ドリーム小説

 冷気が2つ、シャドウを襲う。ゴエモンとカグヤの力だ。2人のペルソナの力と、・竜司・モルガナ・杏の協力により、シャドウは倒される。
 あとは斑目のみだ。祐介がフラフラと斑目に近づくが、途中でうずくまってしまう。

 「祐介、貴様はな、輝かしい未来をドブに捨てたんだ。貴様の絵描きへの道、あらゆる手を使って刈り取ってくれる・・・!」
 「斑目ぇ!」
 「私に刃向かった事を、一生かけて悔いるがいい」

 そう言い残し、立ち去っていく斑目。祐介が追いかけようとするが、足がもつれてしまう。

 「喜多川くん! 無理しないで!」

 が優しく祐介の腕に触れた。

 「体力、限界じゃないですか?」
 「情けない・・・!」

 今度こそ、祐介はの肩を借り、入口近くのソファに腰を下ろした。
 うつむく祐介に、杏が言いづらそうに声をかけた。

 「本当は、ずっと前から気づいてたんでしょ?」
 「俺は、そんなに朴念仁じゃないさ。数年前から妙な連中が出入りするようになったし、盗作も日常茶飯事だった。けどそんなの、認めたくないじゃないか! 世話になった人が、そんな・・・!」
 「どうして喜多川くんは、斑目のとこを出て行かなかったの?」
 「『サユリ』を描いた人だし、それに、特別な恩義もある・・・」
 「そこを、斑目は利用したわけですよね。喜多川くんが、出ていくなんて、思いもしない」

 の言葉に、祐介はハァ・・・とため息をつき、再び口を開いた。

 「・・・俺には父がいない。母親が1人で育ててくれたらしいが、その母も俺が3つのとき、事故で死んだ。そのとき俺は、先生に拾われたんだ。母も生前、先生の世話になっていたらしい。正直、母のこともあまり覚えていない。だから先生を親と思って尽くしてきたつもりだったが・・・先生は変わってしまった。自分の原点である『サユリ』までも、あんなふうに・・・!」
 「・・・色々、あったんだな」

 竜司がつぶやく。何かを抑え込むような口調で。

 「お前たちが盗作だのと言ってきた時・・・内心じゃ気づいていたんだ。だからこそ拒んでしまった・・・。俺は逃げてたんだ・・・すまない」
 「気にすることはない。オレたちも、押し付けるような言い方だったからな」
 「竜司のせいだよね。が穏便にすまそうとしてたのに、勝手に突っ走ったんだもん」
 「それはよ・・・まあ・・・悪かった・・・」
 「いや。自分を誤魔化してきたことと向き合う、そのきっかけをくれて、感謝している」
 「真面目すぎんだよ、お前。そんなんだから、行き詰っちまうんだよ。俺なんかもっとテキトーだぜ?」

 まあ、そうだな・・・と一同は思ったのだが、そこは敢えて口にするまい。
 モルガナが「これからどうする?」と祐介に問いかけるが、「わからない・・・」と彼はつぶやいた。こうなってしまった以上、今までと同じように斑目に接するのは難しいだろうが。

 「俺たちなら、心を変えられんだ。野郎の罪を、野郎自身に償わすことができる」
 「そういえば、『改心』がどうとか言ってたな・・・」
 「聞いたことねえか? 『心を盗む怪盗団』の噂」
 「・・・!? まさか・・・!?」

 と、そこへ警備シャドウが姿を見せた。竜司が「ヤベっ・・・!」と声をあげる。

 「ここは、ひとまず逃げるぞ!」

 の言葉に仲間たちはうなずき、パレスの外へと駆け出していった。

***

 現実世界へ帰還した後、一行は渋谷のファミレスへ来ていた。竜司と祐介が並んで座り、杏・が少々手狭ながらも並んで座る。
 4人は、鴨志田のことを祐介に話して聞かせた。祐介は「なるほど・・・」とつぶやく。

 「それで、その体育教師は心が入れ替わったと・・・。『心を盗む怪盗』・・・実在したとはな」
 「信じられないか?」

 の問いかけに、祐介は首を横に振った。

 「いや、信じるしかない。あんな世界を見た後じゃな・・・。それで、お前たちは斑目先生・・・斑目を『改心』させるつもりってことか」
 「もちろんです。私たちは、あの人を許せません。喜多川くんだって、そうでしょう?」

