「 、この辺のモンスターは少し手強い。オレから離れるなよ?」
 「うん。ありがとう、ククール」

 2人連れ立って歩くその姿を、エイトたち3人は呆れつつも、もういつものことだ、と諦めることにした。
 あの2人は仲がいい。そんなの当たり前だ。だって、2人は恋人同士なのだから。
 と言っても、2人が付き合い始めたのは、ほんの1カ月ほど前のことなのだが。

 「あ、町が見えてきたよ。今日は、あそこで休むことにしよう」

 見えてきたのは、大きなカジノで有名なベルガラック。パルミドの貧相なカジノとは比べ物にならない・・・のだが、カジノは現在、休業中ということだ。
 ゼシカがギャンブル好きのククールに「残念ね」と声をかけているが、当のククールは気にもしていない。カジノよりも夢中になれる恋人ができた、ということか。
 大きな宿屋で1泊することにした一同。エイトとヤンガスは情報収集に行くと言い、宿屋を出て行った。

 「 は? どうする?」
 「私、ちょっと一眠りする。なんだか、眠くって」

 女2人で一つの部屋を使っているゼシカと 。特にすることもなく、 は眠るという。それならば、ゼシカは少し外をブラブラしようか。 の邪魔をしたくない。
 座っていた椅子から立ち上がり、部屋の外へ出た時だ。「よお」と横合いから声をかけられた。そちらを向き、ゼシカは
「あら」と声をあげる。

 「残念ね。 なら寝てるわよ」
 「いや、ゼシカに用があったんだ。ちょうどいい」
 「わたし?」
 「ちょっと頼み事があってな。外へいいか?」

 親指で後ろを示し、ククールがゼシカに言う。一瞬迷ったものの、ククールには がいるし、おかしなことにはならないだろう・・・とククールについて行くことにした。
 宿屋の外へ出ると、ククールはゼシカを振り返る。そして、パンと両手を合わせ、お願いポーズをした。

 「何よ、いきなり。デートならお断りよ」
 「は? そんなんじゃねぇよ。実は・・・ に記念日のプレゼントをしたくてさ」
 「記念日?」
 「オレと が付き合い始めて、今日でちょうど1カ月だ」
 「ハァ? あんた、毎月 にプレゼントあげる気? まあ、女好きのあんたが、 を大切にしてくれてること、わたしはうれしく思ってるけど」

 少々呆れてしまったが、ゼシカの言葉に偽りはない。親友の を大事にしてくれていることは、素直にうれしい。

 「で? 女のわたしに、どんなプレゼントがいいのか相談したいってわけ?」
 「そういうことだ」
 「なるほどね。そういうことなら、協力させてもらうわ」

 快諾してくれたゼシカに、ククールは「サンキュ」と答えた。
 ああ、 の喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。あのカワイイ笑顔でお礼を言われて。
 少々浮かれ気味に、ククールはゼシカと共に歩き出した。
 その数分後・・・一眠りしていた が目を覚ました。「ゼシカ?」とつぶやくも、部屋にいないようだ。

 「なんだ・・・一緒にショッピングでもしようかと思ったのに」

 ククールと出かけるのもいいが、たまには女の子同士で楽しみたい。仕方ない。ククールとデートしよう。
 部屋の外へ出て、エイトたちに割り当てられた部屋へ。ドアをノックし、「ククール?」と声をかけるも、反応がない。そっとドアを開けるが、シーンとしていて。エイトとヤンガスも戻っていなかった。

 「みんないないのかぁ。私も町をブラブラしようかな」

 ドアを閉め、 は方向転換。宿の外へ向かった。町をブラブラしていれば、ククールに会えるかもしれない。
 カジノが閉まっているせいか、町の中は少し静かだ。賑わっているベルガラックも見てみたい。いつか、カジノが再開した時、ククールと一緒にここへ来たいものだ。
 やはり、1人でいるより誰かと一緒がいい。宿屋へ戻って、エイトたちかククールが戻ってくるのを待とうか。
 そう思っていた時だ。視界に恋人の姿が飛び込んできた。「あ・・・」と声をあげ、駆け寄ろうとした時だ。ゼシカの姿に気づいたのは。

