静かに、はその場所へ入った。待っていたのは、ザフトの白服を着た士官。
「・・・これを、デュランダル議長から預かっております」
「ありがとうございます」
渡されたのは、見慣れた赤い軍服と、青色のミニスカート。ルナマリアのミニスカートに合わせてくれたのだろう。
そして・・・その軍服の上に、見慣れぬ小さな箱。
「これは・・・!?」
「議長がぜひ、貴女に、とのことです」
小箱に入っていたそれは、キラリと光を受けて輝いていた。
君と僕との距離は、きっといつまでも縮まらない
ミネルバに入り、まず艦長と副長に挨拶をしたハイネは、廊下で待っていたアスランと共にレクリエーションルームに入った。その姿に気づいたレイが、敬礼をしてハイネに名乗る。
「レイ・ザ・バレルであります」
「ああ、ブレイズザクファントムね。ハイネ・ヴェステンフルスだ、よろしく」
レイに笑顔で自己紹介し、ハイネは物珍しそうに部屋内を見渡した。
「しっかし、さすがに最新鋭だなぁ、ミネルバは。なぁ? ナスカ級とは大違いだぜ」
「ええ、まぁ・・・そうですね」
感嘆の声を上げながら、同意を求めてくるハイネに、アスランは苦笑混じりに答えた。
「ヴェステンフルス隊長は、今まではナスカ級に?」
「ハイネでいいよ。そんな堅っ苦しい・・・。ザフトのパイロットはそれが基本だろ? ・・・君は、ルナマリアだったね」
「あ、はい・・・」
ハイネの言葉に、ルナマリアは困惑しながらもうなずいた。
ザフトには、地球軍のように階級がない。よって、大佐も中佐といった階級を持つ者がいないのだ。代わりに、隊ごとにリーダーを決め、その者が隊長という役割を担う。ミネルバにおいては、艦長のタリアが隊長ということだったが、アスランがフェイスとして復帰し、MS隊は彼が預かることになった。つまり、シンやルナマリアたちにとっては、アスランが直属の隊長ということになるのだが・・・ここへ来て、もう一人のフェイスの参入に、どうしたものかと困ってしまう。
「オレは今まで軍本部だよ。この間の開戦時の防衛戦にも出たぜ」
ハイネがルナマリアに答えているうちに、シンはそっと隣に立つアスランに声をかける。
「隊長・・・あの、オレたちは・・・」
「ヴェステンフルス隊長の方が先任だ、シン」
アスランはそう言って笑みを浮かべる。つまり、アスランよりも、先輩フェイスであるハイネに従え、ということだろう。
「・・・ハイネ」
「あ・・・」
名前で呼ばなかったアスランに、ハイネが目敏く注意をする。
「あ、でも何? お前、隊長って呼ばれてんの?」
「まあ・・・はい・・・」
「戦闘指揮を執られますので、我々がそう・・・」
気まずそうな表情を浮かべたアスランを助けるかのように、レイがそう告げた。
「ええ? ・・・フーン。いや、でもさぁ、そうやって壁作って仲間はずれにするのは、あんま良くないんじゃないの?」
「え?」
思いもかけないハイネの言葉に、シンが思わず声をあげた。
「オレたちザフトのMSパイロットは、戦場へ出ればみんな同じだろ? フェイスだろうが上官だろうが、緑だろうが・・・。命令通りに、ワアワア群れなきゃ戦えない、地球軍のアホ共とは違うだろ? だからみんな、同じでいいんだよ」
あまりにもざっくばらんで、あけっぴろげなハイネの意見に、シンは呆気に取られた。こういう考えの人もいるのか、と思わずにはいられない。
「あ、それとも何? 出戻りだからって、いじめてんのか!?」
「あ、いえ・・・」
疑惑の目を向けられ、アスランが慌ててそれを否定しようとする。シンも「いえっ、そんなことは・・・」と声をあげた。
「なら隊長なんて呼ぶなよ。・・・お前もお前だな、アスラン。なんで名前で呼べって言わないの」
「・・・すみません」
「まっ、今日からこのメンバーが仲間ってことだ。息合わせてバッチリ行こうぜ!」
意気揚々と声をあげるハイネの後を、ルナマリアとレイが追い・・・アスランはフゥとため息を吐く。
「オレも、ああいう風にやれたらいいんだけどね・・・」
「え?」
意外なアスランのその言葉に、シンは思わず目を丸くする。
「ちょっと、なかなか・・・」
困ったような笑みを浮かべるアスランに、シンはハッと気づく。確かに今まで、自分たちはアスラン・ザラという人物を“伝説のエース”として見てきていたと思う。ヤキン・ドゥーエの英雄・・・自分たちとは、実績が違う、と。
だが、実際のアスランは、まだ18歳の少年だ。いくら大人びて、落ち着いていても、自分と二つしか違わない少年なのだ。
「隊長・・・」
「アスラン、だ。シン」
「あ・・・」
つい癖で、いつものように呼ぶと、アスランが苦笑を浮かべて彼を咎めた。
「おい、何やってんの、アスラン! お前が案内してんだろうが!」
「あ、はい! すみません!!」
ハイネの声に、アスランが慌てて走り、シンは笑みを浮かべてその背中を見つめた。そんなアスランの姿が、シンには少しうれしかった。今まで、真面目くさったアスランの顔しか見ていなかったから・・・。
《ザラ隊長、ヴェステンフルス隊長、並びにレイ・ザ・バレル、シン・アスカ、ルナマリア・ホークは至急ブリッジへ》
だが、聞こえてきた艦内アナウンスに、一同の足が止まる。こんな時にブリッジに呼び出しとは、一体何事だろうか?
