ドリーム小説

 待ち合わせをし、到着したのは有名なホテル。そこのビュッフェがお目当てだ。
 1人8000円。売ったメダルは30000円。足りない2000円分は4人で出し合った。
 中に入った途端、なんだか突き刺さるような視線を感じた。何やらお上品なお客様ばかりだ。完全に4人は浮いていた。

 「なんか場違いなカンジ?」
 「いいんですよ。自分が1番正しいと思っているような人なんて、放っておけば」

 言って、は2人がけのソファ席に座る。竜司と杏が1人がけのソファに座ってしまい、はどうしたものかと突っ立っている。

 「くん? 座らないんですか?」

 ポンポン、と自分の隣を叩くに、は「ああ、うん・・・」と歯切れ悪く答え、彼女の隣に座った。

 「さて・・・! 制限時間は60分! 食べるよ〜!!」
 「おっし! じゃあ早速取りに行ってくるわ!」
 「荷物番、よろしく〜」

 竜司と杏が立ち上がり、それぞれ目当ての料理へ向かう。残されたは、さてどうしようかと悩む。ここは雑談でもすべきか。

 「それにしても・・・なんだかセレブな感じの人たちだらけですね」
 「そうだな。杏が言ったように、少し場違いかも」
 「くんまでそんなこと言わないでください。いいんです。“高校生は入ってはいけない”なんて、どこにも書いてないじゃないですか!」
 「・・・さんって、意外と大胆なんだな」

 がフッと笑う。優しい彼の微笑みに、も笑みを返した。

 「モルガナも楽しみにしていましたか?」
 「当然だ! 今回の作戦は、ワガハイのおかげで成功したからな!」
 「作戦?」

 が同時に声をあげる。

 「カモシダから王冠を奪うという作戦だ!」
 「ああ、それ・・・」
 「ありましたね、そんなこと」

 が思い出すようにつぶやくと、モルガナが「ニャンだと〜!?」とショックを受けたようだ。モルガナには悪いが、すっかり忘れていた。
 と、そこへ杏が戻ってきた。両手に持っていたのは・・・ケーキの山。次いで竜司が戻ってくると、彼は両手に肉。

 「・・・高巻さん」
 「うん?」
 「そんなに甘い物ばかり食べて、気持ち悪くなりませんか?」
 「大丈夫よ! さんも食べる?」
 「いえ、私は遠慮しておきます」

 パクパクとケーキを食べ始めた杏を見やり、次いで竜司へ目を向けた。こちらは肉にがっついている。

 「坂本くんは、お肉ばかりですね・・・」
 「おう! やっぱ食える時に食っとかねーとな!」
 「そうですか・・・」

 何やら胃もたれしそうな2人のチョイスだ。まあ、どう食べようが、本人の勝手なので、いいのだが。

 「それじゃ、今度は私たちも行きましょうか」
 「うん」

 に声をかけ、2人は立ち上がる。食事の並んでいる場所へ行けば、聞こえてくる「鴨志田」の名前。2人は反応してしまう。
 思わず立ち聞きしてしまう2人だったが、相手の女性たちがこちらに気づいた。

 「くん、これおいしそうですよ〜!」
 「うん。少し取って行こうか」
 「はい」

 どうやら、高校生であるの姿に、少々嫌悪感を抱いているようだ。モルガナが「子供がビュッフェ楽しんでいけないのかっつーの!」と怒った。
 今度はサラリーマンとOLの2人組。怪盗団をでっち上げようと話していたが、がそちらに気を取られると、目が合ってしまった。

 「なんか知らないガキがこっち見てたんだ」

 その言葉に、モルガナが「ヨソのお子さん捕まえて、ガキ扱いってひでえよな」と怒ってくれた。がそんなモルガナの頭を撫でてやる。

 「お待たせしました」
 「お? おかえり」

 気づけば、あの後も肉料理やら米料理やらの近くで、立ち話を盗み聞きした結果、2人の皿には山盛りの料理が。

 「・・・お前ら、それ2人で食うの?」

 テーブルの上には、竜司が取ってきた料理もある。その上、2人がそれぞれ大量に持ってきたわけで。

 「ちゃんと残さず食べますよ。大丈夫です」

 ニッコリ笑って言うだが、さすがに女子であるにたらふく食べさせるわけにはいかない。
 竜司とモルガナが調子に乗って、料理をかっこんだ。はそんな1人と1匹に呆れた目を向け、と杏はマイペースに食べている。
 そして、数分後・・・山盛りあった料理は、キレイに片付いていた。
 のだが、竜司とモルガナは限界だったらしく、トイレへ行くことに。も2人に付き添った。

