのだが・・・。

 「あんまりオレに嫉妬させないでくれる・・・? それとも、それが狙いなわけ? オレに襲ってほしいんだ?」
 「なっ・・・何言って・・・!!!」

 怒鳴ろうとしたの唇を、シンが自らの唇で塞ぐ。
 突然されたキスに、は目を見開くが・・・そっとそれを受け入れる。

 「ん・・・ふ・・・んぅ・・・」

 次第に深くなっていくそれに、は苦しそうな声を漏らす。
 交わされるキスと同時進行で、シンの手がせわしなく動き出し、そっとの制服に手をかけた。

 「んっ・・・! ちょっと・・・シンっ!!?」
 「何?」
 「な、何じゃないわよっ!! こんな真昼間から・・・」

 唇と唇を繋ぐ銀の糸を気にすることなく、が顔を真っ赤にさせて、慌てて抵抗した。
 そんなの様子に、シンはその赤い瞳を細め、唇を笑みの形に歪ませる。

 「オレを嫉妬に狂わせた罰・・・」
 「は!?」
 「好きだよ、・・・」
 「んっ・・・」

 シンの唇が、露になった首筋に触れる。
 ピリッとした痛みのすぐあとに、シンが首筋から唇を離し、満足そうな笑みを浮かべた。
 そこに赤い華が咲いたであろうことを、その表情からは読み取る。

 「ねぇ・・・・・・いいよね?」
 「・・・そこでダメだって言っても、無駄なんでしょ?」
 「よくわかってんじゃん。大人しくした方が身のためだよ」
 「もう・・・!!」

 頬をふくらませて抗議の声をあげたの唇を、シンは再び自身の唇で塞いだ。

 嫉妬に狂った恋人の姿は、恐ろしいものだな・・・なんて、シンの愛撫を全身で受けながら、は心の中でつぶやいていた。

 「・・・ねぇ、?」
 「ん? なぁに、シン・・・」

 シンの胸に頬を寄せ、の髪をゆっくりと撫でるそのシンの手に自らのを絡ませる。
 露になっている肩にシンは掛け布をかぶせ、の瞳を見つめた。

 「約束してくれる? もうあの二人に微笑みかけない、って」
 「は!!? そ、そんなの無理に決まってるじゃないっ! アスランは私の大切な幼なじみだし、ハイネは・・・」
 「もしも、その姿をオレが見つけたら・・・また抱くからね? もちろん、あの二人だけじゃなく、レイやヴィーノたちに対しても、優しく微笑みかけるの禁止」
 「シンっ!!! 無茶言わないでっ!!」
 「いいよ? じゃあ。その代わり、オレは嫉妬して、またを抱くから」
 「んなっ・・・」

 真っ赤に染まった顔と、かすかにむき出しになっている肩。その彼女の全てが愛おしくて、シンは再び彼女の身体にキスの雨を降らす。

 「今の発言の罰として、もう一回」
 「えぇ!? ちょっと、シン・・・!! もし何かあったら・・・んっ!!」

 反論しようとしたの唇はキスで塞ぎ・・・シンは再び、彼女をその腕に抱きしめた。