シンたちは、先ほどMSデッキに入ってきた見慣れた青い機体の存在を、知らなかったのだった。
***
シンたち5人のMSパイロットがブリッジに入ると、そこにいたタリアとアーサーが複雑そうな面持ちで振り返った。
「どうかしたんですか? 艦長・・・。いきなりの呼び出しとは」
「えぇ、まぁね・・・」
ハイネの問いかけに、タリアはフゥと息を吐く。
「一体どういうわけか、この期に及んで新たなパイロットの参入よ」
「え?」
「紹介するわ・・・」
目を丸くする一同の前に、タリアがその新しいパイロットを立たせた。一瞬にして、アスランとシンの表情が驚愕に変わる。
腰まで伸びた黒い髪、同じく澄んだ黒い大きな瞳。5人のパイロットと同じ赤い軍服に身をまとい、その左胸にはフェイスの徽章・・・。
「な・・・!?」
ルナマリアが、咄嗟に少女の名前を呼んだ。
そう、目の前に立っている新しいMSパイロットとは、インパルスの専属整備士だった、・だったのだ。
「本日付でミネルバ配属のパイロットとなりました、・です」
敬礼をし、少女がそう告げるが・・・一同はあ然として言葉もない。
「・・・あの・・・」
「なんでっ!? どうしてお前が・・・!!」
一番先に我に返ったのは、アスランだった。声をあげ、幼なじみの少女に詰め寄る。
「あら? アスランだって、それを望んでいたんじゃないの?」
「何をバカなことを・・・!」
尚も詰め寄ろうとしたアスランを無視し、はシンに視線を向けた。
「これからは、一緒に出撃できるわね。よろしくね、シン」
「・・・なんで・・・」
「喜んでくれないの?」
呆然と立ち尽くすシンに、は首をかしげて尋ねる。シンは、サッとから視線を外した。
「だって・・・一緒に出撃するってことは・・・危険なことであって・・・それに・・・」
「それに・・・?」
「・・・のことは、オレが守るって決めたのに・・・」
「シン・・・」
シンのその言葉に、は優しく微笑み・・・そっと恋人の手を握りしめた。
「うん・・・守って欲しいな、私のこと」
「・・・・・・」
「無理に、とは言わないけど、いつも傍にいてほしいな、シンには」
「・・・!」
ガバッと抱きつかれ、が少しよろめくが、シンが必死に踏ん張り、彼女の体を支えた。
そんなシンとの姿を、アスランは見つめ・・・視線を逸らした。
「が乗ってきたのは・・・地球軍のMS、“青空の聖域”と呼ばれたサンクチュアリよね?」
「はい」
タリアの言葉に、がうなずき、シンは彼女の体から腕を放した。
「サンクチュアリ!? なぜ・・・!」
「ギルが・・・デュランダル議長が、改良を加えてくださったのよ。性能的には、前大戦のときよりも、格段にパワーアップしてるわ」
「そうじゃなくて・・・! お前、まさか・・・やはりサンクチュアリでプラントに渡ったのか!!?」
「今さら何言ってるのよ、アスラン」
繰り広げられる幼なじみの会話に、タリアはため息をつく。
「整備については、以前同様、私がインパルスを担当します。もちろん、サンクチュアリも私が担当します。整備士の方々には迷惑をかけません」
「いや・・・でも、それじゃあ・・・」
「大丈夫です、副長。AAでは、そうしてましたし・・・」
最初の頃は、キラも自分も人手不足のため、自分でMSの整備を行っていたのだ。それを思えば、何も無理な話ではない。
「突然のことで、みなさんにも戸惑いがあるかと思いますが・・・どうぞよろしくお願いします」
頭を下げられ、タリアとアーサーは困ったような顔で視線を合わせたのだった。
***
「でも、ほんっと、驚いたわよ〜! がパイロットに復帰だなんて!」
ブリッジから出たシン、レイ、ルナマリアは突然の出来事に驚きを隠せないようだ。
アスランたちフェイス三人は、ブリッジに残り今頃作戦会議だろう。
「シンは何か聞いてたの? のこと」
「え? いや・・・何も・・・」
「そうなの? じゃあ、シンにもアスランにも言わず、一人で決めたんだぁ〜」
シンは、どこか不服そうな表情を浮かべている。それもそうだ。パイロットに戻るということは、戦場へ出るということ。つまり、いつでも死と隣り合わせになるということだから。
