6.こんなに素敵な響きだったなんて

ドリーム小説

 やわらかな朝日が部屋に差し込んでいる。朝だ。
 あれ? 私、さっきまで蛍たちと食事していたんだけど・・・?

 「ああ、起きたか」
 「へ??」

 聞こえてきた男の人の声に、そちらを向いて・・・。

 「キ・・・キャアアア!?」

 思わず悲鳴をあげていた。だって・・・なんで・・・? なんで、鍾離さんがここにいるの!?
 パクパクと口を動かすも、言葉は出ない。そんな私に向かって、鍾離さんは「ああ、すまない」と謝罪した。何にたいする謝罪!?

 「お前が昨夜、酔っ払ってしまってな。蛍たちは他に用事があったので、俺の家に連れてきた」
 「あ・・・そ、そうだったんですか・・・」
 「安心しろ。運んだ時以外は、指一本触れていない。酔いつぶれた女性に対して、失礼なことはしない」
 「は、はあ・・・」

 衣服はそのまま。靴だけが脱がされていた。途端、恥ずかしさと申し訳なさで、顔に熱が集まる。
 そして、気づく。鍾離さんがソファに座っていることに。もしかしなくても、そこで寝たのだろう。

 「あああああ・・・!! 鍾離さん、そこで寝たのですか?? ほ、本当に申し訳ないことを・・・!!」
 「気にすることはない。それより、昨夜のことは覚えているか? いや待て。お前はもう酔いつぶれていたか」
 「はい? なんの話でしょうか?」
 「凝光が、“絶雲の間から帰ってきた”お前たちを招待した話だ」

 知らない話だ。いつの間に、そんなことに? あ、私が酔いつぶれた後か。
 と、鍾離さんが不意にフッと微笑む。え、何その笑顔。もしかして、私は何かやらかしただろうか?

 「すまない。酔っ払ったお前が、とても愛らしかったものでな」
 「え・・・そ、そんなはずないと思いますが・・・」
 「いや。俺の知り合いで、飲兵衛がいるが、あいつと比べたら・・・。ああ、いや。思い出すのはよそう」

 鍾離さんが眉間に皺を寄せる。あまり思い出したくない出来事のようだ。触れないでおこう。

 「えっと・・・それで、蛍たちは?」
 「朝、落ちあうように言ってある。宿屋へ向かうといい」
 「わかりました。ありがとうございます」

 立ち上がり、深々と頭を下げる。ううう・・・こんなんじゃ足りないくらい、迷惑かけたよね・・・。

 「そうだ、まだ早い。朝餉でもどうだ?」
 「え、いいんですか? それじゃあ、私作ります!」
 「いや、客人にそんなことはさせられない。俺が作ろう」
 「でも、ベッドをお借りして、ご迷惑かけましたし・・・」

 このままじゃ、私の気が済まない。ノエルほど料理は得意ではないが、少しくらいならできる。
 なんだけど・・・結局、足を引っ張ってしまった・・・。

 「た、大変失礼いたしました・・・」
 「そんなに落ち込むこともない。これから上達するだろう」
 「お気遣いいただきありがとうございます・・・」

 鍾離さんは優しくそう言うけれど、私の左手薬指は火傷。先ほど、鍾離さんに手当してもらったばかりだ。利き手じゃなくてよかった。
 さて、ではいただきます。と挨拶し・・・フト、手が止まる。
 箸だ・・・!! そ、そうだよね。昨日も一昨日も箸だったじゃん! モンド出身の私は、箸の扱いに慣れていない。たどたどしく指を動かす。チラリと鍾離さんを見れば、美しい所作で箸を使っている。

 「どうかしたか?」
 「えっ! あ、いえ! なんでも、ありません・・・」

 視線がぶつかってしまい、慌てて目線を下げたものの・・・私のおぼつかない箸使いは見られていたらしい。おもむろに席を立ち、私の背後に立った。

 「鍾離さん?」
 「まずは1本、ペンを持つように持ってみろ」
 「!!?」

 鍾離さんが顔を近づけ、私のすぐ近くで声をかけてきた。
 キャアアア!! ちょっと待って! ちっ、近い! 近い〜!!

 「持ったか? そうしたらもう1本、ここを通して・・・薬指で押さえる。こうだ」
 「!!」

 て・・・手が・・・手袋してない素手が、私の手に触れる。もう、心臓はバクバクしてるし、顔も真っ赤だろう。「ちゃんと持ってみろ」と言われるけど・・・み、耳元でささやかないで・・・!

 「ふむ。公子殿よりかは上手かもしれん」
 「え、タルタリヤも箸使えないんですか?」
 「ああ。彼も異国の客人だからな」

 そっか・・・スネージナヤの・・・。って、それよりも、箸の指南は終わりじゃないの!? いつまで近いままなの!? 鍾離さん、私を殺す気!?
 そんな私の心の声が届いたのか、鍾離さんが体を離し、自分の席に戻った。

 「昨日、蛍たちにも伝えたが、用件が終わったら荻花州に来てくれ」
 「は、はい。まだ何か必要なんですか?」
 「ああ。瑠璃百合の花だ」

 昨日のあれで終わりじゃなかったのか。まあ、いいけど。送仙儀式が終わるまでは、鍾離さんといられるんだし。
 そうだ・・・送仙儀式が終わったら、私たちは次の七神を求めて、璃月を旅立つ。そうすれば・・・次、いつ会えるかもわからないんだ。
 そんなことを考えながら、トボトボと宿への道を歩いていたのだが。パイモンの「あ、だぞ!」という声に、ハッと我に返り、その小さな体に詰め寄った。

 「なんで私を置き去りにしたのよ!?」
 「置き去りじゃないぞ。鍾離がいただろ?」
 「あれは置き去りって言うのよ!! おかげで鍾離さんと・・・」

 手と手が触れ合うし、左手は火傷するし!!
 だけど、パイモンは何かカン違いしたのか、ニヤリと笑って。

 「お? なんかあったのかぁ〜?」
 「あるわけないでしょ!!」

 鍾離さんは紳士なんだから。おかしなこと、するはずない。しかし、なんだってパイモンはこんなに楽しそうなんだ・・・。

 「照れる気持ちは、わかるぞ! は鍾離に恋してるからな!」
 「こ、恋??」

 恋・・・そうだ。この気持ちは恋だ。
 そっか・・・恋って、こんなに素敵な響きだったんだ・・・。

 「さて! それじゃあそろそろ、群玉閣へ行こう〜!」