ドリーム小説

 怪盗団を結成したはいいが、なかなかそう大物が見つかることもなく。モルガナの「しばらくは大人しく学生生活を送ろう」という言葉に4人は同意した。
 何せ、と竜司は鴨志田を脅迫したことになっているのだから。

 「、じゃあまた明日ね〜!」
 「うん。部活行ってらっしゃい」

 友人2人に手を振り、はカバンを持ち、教室を出ようとしたのだが、フト隣のの姿をチラリと見た。

 「くん、よかったら・・・」
 「やあ」

 と一緒に下校しようかと、声をかけようとした時だ。クラスメートでバレー部の三島がに声をかけてきた。

 「どうかしたか?」
 「見てくれた? “怪盗お願いチャンネル”」
 「何の話だ?」

 は思わずドキッとしたのだが、はまるで動じない。スマホをしまい、カバンを持ち教室を出ようとするが、三島が食い下がってきた。

 「アレ、立ち上げたの俺なんだよね」

 は目を丸くし、三島を見る。聞き耳を立ててはいけない。わかっているが、は怪盗団の一員だ。気にしてしまう。
 三島は、そんなにも視線を向けてきた。

 「・・・怪盗は、君らなんだろ?」

 核心に触れてきた三島に、は呆気に取られるが、は飄々とやり過ごしている。
 結局、「好きにしろ」と冷たく返せば、三島は「ああ、好きにさせてもらうよ」とニヤリと笑った。
 三島が立ち去って行くと、竜司と杏が2人に歩み寄ってきた。さすがに、あの状況で声はかけられないだろう。を怪しんでいるのなら、竜司と杏だって疑われているはずだ。
 とりあえず、今は準備期間。と、竜司が突然「あーーっ!!」と声をあげた。

 「ど、どうしたの? 竜司くん」
 「俺ら・・・じき試験じゃね?」
 「そうだね。それが何か問題?」
 「そっか・・・はいつも平均以上だったもんな・・・。は? 前の学校でどうだったんだよ?」
 「オレは、まあ普通」

 “普通”の程度はよくわからないが、少なくとも赤点を取るような成績ではないということだろう。

 「あ、そうだ。、今日もやらね? 走り込み」
 「え? 勉強はいいの?」
 「・・・思い出させんなよ。パレス攻略には、体力維持も大切だろ!」
 「うん。私は構わないよ」

 と竜司のやり取りを、杏が見守り・・・チラリとを見る。眼鏡の向こうの瞳は、何かもの言いたげだ。素直じゃないな、と思った。

 「も一緒に行けば? 私はバイトあるから無理だけど」
 「え・・・?」
 「あ、ホント? くんも行く?」
 「・・・うん」

 素直になったに、杏は満足そうにうなずいた。さすがに、と竜司を2人きりにするわけにはいかない。の心情を思えば。
 走り込みに行った3人は、そこで元陸上部に嫌味を言われることになり、カッとなった竜司をがなだめた。

 「お前ら、下心があって彼女と一緒にいるんだろ?」

 そう言って、生徒が1人、ジロジロとを見る。その視線の先がの胸に向けられていることに気づく。眉根を寄せたの前に、赤い壁ができる。

 「・・・くん」

 ジャージ姿のが、を庇うかのように目の前に立ちはだかった。元陸上部の生徒たちは、つまらなさそうにその場を離れた。

 「あいつら・・・悪気はないんだ。俺のせいで、こんなことになって・・・」
 「仕方ないよ。鴨志田のせい。全部あの人のせいだよ。竜司くんは悪くない」
 「お前も気にするな」

 落ち込む竜司に、が声をかけた。去年、クラスメートだったは、噂にうといが陸上部に何があったのかを知っている。
 結局、その日はそれ以上体を動かす気になれず、下校することにした。

 「あれ? ??」

 聞こえてきた声にギクッとした。香乃の声だ。振り返れば、やはりポニーテールの彼女で。マズイ・・・と思った。と竜司と一緒のところを見られた。
 「先行ってる」とが小さくささやき、男子2人はから離れて行った。その2人の背中を見やり、香乃は首をかしげた。

 「今のって・・・坂本と、だよね? 何してんの? 。あの2人と」
 「えっと・・・実は、ちょっと体がナマってるから、少し運動しようかと思って! 私がいた所に、偶然2人が来たの!」
 「フーン・・・? あの2人と口きいたりするんだ?」
 「そりゃ、元クラスメートと現クラスメートだもん! 話くらいするよ!!」
 「何ムキになってんの? これから帰るの? あたしももう上がり。一緒に帰ろうよ」
 「う、うん・・・」

