バラム・ガーデンの中は、比較的、規則が緩い。こうして、愛犬とガーデン内を歩いていても、お咎めなしだ。それどころか「カワイイ〜!」とか、「触ってもいいですか?」など、声をかけられる。
 とても人懐こいアンジェロは、ガーデン生たちにかわいがられ、そこそこ満足そうだ。
 そうして、ガーデン内を歩いていると、見覚えのある人物の背中を見つけた。

 「 !」

 リノアが名前を呼べば、少女が振り返る。リノアの姿を見て、微笑み、手を振ってくれた。そして、そのままリノアが歩み寄ってくるのを待っていてくれている。「アンジェロも一緒なのね」と言い、しゃがみこんで彼女の頭を撫でてやる。アンジェロはうれしそうに、 の手に頭をこすりつけてきた。

 「これから部屋に戻るの?」

 リノアの問いかけに、立ち上がった が「ううん」と首を横に振った。

 「食堂へ行こうと思って。昼食取ってないから」

 時間を見れば、14時を少し回ったところ。SeeDというのは、忙しいものなのか。
 学生ではない分、授業はないが、彼らにはランクがあり、下手な行動をすると、すぐさまそれに影響し、ランクが下がる。授業がないから、と遊び呆けては、いけないのだ。
 ガーデン生憧れのSeeDではあるが、色々と大変なのである。

 「わたしも一緒に行っていい?」
 「もちろん」

 微笑んで、 がうなずく。2人は連れ立って、ガーデンを歩き、食堂へ向かった。
  は軽めの食事ということで、トーストとサラダ。リノアはすでに食事を採った後なので、ミルクティーにした。

 「今まで何してたの? 食事もしないで」

 温かいミルクティーを一口飲んでから、リノアが尋ねる。

 「報告書をまとめていたのよ」
 「へぇ・・・。でも、報告書をまとめるのなんて、SeeDのやることなの?」

 そういった雑務処理を、SeeDがやるというのが意外に思えるのだろう。リノアは目を丸くし、 は一つうなずく。

 「SeeDだからこそ、ね。今回、私たちは班長のスコールたちと別行動を取ったでしょ? 仕方なかったとはいえ、本来はガーデンに無許可で班員を別行動させるのは禁止なの。その報告も兼ねて」
 「へぇ・・・。それ、 の仕事なの?」
 「・・・今のセルフィにそんな余裕、ないでしょ? キスティスには、セルフィについててほしいし。私がやるのが、適任ってわけ」

 故郷のトラビアが爆破されたかもしれない・・・そんな不安な状況の中、セルフィに用事を押し付けるのは、酷というものだ。
 今は、何やら計画を立て、必死にそのことを考えないようにしているようだが・・・。
 キスティスは、元教師だ。生徒たちのメンタル面のケアについても、心得がある。セルフィについていてほしかった。
 そうなれば、自ずと が報告書作り担当となる。

 「SeeDは忙しくて、デートもできないのねぇ」

 カップをソーサーに戻し、リノアがつぶやく。残念そうな響きで。

 「そんなことないわよ。任務がなければ、比較的、自由だし」
 「でも、アーヴァインはSeeDじゃないのよね」
 「・・・なんでそこで、アーヴァインが出てくるわけ?」

 キョトンとする 。リノアは肩をすくめる。彼女の足元に蹲っていたアンジェロが、少しだけ顔を上げる。彼女も、まるで興味がある・・・というように。
 しかし・・・食堂に動物を連れ込んでいいものなのだろうか。アンジェロは、リノアのお世話もあって、清潔な犬だが。

 「ねえ?  とアーヴァインって、どうなってるの?」
 「は? どうもこうも・・・アーヴァインとずっと一緒だったの、リノアじゃない」
 「離れてる間に、思い出したりしなかった? “もうダメかも!”ってなった時、会いたいと思わなかった?」
 「う〜ん・・・必死だったからね。閉じ込められてからも、脱出すること考えて、そんな余裕なかったし」

  の答えは、至極当然だ。リノアは残念そうな表情を浮かべ、 はサラダを口に運ぶ。
 その の顔を、リノアは不躾ながらも、ジッと見つめる。
 FCのあるキスティスはさて置き・・・ も非常に男子にモテる容姿をしている。顔は可愛いし、声も綺麗だ。ガンブレードと同じく、珍しいと言われる刀を難なく扱う彼女。アーヴァインが一目惚れしたのも、うなずける。
 18という年齢にも関わらず、あまり色恋沙汰に興味がないのは、SeeDのせいなのか、彼女自身の性格によるものか。
 そういえば、同い年のキスティスも、妙に落ち着いていて(リノアには感情的になっていたが)、ガーデンに所属すると、いくら年若く、お年頃でも、浮ついた感情を持たなくなるのだろうか。
 否。あの厳しいガルバディア・ガーデンに在籍していたのに、アーヴァインは相当浮ついている。やはり、人によりけり、なのだ。

 「ねえ? これって重要なことなんだけど・・・ は、アーヴァインの気持ちを知ってるの?」
 「え?」

 キョトン・・・「なにそれ?」と言わんばかりの の態度。リノアは「あちゃ〜・・・」と頭を抱える。

 「・・・ダメだ。見込みないわね」
 「えっと・・・友人として、好きってことよね?」
 「何、その使い古された言葉!  、全然わかってない!」
 「リノア、シーッ! シーッ!」

 大声をあげたリノアに、 が慌てて自身の唇に指を当て、落ち着くように宥める。リノアはフゥ、と息を吐き、 をチラリと見た。

 「あまり大事なことは言いたくないけど。アーヴァインに悪いし」

 リノアがアーヴァインの気持ちを に伝えるのは、間違っている。そこは、ちゃんとわかっているのだ。

 「 って、相当ニブイわよね」

 トーストをかじっていた は、リノアの言葉を無視する。ムッとしただろうか。リノアはカップを持ち上げた。

 「・・・私だって、少しは相手の気持ちくらい、わかるわよ」

 小さく、 がつぶやく。手についたパンの粉をサッサッと皿の上で払った。リノアは「え?」と目を丸くした。

 「リノアも言ったけど・・・アーヴァインが何も言わないのに、勝手に話を進めたらダメでしょ」
 「うーん・・・。じゃあ、 から告白しないってことは、 はアーヴァインを好きじゃないってこと?」
 「どうかしら? 最初が最初だからね」

 朴念仁なスコールと対照的なアーヴァイン。 が、彼に対してあまりいい感情を抱かなかったのは、事実だ。

 「でも・・・優しいわよね」

 フフッと が笑う。
 先の再会時、海に落ち、ずぶ濡れになった に、アーヴァインは自らのコートをかけてくれた。濡れてしまうのも、厭わず。
 あの時の、あの温もりは、 の心に染みた。

 「まだまだ、先は長そうね〜」

 テーブルの上に肘をつき、組んだ指の上に顎を乗せ、リノアは遠い眼差し。
 対する は、ジャムの乗ったトーストを、一口かじった。