ドリーム小説
は杏と共に、と竜司をこっそりと尾行した。どこかで見つかってしまうのでは・・・?と心配したが、2人は気づく様子もない。
やがて、2人は校門から出て路地裏へ入って行く。は杏と見合わせる。ここで作戦会議か。
ボソボソとと竜司が何かを話している。よく聞こえないが、「鴨志田のヤロウ!」と竜司が息巻いている。と、がスマホを取り出す。
「鴨志田の名前と、学校、城・・・だったよな」
何がだろうか? 再び杏と顔を見合わせた次の瞬間、目の前がグニャリと歪んだ。が「キャッ!」と悲鳴をあげ、杏が咄嗟にの手を取った。
一体、何が起きているのか。ギュッと目を閉じた。
しばらくして、そっと目を開け、と杏は目を見張った。
城だ。西洋にあるような、大きな城。それが突然目の前に現れたのだ。
「な・・・何これ・・・」
杏がつぶやき、城の方へ駈け出せば、そこに誰かいる。
黒のロングコートを着た人物と、同じく黒のジャケットに赤いタイをした人物。2人共、顔に仮面をつけていた。
「な・・・た、高巻!? と・・・」
「さん・・・」
声をあげる2人。こちらを知っている。というより、その声は。が目をしばたたかせながら問う。
「もしかして、坂本くん? そっちは、くんなの?」
「なんでここにいんだよ!?」
「ちょっと、ここなんなのよ!!」
杏が声をあげる。と2人、キョロキョロと辺りを見回した。そして、先に我に返った杏が竜司を睨みつけた。
「鴨志田と関係あるんだよね?」
「いいから帰れ」
「ヤダ! 私もさんも、絶対に帰らない!!」
「大声出すと、シャドウに見つかるぜ」
「は?」
とも竜司とも違う、聞こえてきた声。よくよく見れば、の傍らに二足歩行の猫?のような生き物がいる。
「うそ!? しゃべった!? 化け猫・・・!」
「た、高巻さん、ハッキリ言いすぎです・・・」
杏の言葉に、猫のような生き物はショックを受けたようで。「化け猫」などと言われては、仕方がない。
憤る杏と、オロオロするの前で、竜司と猫のような生き物が何やら言い合っている。「追い帰そう」と言っているようだが。
「よし、、手伝ってくれ」
「ああ」
「え? ちょ・・・っと、何よ!?」
竜司がに声をかけると、黒ずくめの彼がうなずいて、たちににじり寄ってきた。
杏が抵抗するも、竜司は負けじと彼女の体をグイグイ押しやって。「どこ触ってんのよ!」と騒いでいる。
にはが近づいてきて。自分も強引に追い帰されるのかと、身構えた。
「ごめん、さん。でも、さんを巻き込みたくないんだ」
「え・・・?」
杏のわめく声が消える。その姿も消えていて。はの手を優しく掴むと、竜司の方へ歩いて行く。
「信じて待ってて」
「あ・・・!」
トン、と肩を押され、再び空間が歪む。
次に気づいた時、は秀尽学園の前で杏と呆然と立ち尽くしていた。
***
「一体、何だったの!? 今の!」
杏が声をあげるも、にだって、よくわからない。ただ、城の前に服を変えたと竜司、それから猫のような生き物がいて。
「明らかに異空間・・・でしたよね」
「イクウカン? え?? そんな夢みたいなこと、ある!?」
「ですが、そうとしか考えられません。学校が城に変わるなんて」
学園を見上げ、がつぶやく。
摩訶不思議体験だった。あんなわけのわからない世界に入り込むなんて。
夢、ではない。高巻杏も同じものを目にしているのだから。
「これから、どうしますか?」
「そんなの、当然あの2人を追いかける!」
「どうやってですか?」
「それは・・・その・・・。・・・あー! もうっ!! 私だって、わかんないよ!」
杏がブンブンと首を横に振る。はそんな杏を横目に、スマホを取り出した。は、スマホで何かをしていたようだが。
「高巻さん・・・」
「うん?」
「これ、なんだと思います?」
がスマホの画面を杏に見せる。カワイイ猫の待ち受けだ。いや、そうではないだろう。のイメージから、ほど遠い、黒い目のアプリがそこに入っていたのだ。
「イセカイナビ? 何これ。ナビってことは、どこかへ案内してくれるのかな」
「・・・異世界・・・もしかして、これでさっきの場所に?」
「あ! そうよ! そうに決まってる! よし・・・! それなら」