 先ほどのの様子からすると、一緒に帰ろうとしていたように感じたが・・・彼のことだから、友人を優先しろと言ってくるだろう。
 制服に着替え、教室に戻ると、やはりがまだいて。だが、が友人と一緒にいるのを見て、きちんと察してくれたのだろう。何も言わずに教室を出て行った。

 「ね、今さ、ビッグバンチャレンジってやってるの知ってる?」
 「え? あー・・・30分で巨大ハンバーガー食べるってやつだっけ?」
 「そうそう! チャンレンジしてみない?」
 「えぇ!? 無理だよ。半分もいかないって!」
 「じゃあ、あたしだけチャレンジしてみる!!」
 「・・・やめときなって」

***

 「あー食べた! 食べた!」

 満足そうな香乃の姿に、は呆れのため息をこぼしてしまった。この小さな体の友人は、どこに吸い込まれていったのか、巨大なハンバーガーを見事に1人で食べきったのだ。もちろん、30分以内に。
 あまりにも豪快なその食べっプリに、周りにいた客たちもあ然とし、応援の声があがった。

 「・・・すごいね、香乃。チャレンジしようとしたその度胸と、見事に達成したその胃袋に称賛の拍手を贈るよ」
 「ありがと〜!」

 褒めたのか、けなしたのか、よくわからない言葉を投げかける。まあ、香乃自身はうれしそうなので良しとしよう。

 「さぁ」
 「え?」

 少し先を歩いていた香乃が足を止め、こちらを振り向いた。

 「バレー部、戻ったら?」
 「・・・どうして?」
 「だってさ、その方が健全じゃん? 1人でコソコソするみたいに運動するよりさ」
 「・・・・・・」
 「鴨志田先生もいなくなったんだし、さ?」
 「・・・・・・」

 バレー部に戻る・・・確かに、何度もそれは考えた。そして、その度にあの膝の痛みを思い出した。
 弱い心とは決別した。あの痛みに恐れることもなくなった。しかし・・・。

 「今は、まだいいかな」

 今は、怪盗の活動がある。この状況で部活などできない。当然、そんなことは友人に言えないが。

 「ねえ? 香乃は怪盗団を信じる?」

 突然、が尋ねた言葉に、友人は目を丸くした。唐突すぎただろうか。

 「それって・・・あの予告状のヤツ?」
 「うん。そう」
 「そうだなぁ〜・・・半信半疑かな? だってさ、心を盗むなんて夢物語じゃん? 漫画の中の話だよ〜!」
 「じゃあ、鴨志田先生が改心したのは?」
 「・・・鈴井さんのことがあったから、じゃないかな。あ、ごめん、。思い出したくないよね」
 「ううん、大丈夫」

 香乃が心配そうにを見やった。それに笑顔で返す。志帆は回復に向かっているし、香乃が気遣ってくれたのがうれしかった。
 志帆が飛び降りたのは、鴨志田が原因。それが判明すれば、遅かれ早かれ、あの教師は問い詰められていただろう。それを見越して、自ら出頭をしたのだ・・・というのが香乃の意見である。
 心の怪盗団なんていない。ただのイタズラ。タイミング良く、鴨志田の決心を後押ししただけ。

 「は〜? 信じてる?」

 自分の考えを告げた彼女が、に意見を求めるのは、自然な流れだった。

 「・・・うん。信じてる」

 何せ、自分自身がその怪盗団なのだから。
 の答えに、香乃がクスッと笑った。バカにしているのではない。苦笑に近い。

 「は案外ロマンチストで夢見る乙女だからなぁ〜。そういうの、純粋に信じてそう」
 「・・・悪かったわね」
 「まあ、いいんじゃないの? それで口論にならないんだったら、信じようが信じまいが」

 アッサリとした友人の言葉に、確かにそうだな、と思った。
 世間の怪盗団への信ぴょう性は6%。だが、されど6%。それだけの人が信じてくれている。三島のように。
 駅で友人と別れ、は電車の中でにメッセージを飛ばした。「さっきは、ごめんね」と。

 『友達と帰るのに、謝罪はいらないよ。この前も謝ってたけど』

 別に約束していたわけでもないのだし・・・は、からの返事に含まれたそんな言葉を見つけた気がした。は一言も「一緒に帰ろう」と言っていないのだから。
 チクリと胸が痛んだ。クラスでは2人は未だよそよそしい。不幸な偶然で隣の席になってしまった生徒・・・そういう関係なのだ。