 が尋ねると、祐介は黙り込み・・・やがてうなずいた。

 「俺も加えてくれ・・・怪盗団に。もっと早く現実を見ていれば、こうはならなかったかもしれない・・・。画家としての未来を奪われた多くの門下生のためにも、俺が終わらせなければ。それが・・・曲りなりにも親だった男への、せめてもの礼儀だ」
 「失敗すると、廃人になるかもだぜ? 防ぐ方法も分かっちゃいるが、絶対は無い。・・・来がけに話したよな?」

 のカバンから顔を出し、モルガナが告げれば、祐介は硬い表情でうなずいた。

 「斑目は芸術界を牛耳る存在だ。あらゆる団体とコネクションを持っている。俺如きが声を上げたって、もみ消されるだけだ。・・・やるしかない」
 「ゴエモンは、喜多川くんの反逆の証だよ。いらっしゃい。これからよろしくね」

 が優しく微笑めば、「こちらこそ」と祐介も笑みを返した。

 「・・・なーんか、と祐介、いいカンジじゃね?」
 「2人きりの時に、何かあったのかな?」
 「・・・・・・」
 「杏、見てなかったのかよ!」
 「だって私、襖の所にいたんだもん!」
 「・・・祐介」

 と、いきなりが祐介の名を呼ぶ。「何か?」と彼がを見た。

 「裸婦画の件は、諦めろ」
 「む・・・? しかし・・・」
 「諦めろ」

 有無を言わさぬの迫力に、祐介は残念そうに「わかった・・・」とつぶやいた。祐介の返答に、竜司がホッと息を吐いた。もう少しで、彼の命が危ういところだった。

 「そういえば、現実の斑目、どうなったかな。私とと祐介、相当ヤバイ状況だったけど・・・」
 「それなら、ここへ来る前に連絡を取った。俺はさんたちを追いかけていた事になってる。それと、君らの説明通り、シャドウとの事は、本人は知らないようだ」
 「斑目先生、何か言ってましたか?」
 「女子高生を捕まえることもできないのかと、警備会社に愚痴っていたよ。でも、怒りが収まらないようで、『全員告訴してやる』と言っていた」
 「え・・・」

 告訴・・・それはマズイ状況だ。完全に警戒されてしまった。

 「動くとしても個展を終えてからだろう。期間中に醜聞が立つのは向こうが損だ」
 「コクソを回避するためにも、その前に改心だな。やっぱり作戦期間は、『個展の会期中』ってことだな!」

 モルガナの言葉に、たちはうなずき・・・フト、祐介が不思議そうにのカバンの中の黒猫を見た。

 「ところで・・・これはなんだ?」
 「あ? 猫だけど」
 「喋っているが?」
 「文句あるのか!?」

 竜司の返しに、祐介が疑問を口にし、モルガナが声をあげた。まあ、祐介の反応は致し方ない。モルガナは、現実世界では“猫”なのだから。

 「いや、そうじゃないが・・・」
 「え、なんで?」
 「ちょっと人とテンポ違うよね」
 「こういう人を“ズレてる”っていうのかもしれないね」

 祐介が腰を上げ、モルガナに手を伸ばす。モルガナが「気安く触んじゃ・・・」と言いかけたが、彼が触ったのは手前にあった、店員を呼ぶボタン。

 「『黒あんみつ』を注文しようと思ってな」
 「『黒猫』から連想したな、コイツ・・・」
 「ああっ・・・! 金を持って来なかった」
 「やっぱ、この人ヘン・・・」

***

 いつものように、部活である友人2人を見送り、は立ち上がった。
 杏は今日はバイトだ。も用事があるということで、すでに下校している。
 しかし・・・と思う。中間テストの結果が出たのだが、の順位はなんと8位。なんという好成績。周りの生徒たちも驚いていた。
 ちなみに、は中間より少し上。順位を出すのは、中間までなので、ギリギリ入っていて助かった。だが、竜司と杏の名前は見当たらなかった。
 今日は竜司との走り込みも休みだ。仕方ない。渋谷で買い物をして帰ることにしよう。

 「あれ?」

 渋谷の駅前を歩いて、思わず小さく声をあげる。濃紺の髪に白いシャツを着た美少年がいたのだ。

 「こんにちは、祐介くん」

 が近づき、声をかけると、祐介が振り返った。

 「ああ、さんか」
 「どこかへお出かけ?」
 「画材を買いに、な。斑目の家にいる以上、怪しまれないように、絵を描いていなくてはならないからな」
 「そっか。そうだよね」