確かに、は前大戦ではサンクチュアリ、エデンに乗り活躍した伝説のパイロットだ。その腕も、以前のユニウスセブン破砕作業の時に目の当たりにしている。
だが・・・やはり、彼女にはMSに乗ってほしくない。
「でも、これでヤキンの英雄が二人、このミネルバに乗ってるってことよね! 戦力的にも申し分ないわね〜!」
うれしそうな声をあげるルナマリアを、シンは複雑な思いで見つめていた。
***
「地球軍に増援?」
「えぇ。ジブラルタルを狙うつもりか、こちらへ来るかはまだわからないわ」
ブリッジに残ったたちは、タリアからその報告を受け、神妙な面持ちで目の前のパネルを見つめた。
「・・・でも、この時期の増援なら、巻き返しと見るのが常道でしょう。スエズへの陸路は立て直したいでしょうし。司令部も同意見よ」
解放したばかりのこの一帯を、地球軍は取り戻すつもり、ということだろう。
「もう、本当にせめぎ合いね。・・・ま、いつものことだけど」
「その増援以外の、スエズの今の戦力は? ・・・つまり、どのくらいの規模になるんです? ヤツらの部隊は」
ハイネの質問に、タリアの表情が曇った。
「数はともかく・・・あれがいるのよ。インド洋にいた、地球軍空母」
それを聞き、ハイネ以外の三人がハッと表情を変えた。
「あの・・・例の強奪機体を使っている!?」
「そう。だからちょっと面倒なの。おそらく、彼らも来るわ」
アスランの隣に立っていたハイネが、小声で彼に尋ねた。
「・・・強奪機体って、アーモリーワンのか?」
「はい、そうです」
奪われた三機のMSは、インパルスやセイバーと同じく、優れた性能を持ったMSだ。それが敵方にいるかいないかでは、雲泥の差だ。
「・・・こちらには、幸いにも新たなパイロットが二名参加となった。しかも、片方はアスランと同じ、ヤキン・ドゥーエの英雄・・・」
タリアの視線が、に向けられる。は、静かにパネルの地図を見つめていた。
「・・・ともかく、本艦は出撃よ。再前衛・・・マルマラ海の入り口、ダーダネルス海峡へ向かい、守備につきます。発進は○六・○○」
「はい!」
アスランたちが了解の意を示し・・・タリアはハイネに視線を向けた。
「あなたも・・・よろしい?」
「ええ、それはもう」
「では、ただちに発進準備にかかります」
アーサーが言い、たちが敬礼をしブリッジを出ようとするが・・・不意にタリアが声をかける。
「、アスラン」
「はい」
返事をし、二人が振り返る。タリアは、少々言いづらそうに、言葉を発した。
「今度、地球軍の増援部隊として来たのは、オーブ軍ということなの」
「え・・・!?」
「オーブ!?」
が目を見開き、アーサーが声をあげた。アスランは、呆然としている。
「なんとも言いにくいけれど・・・今はあの国もあちらの一国ですものね」
「オーブが・・・そんな・・・」
他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない・・・その理念を掲げたウズミと、カガリの思いが壊されたという事実に、もアスランも言葉を失う。
「でも、この黒海への地球軍侵攻阻止は、周囲のザフト全軍に下った命令よ。避けられないわ。・・・避けようもないしね。今は、あれも地球軍なの。いいわね? 大丈夫?」
「・・・はい」
「わかっています・・・」
アスランとは、それでも必死にその事実を受け入れた。
わかっていたことだ。軍に戻るということは、敵を撃たなければならない。そして、オーブは今では敵軍だ。戦わなければならない相手なのだ。
『カガリ・・・ごめん・・・』
そっと目を閉じ、今は傍にいない親友の少女へ、は謝罪の言葉を投げかけた。
***
「ええっ!? オーブ!?」
食堂で食事をしていたシンは、隣に座るルナマリアから、地球軍の増援がどこから来るのかを聞いて愕然とした。
「そ。増援軍、オーブだって。もう信じられないわよねぇ、ホント。わざわざこんなとこまで!」
ルナマリアの憤りの声を、シンはどこか遠くで聞いた。
「でも今は地球軍だもんね。そういうこともあるか」
「・・・・・・」
突きつけられた事実に、シンは呆然としながらも、沸々と湧き起こる怒りにギュッと拳を握りしめた。
増援がどこだろうが関係ない。今の自分は、オーブとは関係ないのだから・・・!
