ドリーム小説
「そうだ、新入りのコードネームを決めてなかったな」
パレスに入ると、モルガナが祐介を見てそう言った。杏が笑みを浮かべて告げる。
「ここは『キツネ』でしょ」
「ちげえねえ、インパクトあるしな」
狐の面に、狐のような尻尾。まんま『キツネ』だ。と、祐介が仲間たちを振り返る。
「俺のことか?」
「こっちでの名前、何がいい?」
杏が尋ねると、祐介はしばし思案し。
「『ダヴィンチ』かな」
なんともわかりやすい。レオナルド・ダ・ヴィンチから取ったのだ。だが、竜司が即座に「ボツ」と返した。
「キツネの面に・・・妙な尻尾だろ・・・? よし、『アブラアゲ』だ!」
「ブフッ・・・」
竜司が声高らかに告げれば、モルガナが吹き出した。が「竜司くん・・・!」と咎める声をあげるが。
「まあよかろう」
「えっ!?」
「OKしやがった!?」
祐介の返答に、とモルガナがギョッとした。
「決まりだな、『アブラアゲ』」
「やめろっつの!」
「言いづらい」
「も! そういう問題じゃないでしょうが!」
竜司の提案を否定しなかったに、杏が声を荒げた。
「、なんか別の無い?」
「え? そ、そうですね・・・。まんま『キツネ』じゃカッコつかないので・・・『フォックス』とか」
「お、悪くねーな」
「どうだ、『フォックス』?」
「別に構わん」
モルガナが尋ねると、祐介はあっさりと返してきた。先ほどから、コードネームに関して興味がなさすぎる。
とりあえず、コードネームも決まったことだし、パレスの攻略を続けることにした。
***
やって来たのは、巨大な絵画の前。だが、その先の道が見つからない。
「・・・なんだか、異様な雰囲気の絵ね。触れたら吸い込まれそう」
言いながら、は絵画に触れ・・・波紋が広がり、手が中に入り込んだ。「キャッ!」と悲鳴をあげれば、が「どうした!?」と声をあげた。
「今、本当に絵の中に手が・・・」
「この絵・・・中に入れるのか・・・」
がに近づき、モルガナが絵を見上げてつぶやいた。も同じように絵に触れる。確かに、中へ入れるようだ。
他に道も無い。中へ入るしかないだろう。まずは、が中へ。仲間たちが続いて入り込むと、どこからか斑目の声がした。だが、本人がいるわけではない。思考が声として聞こえただけだ。
絵の中を進むと、今度は別の絵へ。どうやら、複数の絵で1つの空間を表していたということらしい。
絵画の中を進み、セキュリティを解除し・・・一行は先へ進んでいく。
「セキュリティのパスワードは斑目の足元の数字」という警備シャドウのヒントに従い、巨大な斑目像の看板に書かれていた数字を見つける。
「なんだか、色々と悪趣味・・・」
杏がキンピカな斑目の像を見上げてつぶやく。もため息をついた。
「一面キンピカだったり、絵の中に入ったり・・・メチャクチャね」
そして再び巨大な絵。これもまた、中に入ることができ、斑目の思考が聞こえてきた。そのどれもが、身勝手なもの。聞いていると、反吐が出る。
「腐っているな・・・。これだけ絵画を巡ったのに、ただの一度も芸術への愛を耳にしなかった。ここにあるのは『絵」じゃない・・・。額縁に入ってるだけの、ただの薄っぺらい自己顕示欲だ・・・!」
「改心でどんな顔に変わんのか、今から楽しみだな」
祐介が苦々しくつぶやくと、モルガナがフンと鼻を鳴らしながら言った。
先へ急ごう、とが声をかける。一同はうなずき、探索を再開する。
やがてやって来たのは・・・一面キンピカの空間。竜司が「なんじゃこら!?」と声をあげる。
「金色すぎでしょ・・・! 目が痛い・・・」
「どれだけ“金”にこだわっているんだろう・・・。相変わらずの悪趣味さ」
「特別歪みが酷いな・・・建物の形を成していない。しかも、拾った地図にここのことは載ってないぜ」
階段が縦横無尽に伸びる空間。そして、壁には人物画。あれも斑目の元弟子たちだろう。
「己の眼力のみで、真実を見抜かなければならないわけか・・・」
のサードアイを頼りに、グニャグニャとしてキンピカの道を進んでいく。
次にたどり着いた場所には、あの『サユリ』が置かれていた。しかも2枚。
「あれ・・・なんでこんな所にあの絵が・・・」