 「大丈夫ですかね? あの2人」
 「大丈夫でしょ。さってと! 私、ちょっと紅茶取って・・・」

 立ち上がった杏は、大きく伸びをする。そこへ1人の恰幅のいい女性がぶつかってきて。女性が持っていた皿が床に落ちた。幸い、下はフワフワのカーペットで、割れることはなかったようだが。

 「ちょっと! 危ないじゃないの!!」
 「あ、すみません」
 「ぶつかってきたのは、そちらではありませんか?」

 謝罪した杏とは対照的に、がそう言い捨てて。彼女らしくないその態度に、杏は目を丸くし、女性が眉を吊り上げた。

 「まあ! なんて失礼な子かしらっ!!」
 「お客様、どうかなさいましたか?」

 ホテルの従業員が慌てた様子で女性に近づいてきた。

 「この子があたしにぶつかってきて、皿が落ちたのよ!」
 「え? ・・・あぁ・・・」

 杏を見て、「やっぱりか」という表情を浮かべる従業員の男。

 「ちょっと待ってください。私たちは、誰かに迷惑はかけていません。それなのに、その態度はないんじゃありませんか?」
 「ちょ・・・どうしちゃったの、さん! 私なら大丈夫だから」

 憤るに、杏が戸惑いの声をあげる。ああ、こんな時に限って、がいないなんて。彼ならを上手くなだめられるだろう。
 皿を片付け、男はたちに一応頭を下げ、女は杏を一瞥すると、さっさと立ち去った。

 「なんて態度だろ!! ひっどい!」
 「さん、大丈夫・・・?」
 「それはこっちのセリフです。高巻さん、料理かかったりしませんでしたか?」
 「うん、それは平気」
 「私、飲み物取ってきますね」

 だから、杏は座っていろと言われているようで。素直に従うことにした。
 両手にカップを持ったが戻ってくると、杏は慌ててその1つを受け取った。紅茶1つ取ってもおいしい。さすが高級ホテルだ。

 「・・・私、ああいう偏見が許せなくて」

 ポツリ、がつぶやいた。先ほどのことを言っているのだろう。「うん」と杏は先を促す。

 「私・・・こんな体してるんで、昔からよく“遊んでる女”とか“男子に色目使ってる”とか言われてたんです・・・」
 「え・・・中学や高校で?」
 「はい」

 子供が子供に対して言う言葉ではない。杏は呆気に取られ、次いでムッと唇を突き出した。

 「でも許せない。さん、そんな子じゃないのに。でも・・・私も似たようなものかな。こんな容姿してるし、鴨志田に媚売ってたから、“軽い女”だと思われてる」
 「高巻さん・・・」
 「私もさんも、普通の女子高校生なのにね」
 「私、高巻さんのこと、うらやましい」
 「え? なんで??」
 「だって、志帆ちゃんがいてくれたじゃないですか。高巻さんのこと、ちゃんとわかってるお友達が」

 微笑むに、杏は「うん・・・」とうれしそうに笑った。

 「あ、でもさんにだって、お友達いるじゃん? 2人も!」
 「はい。私にはもったいないくらい、いい子です。2人とも」
 「なーに言ってんの! さん自身がすっごくいい子なのに!」
 「そんなことないですよ。私、弱かったから・・・」
 「弱い?」

 首をかしげる杏に、はハッと我に返った。「いえ! なんでもありません」と笑みを浮かべた。
 弱い心とは決別した。カグヤの存在と、の言葉を思い出す。「弱くない」と言ってくれた彼を。頭を撫でてくれたことを。

 「ね、ね、さんは恋人とかいないの?」
 「え?」

 いきなり尋ねられたそれに、は目を丸くした。

 「あ、いえ、いないですけど・・・」
 「じゃあ、と竜司、どっちが好み?」
 「え? え??」
 「・・・な〜んてね。さん、真面目だもん。あの2人みたいなのは好みじゃないよね」