だが・・・一方で、その事実を受け入れられない者もいた。アスランは、甲板で静かに流れる景色を見つめていた。
「オーブにいたのか・・・? 大戦の後、ずっと」
ボーッとしていたアスランは、ハイネのその声に、ハッと我に返った。
「いい国らしいよなぁ・・・あそこは」
「ええ・・・そうですね」
「この辺もキレイだけどなぁ・・・」
「はい・・・」
ハイネはアスランの横に並び、黒海の美しさを愛でた。アスランは、それにぼんやりと答える。
「戦いたくないか・・・オーブとは」
自分の心を読まれ、アスランはハッとハイネに目を向けた。彼は、アスランを咎めたり、叱ったりするような表情は浮かべておらず、静かに笑みを浮かべていた。
「・・・はい」
正直にアスランが答えれば、ハイネが尋ねる。
「じゃ、お前・・・どことなら戦いたい?」
「えっ!?」
意表を突くハイネのその言葉に、アスランは目を丸くした。
「いや・・・どことならって、そんなことは・・・」
「あ、やっぱり? オレも」
「あ・・・」
「そういうことだろ?」
呆気に取られるアスランに、ハイネは笑顔で告げるが・・・フト、その表情が真剣な眼差しに変わる。
「割り切れよ。今は戦争で・・・オレたちは軍人なんだからさ・・・。でないと、死ぬぞ?」
「・・・はい」
そう、割り切らなければならないのだ。どことなら戦いたい、などという考えはない。誰だって、戦争はいやだ。沢山の命が奪われるのだから・・・。
***
パイロットスーツに着替えたアスランは、突然背後で聞こえた乱暴な音に、驚いて振り返った。見れば、シンが乱暴にロッカーを叩き閉めている。
「おい、シン。どうしたんだ?」
「別にどうもしませんよ! オーブって言ったって、今はもう地球軍なんでしょ!?」
なるほど・・・怒りの原因はそれか。アスランは、シンと連れ立ってパイロットロッカーを出る。そのままズカズカとエレベーターに乗り込み、アスランも続く。
「カガリが・・・」
つぶやかれた名前に、シンはキッとアスランを睨みつけるように見た。
「・・・彼女がいれば、こんなことにだけはならなかったかもしれないけどな」
「何言ってんですかっ! あんなヤツ・・・!」
何も出来ない、口だけの女に何が出来ると言うのだ! 結局、彼女は首長たちを止められず、同盟を結んでしまったではないか・・・!
