ドリーム小説
国王陛下は、忙しい。来客があれば、玉座や広間で挨拶をする。それ以外は書類と格闘だ。国には様々な役職の人間がいることは、知らなかった。
シェルダンド聖王国の王は、それ以外にも神殿へ赴き、祈りを捧げ、週に1回行われる集会に顔を出さなければならない。
王座に座り、ふんぞり返っている国王・・・というのは、悪王以外にいないのである。
トロデもクラビウスもパヴァンも、毎日を多忙に過ごしているはずだ。
だが、先ほども述べたように、シェルダンドの国王は特別だ。
“聖王”と呼ばれ、法王に次いで尊ばれる存在。
現在、その聖王国を統べるは、国王ククールと、王妃。国王陛下は、元々マイエラ修道院の聖堂騎士だ。いや、彼の出自については、あまり詳しく触れないことにしよう。
王妃のは、このシェルダンドの王女であった。“巫女姫”と呼ばれ、国民たちから慕われていた。それだけに、各国の貴族や神官、僧侶たちが彼女の結婚相手に・・・と名乗り出たとか。
順調にいけば、大臣の息子と結婚・・・だったのだが。
「最初は、ククールもどうかと思ってたのよね」
アルバート家の令嬢は、そう言ってカップに口をつけた。王妃が「まあ・・・」と声をあげる。
「だって、あの不良僧侶よ? 女たらしだし、問題児だし、爪弾き者だし」
「随分と辛辣なお言葉で? 奥方様」
王妃の隣に座って、腕と足を組んでいた国王陛下が目を細める。
本来、国王がこのような態度をとっては、叱られるのだが、相手は旅の仲間で、友人のエイリュートとゼシカ夫妻である。逆に、態度を改められると、気持ち悪いと言われてしまったのだ。
「それが・・・国王・・・教会のナンバー2だもの」
人生、わからないものね〜とゼシカ夫人は言うが、ククール本人だって、同じ気持ちだ。
教会も王族も貴族も大嫌いだった自分が、“王様”で“教会のお偉いさん”になるなんて。
「それにしても・・・よかったのかい?」
「え? 何がですか?」
エイリュートがククールたちに声をかけると、が首をかしげた。
「・・・王妃たちの子供と、僕たちの子供を一緒に遊ばせて」
「あら! 何も問題ありませんわ。リディアも楽しそうですし」
「・・・わたしは、ハルがリディア姫に何か仕出かさないか、心配だわ」
チラリ・・・客間の恥で、乳母やメイドと遊んでいる子供たちを見て、ゼシカは冷や汗をかいた。
「少しくらいワンパクな方が、オレはいいと思ってるんだが」
「わたくしも、元気に育ってくれたらうれしいですわ」
「はお転婆王女だったし、リディアも似るかもな」
「まあ!」
仲睦まじいシェルダンド国王夫妻。まったく、お熱いことだ。
と、ハルとリディアがこちらをジーッと見ていることに気づく。自分たちの話をしていることに、気づいたのか?
「そうですわ、竜神族の里では手に入らないものをお渡ししようかと思って」
「え! そんな、とんでもない!! 僕たちにそんな・・・」
「遠慮しないでください。わたくしが選んだものなのです」
「・・・・・・」
先日も、珍しい食料の数々をいただいた身としては、恐縮してしまうばかりだ。
「さあ、ゼシカ。こちらへ」
「・・・ど、どうする? エイト」
「断るのも失礼だよ・・・」
「そうよね」
コソコソと夫婦の間で話し合いをし、今回もありがたくいただくことに。
「ハルのお洋服にどうぞ」
「・・・・・・」
渡されたのは、絹糸で出来た立派な布。
「いや、王妃・・・これはさすがに・・・」
「エイリュートはサザンビークへ顔を出すこともあるのでしょう? その時のために」
「あ、ありがたいけど、でも・・・」
「良質なチーズをいつも分けていただいている、お礼ですわ」
ああ、やはり断っては逆に失礼なのだろう。ありがたく頂戴することにした。
「リディア、ハルと仲良くしていますか?」
とゼシカが子供たちの元へ向かえば、2人の子供たちは座ったまま母親を見上げてきた。
エイリュートとゼシカの息子は、ハルと命名され、父親譲りの黒髪と黒い瞳をしている。ゼシカが「わたしに似た特徴がないの!」と少々面白くなさそうであった。彼は、竜族の血を少しだが引いている。そして、サザンビーク王家の血も引いている。父親同様、美形というわけではないが、不思議な魅力を持っていた。どうやら、魔力が高いようで、そこはゼシカ譲りだ。さすが七賢者の末裔。
ククールとの娘は、リディアと名付けられた。ククール王と王妃の第一子。世継ぎの王子、とはいかなかったが、十分に愛されて育っている。父譲りの銀髪に、瞳の色は母親と一緒。彼女もあと5、6年すれば神殿へ入り、巫女姫としての修行に入る。
「ねえ、王妃?」
「はい?」
「わたしたち・・・幸せ者よね?」
愛息子を見つめ、ゼシカがポツリとつぶやく。はそっと微笑んだ。
「当然ですわ。不幸なわけがありません。こんなに愛らしい子供たちがいて、立派な旦那様がいて・・・」
はチラリとククールに視線を向けた。空色の瞳は、いつだって自分と娘を見つめていてくれる。
「ハル、おいで」
ゼシカがハルを腕に抱き、そのこめかみにキスをする。
がハルの頭を優しく撫でれば、彼はうれしそうに目じりを下げた。
「、そろそろオレは戻らなきゃいけない」
「あ・・・はい。大司教様がいらっしゃるんでしたわね」
「ああ。また堅苦しいのがね」
肩を回し、ククールがさも嫌そうに言う。こういうところは、変わらないらしい。
がリディアを腕に抱き、ククールに歩み寄る。ククールはリディアの額にキスを贈ると、の唇にも口づけた。あまりにも自然な動作で、エイリュートとゼシカは唖然としてしまった。
「今日は泊まっていってくれるんだろ? 夕飯はおもてなしさせていただくよ」
「あ、うん・・・ありがとう・・・」
それじゃ、と言って、ククールは部屋を出て行った。
幸福な家庭は、いつまでも幸福な時を過ごすのである。
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