「パレスなんだ。どうせ幻の類さ。まぁ、描かれている絵そのものは、正確かもしれないけどな」
「正確って言ったって贋作でしょ? あ・・・本物もあるのかな・・・」
「どうだかな・・・。ここにあるって事は、何かこの空間とも関係があるかもな」
ゆっくりとが1枚のサユリに近づき、首をかしげた。
「ねえ、この『サユリ』、どこかおかしくない?」
の声に、も隣に立ちうなずいた。
「服が青い。本物の『サユリ』は赤い服だったはず」
「さすがだな、ジョーカー。そう、それは贋作だ」
「ということは・・・あっちが本物?」
がもう1枚の方へ歩み寄ろうとすると、絵が光り、その光が青い光の扉に吸い込まれる。すると、青かった扉が金色の変わった。どうやら道が開けたようだ。
偽りを見抜く力が、先の道へ進ませてくれるということだ。
いくつかの『サユリ』を見極め、たどり着いたのは、元の美術館のパレス。そして・・・赤外線の張り巡らされた場所の前に立つ、斑目の姿。
その斑目の背後には、見覚えのあるモヤモヤ。あれがオタカラか。
「まだ実体化してないね・・・。当たり前か」
「そうだ。予告状を出して、斑目に『奪われる』と認識させりゃ、オタカラが実体化して、ヤッホーコンニチハよ」
「鴨志田先生の時は・・・王冠が金メダル、だったよね。今回は何かしら?」
「斑目の現実をここまで歪ませた根源・・・か」
祐介が目を伏せた。師を狂わせたもの。それは一体何なのか。
「・・・で、どうなんだよ? これでルート確保・・・ってことでいいのか?」
「うーん・・・場所はわかったが・・・こりゃルート確保とは言えないかもな・・・」
「あン? なんでだよ?」
モルガナの言葉に、竜司が不服そうに声をあげた。祐介が「あの赤外線か・・・」とつぶやく。なるほど。あれだけの赤外線。強引に突っ込むわけにはいかない上、外側もかなりの数の警備シャドウがいる。斑目も見張りをしているようだ。
「奪う方法までメドつけなきゃってことか・・・。鴨志田より手強いね・・・」
「あの時は、周りに警備員とかいなかったもんね」
「何かいい方法があるかもしれないな。辺りを見てみよう」
の言葉に、一同はうなずく。まだ奥に部屋があるようだ。
シャドウの姿は見当たらない。奥にあったのは、制御室だ。光る端末。あれで赤外線が切れるかもしれない。
「おっ、これパスワード無しで行けんじゃんか! どれ操作すんだ?」
この端末で出来ることは3つ。『赤外線を切る』、『主電源を切る』、『シャッターを開ける』だ。まずは危険の少なさそうな、シャッターを開けるを選んでみる。いくつかのシャッターが開いたようだ。
とりあえず、他のも試してみようということで、赤外線を切ってみる。だが、何も起こらない。
聞こえてくる警告。最高度セキュリティのため、マダラメ館長以外アクセスできません・・・とのことだ。
というわけで、最後の1つ。主電源を落としてみる。途端、真っ暗になる館内。だが、予備電源に切り替わる。
「チッ、すぐに点いちまったな・・・」
「しかも、赤外線だけは停電中も消えなかった」
「せいぜい数秒間、明かりを暗くできるだけ、ということか・・・」
だが、今は呑気に考えている場合ではない。きっと、異常を察して警備員が来るはずだ。
予想通り、やって来る警備シャドウ。だが弱点を突き、見事に撃破。
結局、ここで出来たのは、シャッターと開けることと、少しの間、照明を消せること。
「とりあえず、開けたシャッターの先を進んでみよう」
「何かあるといいね」
が声をかけ、がうなずいた。
進んで行って、やって来たのは・・・1つの部屋。ここも制御室だろうか。
「いや、恐らく展示ホールの仕掛けを操作する部屋だろう。ホールは吊り物だらけだったからな。天井の仕掛けを操作する部屋があるはずだ」
祐介が告げる。先ほど、オタカラを確認した時に、そこまで見ていたとは。さすがの観察眼だ。
中に入り、辺りを見回す。大きなレバーと、どこかへ通じる壁の穴。上から吊られているだけの足場。全員で行くこともないだろうとの判断で、女子2人は残ることに。
