ドリーム小説
中間テストが始まった。テスト期間中は授業がないし、放課後の時間が長い。ただし・・・試験である。
竜司はテストと聞くと、苦虫を?み潰したような顔をしていたが、としては授業をよく聞き、復習をすればそこそこの点は取れると思う。というのは、少々秀才臭いだろうか。あくまでの成績は中間より少し上くらいだ。10位以内など、ほど遠い。
そんなこんなで1日目が終了。う〜ん・・・と大きく伸びをし、は帰りの支度をする。
そうだ、今日もと一緒に勉強しようか。なかなか、勉強がはかどったのは、のおかげのような気がするから。
に誘いのチャットを飛ばそうとした時だ。
「、さ、帰ろ〜!」
香乃がそう声をかけてきた。真静もいる。2人共、カバンを持っていて・・・アレ?と首をかしげる。
「2人共、部活は?」
「なーにボケてんの。テスト期間中に部活があるわけないでしょ」
「あ、そっか・・・」
部活をするなら勉強をしろ・・・といったところか。そういえばそうだった、と気が付いた。
チラリ・・・の方を見やったが、彼はさっさと教室を出て行ってしまった。なんとなく、寂しくて残念な気持ちになった。
「せっかくの3人での放課後だし、どっか遊びに行こっか〜?」
「え? 勉強しないの??」
香乃の言葉に、思わず優等生な言葉を返してしまった。余計なことを言ってしまったと後悔。案の定、2人の友人は眉間に皺を寄せた。
「ちょっと、テンション下がるようなこと言わないでよね〜!!」
「ご、ごめん・・・! そうだよね。忘れよう、忘れよう!」
アハハ、と誤魔化し笑い。と一緒だったなら、きっとファミレスかルブランで勉強していただろうな・・・そんな風に思った。
***
2日目、3日目とテストが終わる。その間は、当然のように友人2人と下校。家に帰ってから、慌てて勉強をする・・・といった調子になってしまった。
フト、顔を上げる。テスト最終日の朝。JL線から銀坐線へ乗り換えをすると、ホームに見知った姿。ホッとした。
「くん!」
「おはよう、」
「おはよう、くん」
黒髪の少年と言葉を交わすのは、実に3日ぶり。だが・・・やはり、感じる。チラリと様子をうかがうも、何もない。
そんなの様子に、は首をかしげた。
「どうかした?」
「えっと・・・何か、見られてるような気がして」
「え?」
が声をあげ、辺りを見回す。怪しい人物はいないようだが、は視線を感じるという。何かあってからでは遅い。変質者だったら・・・。
だが、は慌てた様子で、の腕を掴んだ。
「あ、気のせいだと思います! 自意識過剰なのかも」
「気のせいじゃなかったら?」
「う・・・それは・・・その時は、警察呼びます!」
「口調が戻ってるけど?」
「え? あ・・・すみません・・・」
緊張したり、慌てると、ついつい口調が戻るようだ。
電車がホームに入って来る。2人は並んで乗車した。ギュウギュウ詰めの車内。いやでもとの体は密着する。
モルガナの入ったカバンを抱きかかえる。痴漢対策も兼ねているのかも。体が押され、の腕に、の豊満な胸が当たった。は気づいていない。相手がだから、気を許しているのか、いつもこうなのか。
いつもこうなら・・・少し考え物だ。いや、少しではない。大問題だ。だが、少し待て。「腕に胸が当たっている」と言うわけにはいかない。聞くことはできない。
柔らかいな・・・なんて思って、はハッと我に返る。何を考えているんだ。友人で、仲間でもある少女に対して。
「、立ってるの大変だったら、オレの腕に掴まっていいから」
「うん。ありがとう」
失敗に終わった。電車が揺れるたび、の柔らかい胸が腕に押し付けられる。ああ、早く蒼山に着いてくれ。
ようやく電車は目的地へ。2人で電車を下りると、横合いから名前を呼ばれた。竜司と杏だ。
「どうしたの? 。浮かない顔してる」
「え?? そんなことありませんよ?」
「なんで敬語に戻ってんの?」
「あ・・・」
慌てているようだ。なんてわかりやすい。だが、杏はそんなの真実を知らない。
「とにかく、行きましょ! テストが待ってます!!」
「・・・思い出させんなよ・・・」
