ドリーム小説
『色欲』のクソ野郎、鴨志田卓殿。抵抗できない生徒に歪んだ欲望をぶつけるお前のクソさ加減はわかっている。だから俺たちは、お前の歪んだ欲望を盗って、お前に罪を告白させることにした。明日やってやるから覚悟してなさい。 心の怪盗団より
***
正面玄関前の掲示板「カモシダ」の形に貼られたそれを、生徒たちがザワザワしながら眺めていた。
あ然とするたち3人の元へ、得意気な表情の竜司がやって来た。
「どうだ? なかなかのモンだろ? みんなも注目してるしよ!」
「うーん・・・“クソ”を2回も使ったところは減点ですね」
「さんまで“クソ”とか言わないで・・・イメージが・・・」
「あ、ごめんなさい」
予告状は俺にやらせてくれ!と意気込んだ竜司に、は了承した。そして、その結果がこれである。
と、そこへ当の本人・・・鴨志田が憤慨しながら現れた。「誰がやった?」とそこにいた生徒たちを睨み、そしてたちに気づいた。
「貴様らか!?」
「なんのことだ?」
「とぼけるつもりか! まあいい。どうせ貴様らは退学だ」
鴨志田の追及に、が冷静に返せば、それが気に入らなかったようで。
と、辺りが暗くなり、鴨志田の姿がシャドウに変わる。
「来いよ・・・盗れるもんなら盗ってみろ!」
4人がハッと息を飲む。確実にパレスに何か異変が起こったはず。
今日ならば、と言えば、モルガナが「今日しか」だと言う。確かに、予告状を目にしていても、日にちが経てば警戒も薄れる。再度送っても、相手にされない可能性が高い。
警戒している今がチャンスなのだ。
4人と1匹はカモシダ・パレスへ乗り込む。今日こそは、オタカラを手にする。
だが、いつも鴨志田や大勢の兵士がいる玉座の間は、もぬけの殻で少々訝しがりながらも、先日のモヤモヤがあった宝物庫へ入った。
その目の前にあったのは・・・巨大な王冠。モヤモヤと同じく、宙に浮いていた。
「オタカラ、大・出・現ッ!」
モルガナが叫ぶ。そして、そのままマタタビに酔う猫のようになって・・・竜司が「いい加減にしろ!」と怒鳴れば、我に返った。
とにかく、さっさとこの王冠をパレスの外へ運び出さなければ。モルガナ以外の4人で、王冠を運ぼうとするも、浮いていたとは思えない重量で。モルガナの先導の元、運び出すが、玉座を通り過ぎた辺りで、「ゴーゴーレッツゴー! カーモシダ!」という少女の声と、掛け声と共に飛んできたバレーボールに、その場の空気が一変した。
バレーボールはオタカラに直撃し、4人の手から離れる。そこをシャドウ鴨志田が奪い取る。王冠は人間の頭に乗せられるほどの大きさになっていた。
そして、その鴨志田に水着姿のアンが抱き着いた。あまりの光景に、は眉をしかめる。
「これだけは誰にも渡さん!!」
あれこそが、鴨志田の欲望・・・パレスのコアだ。奪われればパレスが崩壊する。
「よう変態、待ち伏せかよ?」
竜司が冷たく、だが挑発するような響きで声をあげる。だが、鴨志田は悪びれもせず、こちらをその金の瞳で見下ろしてきて。
「探す手間を省いてやっただけだ」
余裕の表情だ。まるでこちらが何もわかっていない、とでも言うように、鴨志田は「みんなが『得』するために、俺を守ったんだ」と言い出して。
「わからないバカが多すぎるんだよ!」
「鴨志田先生は・・・周りの人たちを『駒』だと思っていたんですね・・・。私のことも・・・単なる、体が目的の駒・・・」
が小さくつぶやく。わかっていなかった。何も知らず、友人を傷つけ、追い込み、自殺に追いやってしまった。
「貴様ら青臭いガキどもも、飛び降りた小娘も、バカな奴らなんだよ!」
「・・・そうね」
杏がポツリとこぼす。が「高巻さん・・・?」と杏を見やった。
「アンタにいいようにされて、死んじゃおうとか・・・ほんとバカ。それに気づいてあげられなかった私は、もっとバカ・・・! けど、そんなバカでもね・・・生きてくことに、アンタの許しなんかいらないのよ!」
杏の怒りの声に、がうんとうなずき、鴨志田を睨みつける。
「たとえ、この世界であなたは王様でも、現実のあなたはただの腐った教師だわ! 自分が他の人間とは違うと勘違いしている、愚かな男」
「そうだ・・・! 俺様はお前たちとは違う! この城を支配する悪魔さ!」
鴨志田の姿が変化する。それはもはや、人とは言えない姿だ。4本の腕、長い舌、頭に生えた角・・・欲望が形を変えたものだろうか。
偉そうに説教をたれながら攻撃してくる鴨志田を、たちはペルソナを駆使し、追い詰めていく。
と、が思いつく。今、オタカラは鴨志田の頭に乗っている。こちらで気を引いているうちに、あれを奪えないだろうか、と。
身軽なモルガナがその任に就く。4人はモルガナがいなくなったことに気づかせないよう、攻撃を仕掛けていくが、フト鴨志田の注意がこちらに向いた。
1匹足りない!とわめいた次の瞬間、モルガナが王冠めがけて突撃し、見事に頭から王冠が離れた。
それに動揺し、意気消沈した鴨志田に、止めの攻撃を4人が下す。
そして・・・化け物と化した鴨志田は消滅していった。
床に転がっていた、巨大な王冠が再び小さなサイズになったかと思えば、横合いから海パンマント姿のシャドウ鴨志田が奪っていく。
