4.君を何から守ればいい?

ドリーム小説

 「あなたが何を企んでいるのかは知らない。だけど、私は・・・私たちは、ファデュイに協力するつもりはないわ」

 目の前に立つ『公子』を睨みつけながら、そう告げる。タルタリヤがフッと笑う。

 「気の強いお嬢さんだね。俺は嫌いじゃないよ。流されやすいより、よっぽど魅力的だ」
 「ありがとうございます。うれしくないですけど」
 「そうだよね。君は鍾離先生が好きなんだもんね」
 「んなっ!?」

 何を言い出すの、この人!! 慌ててキョロキョロする私に、当人が寄ってきた。

 「うん? どうかしたのか?」
 「いいや。預けた資金は、使ってくれて構わないって話してたんだ。ね、

 タルタリヤに名前を呼ばれた瞬間・・・なんだろう、ゾクッとした。ファデュイの執行官の名は伊達じゃないってことか。
 そんな私の動揺が伝わってしまったのか、蛍が「・・・」と心配そうに声をかけてきた。

 「ごめん、蛍。大丈夫よ」
 「うん。私の方こそ、ごめん。なんだか、盾になってもらっちゃった・・・」
 「そんなの気にしないで。さ、送仙儀式の準備! 鍾離さん、次は?」

 クルリと振り返り、鍾離さんを見る。彼は少しだけ眉間に皺を寄せていた。

 「鍾離さん? 次はどうするんですか?」
 「ああ・・・永生香を手に入れるため、不卜廬へ行こう。あそこは璃月の薬舗だ」

 うーん・・・またしても耳慣れない名前。まあ、今まで手に入れてきたものは、ちゃんと合っていたんだし、名前がどんなのでも問題ないけど。
 お店へ入るも、誰もいない。パイモンが「おーい! 誰かいないかー?」と声をあげた時だ。

 「いらっしゃい・・・」

 どこからか、声がした。パイモンが「ひいっ!」と声をあげ、蛍の後ろに隠れる。案外、怖がりなんだね。
 さて、今の声はどこからか。カウンターへ近づく私を、パイモンが「お、おい・・・!」と呼び止める。ヒョイとそこを覗き込めば、小さな女の子。

 「あ、こんにちは」
 「こんにちは・・・」
 「なんだ、カウンターより小さいヤツだったのか」
 「パイモンも小さい・・・」
 「オイラは飛んでるから、問題ないんだよ!」

 蛍とパイモンのやり取りを無視し、鍾離さんが本題に入る。だが、処方箋は?と返される。でも、鍾離さん曰く、永生香に処方箋は必要ないらしく・・・。
 そういえば、彼女のおでこに貼ってある紙が気になるんだけど。

 「あの、鍾離さん・・・七七ちゃんの額のあれは、単なるアクセサリーですか?」
 「いや、彼女はキョンシーだ。あれは暴走を止めるための、お札だな」
 「え! ぼ、暴走するんですか??」
 「ああ。キョンシーに噛まれた者は、キョンシーになる」
 「・・・そもそも、キョンシーってなんですか?」

 まずは、そこからだ。どんな一族なの? 人間の姿してるから、モンスターってわけじゃないよね。

 「彼女は死んだ人間だ」
 「は!?」
 「仙人に生き返らせてもらったんだろう。キョンシーは勅令で動くものだが、彼女は自分で自分に勅令を与えているようだな」
 「いやいやいや・・・鍾離さん、気にすべきことは、そこではなくて」

 死んだ人間?? 仙人が生き返らせた?? ちょっと・・・理解できないぞ。仙人って、そんなことできるの??
 しかし、困った。処方箋なんてもらえないし。どうにかならないか・・・と思ったら。

 「ココナッツヒツジが欲しい」

 とのこと。ココナッツヒツジ・・・聞いたこともないぞ。鍾離さんも知らないという。

 「ココナッツヒツジのミルクは、とてもおいしい。だから、半仙の獣」
 「で? どういう姿してるんだ?」
 「わからない」
 「え・・・情報少なすぎない?」

 とにかく、教えられたココナッツヒツジを捕まえるための装置がある場所へ。

 「ココナッツヒツジ・・・どんな生き物なんだろ? やっぱり、ヒツジがベースで、茶色いとか?」
 「ココナッツのような形をしたヒツジかもしれん」
 「あ、その可能性は、ありますね!」

 まだ見ぬ半仙の獣への想像を掻き立て、装置へたどり着いたのだけど・・・壊れていた。
 修理用の部品やら道具やらがあれば、直せるかもしれない・・・と言う鍾離さん。本当に直しちゃったよ。ハイスペックすぎません? この人。
 さて、ココナッツヒツジを探そうとした時だ。野太い声がし、盗賊のような男たちが立っていた。なんでも、この装置を壊したのは、奴らだという。

 「お? よく見りゃカワイイ女の子が2人もいるじゃん?」

 下卑た笑みを浮かべ、こちらへ近づいてくる男たち。ムッとして、腰の剣に手を触れた時だ。私の前に、スッと鍾離さんが立ちはだかった。

 「鍾離さん?」
 「お前たちはここにいろ。すぐに片付ける」
 「え? あ・・・私も戦います!」
 「いいから、守らせてくれ」

 真剣な面持ちでそう告げられ、ドキッとした。そのまま、彼は私たちを置いて、高い場所にあるここから飛び降り、槍を手にした。
 まるで、舞でも見ているかのようだった。
 両手を横に突き出すと、呼応するように大地から柱が立ち、鍾離さんの体を黄金色のシールドが包む。そのまま、彼は槍を繰り出し、蹴りを入れ・・・何人もいた盗賊たちを、あっという間に退けてしまった。
 ガイアの氷を操る剣技も隙がなくてカッコいいと思っていたけれど、鍾離さんの槍術は、本当に舞を踊っているかのようだった。
 見惚れていた。彼がハシゴを登り、私たちの元へ戻ってくるまで、私は呆けていた。

 「どうした?」

 鍾離さんが私を見て首をかしげる。私は我に返り、「なんでもないです!」と首を横に振った。
 さて、気を取り直して、ココナッツヒツジ。でも・・・この修理した装置、でっかい弓矢がついた・・・兵器みたい。

 「あの・・・こんなので狙ったら、ココナッツヒツジ、死んじゃうんじゃ・・・。生け捕りにしなくていいんですか?」
 「半仙の獣だというから、大丈夫じゃないか?」
 「うーん・・・大事なところで大雑把なんですから・・・」

 大丈夫かな。望遠機能のあるそれを、蛍が覗き込む「いないね」とつぶやいた。
 そもそも、どんな生き物なのかわからない状況で見つけるって・・・ほぼ無理なのでは?
 結局、普通の野生動物は見つかったけれど、問題のココナッツヒツジは見つからなかった。