「待ってください、高巻さん! 何が起こるか、わかりませんよ? さっきの場所に戻ったとしても、くんたちがいるとは限りませんし」
「あの2人の力は借りない。私とさんだけで、なんとかするの!」
意気込む杏だが、はなかなか乗り気になれない。
先ほど、が言った一言。「信じて待ってて」その言葉が頭から離れないのだ。
暗い表情をするを、杏が振り返る。寂しそうな瞳をし、すぐにいつもの調子に戻る。
「じゃあ、スマホ貸して。私だけで行ってくる」
「え??」
「私は、なんとしても鴨志田をこらしめたい。謝罪させたい。ううん、そんなことじゃ、まだ収まらない」
「・・・私だって、許せません。志帆ちゃんを傷つけたあの人を」
グッとスマホを握り締める。目を閉じ、フゥーと深呼吸。よし、とうなずいた。
「一緒に行きましょう、高巻さん! こらしめてやりましょう!」
「さん・・・うん、その意気だよ!」
には申し訳ないが、やはりこれは黙って見ていられない。は意を決して、スマホに視線を落とした。
「でもさ、どうするの?」
「さっき、坂本くんがチラッと言っていました。“鴨志田先生、学校、お城”」
が告げると、スマホから「ナビゲーションを開始します」と返ってきて・・・再び2人は異空間へと飛ばされた。
***
そこは、先ほどの場所だった。2人は恐る恐る、城の中へ入る。
一体、どういう仕組みなのかは知らないが、無事に戻って(?)来られた。
城に入り、キョロキョロしていると、突然「姫!?」という声がして。「え?」と2人が視線を動かすと、甲冑に身を包んだ兵士が3体、こちらに駆け寄ってきた。
「姫、なぜこんな所に! カモシダ様が心配されます!」
「ちょ・・・! 姫って何!? ヤダ、離して!!」
「高巻さん!」
兵士に連れて行かれる杏を、は慌てて追いかけた。だが、そのを、残りの1人の兵士が剣を向けて脅す。
「侵入者の仲間か?」
「はい?」
「おい、コイツを捕らえろ。侵入者だ」
「え!? え??」
あっという間に2人は甲冑姿の兵士に捕まり・・・杏は丁重に扱われているが、横からやって来たもう1人の兵士が何やら耳打ちすると、態度が急変した。
「キサマも侵入者か! 来いっ!!」
「ちょっと、なんなのよ!? 勝手に勘違いしておいて!!」
そのまま2人が連れて行かれたのは、甲冑が並ぶ廊下の奥にある部屋だ。趣味の悪い絵の下に、人を張り付けられるような台座が2つ置かれていて。
と杏は、それぞれにそこに立たされる。やはり、張り付けるためのものだった。
×の形をしたそれに、両手・両足を拘束されて。目の前には剣を持ち、明らかに友好的ではない兵士の姿が。
「なんなの、これ!? マジで警察呼ぶからっ!!」
叫ぶ杏だが、ここは異世界だ。警察なんてものは存在しないのではないだろうか。
「さん! 大丈夫?」
「はい・・・ですけど、これは・・・良くないですね」
確実に「捕らえられている」。このまま、何をされるかはわからないが、目の前の兵士から察するに、決してお茶会ではないだろう。
と、奥の方から声がし、1人の男が姿を見せる。王冠とハート柄の赤いマント。素足。明らかに不審者の出で立ちだが、顔を見て2人は目を丸くした。
「鴨志田!?」
と、その鴨志田らしき人物の隣に、杏そっくりの少女が近づいてくる。だが、彼女は猫耳カチューシャと水着という出で立ちで。
「その格好・・・正気?」
杏が思わずつぶやいてしまうのも、無理はない。
「俺様にたてついてるぞ、どうする?」
鴨志田らしき人物が、傍らの杏そっくりの少女に声をかけると、彼女はトロンとした目で、「口答えなんて・・・許しちゃダメ・・・です」と甘えるように答えた。
「鴨志田先生! 高巻さんは関係ありません!」
それまで、ジッとし、黙っていたが声をあげた。杏が「さん!?」と目を丸くする。
怖い・・・それでも助けなければ・・・このままでは、杏が・・・。
「私・・・入部しに来たんです! バレー部に! 高巻さんは、ついて来てくれただけです!」
「ほぉ?」
「ちょっと、さん・・・! 何言って・・・!!」
「だから・・・高巻さんは・・・関係ないんです・・・」
グッと唇を噛み、が告げる。
言ってしまった。入部する、と。せっかくが助けてくれたのに。
・・・助ける・・・ああ、彼も今ここのどこかに、いるのだろうか?
