鈍感は罪である。

ドリーム小説  「おはよう」

 翌朝、宿屋を出ると、目の前に美青年が立っていた。昨夜、タルタリヤから紹介された、鍾離さんだ。よかった・・・ちゃんと身支度できてるよね?
 「おはようございます」と私たちも返し、早速、送仙儀式に必要なものを手に入れに行くこととなった。

 「まずは・・・夜泊石から行くか」

 石商さんの元へ。天然石を扱うお店。いくつかの夜泊石があるけれど・・・さて、どれにするか。

 「鍾離先生、どれにしたらいい?」
 「うん? 俺を頼るのか?」

 蛍の賢明な判断。そうだね、ここは彼を頼るのがいい。

 「そうだな、答えは簡単だ」

 目利きもできるなんて。カッコいいなぁ・・・。

 「全部もらうぞ」

 ・・・・・・。

 「は!? ちょ、ちょっと待ってください! 今のナシ!! 鍾離さん! お金には限度があるんですよ!?」
 「そうだぞ! モラのことを考えろ!」
 「何事もモラのことを考えなければならないなら、何事もモラに縛られることになる」
 「・・・はい?」
 「モラは生まれながらに貨幣だが、貨幣は生まれながらにモラではない」
 「・・・はあ」

 ダメだ・・・高尚すぎて鍾離さんが何を言っているのか、わからない・・・。「この上流階級め・・・!」とパイモンが呻いている。
 結局、3つのサンプルをもらい、それを加熱して様子を見ることになり、3番目の石を購入することになった。
 夜泊石は送仙儀式に使うと言ったら、なんと太っ腹なことに半値でいいと言ってくれた。

 「さて、石の次は・・・」
 「ちょっと待て! 半額にはなったけど、タダじゃないぞ!!」
 「鍾離さん、支払いが終わってないです〜!!」
 「ああ、そうか」

 ・・・・・・。なんでシレッと「お金払うのか」みたいな顔してるんですか?

 「・・・すまん、手落ちがあった」
 「へ?」

 鍾離さんのつぶやきに、私たち3人はキョトンとする。「財布がない」・・・何を言い出すのでしょうか。

 「あ、そういえば、昨日タルタリヤが・・・」

 蛍が袋を取り出す。「資金だよ」とくれたらしい。なんだ、いいとこあるのか、あの人。
 ちょっと足りない、とは言われたけれど、なんとか支払いは完了。ああ、なにこの幸先悪いカンジ・・・。

 「あの、鍾離さん・・・金銭感覚がズレているというか、お財布持ちましょうね」
 「む? うむ、善処しよう」
 「いや、善処じゃなくて・・・。それが当たり前のことです・・・」
 「そうだな」

 なんか、会話が噛み合ってない? 大丈夫かな? 私の言ってること、通じてるよね・・・?

 「今までどうしてたんだろ・・・。あ、じゃ、じゃあ、私がお会計係します。そうしたら、一緒にいられますし」

 なーんちゃって。図々しい提案してみたり。なんだけど・・・。

 「ああ、頼む」
 「えっ!?」

 普通にあっさり承諾され、こちらが焦る。いや、半分本気だったけど!

 「あ、いや、その・・・そんな簡単に言わないでください・・・」
 「? なぜだ?」
 「・・・いえ、なんでもありません」

 鈍感だ・・・。超鈍感人間だ・・・。
 出会って2日目の小娘に、「あなたと一緒にいたいので、お会計係します」って言われてるのに、「ああ、頼む」って・・・。
 いや、つまり本気にされていないということか。まあ、普通はそうだ。
 話を聞いたところ、岩王帝君の亡骸・・・仙祖の亡骸と呼ぶようだ・・・は、黄金屋という、テイワット唯一の造幣局にあるらしい。これも七星が守っているかしているのだろう。
 さて、続いては霓裳花で香膏作り。この花を買う時は、鍾離さんに任せていられない・・・と私たちで対応。
 何やら妖しい目つきの鶯さんの指導のもと、香膏は完成。そして次は・・・洗塵の鈴。ピンばあやさんの不思議な壺へ入り、スライムやら蜘蛛やら倒して、なんとか手に入れた。
 このピンばあやさん・・・たぶん、仙人だ。だって、明らかに不思議な力を持ってるし。
 鍾離さんに託された伝言・・・それを伝える。なんとも言えない、何かを隠すような彼の態度が気になった。

 「? どうかしたか?」

 鍾離さんが私を見てくる。私は「いえ」と首を横に振った。
 さっき・・・七天神像の前に、鍾離さんが立っていた時・・・ピンばあやさんのところへ行く前だけど・・・なんだろう? その時の鍾離さん、とっても神秘的だった。

 「黙って佇んでいても、画になりますね」

 思わず本音がこぼれた。鍾離さんは私を見て首をかしげ、「そうか?」とつぶやく。

 「そんなことを言われたのは初めてだ」
 「またまた〜! モテるでしょう?」
 「モテる? 何をだ?」
 「え・・・」

 真顔で返されたそれに、私はポカーンと口を開けてしまった。
 あれ? モンドでしか使わない言葉だったかな? そんなことないと思うんだけど。

 「えっと、モテるというのはですね、異性に人気がある、好かれる、惚れられる、ということです」
 「なるほど。俺がモテるのなら、お前もモテるだろう?」
 「はい!? い、いえ、私は・・・!!」

 鍾離さんの言葉に、レイノルズの顔が浮かんだ。パイモンたちは、彼が私を好きだと言っていたけれど。
 いや、ただ1人の男性に好かれてるだけじゃ、モテるとは言わないし。バーバラみたいな子をモテると言うのだ。
 そうだよ。私なんて、なんの変哲もない女。こんなにカッコいい鍾離さんの隣に、立っていいような存在じゃないのだ。