色々と見たが、竜司が気づく。オタカラの真上に道があることに。しかも好都合なことに、オタカラの真上には赤外線がない。
「警備の隙間・・・ということか。しかしどうする? 飛び降りるか?」
「それじゃあ戻って来られないだろ? 上を見てみろって」
モルガナが言い、4人は上を見る。巨大な釣り針のような仕掛けがあった。
「どこかに、このフックを操作できるところがあるはずだ。見つけようぜ」
4人はたちの元へ戻り、今の話をする。と、が先ほど見た大きなレバーを指差す。
「もしかして、あれかな・・・?」
「試してみよう」
竜司が再びフックの見える位置へ。がレバーを下げれば、フックが下りていく。
「うむ、使えそうだ」
「あのフックで降りるつもりか? 降りた途端に見つかってしまうだろう?」
「いや・・・そうとも限らないぜ」
「闇に乗じるのか?」
「さすがジョーカー! 察しがいいな」
モルガナがうなずき、の言葉を肯定する。
先ほどの制御室、短時間だが、照明を消すことができた。それを利用すれば・・・。
「だが、ほんの数秒だけだった。ここまで来ることさえ出来ないぞ」
「手分けするんだよ。制御室で電気を消す係と、クレーンを操作する係、降りるワガハイ。タイミングを合わせて、オタカラをいただくって寸法さ!」
「大丈夫か? 最後まで気づかれないで、うまくいくのかよ」
竜司が不安げに尋ねるが、他に手は無い。やってみるしかないのだ。
「どうする? リーダー」と竜司が声をかける。
「他にいい案もない。やってみよう」
「じゃ、決まりだ。これで本当に、ルート確保だな!」
どこか不安そうな竜司だが、これしか今のところ方法がないのだから、仕方ない。
「いよいよ、予告状の出番だぜ!!」
***
渋谷で一同は解散し、もルブランへ帰った。
風呂から変えると、何かメッセージが来ていることに気づく。からだった。
『予告状、すぐ出す?』
ただ一言。それだけだ。何か不都合でもあっただろうか?
『いや、個展が終わるまで、まだある。少し待とうと思う。メメントスの依頼もあるし』
『それじゃ、決行するときは言ってね。祐介くんに連絡するから』
そういえば、はまだ祐介の連絡先を知らなかった。グループチャットにも入って?いない。失念していた。
ジッとスマホを見つめ、はの番号に電話をしていた。
《どうしたの?》
は1コールで電話に出た。少々、戸惑っているように感じた。
「ごめん・・・迷惑だった?」
《ううん。お風呂入ってたところ》
「オレも。だから、気づくの遅れた」
《そうだと思った。だから、私も入ったの》
フフッとが笑う。はベッドに腰を下ろすと、の声に耳を傾けた。
《・・・何か、あったの? くんから連絡来るなんて、珍しいね》
「うん・・・いや。祐介の連絡先、しか知らないな、と思って」
《あ、そうだったね。祐介くんに、みんなに連絡先教えるように伝えておくね》
なんとなく、“祐介だけが特別”というのが気になって。そんなことを口にしていた。
《疲れてない? 大丈夫?》
「うん。少し」
《じゃあ、今日はもう休んで。明日も学校だし》
「・・・うん」
なんとなく、電話を切りがたい。歯切れ悪く答えた。モルガナがの傍に寄ってくる。首をかしげ、こちらを見上げてきた。
「・・・」
《うん? なぁに?》
「明日、渋谷で待ってる。一緒に登校しよう?」
《え・・・?》
言ってから、ハッと我に返った。自分は前歴持ちの転入生だ。そんな生徒と登校したがる人物など、いない。周りが仲がいいと知っている竜司はさておき。
「あ、ごめん。今のは・・・」
《うん。いいよ。一緒に行こう?》
「え・・・」
の返事には戸惑いの声をあげた。が「え? ダメ?」とつぶやく。まさか。自分から言い出したのに。
「うん、ありがとう。じゃあ・・・おやすみ」
《おやすみなさい。明日ね》
電話を切り、スマホを見つめる。モルガナが「いいことでもあったのか?」と尋ねてきた。
「いや・・・大したことじゃないよ」
そっと目を閉じ、そのまま横へ倒れる。目を閉じれば、いつの間にか眠りに落ちていた。
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