鴨志田?がゆっくりとに近づいてくる。ニヤリと笑い、ジロジロと全身を見られ、胸で止まった。
「お前には、この体で俺様を喜ばせてやる・・・と言いたいところだが! 侵入者は処刑だ」
「え!?」
グイッとの顎を持ち上げ、下卑た笑みを浮かべる男。怪しく光る金の瞳。鴨志田本人ではないのだろう。
「さて・・・どうやって遊んでやろうかな?」
「高巻!!」
と、そこへ聞こえてきたのは、竜司の声。の姿は、鴨志田が邪魔で見えなかったのだろう。鴨志田が忌々しげに振り返れば、の姿が見えて。
「さん・・・」が小さく名前をつぶやいた。
そんなと竜司を見やり、鴨志田は「また来たのかよ」と吐き捨てた。
「そうか・・・お前らも俺様に言いたいことがあって来たのか」
鴨志田がをチラリと一瞥する。
「けど、えっと・・・名前忘れたけど、あいつ飛び降りたの、お前たちのせいだからな?」
「え・・・? それ、どういう・・・」
「高巻は、いくら誘っても乗ってこない。は、いくら勧誘しても入部しない。だから、代わりしてもらったんだよ」
サァ・・・と血の気が引いた。恐怖ではない。怒りだ。隣にいる杏も同じだ。青ざめた顔をしている。
「てめえ・・・!!」
「おっと、それ以上近づいたら即殺す」
竜司が声を荒げ、一歩踏み出すも、鴨志田が冷たく言い放ち、舌打ちする。
このままでは、手も足も出ない。
「お前らも観ていけよ、解体ショー。まずは服からバラしちゃおっかな〜」
グッとが拳を握り締め、鴨志田を睨みつける。
なんて愚かだったのだろう。こんな男だとも知らずに。人格者だと思っていたなんて。
「・・・フフッ」
の口から笑い声が漏れ、一同が彼女に視線を向けた。
「なんだぁ? 恐怖で頭イッちまったか?」
「本当・・・バカだね、私。先生の真意も見抜けず、友人も救えないで・・・」
杏がのつぶやきに、ギリッと歯噛みした。
「さん、違う。私たちは、救いに来たの。言ったでしょ、志帆の仇を討つって」
「え・・・?」
「私・・・もう怒りでどうにかなりそう!!」
叫んだ瞬間、杏が突然苦しみだして。が「高巻さん!?」と声をあげる。
「逃げるのか?」
「え?」
杏の声が苦痛に歪む中、心地よい声が響いて。が、真っ直ぐにこちらを見つめていた。
これだけ距離があり、隣では杏が苦痛の声をあげているのに、の耳には確かにその声が届いていた。
「・・・そうですよね。ここで逃げたら、また今までと同じ!!」
叫んだ瞬間、ドクンと心臓が大きく跳ね・・・頭の中で静かな声がした。
“やっと・・・自分の弱さと向き合う覚悟ができたのですね・・・。待っていました、この時を・・・”
の頭がギリギリと万力で締め付けられたような痛みが襲う。
“清廉なる貴女の心、私が守りましょう。さあ、目を閉じて。我は汝、汝は我”
グッと拳を握り締める。その手に冷気が宿り、腕の拘束がバキンと凍りつき、砕ける。
顔についた仮面をはがせば、白い光がの体を包んだ。
「お・・・おいおい・・・2人そろって、かよ・・・」
猫のような生き物がつぶやく。「2人?」とが横を見れば、そこに捕らえられていた杏も、赤いボディスーツに身を包み、立っていた。
「高巻さん!」
「うん!」
と杏が一歩前へ出る。そこにいた兵士の手を蹴り上げる。手から剣が離れ、2人はそれぞれ手に取った。
「・・・私たち、あんたなんかが好きにできるほど」
「「お安い女じゃないから!!」」
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