「俺を好きにならないで」
ドリーム小説
世界は広大だ。それは、旅に出る前からわかっていたこと。本でしか知りえなかったことだけど。
だけど、世界は広大だけでなく、様々な出来事にあふれている。
なんともナイスタイミングで、璃月港に到着したその日に、岩王帝君をお迎えする『迎仙儀式』に立ち会うことができた。
しかし・・・なんと、その岩王帝君が殺されて、事態は悪化。私たちは、かの神に会いに来たのに。
というか、神様が殺されるなんて、そんな罰当たりなことする輩がいるの!?
千岩軍に怪しまれ、追い詰められた私たちを助けてくれたのは、あろうことかファデュイの執行官。『公子』のタルタリヤ。彼は私たちの事情を知っているようだった。
「ファデュイの人間なんて、私は信用できないけどね」
「アハハ、それは賢い判断だね」
ウェンティとは、また違った胡散臭さ。・・・いや、いかんいかん! 風神様に、なんてことを!!
しかし、その胡散臭い人物の言葉に従い、三眼五顕仙人に会い、璃月へと戻ってきた。
「あなたの人探しとやらは、無事に終わったわけ? まったく・・・仙人に会うなんて、簡単なことではないと思っていたけど・・・とんでもない目に遭ったわ」
「ああ、それは抜かりないよ。ご苦労様。それより、君たちが留守の間に、こちらでも動きがあったよ。岩王帝君を殺した真犯人が捕まらないかぎり、仙祖の亡骸を目にすることは許さない、と七星が公言したんだ」
「え・・・?」
「そのうえ、情報を封じようとしている。仙祖の亡骸、一体今どこに・・・?」
ボソリとつぶやくタルタリヤ。やっぱり、この人胡散臭い。ファデュイの執行官だもの。信用していい人物ではないけれど、パイモンは口の軽いところがあるし、蛍はどこか疑うことを知らない。私がしっかりしないと! 騎士の先輩として!
「さて、それじゃあ探し人を紹介するよ。琉璃亭へ行こう」
タルタリヤが先に立って歩きだす。私たち3人も彼に続いて歩きだした。
大きく立派な建物。老舗の琉璃亭。璃月では知らない人はいないレストランのようだけど、私はモンドの人間なので、当然どんな店なのか知らない。
店頭に立っていた店員が、タルタリヤに挨拶する。こんな店にまで顔が利くのか。
店に入り、店員に案内される。そこにいたのは、1人の男性。茶碗を持ち、一口お茶を飲む仕草が、ひどく優雅で見惚れた。
「こちらが、往生堂の客卿、鍾離先生だ。鍾離先生、彼女らがこの前話した、旅人」
スッと男性・・・タルタリヤが鍾離先生と呼んでいた・・・が、私たちを見た。
その琥珀色の瞳に見つめられ、ドキッとした。私は慌ててガバッと頭を下げた。
「あ、です! よろしくお願いします!!」
ああ・・・声が裏返った・・・恥ずかしい・・・!
「アハハ、そんなに固くなったら、鍾離先生も困るって」
「え! あ、す、すみません・・・!」
「いや、俺は気にしない」
あっさりと返された鍾離さんの言葉に、タルタリヤが「だって」とニッコリ微笑んだ。私は「・・・はあ」と間抜けな声をあげていた。
すごく・・・なんていうか・・・立派な人。今まで、年上の男性は何人も会ったけど、彼らとは何かが違う。落ち着いているというか、年の割には達観したような雰囲気。いくつくらいだろ? ガイアと同い年くらいかな。
そんな私の考えをよそに、話はどんどん進められていく。
「、さっきから鍾離のこと見つめたり、目逸らしたり・・・一体どうしたんだ?」
「え!!」
パイモンの余計な指摘に、一同の視線が私に向けられる。もちろん、鍾離さんも私を見ていて。
「べ、別にそんなことしてないわよ!? 変なこと言わないで!」
「話、ちゃんと聞いてたか?」
「も、もちろん! えっと・・・岩王帝君を、お見送りしてあげるんでしょ?」
「そうだ。送仙儀式を行う」
鍾離さんがうなずく。よかった、呆れられてはいないようだ。
でも・・・どうしちゃったんだろう? こんなにも鍾離さんから目を離せないなんて。これはまるで・・・。
まるで? まるでなんだと言うのだろうか。
「じゃあ、あとはよろしく。俺はここでもう一杯やりつつ、箸の練習でもするよ」
「あ・・・私、ちっとも食べてない!」
見れば、料理はパイモンがほとんど食べてしまっていて・・・。
うう・・・タルタリヤと同じく、私も箸は扱えないんだよ・・・。だって、モンドに箸なんてなかったし。あったとしても、私は使っていない。
食べそびれたのは、それが原因。別に、鍾離さんに見惚れていたとか、そういうことではない。うん。
先に店の外へ出ていた蛍たちを追いかける。
「最近の璃月は、迎仙儀式は盛大に行われているのに対し、送仙儀式は放置されている。本来ならば、どちらも大事にしなければならない儀式だというのに」
「あの公子には、送仙儀式をすることによって、何かメリットがあるのか?」
「さあな。往生堂にとって、ファデュイは資金援助をするだけの存在だ」
「え・・・! 鍾離さん、ファデュイに資金援助受けてるんですか?」
私が驚きの声をあげるも、鍾離さんはなんてことなさそうだ。
「あの組織の資金は膨大だからな。さて・・・送仙儀式だが、今日はもう遅い。宿を紹介する。そこで1泊するといい」
ああ・・・野宿から解放された・・・。
「、といったか。大丈夫か?」
「え!? な、何がです??」
突然、鍾離さんに声をかけられ、私は飛び上がらんばかりに驚いた。蛍とパイモンも私を見る。
「いや、先ほどから浮かない顔をしているからな。気が乗らないのなら、準備は彼女たちとするが」
「そんなことありませんよ? 私も準備を手伝います」
「そうか。それでは、明日はよろしく頼む」
宿に連れて行ってもらい、そこで鍾離さんと別れた。その背中を、私は無意識に見つめていて。
「? 入らないの?」
蛍の声に、ハッと我に返る。「ごめん、今行く!」と返し、私は宿屋の中へと入った。