が意気込んでそう言えば、竜司がガックリと肩を落とした。
しかし、今日が終わればテストは終了だ。少しは気分も晴れるだろう。
「、大丈夫か?」
「え? あ、うん・・・」
の声に、はうなずき、チラリと背後を振り返り・・・ギクッとした。1人の少年がこちらを見ていた。偶然ではない。をジッと見つめていたのだ。
の視線の先を、も追い・・・「竜司、杏」と先を行く2人を呼び止めた。
「杏、と一緒に来てくれ。竜司、オレと一緒に先へ行って待ち伏せよう」
「え? なに? どうかしたの??」
「説明は後でする。、駅から出たら動かないで。あいつが追いかけてきたのを確認して」
「は、はい・・・」
パレス内で指示を出すかの如く、がテキパキと動く。竜司の腕を引っ張り、エスカレーターを上っていく。
を託された杏は、どうしたの?という視線を向けてくる。「後で話すね」と微笑んだ。
に言われた通り、駅から出るとは足を止めた。杏も倣う。が駅の入口に背を向けたのに対し、杏は駅の方を向いている。
と、1人の少年が駅から出てきた。秀尽生ではない。白い制服の男子。見た目は眉目秀麗な感じだが、彼がそっとの背に手を伸ばしてきて。杏がの体を抱きしめるのと、横合いから黒髪の少年がその手を掴むのは、ほぼ同時だった。
「なんだ、君たちは・・・」
少年が口を開く。えらく冷静だ。乱暴にの腕を払った。
「それはこっちのセリフだ。ずっとつけていただろう? 彼女が不安がっていた」
の名を出さず、スッと少年との間に体を滑り込ませる。「つける・・・?」と少年が眉根を寄せた。
「あの・・・私の知り合い、ではないですよね」
「この子のこと、何かしようとしてたでしょ! 私が抱き寄せなかったら、ヘンなことしてたんでしょ!!」
「変なこと・・・? 俺は・・・」
と、突然、車のクラクション。見れば1台の車が止まって。後部座席の窓が開き、穏やかな表情の老人が顔を見せた。
「突然、車を下りるから、何事かと思えば。大した情熱だな」
うれしそうに老人がそう告げた。どうやら、この少年の知り合いらしい。祖父だろうか?
と、目の前の少年が視線を落とした。
「あの・・・?」
「良かった、追いついて・・・。先生の着信にも気づかなかった」
「はぁ・・・」
「で? お前、なんなわけ?」
竜司が至極まともな問いかけをするが、少年はの背後にいるしか見ていない。
「君からは、創造力を掻き立てられる魅力を感じる! ぜひ俺の・・・」
「え・・・あ、あの・・・」
まさか、こんな所で愛の告白!? 一同が同じことを考える。が・・・。
「俺の、絵のモデルになってくれ!」
「・・・はい?」
キョトンとする。少年はの体を押しのけ、に詰め寄ってきた。竜司が不審な目を向ける。
「いかがわしいスカウトじゃねえの?」
「協力してくれるのか? どうなんだ??」
少年が詰め寄った状態のまま、に問いかける。迫力のあるその勢いに、はギョッとし、体を引く。
「いや、待てって! だから、お前、誰よ?」
竜司が声を荒げる。先ほど、問いかけた内容だ。いきなり現れ、モデルになってくれだなんて、怪しすぎる。何者かもわからないのに、協力など出来るはずもない。
少年は竜司の言葉に我に返り、から距離を取った。再びがを庇うように間に割り込んだ。
「ああ、失礼。俺は洸星高校美術科2年・・・喜多川祐介だ」
「喜多川くん・・・ですか・・・」
つぶやく。喜多川はの体を再び押しのけ、に詰め寄った。
「俺は斑目先生の門下生で、住み込みさせてもらってるんだ。画家を目指している」
「斑目って、こないだ『情熱大陸』に出てた?」
杏が声をあげた。喜多川は「そうだ」とうなずく。竜司が「知ってんの?」と杏に尋ねた。
「超有名な日本画家。『世界で評価される日本画家』なんだって」
「そ、そんなすごい人なんですか・・・。あの、車に乗ってる方ですよね?」
しかし、引っかかることもあった。「斑目」・・・その名には覚えがある。
その斑目が喜多川を呼ぶ。「すぐ戻ります!」と答えた。スッと喜多川はを見つめ直した。
「明日から駅前のデパートで、斑目先生の個展が始まる。初日は俺も手伝いに行くんだ。ぜひ来てくれ。モデルの件、その時にでも返事をもらえると・・・」