***

 翌日の放課後・・・怪盗団はアジトである屋上へ集まっていた。竜司が「怪盗チャンネル」の書き込みを見て、「ロクな書き込みがねえ」とため息をついた。
 ネットで本名等はなかなか書きこまれないだろう。自力で探すしかないか?と思うが、警察も見逃している大物を、探せるとは思えない。

 「もうチョイ様子見て、いよいよ見つかんなきゃ、そん時は・・・」

 言いかけた竜司だが、屋上のドアが開く音に口を閉ざし、モルガナはその場から逃げた。物陰に隠れている。
 やって来た人物を見て、杏とが「あ・・・」と声をあげ、竜司も眉をしかめた。だけは、誰だかいまいちわかっていない。

 「ここ、侵入禁止のはずだよ?」

 やって来た女子生徒は、グルリと4人を見て、そう注意した。竜司が不機嫌な表情を崩さず、「話終わったらすぐ出る」と応えた。

 「つか、会長サンがなんか用っスか?」

 竜司のその言葉に、は思い当たる。秀尽学園の生徒会長である新島真だ。

 「問題児に、噂の彼女、バレー部の勧誘を受けていた女生徒・・・それに訳ありの転校生。変わった取り合わせだなって思って」
 「感じワル・・・」
 「杏ちゃん・・・!」

 杏の隣にいたが小さくささやく。「聞こえるよ!」と。聞こえているのだが。だが、新島真はそれを気にすることなく、話題を変えた。

 「鴨志田先生と、色々あったみたいだけど?」

 彼女はを見ている。転校してきたばかりのが、鴨志田に目をつけられたことが疑問なのだろうか。

 「まあ、それなりに」
 「この学校にいれば、嫌でも鴨志田先生と接点あるでしょ」
 「彼だけじゃありません。新島先輩だって、知っているでしょう? ここにいる私たち、鴨志田先生と何かしらがあったってこと。先輩がさっき、自分で言ったんじゃないですか」

 杏とを庇うように言葉を告げれば、彼女は「ふうん・・・」と納得いかないような態度で返した。そして、再びを見る。

 「前歴のこと、鴨志田先生が広めたらしいわね。バレー部員を使って。憎くない? 鴨志田先生のこと」
 「気にしてたら生活できない」
 「あら・・・強気ね」

 フッと笑む新島に、竜司が睨みをきかせた。もムッとする。

 「さっきから、なんなんスか?」
 「くんは、そんなことで人を憎んだりしません」
 「気を悪くしないで。鴨志田先生の件で、動揺してる生徒も多いの。予告状みたいな、おかしな貼り紙の噂も、なかなか消えないし」

 竜司と杏が顔を見合わせる。効果覿面だったということか。しかし、それを表に出すわけにはいかない。

 「意外、新島先輩って、あんなセンスのない貼り紙のこと気にしてんだ」
 「センスねえことはねえと思うけど・・・」

 杏の言葉に、竜司が不服そうにつぶやく。あれを作ったのは、彼だ。杏の言ったことは、当然異を唱えたい。

 「つか、もうよくねえっスか? 話しかけられてると、出れねえし」

 竜司が冷めた口調で告げた途端、新島の表情が一変した。眉を吊り上げ、口調が荒くなる。

 「悪ふざけに付き合わされる身にもなってよ」
 「・・・私たちがしていることは、悪ふざけだとでも?」
 「違った? だったらごめんなさい」

 の言葉に、新島は落ち着きを取り戻し、目を閉じ、そして再び4人を見た。

 「そうそう、ここ例の事件もあったし、閉鎖することになったの。誰かさんが無断で入ってるって、そんな噂もあるしね」
 「そう言うんでしたら、くんや坂本くんに関する噂に対しても、何かしら対応してください。それとも、一部の生徒は見捨てるんですか?」

 突っかかるに、が「・・・?」と声をかける。対する新島は冷たい眼差しをに向け、「お邪魔してごめんなさい」と告げると、その場を去って行った。
 モルガナがトンと机の上へ飛び降りてくる。

 「・・・目つけられてるな」
 「そうだね・・・。気を付けないと」
 「目をつけられた・・・か」

 フゥとがため息をつき、竜司が「メンドクセーことになったな・・・」とつぶやいた。

 「どうする? 今日はもう解散します?」
 「いや、待て、。オモシロい場所へ連れて行ってやろう」
 「面白い場所・・・?」
 「ワガハイに付いてこい」

 ヒョイと机から下りて歩き始めたモルガナだが、校舎をそのまま歩かれたらマズイ。竜司がモルガナの首根っこを掴み、のカバンに突っ込んだ。