5人が慌てて追いかければ、鴨志田は窓辺で右往左往していた。道はない。逃げるには、バルコニーから飛び降りるしかない。
「どうしたの? 逃げないの?」
杏が冷たく声をかける。だが、鴨志田は反省の色が見えず、「自分の期待を人に押し付けてくるからだ」と言い訳じみたことを言い出して。
逃げ場はない。飛び降りるしか・・・。
「怖い?」
再び杏が冷たく告げる。
「今アンタは、志帆と同じ景色を見てるんだよ。きっと志帆も怖かった・・・でも飛び降りるしかなかった・・・。アンタはどうするの? 飛び降りる? それとも、ここで・・・死んでみる?」
「志帆ちゃんがどれだけの思いで、あそこから飛び降りたのか・・・あなたも身を持って体験してみては?」
と杏が鴨志田に近づく。カグヤの氷の刃と、カルメンの炎が2人の背後に控える。
2人の真剣な表情に、鴨志田は王冠を抱きしめたまま、「やめてくれ!」と懇願した。
「みんなッ・・・アンタにそう言ったんじゃないの!? けど、アンタは平気で奪ってったんだ!」
「みんなの心や体の痛みを、あなたは無視したのよっ!!」
カルメンの炎とカグヤの氷の刃が、鴨志田の両頬すれすれに通り過ぎる。鴨志田は、ついにガクリと膝をついた。
「俺の負けだ・・・」そうつぶやき、王冠をに放った。はそれを片手でキャッチし、鴨志田を見やった。
「トドメをさせよ・・・そうすれば・・・『現実の俺』にもトドメをさせる・・・」
「お望みどおりに・・・カグヤ!」
が再びペルソナに命じる。先ほどよりも大きな氷の刃。同時に杏も巨大な火の玉を投げつけていた。
「おいっ!!」
竜司が咄嗟に声をあげたが・・・2人の攻撃は鴨志田の横を通り過ぎ、壁にぶつかった。
「死んでお詫びしろ・・・と言いたいところですが、あなたには生きて罪を償ってもらいます。認めてください。バレー部のみんなや、高巻さんにしたことを!」
「廃人になられたら・・・罪が証明できなくなる・・・!」
2人の姿に、モルガナが「2人は優しいな」と、ニッコリ微笑んだ。
鴨志田はうなだれ、「負けた・・・」と小さくつぶやいた。
「これから、どうすればいいんだ・・・」
「罪を償え」
冷たく、だがキッパリとが告げた。も杏も、それを望んでいる。鴨志田が顔を上げ、を見る。その姿が光り始め・・・消えようとしている。
「俺は現実の俺の元へ帰る」
そう言い残して。
***
ホッとする間もなく、突然パレスが大きく揺れ・・・小刻みに揺れ始めた。
ゆっくりしている暇はない。パレスがコアを失ったことで崩壊を始めたのだ。
慌てて4人はパレスの出口へ走り出す。・・・4人?
見れば、モルガナは猫の姿になっていて。杏、、竜司の頭を経て、の肩に到着した。そのまま、と共に逃げ、走る気ゼロだ。
「てめぇ! ズリィぞ!」
竜司が怒鳴るも、モルガナは「ニャーオ」と一鳴きするだけ。チッと舌打ちした瞬間、竜司は足をもつらせ、転倒した。
「坂本くんっ!!」
「わりィ、大丈夫だ」
手を差し伸べるに、竜司が笑って応える。立ち上がった竜司はたちを追い、再び走り出した。
光が見えてくる。出口だ。4人は一斉に光向かって走り抜け・・・校門前の裏道へ脱出した。
ハァ・・・ハァ・・・と4人とも膝に手を置き、肩で息をする。
と、竜司がスマホをいじると、その異変に気づく。「目的地が消去されました」とアナウンスされ、パレスへ行けなくなっていた。
「オタカラは!?」
モルガナがを見上げる。鴨志田から王冠を受け取ったのは、だ。しかし、その手に王冠はなく・・・出してみせたのは、1つの金メダル。
「アレ?」と全員が目を丸くするが、鴨志田にとっては、金メダルこそが自分の1番の宝だったということだ。結局、あの男は過去の栄光にしがみついていただけなのだ。
だが、問題は鴨志田がどうなったか、だ。こちらはと竜司、三島の退学がかかっているのだから、悠長にしていられない。
パレスが丸ごと消えたのだから、問題はない・・・とモルガナは言うが。
「自信を持て! オマエラのおかげで救われた人たちがいるはずだ!」
「こうしていても仕方ない。帰ろう」
の言葉に、杏が「そうだね、帰ろ」とに微笑みかけた。も「はい」とうなずく。
「・・・あのさ、」
「はい」
と、竜司が声をかけてきた。は振り返り、笑顔を向ける。
「さっきは、サンキュな。手差し伸べてくれて。うれしかった」
「いいえ。仲間ですから」
優しいの笑顔と言葉に、竜司は照れたように頭を掻く。「仲間」その言葉が少々くすぐったい。
「俺も一から鍛え直さないとダメだな〜。久しぶりに走り込みでもするか!」
「あ、いいですね、それ! 私もご一緒していいですか?」
「マジ!? もやる? よっしゃ〜! 俄然、やる気が出てきたぜ!!」
の言葉に、テンションを上げる竜司。
2人きりでトレーニング・・・チラリとモルガナがを見る。
「・・・、いいのか?」
「・・・・・・」
「あ、怒ってる」
無言なに、杏が目を瞬いた。もしかしなくても、はが気になっているのだろう。
退学になるかもしれないのに、呑気なヤツだ・・・と、モルガナはつぶやいたのだった。
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