「はあ・・・」
喜多川がチラリと竜司とを見やる。冷たい眼差しで。そして、ポケットからチケットを4枚取り出した。
「どうせ絵画には興味ないだろうが、チケットは人数分、渡してやるよ。それじゃあ、明日会場で」
穏やかな笑みをに向け、喜多川は去って行った。一体、なんだったのか。4人は呆気に取られ、は手渡されたチケットを見た。
「行くつもりか?」
が眉間に皺を寄せた。少々悩んだ様子のだが、「うん・・・」とうなずいた。3人があ然とする。
だが、はスマホを取り出し、時間を確認し、慌てて杏を振り返った。
「みんな、時間だよ! 急がないとテスト始まっちゃう!」
「え・・・あ、うん・・・」
が駆けていくその背を、杏が追いかけた。はなんだか不機嫌で。竜司が心中お察しする・・・とでも言いたげにポンと肩を叩いた。
「を狙うとは・・・命知らずなヤツだな、ユースケ・・・」
のカバンの中で、モルガナがニャーと鳴いた。
***
朝の一件は、なかなかに刺激的ではあったけれど、は平常心でテストに臨んだ。
ようやく4日間のテストが終わった。香乃と真静と帰れるのも、これでしばらくはないだろう。
「〜! 帰るよ〜!」
「うん!」
香乃に声をかけられ、は教室を出た。そこで思い出した。今朝もらったチケットのことを。
杏と竜司、それにの分だ。行くかどうかはわからないが、渡しておくべきかもしれない。
「ごめん、2人とも。ちょっと先行ってて」
「うん。忘れ物? 早くしなよ〜?」
「わかってる!」
先に下駄箱へ2人を向かわせ、は教室に入ろうとし、そこでと遭遇した。もう少しでぶつかるところで。
「あ、くん。ちょうどよかった」
「なに?」
首をかしげるに、はカバンの中から件のチケットを取り出した。途端、の眉間に皺が寄る。
「これ、くんと竜司くんと杏ちゃんの分。今日、これから集まるんでしょう? 渡してあげて」
「・・・、本当に行くのか?」
チケットを受け取ろうとせず、が尋ねる。は「うん」とうなずいた。行くのなら、喜多川のいる明日だろう。
「斑目・・・っていう名前が気になるし。ほら、メメントスの」
「ああ」
「だから、少し探ってみるね。くんたちも、気が向いたら来て? みんなが一緒の方が安心だし」
「うん」
「それじゃ、私は帰るね。バイバイ」
が手を振れば、は片手を上げて応えた。
「のヤツ、ユースケに一目惚れしたとか・・・?」
「・・・・・・」
モルガナが余計なことを言う。不安になるではないか。
フト、そこで気づく。なぜ、そんなにを気にする? クラスメートだから? 友人だから? 怪盗団の仲間だから?
それとも・・・?
***
夕飯を食べ、入浴もすませ、明日の準備をしていた時だ。スマホが鳴った。見れば、からのチャットだった。
『明日の個展、竜司と杏も行くことになった』
からのチャットに、は微笑んだ。あの2人なら、来てくれると思った。
『じゃあ、待ち合わせしよう? あとでグループッチャットで話そう?』
『わかった』
『今、電話しても大丈夫?』
『うん』
に電話をかければ、当然ながらすぐに出た。「どうかした?」と尋ねてきた。
「あのね、今朝ありがとう」
《うん? 今朝?》
「喜多川くんから守ってくれたでしょ? 正義のヒーローみたいだった」
《大したことじゃない》
「そんなことないよ。私は、すごくうれしかったし・・・カッコよかったよ」
《・・・・・・》
「くん? 私、何か気に障ること言っちゃった?」
黙り込んでしまったに、は不安になって尋ねた。だが、は「いや」と否定した。
《そんなこと、今まで言われたことないから・・・少し、照れた》
「フフッ・・・そっか。ごめんね、伝えたいことはそれだけ。じゃあ、チャットしよっか」
《・・・うん》
「じゃあ、後で」
《うん》
それだけ?と思われたかもしれない。それでも、直接告げたかった。文字ではなく、声で。
ありがとう、くん・・・もう一度、誰もない空間に、はそっとつぶやいた。
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