 「ゼシカ・・・?」

 ククールとゼシカが一緒にいる。ゼシカはククールのことを「尻軽男」などと茶化し、けして近づこうとしなかったのに。そもそも、ククールは と恋人同士だ。
 いや、一緒にいるだけなら、普通に話しかけられた。けれど、今の2人は・・・まるで恋人同士のように、微笑み合って・・・。
 声などかけられるはずもなかった。楽しそうに、店の商品を見ている2人に。
 2人に気づかれる前に、その場を離れ、宿屋に戻った。そのまま再びベッドに飛び込んだ。
 しばらくすると、ゼシカが戻ってきて。「あら」と声をあげた。

 「よっぽど疲れてたのね」

 まだ眠っていると思ったのだろう。ゼシカはそのまま部屋を出て行った。
 夕飯の時間になり、ククールが部屋にやって来た。

 「 ? まだ寝てんのか? 夕飯だぞ」

 ククールがベッドに腰掛ける。ギシッと音を立て、2人分の体重でベッドが沈む。ククールがそっと の頬にかかった髪に触れれば、 がビクッと肩を震わせた。

 「おい、起きてんじゃねぇか。飯の時間だぞ」
 「いらない」
 「は? どうした? 気分でも悪いのか?」
 「ほっといて!」

 頬に触れてきたククールの手を払う。「なんだよ・・・」と、戸惑ったような声をあげるククール。

 「ゼシカのとこに行けばいいでしょ」
 「は? なんでゼシカが出てくんだよ」

 ガバッと が起き上がる。ククールが状態をのけ反らせ、 を見やる。ポロポロと、 の大きな瞳からは涙がこぼれていた。

 「 ・・・?」
 「もう放っておいて。自分の気持ちに素直になったらいいじゃない・・・。ククールは、ゼシカが好きなんでしょ?」
 「あ? なんでだよ」
 「さっき見たの。2人で楽しそうにショッピングしてた。お似合いだったよ」
 「さっきって・・・さっきか? この町で?」
 「そうだよ」

 グスッと鼻を鳴らす に、ククールは呆気にとられ・・・次いでフッと笑った。

 「何がおかしいの!?」
 「お前の誤解だからだよ」
 「誤解?」

 ゴソゴソとククールが服の隠しに手をやり、そこから小さな袋を取り出した。

 「??」
 「これをゼシカに選んでもらってた」
 「え??」
 「今日で付き合い始めて1カ月だろ? それの記念に、な。ちょうどよかったぜ。野宿の時じゃなくてな」

 ポカーン・・・と口が開いてしまった。なんという早とちりか。ゼシカに下らないヤキモチなんて妬いて。

 「
 「あの・・・ククール、その」

  の頬に、ククールが触れる。 が視線を落とす。その の唇に、ククールがキスをする。

 「クク・・・」

  の唇に、何度も口づける。そのまま首筋にキスを落とす。

 「ヤキモチ妬いてくれたんだな」
 「それは・・・だって・・・」
 「うれしいよ」

 チュッと瞼にキスをする。そのまま手で頬をなぞり、ギュッと抱きしめた。

 「
 「うん?」
 「好きだ」
 「・・・うん。私もククールが好きよ」

 コツンと額と額をぶつけ、フフッと微笑み合う。もう一度キス。それだけじゃ足りない。
 ベッドに体を押し倒し、体を愛撫しようとするも、コンコンとノックの音。

 「2人とも、夕飯だってば!」

 空気を読まないエイトの声に、ドアの方を睨みつつも、2人はクスッと微笑む。

 「続きは後でな」

 耳元でそっとささやいたククールに、 は真っ赤になりながらも、うなずいた。