「よう、久しぶりだな」
声をかけられ、視線を動かす。見回りでもしていたのだろうか? ガイアが立っていた。
そのガイアの視線が私の背後に立つ人物に向けられる。
「あ、えっと・・・璃月の、鍾離さん」
「初めまして」
私がガイアに紹介すれば、鍾離さんが挨拶した。ガイアも会釈を返す。
「それで、こちらは西風騎士団のガイア。私の先輩です」
「よろしく」
な、なんだろ・・・? 二人の間にバチバチと火花が散っているように見えるような。
「えっと・・・鍾離さん? ガイア?」
「璃月で、こいつがお世話になっているそうで。ご迷惑をおかけしていますね」
「迷惑ではない。恋人だからな。世話をするのも当然だ」
「は? 恋人?」
あ、マズイ。お前は何しに璃月に行ったんだ?って顔してる。当然だよね。蛍の双子の兄を探し手伝いにモンドを出たというのに、それをほっぽって、恋人作ってるんだもん。私がガイアでも呆れる。
ジロジロと、不躾な目で鍾離さんを見やるガイア。「フーン? 恋人、ねえ」とつぶやいた。
「そうだ。ディルックの旦那がお前に会いたがっていたぞ」
「え! ディルック様が!? 今、どちらに??」
「屋敷じゃないか? 忙しい方だからな。あと、本部にも顔出してやれ。お前に会いたがっている男どもは、大勢いるんだからな」
「ええ? それは大げさでしょ。ま、いいや。ジン団長に挨拶してから帰る」
私に会いたがってる人、ねえ・・・。バーバラじゃあるまいし、私にファンがいるはずないし。
ガイアと別れ、騎士団本部へ向かうことに。退屈だろうから、鍾離さんは外で待っていていいですよ、と言ったのだけど。
「俺が一緒にいると、不都合か?」
少々、不機嫌そうに言われ、慌てて首を横に振った。そういう意味で言ったわけではない。
二人で騎士団本部へ入る。中にいた二人の騎士が私を見て「あ…」と声をあげ、次いで鍾離さんを見て動きを止めた。なんだか、ちょっと怯えてる?
クルッと鍾離さんを振り返る。そして、ギョッとした。睨んでいたからだ。目の前の二人を。
「しょ、鍾離さん、怖いです・・・! こんなところで帝君の威厳を出さないでください・・・!」
「うん? ああ、すまん。つい、な」
何がそんなに気に入らなかったんだろうか? 鍾離さんって、いつも大人の男性らしく、冷静なのに。感情的になってるとこ、めったに見ない。
団長室に入り、ジン団長に挨拶。鍾離さんを見たジン団長が「会えたようですね」と優しく微笑んだ。鍾離さんが「世話になった」と小さく頭を下げた。
「璃月に戻るのか? ゆっくりしていくのか?」
「鍾離さんの仕事があるので、戻ります。また今度、ゆっくり遊びに来ますね」
「ああ。お前がいないと、騎士団の連中も、やる気が出ないみたいでな」
「は? なんでです?」
首をかしげる私の横で、鍾離さんが咳ばらいをした。
「団長殿、俺たちはそろそろ」
「あ、はい。気を付けて帰ってください」
ジン団長に礼をし、私たちは部屋を出た。途端、鍾離さんが私の手を握った。
「? 鍾離さん?」
「はぐれないようにな」
「はぐれ・・・? えっと、ここモンドなので。あ、鍾離さんがはぐれないようにってことですかね」
「そうだな」
鍾離さんって方向音痴だったっけ? まあ、別に手を繋ぐくらい、いいけど。
と、思ったんだけど。なぜか西風騎士の男性が私たちを見て、ギョッとしていて。何かあった?
「…お前は人気者なんだな」
「はい? 私が?? いいえ、そんなことないですよ。私はバーバラとは違いますから! あ、バーバラっていうのは、西風教会のシスターで、私の友人です。歌が上手で、かわいくて…。人気者なんですよ」
「その少女も人気者かもしれんが、お前もだろう。気づいていないのか。問題だな」
ため息をつく鍾離さん。でも、私だって言わせてほしい。
「鍾離さんだって、往生堂の女性従業員に人気じゃないですか」
「うん? なんだ、妬いているのか?」
「妬いてますっ! そういう鍾離さんこそ、妬いてるんですか〜?」
そんなはずないと思うけど。からかうように声をかけた。
「ああ。妬いている」
「・・・へ??」
・・・・・・。
え、い、今・・・「妬いてる」って言ったよね? 聞き間違い? だって、鍾離さんがヤキモチなんて。
「妬いているのは、おかしいか?」
「え!? あ、いえ、ありがとうございます?」
うん? お礼を言うのは、おかしいか。いや、でもそのくらい…うれしい。
繋いだ手に、キュッと力を込める。鍾離さんも私の手を握り返してくれた。
「やはり、モンドにお前を置いておけないな」
「そんな、大げさです。私は鍾離さんの“恋人”なんですから」
ニッコリと鍾離さんに笑いかける。意表を突かれたのか、鍾離さんは目を丸くした。
「・・・そうか」
「そうですよ!」
微笑んで言えば、安心したように微笑み返してくれて。
私たちは手を繋いで、モンド城内を歩いた。
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