 ホッとした。これ以上の追及は困る。だが、途端に杏の表情が曇った。先ほどのことを思い出しているのかもしれない。

 「あ・・・戻ってきましたよ、2人とも」

 顔を上げ、と竜司を見るなり、「遅い!!」と怒鳴る杏に、竜司が「何キレてんだよ・・・」と戸惑った。

 「ごめん・・・ちょっとイヤなことがあって・・・」
 「高巻さんが、言いがかりつけられてしまったんです。悪くないのに」
 「マジかよ! クソすぎんだろ・・・」

 どうやら、たちも自分勝手な大人たちに遭遇したらしい。「大丈夫ですか?」とに声をかけてくる。

 「え・・・?」
 「あ、なんだか、気分が悪そうだったので・・・」
 「うん、大丈夫。ありがとう」

 優しく微笑んだに、も微笑み返した。そのの微笑みが作ったもののように見えて、は少しだけ心配になったが、竜司がモルガナに声をかけたので、は意識をそちらに向けた。
 自分勝手な大人たち。歪んだ強い欲望を持つ者なら、誰でもパレスを持っている。竜司の問いかけに答えるモルガナ。突然なんだ、と問う杏に、竜司は先ほどトイレに行った帰りに会った身勝手な大人の話をした。

 「俺らなら、そういう身勝手でクソな大人、改心させられるんじゃねーかなと思ってさ」
 「え・・・」
 「怪盗・・・続けるってこと?」

 と杏が声をあげる。も目を丸くした。
 鴨志田の件は、自分たちの学校のことだったし、と竜司がパレスに迷い込んでしまい、その上退学を言い渡されてしまったため、行った改心活動だった。
 その脅威がなくなった今、怪盗の仕事はこれにて終了・・・だと思っていた。また、たちとは距離を置き、ただのクラスメートに戻るのだと。

 「考えたんだ・・・俺らのこと、全然信じてもらえてないけど、少なくとも、俺らのやったことで救われた奴もいる。だったら・・・」
 「怪盗チャンネルか?」

 竜司が見せてくれた『怪盗お願いチャンネル』。誰が作成したのかは、知らないが、確かにそこにはいくつかの感謝の言葉があった。
 もしも、自分たちの活動で、少しでもそういう人が増えたなら。
 確かに、あの力があれば、人助けくらいはできるかもしれない・・・はそう思う。隣に座るも思案顔だ。

 「・・・うん、私は坂本くんの意見に賛成」

 顔を上げ、がいの一番に賛成した。意外だった。自身も、そんな自分にビックリしたが。
 もう過去の弱い自分に戻りたくない。他人の目など気にせず、自信を持って生きていきたかった。

 「オレは、皆がいいなら」

 の言葉に、たちは力強くうなずく。異論はなかった。

 「リーダーって、でいいよね?」
 「・・・オレ?」
 「うん、それも賛成。くんが1番にペルソナの力に目覚めたんだし」
 「、ワガハイを忘れるな!」
 「あ、ごめんなさい・・・。でも、やっぱりここはくんがいいと思う」
 「俺はそういうの向いてねーし、いいんじゃね?」

 こうして、無事に怪盗団は結成された。
 さて・・・杏がつぶやき、姿勢を正した。

 「・・・ということで、さん・・・ううん、。これからは敬語禁止!」

 杏がを見て、そう告げた。が目を丸くする。

 「え!? な、なんでですか?」
 「だって、って志帆やお友達にはちゃんとタメ口だったじゃん! 私、なんか悔しい。友達って思われてないのかな、って」
 「そんなことありませんよ! 私は、高巻さんのこと・・・」
 「“杏”」
 「・・・杏ちゃんのこと、お友達って、仲間だって思っています」
 「じゃ、決まり」

 満足そうに笑う杏。本当は、ずっとそうしたかったのだろう。壁を作っていたのはだ。どこか遠慮があったのだ。

 「んじゃんじゃ、俺のことも名前で呼んでくれよな! !」
 「はい、竜司くん」
 「のことも、ね」

 杏の言葉に、は隣に座るを見た。2人の視線がぶつかり、が微笑む。

 「はい。よろしくお願いします。くん」
 「こちらこそよろしく。

 も微笑んで応えてくれた。胸の奥がムズムズしたが、その正体はわからず。はそれに蓋をした。
 怪盗団の決まりは“大物を狙う”。だが、1人でも反対者がいたら、それは却下。全会一致で決めた者だけを狙うことになった。

 「よし! 怪盗団の結成だ!」

 モルガナのうれしそうな声に、4人は大きくうなずいた。