 今の祐介に、あのあばら家以外に行く所はない。まさか、いきなり「あばら家を出る」と言って、警戒させるわけにもいかない。

 「さんも、学校帰りか・・・。買い物か?」
 「うん。あ、それより体の方は大丈夫? ペルソナ覚醒して、負担かかったでしょ?」
 「うむ、問題はない。心配をかけたな」
 「ううん。それならよかった」

 話しながら、歩き出す。少し2人で話そうか、ということになった。思えば、2人きりになったのは、ヌードモデルを引き受けた時以来だ。
 少し変わった少年だが、常識は持ち合わせており、冷静だ。間違っても竜司のように、何も考えずに発言したりはしないだろう。

 「それより・・・いいのか? 俺と一緒にいて」
 「え? どういう意味?」
 「に見つかったら、マズイのではないか、という意味だ」
 「・・・くん? なんで??」

 不思議そうに首をかしげるに、祐介は目を丸くした。

 「え?? え? なに? 私、おかしなこと言った?」
 「お前たち、付き合っているのではないのか?」
 「え! わ、私とくん?? まさか! そんなわけないでしょ〜!」

 祐介の言葉に、は慌てて手をパタパタと横に振った。まさか、勘違いをされていたなんて。

 「そうなのか? 俺がさんにモデルを頼んだ時や、実際に来てもらった時も、やたらと睨まれていたからな。てっきり恋人同士だと思ったぞ」
 「あのね、くんは2年生になってから秀尽に転校して来たんだよ。つまり、私とは知り合ってまだ1か月なの。付き合うなんて、そんな・・・」

 確かに、憧れてはいるが、それは“怪盗団のリーダー”として、だ。異性としてはどうか、と問われれば・・・。

 「でも・・・キライじゃないよ」
 「それはわかっている。つまり、も竜司も変わらない関係ということか」
 「うん、そう」

 そうだ。も竜司も怪盗団の仲間。
 そんな話をしていたからだろうか。2人は渋谷の町中でバッタリとと遭遇した。が「くん!」と笑顔を向けるも、は少々バツが悪そうに目を逸らした。

 「さん、俺は向こうだから、ここで別れよう」
 「え? あ、でも・・・」

 お茶は?と問う前に、祐介はセントラル街の方・・・がやって来たほうへと歩いて行ってしまった。
 チラリとの方をうかがうと、彼の背負ったカバンから、モルガナが顔を覗かせ、「あのな、・・・」とつぶやいた。

 「ユースケと仲良くするな、とは言わねーが、こいつの気持ちも・・・」
 「余計なことは言うな、モルガナ」

 モルガナの言葉を遮り、が言葉を発する。2人のその様子に、は首をかしげた。

 「あの・・・何かあった?」
 「いや、なんでもない。が祐介と仲良くするの、早かったから。オレとは、そんなに早々に親しくしてくれなかったのに」
 「そう・・・だった? それなら、ごめんなさい。なんでかな? 祐介くん、すごく放っておけない感じがするの」
 「・・・同じ氷属性の力を持つペルソナのせいかな。それなら、オレもずっとフロストを使おうかな」
 「え??」
 「あ、いや、なんでも」

 失言だった・・・とでも言うように、は己の口を手で塞いだ。

 「そうだ、くん。少し、お話でもしない?」
 「え、うん。いいけど」
 「本当は祐介くんと行こうとしてたんだけど・・・用事があったみたいだから」
 「・・・・・・」

 それは、まるで祐介の代わりということになる。に悪気はないのだろうが、少々ショックではあるし、胸がジクリと痛んだ。
 なんだかおかしい。これでは、まるで祐介に嫉妬しているみたいではないか。
 そんなことは、おくびにも出さず、2人はファミレスに入った。

 「そういえばくん、すごかったね」
 「え?」

 ドリンクバーでコーヒーを持ってきたにお礼を言い、が笑顔で言った。

 「何が?」
 「中間テストの順位! 周りのみんなも驚いてたよ〜? くんの、意外な一面だ、って」
 「ああ・・・。テスト前に、と一緒に勉強しただろ? あれのおかげかも」
 「えぇ? 私、そんなにいい成績じゃなかったから、やっぱりくんの実力だよ」

 ニコニコとが微笑む。なんだかくすぐったくて、は誤魔化すように、コーヒーを一口飲み、彼女から視線を逸らした。

 「期末テストの時は、くんにみっちり教えてもらおうっと」
 「中間が終わったばかりなのに、気が早いな」
 「フフッ。予約! だから、また一緒にお勉強しようね?」
 「・・・ああ」

 の笑顔に、ははにかんだ。うれしい。彼女からの約束が、今はとてもうれしかった。