「まだ、色々と出来ないことは多いけど・・・気持ちだけはまっすぐなヤツだよ、カガリは」
「そんなの・・・意味ありません! 国の責任者が気持ちだけなんて!」
もちろん、シン自身だって、カガリが望んで同盟を結んだわけではないことを、よくわかっている。
「・・・アスハはみんなそうだっ!」
「だが・・・はそんなカガリが好きだと言っていた」
「!!?」
アスランの言葉に、シンは驚いて彼に視線を戻した。
「“今は、まだ何も出来ないかもしれないけれど、口だけじゃなく、一生懸命になって進んでいくカガリが好き”と・・・は言っていたよ・・・。“一人じゃない。みんながいる。だから、一緒に前へ進もう”ってね」
「・・・・・・」
「オレも・・・も・・・カガリが気持ちだけのヤツじゃないことを知っている。だからこそ、先の大戦でも、自らMSに乗って戦場に出たんだ」
「そんなの・・・っ!」
「・・・君は、本当はオーブが好きだったんじゃないのか?」
シンは、思わず絶句した。
「だから頭に来るんだろう? 今のオーブ、オノゴロで君の家族を守れなかったオーブが」
「違いますよ! そんなのっ!」
荒々しく声をあげたシンだが・・・だが、心の中では葛藤していた。
だから、エレベーターを降りたシンの前にが姿を見せた時・・・何も言えずに黙って通り過ぎた。アスランと同じデザインのパイロットスーツに身を包んだは、長い黒髪を一つに結い上げ、整備士の緑の繋ぎとはやはり雰囲気が違う。
「・・・シン!」
呼び止めるが、シンは何も言わずにコアスプレンダーへ向かって行った。
***
「熱紋確認! 一時の方向! 数20!」
バートが告げた瞬間、ブリッジに漂ったのは「やはり・・・」という空気。待ち伏せされていたのだ。マルマラ海、ダーダネルス海峡、タリアが予想した海域だ。
「MSです! 機種特定・・・オーブ軍ムラサメ、アストレイ!」
いきなりオーブ軍をぶつけてくる地球軍のやり方に、タリアは苦々しく思った。だが、同情はしない。こちらも気を抜けば沈められてしまう。
「セイバー、サンクチュアリ、インパルス、発進。離水上昇。取り舵10」
タリアの命令に、すぐさま発進を促すアナウンスがそれぞれのコックピットに聞こえた。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きますっ!」
コアスプレンダーがハッチを飛び出し、それを追ってチェストフライヤー、レッグフライヤー、そしてブラストシルエットが射出された。空中でそれらとドッキングし、ブラストインパルスへと換装する。
「アスラン・ザラ、セイバー発進する!」
続いてアスランがMS形態のまま空へと飛び出す。インパルスの後を追うように、セイバーも青い空へと飛び立っていった。
《進路クリアー、サンクチュアリ、発進どうぞ!》
メイリンの声に、は一つ息をし、告げる。
「・、サンクチュアリ発進します!」
そして、青い空とそのまま同化してしまいそうな空色の機体が、ミネルバから発進された。
かつての“青空の聖域”が、今ここに戻ってきたのだ。
三機のMSが発進した途端、オーブ艦隊から一斉にミサイルが打ち上げられた。インパルスとセイバーはその間を掻い潜り、敵MSに突っ込んでいく。
「アスラン、シン、そっちは任せる! 私はミネルバから近い位置で、ミサイルとMSを相手する!」
《了解!》
《任せたぞ!》
の声に、シンとアスランがすぐさま返事を寄越し、そのまま二機はムラサメ隊、アストレイ隊に突っ込む。
アスランは的確にMSの武装のみを破壊し、シンはライフルをアストレイに向け・・・一瞬だけ躊躇した。かつて、自身も憧れたオーブのMS・・・だが、今は敵。撃たねばならぬ相手だ。
「くっそぉぉぉ!!!」
シンの叫びがコックピットに響いた。
「取り舵30! タンホイザーの射線軸を取る!」
ミネルバが離水して間もなく、タリアがそう命じる。
「海峡を塞がない位置に来たら薙ぎ払う! まだ後ろにあの空母がいるはずよ! 間違えても、艦を守っているサンクチュアリを巻き込まないでよ!?」
「は、はい!」
マリクが艦首をオーブ艦隊へ向け、アーサーが確認する。
「タンホイザー、射線軸よろし!」
「よし、起動! 照準、敵護衛艦群!」
タリアの号令に、チェンが発射シークエンスを開始した。
「タンホイザー起動。照準、敵護衛艦群。プライマリ兵装バンク、コンタクト。出力定格。セーフティー解除・・・」
艦首が開き、巨大な砲口が姿を現す。
「てぇーっ!!!」
光が集まり、その陽電子砲が火を噴く・・・その瞬間・・・。
「!!?」
突然、その砲口を、一条の光が貫いた。爆発に見舞われ、ミネルバの艦体が大きく揺れる。
ミネルバ近くで敵のミサイルを蹴散らしていたは、愕然と目を見開いた。
《な・・・何だ!?》
シンの戸惑うような声が聞こえ、アスランが息を飲む。
あ然とする一同の前に、一機の白いMSが姿を現した。
10枚の青い翼を広げ、舞い降りてきたそのMSを目にし、は言葉を失った。
「・・・フリーダム・・・!!!」
《キラ!?》
アスランの声が聞こえる。は呆然と、突然姿を現したかつての味方機を見つめた。
「・・・キラっ!!!」
咄嗟に叫んだその名前に、の胸に、懐かしい思いが込み上げた。
「・・・!」
キラは、真っ直ぐに前を見据える。その視界には、空色の機体・・・サンクチュアリが映っていた。
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